ある日フェイトは、アイテムクリエイションをするためにペターニの工房にやって来た。
(あ、ゴッサムさんがまた媚薬作ってる・・・)
チャラリ〜ン スーパー媚薬(評価1)が出来ました。
名前は立派だが、評価を見れば一目瞭然、失敗作である。
「・・・グヌゥ、何故だ・・・何故出来ん・・・」
「(・・・そりゃLV9だし・・・)・・・あの、ゴッサムさん、何作ってたんですか?」
「ん?おぉ、フェイト君か、いやなに、媚薬を作っとったんじゃが、どうもうまくいかんでのぅ・・・おぉそうじゃ、フェイト君も一緒に作らんか?」
「えぇ!?いや、それはちょっと・・・」
「もし成功すれば、好きな娘とあんな事もこんな事もヤリ放題じゃぞ?」
「え!?す、好きな娘と、あ、あんな事や、こんな事?・・・(妄想中)・・・は、はい!是非一緒にやらせて下さい!!」
「エイミング・デバイス!」「ライトニングブラスト!」
ズキューン!! バリバリバリッ!!
フェイトの両頬を弾丸と雷光が掠めた。
「フェイトぉッ!!」「・・・フェイト・・・」
「げ!?ソフィアにマリア!!」
そこには、鬼の形相をしたソフィアと般若の形相をしたマリアが、それぞれ杖と銃を手にして立っていた。
「「その媚薬、私達のどっちに使うつもりなの!?」」
「え、そりゃぁネルさんに・・・って、怒鳴るトコはそこかよ!?・・・あ・・・」
「「・・・・・・(怒)・・・・・・」」
チャキッ ジャキッ
「ま、待ってよ二人とも!は、話せばわか・・・」
「「問答無用ーーーーっ!!!」」
三秒後、ゴッサムの横には蜂の巣になった上に黒焦げになったフェイトが横たわっていた。
「ふ〜っ・・・(こいつなら腕もあるしいいモンが出来るかと思ったんじゃがなぁ・・・)」
ゴッサムは、出来上がった失敗作を片手に溜息をついた。傍らに横たわるモノは暫く使い物になりそうもない。
この工房に調合クリエイターは、ゴッサムの他にミレーニアがいたが、彼女に協力を頼むことは出来ない。それどころか、作っているところを見つかると調合器具ごと外へ放り出されてしまう。
ここ暫く彼女はアリアスに遠出しており、これ幸いと作りまくっていたのだが、出来るものはやはり失敗ばかりであった。
(んむぅ、どうしたもんかのぅ・・・)
最近ゴッサムは焦りを感じていた。と言っても、媚薬などそもそもゴッサム程度の腕で作れるような代物ではないのだが・・・。
(何かこう、発想の転換が必要なんじゃろうが、そうほいほい出てくるモンでもなし・・・)
ふと、ゴッサムは虚しさを感じた。
(・・・ワシも昔は結構イケメンだったというのに、今ではこんなモンがなけりゃカワイ子ちゃんと話しさえ出来んとはのぅ・・・・・・ん!?)
その時ゴッサムの脳にトライア様(偽)からのお告げが降りた。
「そうじゃ!これじゃ!!これこそ発想の転換!!!」
そう言ってゴッサムは調合場を出て行った。
ガーン!ガーン!
同じ工房の鍛冶場では、クリフとネル、ガストが武器を作っていた。と、そこにゴッサムが現れた。
「クリフ殿、クリフ殿」
「んあ?誰かと思えばゴッサムの爺さんじゃねぇか。何だ、この俺に何か用か?見りゃ分かるだろ、今は忙しいんだがな・・・」
「いや、少々聞きたいことがあっての。なに、時間はとらせんよ。お二人、少々彼を借りても良いですかな?」
「・・・出来れば遠慮してもらいたいね、こうやって話している間にもモノの出来は変わるんだよ」
憮然としてネルが言う。
「十秒だ。それ以上は俺が許さん」
槌を振るいながらガストが言う。
「ぬ、ぬぅ、なら終わってからでよいぞ。特に急いでいるわけではないからのぅ」
数十分後、刀身を叩く作業が終わってから漸くゴッサムはクリフと話が出来た。
「・・・ふぅ、出来たワイ・・・さて、どうしたもんか・・・」
どうやらゴッサムは、クリフの助言を得て未踏の分野に足を踏み入れたらしい。しかし、流石のゴッサムも初めて作った物の実験を自分でしたくはなかった。何処かに良いモルモットは居ないものか・・・。
「あれ、また媚薬作ってたんですか?ゴッサムさん」
そこに、瀕死の重傷から何とか立ち直ったフェイトが、またも運悪く現れた。
「(居た―――――――っ!!)・・・チッチッチッ・・・何を言うかフェイト君。ワシとていつもいつも媚薬ばかり作っとるわけではないぞ?これはな、まぁ言うなれば体力回復剤じゃ。ほれ、一口飲んでみぃ。いつも戦ってばかりで疲れとるじゃろう?」
「え、いや、お、お気持ちだけで結構です・・・(この人が作った薬なんてヤバくて飲めないよ!)」
「そんな事言わずに・・・飲めえええぇぇぇぇぇいっ!!」
「うわがばはぁっ!?・・・・・・げほっげほっ、酷いじゃないですかゴッサムさん・・・あれ?なんだか体が軽くなった気がする・・・凄いじゃないですかゴッサムさ・・・ん・・・?あ、あれ?・・・え?・・・え?え?え?・・・うわああぁぁぁぁ・・ぁ・・」
「むぅ、原液では少々強過ぎたか・・・しかし、取り敢えず成功じゃな。後は薄めればよいだけじゃ。むふふ、これでカワイ子ちゃんとあ〜んな事やこ〜んな事が・・・むふふふふ」
「ふぅ」
白を基調にした聖職者の服に身を包んだ、壮年の女性が工房にやって来た。その表情には少し疲れが見て取れた。
「ミレーニアさん?」
「あら、ソフィアさん」
「今帰ってこられたんですか?お疲れ様です」
「いえ、いつも御免なさいね、あまり仕事もしないで・・・」
「そんな事ないですよ。ミレーニアさんのお陰で助かってるって、よく聞きますよ?」
「そんな、私なんて何も・・・」
「あ、荷物なら私が工房に持って行きます。ミレーニアさんは宿に戻って、休んでて下さい」
「え、でも、悪いわ」
「気にしなくていいですよ。無理しないで、今日一日ゆっくりして下さい」
「そう、ごめんなさいね・・・あ、そういえばフェイトさんはどちらにいらっしゃるのかしら?少しお話したい事があるのだけれど・・・」
「え、し、知らないあんな奴・・・」
「まあ、何かあったの?」
「何でもありません!ミレーニアさんは関係ないです!!」
「そう、でも、夫婦喧嘩も程々にね」
「え、や、そんな、夫婦だなんて、うふふ、やだぁ〜」
すっかり顔を緩ませたソフィアは「無理はしないで下さいね〜」と言って、工房の入り口に消えていった。
手ぶらになったミレーニアは、宿の自分用にあてがわれた部屋に戻り、いつもの正装を脱いでラフな私服に着替えた。
少々若い人向けの服ではあるが、彼女自身、私服なんて着る事は殆ど無く、宿に戻っても寝る時以外は、ほぼいつもの正装で過ごしていた。ただ、今の疲れた体にあの服は少し窮屈だった。
「・・・暇ね・・・」
ラフでもやっぱり白い服を着て、部屋の椅子に腰を下ろした彼女は呟いた。それもそのはず、実はまだ日が南を僅かに過ぎたところ。普段は忙しく仕事をしている生真面目な彼女に、ゆっくりしていろという方が無理なのかもしれない。
「・・・やっぱり工房に行こうかしら・・・」
そう言って、彼女は部屋を後にした。服を着替えるのを忘れたままに。
「・・・変ね、誰も居ないのかしら・・・」
ミレーニアが工房に入った時、何故かそこに人の気配が感じられなかった。いつもなら何人ものクリエイターが作業をしているはずなのに・・・。取り敢えず彼女は調合場へ足を向けた。
そこにもやはり誰も居なかった。自分の居ぬ間に、必ずゴッサムが媚薬を作りまくっていると思っていたのだが・・・。ミレーニアは少々拍子抜けしたが、戸棚を見るとやはり調合材料の補給はされていなかった様で、いくつかの材料が底をつきかけていた。
(何もせずにいても落ち着かないし・・・買出しに行ってきましょうか・・・・・・あら?)
ミレーニアの目が、机の上に置いてあった見慣れない薬に止まり、彼女はそれを手に取った。
ゴッサムの作った薬かも知れない以上、迂闊に手は出せないが。ミレーニアは薬の蓋を開け、臭いを仰ぎ嗅いでみた。媚薬に特有の臭いはしない。一滴人差指に垂らしてみる。特に変化はない。劇薬でもないようだ。
ミレーニアはその一滴を舌につけてみた。痛みや痺れは無かった。寧ろ、体が少し軽くなったようだった。
(フェイトさんか誰かが作ったのかしら・・・)
ともあれ、それ程危険な薬ではないと判断したミレーニアは、薬の瓶を棚に入れ、調合材料を購入する為工房を後にした。
(・・・何なのかしら、周りの人から見られてる気がする・・・)
通りを歩いていたミレーニアは、周囲から不自然な程の視線を感じていた。一体何だというのか。自分の顔に変な物でも付いているのか?
(・・・あ、服!!)
そう言えば服を替えるのを忘れていた。こんな中年女性がこんな服を着ていたら、さぞ異様に見えるのだろう。思い当たった彼女が、急いで宿に戻ろうと体の向きを変えたその時・・・
「お嬢さん」
彼女は誰かに肩を掴まれた。振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。
(・・・か、かっこいい・・・)
ミレーニアは彼に一瞬見とれていた。すらりとした長身に、ライトグレイのサラサラとしたセミロングヘアー。そして何より、そのマスク。今まで会った誰よりも整った顔立ちをしていた。
「今、お暇ですか?」
紛れもない軟派であるが、青年の容姿に圧倒されていた彼女にそんな事まで考える余裕は無く、何よりこういった事に対して全く免疫の無いミレーニアは、但々うろたえるだけだった。
「え、あの、えっと」
「もし宜しければ、これからお茶でも如何です?」
「え!?あの、それは、どういう、意味、でしょう・・・?」
「いえ、僕はただ、貴女のような美しい女性と一緒の時間を過ごしたいと思っただけですよ」
「う、美しいだなんて、私のような、年寄りなんか・・・」
「・・・え・・・?」
青年は疑問の表情を浮かべていた。
「あ、あの・・・?」
「えっと・・・それは何かの冗談ですか?貴女が年寄りだなんて・・・こんなに綺麗なのに、周りの女性に聞かれても知りませんよ?」
「え?」
そう言って微笑んだ青年は、通りに面していた店のショーウィンドウのガラスを指差した。
「え、これは・・・」
そこにはこちらを指差す青年がいた。そしてその横には、白いブラウスと白いロングスカートに身を包んだ、目の醒めるほど美しい少女が佇んでいた。
艶やかな栗色の長髪に、美しく細やかな白い肌、ほっそりとした四肢。そして印象的なグリーンの瞳・・・・・・
「これ・・・私・・・?」
「ふふっ、君って面白いね。どう見てもそうだろう?」
自分の上げた手にあわせてガラスの中の少女は手を上げ、互いの指が寸分違わずに触れ合う。
・・・一体何が起きたと言うのか・・・これは夢なのだろうか・・・様々な事が頭の中で飛び回る。
「で・・・でも・・・」
「で、どうかな?これから。あっちにいい喫茶店があるんだけど」
「え、あの、でも、私買い物が・・・」
「・・・そんなに急ぎなのかい?」
青年は少し残念そうな顔をした。その表情にミレーニアは慌てた。
「え、あ、いえ、そういうわけでは・・・」
「そう、なら大丈夫だね!」
一転青年の顔は明るくなり、それに反応してか、ミレーニアの頬に朱がさした。青年にぐいぐい腕を引かれて、ミレーニアは完全に彼のペースに流されていた。
強引に喫茶店に連れてこられたミレーニアは、慣れない雰囲気にもじもじしていた。
「・・・あ、あの・・・」
「ん?どうかした?」
「・・・いえ、えっと・・・」
「あ、もしかしてこういう所に来た事が無い?」
「は・・・はい・・・」
「へぇ、君ってホントに変わってるね。もしかして、どこかのお嬢様、とか?」
「いえ、そんな・・・ただの修道女、です」
「はあ、それで。ここの礼拝堂って、鏡無かったかな?」
「え・・・?」
「あ、いや、何でもないよ」
そこにウェイトレスがコーヒーとケーキを持ってきた。
「さ、食べて。遠慮しなくていいよ」
「え、でも・・・」
「・・・・・・・」
「・・・あの、何か・・・?」
「え、あ、いや・・・ホントに可愛いなと思って」
「な!?」
ミレーニアの顔がボンと音を立てて真っ赤に染まった。若い頃から神に仕え男性関係など皆無に等しかった彼女にとって、可愛いという言葉は顔を染めるに十分なものだった。
「・・・ホントに可愛いよ、その仕草とか特に」
「や・・・やめて、下さい・・・」
ミレーニアは更に顔を赤くして、消え入りそうな声を何とか絞り出した。しかし、その一挙一動が青年には堪らないのだが。
「そうだ、自分で食べられないのならケーキ、僕が食べさせてあげようか?」
「え!?」
「はいv」
青年はフォークにケーキをひとかけら、ミレーニアの口元に持っていった。
「や、やめて下さい」
「遠慮しなくていいから」
「やめてっ!」
キーン
「あっ・・・」
反射的にかざした手で、フォークが青年の手から飛んでいった。
「ご、ごめんなさい・・・私、つい・・・」
「いや、僕も調子に乗りすぎたよ」
「・・・・・・」
「・・・そうだ、食べて済んだら君の買い物に付き合おう」
「え・・・」
「ね?じゃぁ、早く食べちゃおうか」
「・・・はい・・・」
ミレーニアの胸中には、済まない気持ちと、もう一つ、今まで感じたことの無い気持ちが生まれつつあった。
「ここ・・・?」
ミレーニアについて来た青年は、その店を見てあっけに取られていた。お世辞にも若い女性が出入りする様な店ではないと感じたからだ。
それもその筈、ここは彼女がいつも調合に使う材料を購入する玄人向けの店だった。
買い物の内容は勿論、その店のボロボロな外見にも青年は驚いていた。余りにも彼女とミスマッチだ。
「これ、教会のお使いなのかい?」
「いえ、そういうわけでは無いんですが・・・」
「へぇ、じゃ趣味かなんかで薬をいじってるんだ・・・・・・まるであいつみたいだな・・・」
「え?」
「あ、いや何でもないよ。こっちの話」
「はあ・・・」
ミレーニアは買い物を済ませた時には、日がだいぶ傾いていた。
「さ、君の買い物も済んだし、今度は僕の買い物に付き合って貰おうかな」
「えっ!?」
てっきり帰して貰えると思っていたミレーニアは、青年の言葉に驚いた。
「あれ、もう帰してもらえると思ってた?」
「え、だって・・・」
「はは、そんなわけ無いじゃない。だってこれ軟派なんだから」
そう言って青年は再びミレーニアの腕を引っ張り、どこかに連れて行こうとした。何とかしたいと思いながらも、何故か青年の笑顔には逆らえないのだった。
「あ、あの・・・」
「・・・うわぁ、凄い、綺麗だ・・・」
ミレーニアは大きな服屋に連れてこられ、服を着せられていた。大きく胸の開いた、純白のパーティドレスだった。
これまた初めてのパーティドレスを着せられて、ミレーニアの恥ずかしさは頂点に達していた。
「さ、じゃあ、レストランに行こうか」
「え、あ、きゃっ!」
青年は俗に言うお姫様だっこでミレーニアを連れ出した。ミレーニアの頭の中からは、無断外出してしまっている事も、買い物の荷物の事も、何故若返ってしまったのかという疑問も綺麗に吹っ飛び、自分の置かれている状況にひたすら混乱していた。
そして、レストラン、酒場と連れ回された彼女は、酒に弱かった事もあり、完全に酔いが回ってしまった。
ミレーニアは青年に支えられながら、人気の無くなった通りを進んでいた。
「うおっと、だ、大丈夫?」
「う〜ん、だ〜いじょ〜ぶよ〜ぉ。あははは、め〜がま〜わる〜ぅ」
「(フフ、これなら大丈夫そうだな)今から君の家に帰るのは難しそうだから、今日は宿屋にでも泊まろうか」
「ん〜、あたしんちもやどやだよ〜。ど〜あのとびら〜っていうとこ〜」
「へぇ!奇遇だね、僕もそこに泊まってるんだよ。(オォ、ラッキー!!)じゃあ、君の部屋まで連れて行ってあげるよ」
「う〜ん、あ〜りがと〜」
二人は”高級ホテルドーアの扉”の三階にやって来た。
「こ〜こ〜」
「へぇ、一番隅っこの部屋なんだね(こりゃますます都合がいい)」
「あたしにもいろいろあるのよ〜」
部屋の明かりを点けると、青年はミレーニアをベッドに寝かせた。うつ伏せだったにもかかわらず、シーツの上に投げ出されたその四肢と髪は、堪らなく扇情的だった。
(それじゃあ、そろそろ頂くとするか)
青年はパーティドレスを脱がそうと、ミレーニアに近付いていった。が、途中でその動きが止まった。
ミレーニアは泣いていた。
「っく・・・っく・・・」
「・・・どうか、した?」
「・・・みんな・・・みんな、死んじゃった・・・」
「・・・・・・?」
「友達も・・・親切にしてくれた人も・・・みんな・・・何でだろ・・・」
先の戦争の事を言っているのだろうか。青年はぼんやりそう思った。
「私・・・分からない・・・どうして、私は生きてるのかな・・・こっちになんか来ないで・・・みんなと一緒に、死んだ方が、良かったのかな・・・」
「・・・そんなことないだろ」
「どうしてあなたにそんな事が分かるのよ!!」
少女の涙に濡れた鋭い、しかし、余りにも弱々しい瞳が青年を見つめる。青年の心に、先程までとは違う感情が生まれた。
「・・・分からねぇさ・・・・・・俺にはあんたの苦しみなんて分からねぇ。けどあんたが死んでたら、この町に来なきゃ、俺はあんたに会えなかった」
「・・・・・・」
「それに、あんたが生きてるのには何か意味があるんじゃないのか?あんたが信じるアペリス様は、あんたが死ぬのを喜ぶってのか?」
「それは・・・・・・でも、じゃあどうして私の・・・」
「あんたがそいつ等の分まで生きりゃいいじゃねぇか」
「え・・・」
「俺にゃアペリス様のお考えなんてものは分からねぇ。でも実際あんたは生きてんだ。なら生きりゃいい」
少女は暫く豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、次第に顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。
青年は少女をそっと抱き寄せ、少女は青年の胸の中で泣き続けた。
一頻り泣いた後、涙が枯れたのか、いつの間にか少女は泣き止んでいた。
「ねぇ・・・」
「・・・何だ」
「そう言えば、名前訊いてなかったよね・・・なんて言うの?」
「え・・・・・・」
「・・・ねぇ?」
「あ、っと・・・サム・・・」
「・・・ベタ・・・」
「うるせぇ・・・お前は?」
「私・・・私は・・・」
(・・・・・・ミレア・・・・・・)
親友の声が頭に響いた。
「・・・ミレア・・・」
「お前も十分変わってる」
「ほっといてよ・・・フフッ」
少女―ミレアは顔を上げ、青年―サムの漆黒の瞳を見つめた。
「ねぇ、サム・・・」
「あ?」
「・・・抱いて・・・」
「・・・ああ・・・」
二人の顔が交わった。
口内で舌が絡まる。息苦しさに、ミレアは眼に涙を浮かべた。
「んっ、んんっ・・・ぷはっ、はぁ、はぁ」
決して長いキスとは言えなかったが、ミレアは肩で息をしていた。
「・・・ミレア、もしかして初めてなのか?」
「・・・うん・・・だから・・・」
「・・・ああ、分かってる」
サムは彼女の背中に手を回し、ドレスを脱がせていった。彼の胸にあったのは、性欲ではなく、ミレアに対する愛情だった。
ドレスが軽い音を立ててシーツの上に落ちる。下着に包まれた形の良い乳房が姿を現した。サムが下着の取り外しにかかると同時に、ミレアもサムの服を脱がし始めた。
ミレアがサムの服を脱がし終わると、サムは彼女をベッドの上に押し倒した。
サムはミレアの口に再びキスを落とすと、胸を弄り始めた。
「・・・んっ・・・なんか、くすぐったい・・・」
「初めてなんだろ?だったら・・・そんなもんさ」
「そう・・・んっ・・・・・・ひゃぁっ!?」
サムはミレアの耳たぶを軽く噛んだ。
「へぇ、こっちの方が感じるんだ」
「え、感じるって・・・今のが?」
「あぁ、女は感じたときにさっきみたいな声を出すのさ」
「そう、なの?・・・・・・えっ?きゃっ!!」
サムは床に落ちていたスカーフを拾い上げ、ミレアの目を覆った。続いてベルトで両手も縛った。
「え、な、何するの!?」
「ミレアはまだ開発されていないみたいだからな。手っ取り早く感じさせるにはこれが一番なんだよ」
そう言ってミレアをうつ伏せにしたサムは、彼女の背中に、背骨に沿って舌を這わせた。
「ひゃあぁぁぁっ!?(何、これ、ゾクゾクする!?)」
「ほらな、これだけで気持ちいいだろ?」
「う、うん・・・あっ、ふぁっ、ひゃっ」
サムはミレアの体中を、指と舌でいじり続けた。時に強く、時に触るように。サムの攻めは、次第にミレアの感度を高めていった。そして、仰向けにされたミレアは再び胸を攻められた。
「んぁっ、はぁっ、んっ、んっ」
「どうだ?さっきより気持ちよくなっただろ?」
「え、う、うん・・・んぁっ・・・」
「よし、じゃあそろそろ・・・」
「ひゃっ!!」
サムはミレアの下着の下に手を滑り込ませ、クリトリスを弄った。
「んやっ、んぁっ、あっ、ダメッ、はぁっ」
サムは胸への攻めを止め、ミレアの秘部に顔を埋め、丁寧に舐め回した。
「んぁっ、あっ、あんっ、あっ、あっあっ、んにゃぁあぁっ!!」
ミレアの体が一瞬強張り、力なくベッドに横たわる。それを見届けたサムは、下半身を彼女の前に曝け出した。それを見たミレアの目が見開かれる。
「お、おっきぃ・・・・・・」
「大丈夫、優しくするから」
「・・・うん・・・」
チュクッ、ズ、ズ、ズ・・・・・・
「・・・痛うっ・・・」
サムの挿入でミレアの膜が破られ、血が流れた。サムはミレアをいたわる様に、ゆっくりゆっくり腰を動かす。速く動かしたい衝動を抑えながら。
(くっ、やっぱり初モノは締まるっ)
「・・・どうだ、痛いか?」
「んっ・・・大・・・丈夫・・・もっと、速く動かして、いいよ・・・」
「そう、か、くっ、じゃ、動かすぞ・・・」
「んっ・・・っ、んっ・・・はぁっ、んっ、んぁっ・・・」
ミレアの声に段々と喘ぎ声が混じる。
「あっ、サムぅッ、あんっ、何か、変な、あっ、感じ、あっ、また、キちゃう、んぁっ」
「ああ、俺も、イキそうだっ」
「あっ、キてっ、私も、もう、イクッ」
サムの腰の動きが速まる。
「くっ、もう、出るっ」
「あ、熱いぃぃっっ!!」
膣にサムの熱い精を受け、ミレアも達した。
二人はベッドの上で抱き合う。
「っはぁっ、はっ・・・もう、何も気に病むんじゃ、ねぇぞ、お前は、お前の人生生きりゃ、良いんだからな・・・」
「はぁ、はぁ・・・うん、ありがとう・・・」
二人は抱き合ったまま、眠りに落ちた。
鳥の声が聞こえる。もう朝なのだろうか。酷く頭が痛い・・・。何故だろう。ミレーニアはゆっくり身を起こした。部屋を見回す。自分の部屋だ。昨日一体何があったのか。
確か、とても容姿の良い青年に連れ回されたような記憶があるのだが、それ以上思い出せなかった。まるで記憶に穴が開いたように。それに、やけに体がすかすかする。
「え!?」
彼女は裸だった。が、それだけでは無かった。
「う〜ん、激しいのぉ〜わしの方がもたんわい。ぐふぐふ」
隣には同じく裸で眠るゴッサムの姿。
「・・・・・・」
程なくして、宿にはミレーニアの絶叫が響き、ボコボコになったゴッサムが素っ裸のまま(三階の)窓から通りに放り出された。
「しっかしあの爺さん、本当に騒ぎしか起こしてくれねぇなぁ」
瀕死のゴッサムを医者まで連れて行き、例の薬の処分も済ませた一同が工房でたむろしていた。
「ミレーニアさん、本当に大丈夫ですか?」
「え、えぇ。でもソフィアさん、私よりフェイトさんの方が・・・」
「ホントだよ。全く酷い目に遭った。媚薬の次は”若返り薬”だなんて、あの性格は治らないのかな」
昨日ゴッサムに薬を飲まされたフェイトは、消滅寸前の赤ん坊になっていた所をソフィアに発見され、クリエイターをも巻き込んで大騒ぎになり、全員で町中医者やら薬剤師やらを探し回っていたのだ。
もっとも、翌日何事も無かったかのように元に戻ったのだが。
「そのゴッサムさんと一緒に媚薬を作ろうとしてたのは誰でしたっけ?」
「しかもあたしに使うつもりだったらしいじゃないかい」
「ソ、ソフィア、ネルさん、お、落ち着いてよ・・・あれは、えと、その・・・」
「・・・それにしても、どうして彼、若返り薬なんて作れたのかしら?」
作れないはずなのに、というマリアの言葉に、全員の動きが止まった。
「・・・そう言えば・・・」
ネルの視線がクリフを示す。
「な、何だよ、お、俺のせいだっつうのか!?」
「あのなぁ、あの人に訊かれた時点で何に使う気なのか想像しろよな!僕あとちょっとでこの世から消えてたんだぞ!!」
「なっ、だってよ、俺が作ったのだって偽物なんだぞ!?完成するなんて思わねぇじゃねぇか!!」
「偶然だろうがなんだろうが、現に完成してたじゃないか!!これだからクリフは・・・・・・」
「・・・あの、ミレーニアさん?フェイトに話したい事があるって言ってませんでしたっけ・・・」
フェイトとクリフが五月蝿くやっているのを横目に見ながら、ソフィアはミレーニアに小声で尋ねた。
「え?あぁ、もうその事はいいのよ、ごめんなさいね、気を使わせちゃって」
「そうですか、ならいいんですけど・・・」
『あんたがそいつ等の分まで生きりゃいいじゃねぇか』
あの事情の全てを忘れている筈のミレーニアの頭に、何故かあの言葉だけが響いていた。何か、胸のつかえがとれた様な気がしていた。
ミレーニアは薄く微笑んだ。しかしそれにしても・・・
(それにしてもあの青年がゴッサムさんの若い時の姿だったなんて・・・)
若い時に出会わなくて本当に良かった、と思うミレーニアなのだった。
それから暫く、ミレーニアがゴッサムに怒鳴らなくなったと一部から驚きの声が上がっていた。まあ、あくまで暫くの間の話、なのだが。