ここはシランドにある工房。そこのダイニングテーブルで、眼鏡をかけた少年がテレグラフの向こうの青年に向かって話しかけていた。  
『・・・アーリグリフに転属させて欲しい?』  
「はい。お願いできますか?」  
『それは構わないけれど、またどうしてアーリグリフに?』  
「アーリグリフの蔵書を読んでみたいんです」  
『確かにあそこの蔵書はシランドくらい立派だけど、  
見せてもらえるかどうかは分からないよ?』  
「アーリグリフの工房にはノッペリン伯爵がいましたよね?  
彼に掛け合ってみるつもりです。  
もっともテレグラフに応答が無いので、行ってからになりますけどね」  
『でも、君のお父さんやお母さんは・・・』  
「既に許可はとってあります」  
『学校の方は・・・』  
「そちらも問題ありません。今学んでいる程度の事は、  
全て理解している事ばかりですので」  
『そ、そう・・・じゃぁ・・・』  
「大丈夫です。フェイトさんが思いつく程度の問題は全て対処済みですから」  
フェイトと呼ばれた青年は、米神に少し筋を立てたがなんとか笑顔を保ちながら話を進めた。  
『・・・じ、じゃあギルドにも話をつけておくよ』  
「お願いします。こちらは用意ができ次第、アーリグリフに向かいますから」  
『僕らは手が空かないから、道中はくれぐれも気をつけてね、ミシェル君』  
「心配には及びませんよ」  
そう言って、ミシェルと呼ばれた少年はテレグラフの電源を落とした。  
 
「あれ〜、今マスターと話してたの?」  
後ろから突然聞こえた声に、ミシェルの体が少し宙に浮いた。  
「エ、エリザさん!?やめて下さいよ、びっくりするじゃないですか」  
「ごめ〜ん、ついつい。で、何話してたの?」  
エリザは興味津々といった目でミシェルの顔を覗き込む。  
「・・・アーリグリフの工房に移らせてくれるよう頼んでたんです」  
「アーリグリフ?何でまたあんなに遠いとこに?  
ここに来てからもあんまり経ってないのに・・・」  
「貴女に言う必要はありません」  
「む〜、ミシェル君のケチ〜!」  
頬を膨らませて、エリザは扉の向こうに消えていった。それを見届けると、ミシェルも身支度を整えるために工房を出て行ったのだった。  
 
それから数日後、アーリグリフ工房では、少女とウサギの亜人が二人で爆弾を作っていた。  
「慎重にだよ、慎重に・・・」  
「分かってるわよ!神経使うんだから・・・静かにしててよね・・・」  
「・・・うん・・・」  
「・・・・・・よし、後はここを・・・・・・」  
「出来たぞ〜〜〜〜〜い!!」  
ボウン!!  
小さな爆発が起き、二人の顔は真っ黒になってしまった。  
「見るがいい!このワシの傑作、女中ふ「「いい加減にしろこの変体ジジィ!!」」  
得意気に、俗に言うメイド服を広げていたデジソンの顔面に、二人のハイキックが決まった。綺麗な弧を描いてデジソンの体が宙を舞う。  
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・っくしゅんっ!」  
亜人の少年が心配そうに、くしゃみをした少女を見上げる。  
「メリル大丈夫?」  
「大丈夫じゃないわよ、全く。  
どうして私がこんな寒い所に来なくちゃいけないの!?」  
「それはお前達がワシの助手だからじゃ」  
「ぎゃ〜っ!前触れなく起き上がるな顔近づけるなツバ飛ばすな気色悪〜いっ!!  
 バニラッ!!」  
「ラジャー」  
メリルの号令を合図に、バニラと呼ばれたウサギの亜人が、デジソンのメイド服に火をつける。  
「のあぁぁっ!ワシの、ワシの傑作がぁっ!」  
「あぁ〜、少しは暖かくなったかも・・・  
それにしてもバニラ、あんたはいいわよね、地で暖かくて」  
「まあね。こればっかりは役得かな」  
「う〜っ、何が楽しくてこんな寒い所で  
あんな変人の助手なんてやってなくちゃいけないのよ!」  
メリルは灰になってゆく服を前に呆然としているデジソンを見遣りながら、うなだれつつ愚痴った。  
「助手って言うか・・・・・・実質お守りだよね、僕達」  
同じくバニラもうなだれる。  
 
「共同開発も良いって確かに言ったけど・・・もっとこう違うでしょ?  
 そうよ、何かが間違ってるわ!私みたいな華の乙女がこんなジジイやウサギ  
 と一緒に青春の時間を浪費するなんてっ!もっとかっこいい人と一緒に  
 機械を弄りたいのに!!」  
「・・・こんなウサギ・・・って言うか、  
 青春を機械弄りで過ごす事自体、僕はどうかと思うけど・・・」  
「・・・くぅおのぅ、おのれらよくもワシの傑作を・・・」  
「何よ、まだやる気!?」  
ゆらりと身体を起こしたデジソンに、メリルとバニラが再び身構えたその時・・・  
「全く、いい歳をした人間がこんな昼間から何をやってるんですか?」  
聞き慣れない声がして、三人の顔が部屋の入り口を向いた。そこには、分厚いコートを片手にしたミシェルが立っていた。  
 「何度呼び鈴を鳴らしても反応が無かったので勝手に入らせてもらいましたよ」  
そう言ってミシェルはコートを脱いで、手近な椅子にかけた。  
「ちょっと、あんた誰よ?」  
「・・・あなたテレグラフを見ないんですか?」  
心底呆れた、といった表情で、ミシェルはメリルを見た。  
「な、ちゃ、ちゃんと見てるわよ・・・たまには・・・」  
「君は・・・ミシェル君だね?」  
口ごもったメリルの代わりに、バニラが口を開く。  
「フェイト君から聞いてるよ。今日からなんだね、ここに来るのは」  
「はい」  
「何、この子クリエイターなの!?」  
メリルが驚きの声を上げる。  
「メリル、君ホントに見てないんだね、テレグラフ・・・」  
「何よ、私はまだクリエイターになって日が浅いんだから仕方ないでしょ!  
 ・・・それにしてもこんな子供がクリエイターだなんて・・・」  
そう言ってメリルが向けた好奇の眼差しは、ミシェルの怒気を含んだ視線とぶつかった。  
 
「何をおかしな事言っているんです?あなただって十分子供じゃないですか」  
「な、私はもう十五才で立派な大人よ!」  
「十五才をどう見たら大人だと言えるんです?  
 ま、仮に歳で成人していたとしても、  
 仕事が出来ないような人間を立派な大人だなどと呼べはしませんけどね」  
「むっか〜!何よ、まるで私が仕事できないみたいな言い方じゃない!」  
「出来ないみたいじゃなくて、出来ないんでしょう?  
 さっきも三人でじゃれあっていたようですし、  
 何より最近めっきり機械関係の特許申請を聞かなくなりましたから」  
「そ・れ・は!私のせいじゃ無くてこのジジィの・・・」  
「とにかく!・・・僕のことを子供呼ばわりするのは、  
 貴女がもっと大人になってからにして下さい」  
そう言ってメリルの言葉を遮ったミシェルは、バニラの方に向きなおった。  
「ところでバニラさん、ノッペリン伯爵は来ていらっしゃいますか?」  
「あぁ、伯爵なら二階の執筆部屋にいるよ。あの人滅多に来ないから、運が良かったね」  
「そうですか、ありがとうございます。早速会ってきますね。  
 貴方も大変ですねバニラさん、こんな人と一緒に仕事をしなくてはいけないなんて」  
「なっ・・・!」  
「では、また後ほど・・・」  
そう言うと、ミシェルはコートを手にとって部屋を後にした。  
「き〜〜〜〜っ!!何よ何よあの生意気なガキンチョはっ!  
 ・・・僕のことを子供呼ばわりするのは、  
 貴女がもっと大人になってからにして下さい・・・  
 なんて事言ってくれちゃってぇっ!」  
「メリルちょっと落ち着きなよ。多分向こうの方が一枚上手だよ」  
「何?バニラもあいつの肩持つの?」  
「いや別にそう言う訳じゃないけど」  
「いいわよいいわよ。あ〜もう、どうして私の周りにはこんな連中しかいないのよ〜!」  
「ほれほれ、そんな風に不幸な自分に酔っとる暇があったら仕事をせんといかんぞ?」  
「・・・お前が言うなこの勘違いジジィィッ!!」  
メリルのアッパーがデジソンの顎を捉え、またもやその体が虚空に散った。  
 
それからというもの、ミシェルの癇に障る言葉遣いに、メリルは毎日苦しんでいた。しかも彼の言っている事は正しいだけに、彼女に反論できる余地は無い。悔しさに舌打ちするしか出来なかった。そんな毎日に、彼女がすがるのはやはりバニラなのだった。  
「く〜や〜し〜!!」  
メリルの愚痴を、バニラはドライバーを回しながら聞いていた。  
「幾ら言ったってダメだよ。そりゃ、ミシェルの言い方もきついけど、  
 君が至ってないのも確かなんだし・・・」  
「だからってあんないい方しなくたっていいでしょ!?  
 ・・・貴女は発明を試みるより先に、  
 手際の良い作業のやり方を学んだ方がいいんじゃないですか・・・  
 きぃ〜〜〜〜っ!む〜か〜つ〜く〜!」  
メリルはバンバンと作業台を叩いた。小さな部品が卓上で跳ねる。  
「ちょっとメリル、製品が壊れちゃうよ」  
「あいつだって毎日毎日お城にいって趣味に耽ってるくせに!」  
「でもやることちゃんとやってるから、いいんじゃない?」  
「何とかしてあいつをギャフンと言わせてやるんだからっ!」  
「・・・無理しない方がいいよ・・・どうせ勝てないんだから・・・」  
「初めから決めてかかったら勝てるものも勝てなくなるのよ」  
「それはそうだけど・・・・・・でも具体的にどうするのさ」  
「すんごいアイテム発明して、あいつに私の事を見直させてやるのよ!」  
「そうそう出来ないって、そんなに凄い物なんて・・・」  
「そうと決まれば善は急げね。絶対見返してやるんだから、見てなさいよ〜!」  
「あ、ちょっとメリル、電磁ボムのノルマは・・・ってあ〜、もう聞いてないや・・・」  
メリルは既に自分の世界に入ってしまっていた。こうなってはもう誰も止められない。まだいっぱいノルマが残ってるのに・・・と、一人しぶしぶ電磁ボムの製作に取り掛かるバニラなのだった。  
 
「っくしゅっ!・・・・・・はれ?」  
メリルは寒さで目を覚ました。部屋の中は薄暗く、窓の外はすっかり闇色に塗りたくられていた。どうやら居眠りをしていたらしい。机の上にあったランプの油ももう切れかかっていた。  
「うぅぅ・・・寒い・・・」  
ストーブが切れているようだ。とメリルが身を震わせながらストーブに火をつけようと身体を起こしたその時、思わぬ者が目に飛び込んできて体の動きが止まった。  
「・・・ミシェル・・・?」  
ストーブの前の椅子には、いつぞやのコートを着たまま眠っているミシェルがいた。肩や髪はまだうっすらと湿り気を帯びていた。  
外から入ってきたままの姿なのだろう。その手には薪が握られていた。  
「・・・まさか・・・」  
自分が寝ている間、ずっとストーブの番をしてくれていたというのだろうか。あのミシェルが。毒舌で自分を悩ませる彼しか知らないメリルには、目の前の光景が少し信じられなかった。  
しかしこのまま寝かせておく訳にもいかない。メリルはミシェルの肩を揺すった。  
 
「ミシェル・・・ミシェル・・・」  
「ん・・・んん・・・あ、メリル、さん・・・!  
 ・・・しまった、僕としたことが・・・いつの間にか・・・」  
「いつの間にか、寝ちゃったのね〜。んふふふ・・・」  
メリルはしてやったりという表情を浮かべた。  
「あんたでも失敗するのね〜。そうよね〜あんたも人の子だもんね〜」  
メリルが自分の居眠りを棚に上げ、にんまりと笑ってそう言ってみせると、その言葉にミシェルは語気を荒げた。  
「な・・・あ、当たり前じゃないですかっ!  
それに、僕はバニラさん達に頼まれてあなたを迎えに来たんですよ?  
お礼を言われる事はあっても、そんな事を言われる筋合いはありません!」  
「そうだったわね〜、あ・り・が・と。お礼にキスでもしてあげよっか?」  
メリルが顔を近づけてそう言うと、ミシェルの顔が耳まで真っ赤に染まった。  
「な、じ、冗談は止めて下さいっ!早く宿に戻りますよっ!」  
ミシェルは椅子から立ち上がり、早足で部屋の出口へと向かった。  
「あはは、それだけで赤くなるなんて、やっぱりお子様・・・あれ・・・?」  
突然、メリルの視界がぐにゃりと歪んだ。身体がいう事をきかず、そのまま彼女は床に倒れこんだ。メリルは意識の途切れる寸前に、ミシェルが自分の名を叫ぶ声を聞いた気がした。  
 
メリルは暗闇の中にいた。苦しかった。とても苦しかった。そんな中、彼女の右手だけが暖かかった。そんな時間が一体どれ位過ぎたのか、メリルはふと目を覚ました。  
(・・・・・・ここは・・・・・・)  
視界に広がるのは、しばらく前から自分にあてがわれていた宿屋の一室の天井だった。メリルは自室のベッドで寝ていた。一体何があったのか。記憶が判然としない。  
メリルが記憶の糸を辿っていると、入り口のドアが開いた。  
「あ、気が付いたんだね?よかった・・・」  
入ってきたのはバニラだった。  
「・・・バニラ・・・?・・・私、一体、何があったの・・・?」  
メリルは未だぼんやりとした頭でバニラに尋ねた。バニラは持ってきた食事を、そばの机に置いて、メリルの方に近付いた。  
「メリル、だから無理をするなって言ったのに・・・風邪をひいてたんだよ」  
ようやくメリルの頭の中にあの夜の事が蘇ってきた。  
「あはは・・・ゴメンね、迷惑・・・かけたみたいで」  
「ホントだよ。ミシェルにギャフンと言わせるとか言っておきながら  
逆に命を助けられてるんじゃ本当に世話無いよ・・・」  
バニラの言葉を聞いて、メリルの表情が強張った。  
「そんな・・・大げさね、唯の風邪だったんでしょ・・・?」  
「・・・・・・」  
しかし、バニラは険しい表情のまま口を開かない。  
「・・・バニラ・・・?」  
「危なかったんだよ・・・実際・・・」  
「え・・・?」  
バニラは少しずつ、少しずつ言葉を紡ぎだした。  
「症状は、普通の風邪と、同じだったんだけどね・・・  
熱が、酷かったんだ。お医者さんも・・・  
昨日の夜が山だって、言ってたんだよ・・・」  
「・・・うそ・・・」  
「・・・本当だよ・・・」  
メリルの顔から血の気が引いていく。  
「だから・・・彼に、後でお礼を言っときなよ」  
「・・・彼・・・?」  
「ミシェルだよ・・・彼、必死で二晩、君を看病してたんだ」  
「・・・え・・・!?」  
 
メリルは驚いた。あの夜からもう二晩が過ぎていた事もそうだが、何より、あのミシェルが必死で看病をしてくれたという。  
「それ・・・本当なの・・・?」  
「・・・うん。一昨日からメリルの熱が引くまで、ずっと君の傍で看病してたんだ  
 僕らも無理しないでって言ったけど、聴かなかったよ」  
「そんな・・・どうして・・・?」  
「それは僕にも良く分からない・・・ただ・・・」  
「・・・ただ・・・?」  
「・・・僕のせいだ・・・って、言ってた・・・」  
「・・・・・・」  
メリルには分からなかった。あの、顔を遭わしたらいけ好かない台詞ばかりを並べてきたあのミシェルが、小憎たらしい表情で辛辣な言葉を浴びせてきたあのミシェルが、  
他のクリエイターたちの制止すら聴かずに・・・いや、制止を受ける程に自分の事を看病してくれたなどと。それに何が彼のせいだと言うのか・・・。  
その時、再び部屋の扉が開いた。  
「・・・ミシェル・・・!」  
しかしメリルと目が合ったとたん、ミシェルは部屋に入ることなく走り去ってしまった。  
「ちょっとミシェ・・・痛ぅっ・・・!」  
慌てて半身を起こしたメリルの身体に痛みが走る。  
「メリル、無理しちゃダメだよ!」  
バニラはメリルを制止すると、ゆっくり布団の上に寝かせた。  
「ミシェル・・・何で・・・」  
・・・・・・何であんなに、辛そうな顔すんのよ・・・・・・  
そこに、ノッペリン伯爵とデジソンが入ってきた。  
「何かあったのかね?今しがたそこであの少年とすれ違ったが」  
「・・・伯爵に、ジジィ・・・」  
「おぉ、良くなったようじゃな。まぁワシが呼んだ医者にかかれば、  
 あんな病気なぞ治って当たり前じゃがな。むほほほほ・・・」  
「風邪をひいた時ぐらいその減らず口は何とかならんのか?」  
「まぁまぁデジソン殿、ここは彼女の回復を祝おうではありませぬか」  
そう言って、ノッペリンは胸に刺していたバラを取り、メリルの枕元の花瓶に刺した。  
 
「これはささやかながら、前祝といったところじゃ」  
「ほっ、なかなかやりますな、伯爵殿は」  
「貴族たるもの、常に女性には優しく在らねばな。むほほほほ・・・」  
「・・・みんな、ありがとう・・・」  
「そうそう、ありがたいと思ったときには素直に例を言うもんじゃ。むほほほほ・・・  
 うん?そういえば彼にはもう礼を言うたのかね?」  
「・・・っ・・・」  
メリルの身体が強張った。目線が僅かに下を向く。  
「そう言えば、やたらとお前さんに構っとったのう。普段あんな振る舞いをしとるが、  
 実のところお前さんの事が好きだったりするかも・・・」  
「デジソンさん、悪ふざけはその辺にして・・・まだメリルは病人なんだから。  
 伯爵も、健康な僕らは早く仕事に取り掛かりましょう」  
メリルの異変を察知して、バニラは話題を変えた。  
「そうじゃな。では我々の麗しの姫君の為に、最高の職人に仕事をさせようではないか」  
「ちゃんと自分でやらんかい」  
「むほほほほ、冗談じゃよ冗談」  
そんなやり取りをしながら、ノッペリンとデジソンは部屋を出て行った。後に残ったバニラも、身の回りを手早くまとめると、再びメリルの方を向いた。  
「じゃあ、僕らは工房に行くけど、まだ本調子じゃないんだから、  
 絶対に無理しちゃダメだよ・・・何があっても。分かった?」  
「・・・うん・・・」  
メリルの返事を確認すると、バニラも部屋を出て行った。  
メリルは、ノッペリンがくれたバラの生けられた花瓶を手に取った。暖かかった。周りのみんなの暖かさが、伝わってくるような気がした。バニラの、ノッペリンの、デジソンの・・・  
・・・ミシェルは・・・?  
思考がそこまで辿り着くと、メリルの心が軋みをあげた。  
周りの優しさに、彼の気持ちが分からなかった。あの、辛そうな表情の訳が分からなかった。懸命な看病の意味するものが分からなかった・・・・・・何も、分からなかった・・・・・・それが、堪らなく寂しかった。  
ふと、メリルは自分の右手を見て思い出した。あの、苦しみの中で自分を支えてくれたあの温もりを。あれはミシェルのものだったのではないか。確信じみた思いが、メリルの胸に広がった。そして同時に強い眠気に襲われて、メリルはそのまま目蓋を閉じたのだった。  
 
その日の夕方、城から早々に戻ってきたミシェルは、宿の自室の机で何かをしていた。  
・・・・・・コンコン・・・・・・  
「いますよ」  
ミシェルの反応に答えて、扉がゆっくりと開かれる。廊下に立っていたのはメリルだった。  
ミシェルは一瞬メリルを見たが、すぐに机の物に視線を戻して作業を再開する。  
「ミシェル・・・えっと・・・」  
「やっと良くなったんですか。良かったですね、おめでとうございます」  
「え、うん・・・」  
ミシェルは相変わらずメリルの方を見ようとはせずに、ただ口だけを動かした。そんな彼に、メリルは中々切り出せなかった。訊きたい事は山ほどあったが、何故かその話題に触れるのが躊躇われた。  
そうこうしていると、ふとミシェルの書き綴っていたものに目がいった。  
「何、書いてるの?・・・手紙?」  
「・・・あなたに僕のプライベートを教える義務はありません」  
「いいじゃない、教えなさいよ」  
そう言って、メリルはミシェルの傍までやって来た。ミシェルはしかし、特別それを隠そうとはしなかった。  
「・・・ねえ、ちょっとどういう事・・・?」  
手紙を読んだメリルの言葉は震えていた。  
「書いてある通りの意味ですよ。それ以上でも、以下でもありません」  
ミシェルは淡々と答える。そこには、シランドにいるミシェルの両親に宛てて、すぐに帰るという内容が書かれていた。  
「どうしてこんな急に・・・だってまだ十日かそこらしか・・・」  
「アーリグリフの蔵書を全て読み終えたので、  
 僕にはもうここにいる理由が無くなったんですよ」  
「全て読み終えた・・・って、そんな幾らあんたでもそんなこと・・・」  
「僕が読み終えたと言ってるんですから読み終えたんです。  
 あなたにどうこう言われるような事はないでしょう」  
ミシェルは初めてメリルの方を向いて言い放った。  
「そ・・・それは・・・」  
ミシェルの目は有無を言わせぬものだった。暫らく沈黙が場を支配する。  
アーリグリフの夕闇が迫るのは早い。先程まで赤く染まっていた雪雲も今ではすっかり黒く染まっていた。二人の顔を、ランプの明かりが揺らす。  
 
「・・・ねぇ・・・」  
メリルが沈黙を破った。  
「・・・何です・・・」  
「・・・あ・・・う・・・」  
何か言いかけようよして、メリルは再び口をつぐんだ。  
「用が無いのなら出て行ってもらえませんか?僕はそんなに暇ではないんです」  
そう言って、ミシェルは再び手紙を書き始める。  
「・・・何が、あんたのせいだって言うの?」  
ミシェルの指の動きが止まった。  
「・・・気にしないで下さい」  
「気になるわよ!どうして?どうしてあんたが付きっきりで私の看病なんか・・・」  
ミシェルは身体を動かす事なく喋り始めた。  
「・・・僕がしっかりしていなかったからです・・・」  
「だからどういう事よ」  
「・・・あの時僕がすぐにあなたを起こしていれば、あなたが風邪をひく事もなかった。  
 命の危険にさらされる事もなかった・・・」  
ミシェルの告白に、メリルは暫らく立ち尽くしていた。  
「・・・だから僕はもうここに居られないんです・・・」  
しかし、彼の次の呟きにメリルは酷く動揺した。  
「・・・え・・・!?」  
言って、ミシェルもしまったといった顔をした。  
「一体どういう事よ・・・あんた、お城の本を読み終わったからじゃ」  
「・・・そのままの・・・意味ですよ・・・」  
「何よそんな大袈裟に・・・だって、あれは私の不注意で・・・」  
「・・・僕を、見返すためにあんなに遅くまで創作をしていたんでしょう?」  
再びミシェルの双眼がメリルのそれを捕らえた。  
「それは・・・」  
「やっぱり・・・そうなんですね・・・」  
ミシェルの表情が更に沈痛なものになる。  
「そんな、気にしないでよ、だって、ね?私、ほらもう治ったし」  
酷く落ち込んだミシェルを何とか元気付けようと、メリルは勤めて明るく振る舞おうとした。  
 
「もういいんです。気にしないで下さい。僕は明日にでもここを発ちます  
 ・・・もう僕の事で悩まなくても済みますから」  
「な、明日!?そんな、どうして私の事であんたがそこまで・・・」  
たて続けの意外な告白にメリルは驚き続ける。  
「気にしないで下さいって言ってるじゃないですか・・・」  
「気になるに決まってるでしょ!?」  
「僕の事を僕が決めて何が悪いんです?」  
「そういう事言ってるんじゃないわよ!」  
「じゃあ何を言って欲しいと言うんですか!?」  
「どうしてあんたが私の事なんかでそんなに気に病まなくちゃいけないのよ!」  
「それはっ・・・それは・・・それはあなたのことが、好きだからですよ・・・」  
彼の言葉に一体何度驚けばいいのだろうか。メリルの思考が再び一時停止する。  
「・・・な、何、変な冗談、言ってるのよ!?  
 あ、あれだけ毎日癇に障ること言っといて今更好きだですって?  
 そんな下手なウソ・・・信じられる訳ないじゃない!」  
ミシェルはただ俯いているだけで何も返さなかった。  
「何とか言いなさいよ!私はそんな下らない冗談なんか聞きに来たんじゃないの!  
 だから・・・」  
メリルがそこまで言ったとき、ミシェルが急に立ち上がった。  
「な、何よ・・・きゃっ!?」  
そのままメリルの身体は、横手にあった壁に押し付けられた。  
「下らない、冗談なんかじゃありません!」  
「ちょっと何すん・・・んんっ・・・!?」  
メリルの言葉はそこで途切れた。ミシェルの口付けによって。  
 
「はぁっ・・・僕は、本気なんです。冗談なんかじゃありません」  
メリルの思考はもはや停止していた。あまりの展開に、付いていけていなかった。それでも、その場から離れようと身体は反射的に抵抗を試みる。  
しかし二人の唇が離れても、ミシェルの両手はメリルの肩を押さえつけ続けていた。いくら年下とはいえ相手は男。メリルの力でどうこうできるものではなかった。  
とその時、ふっとミシェルの力が弱まり、同時にメリルの右手が彼の頬を打った。乾いた音が部屋に響き、ミシェルの眼鏡が床に落ちる。  
「〜〜〜〜っ!ミシェルのバカァッ!!」  
メリルはミシェルの身体を突き飛ばし、そのまま走って部屋を出て行ってしまった。  
その後姿を見送ると、ミシェルは胸を突く感情に、焦点の合わない目をきつく閉じた。  
 
自分の部屋に駆け込んだメリルは、そのままベッドに身を投げた。  
「・・・初めてだったのにぃっ・・・ミシェルのバカバカバカバカ〜ッ!!」  
ひとしきり喚いた後、枕を抱きかかえたままのメリルの脳裏に、先程のミシェルの顔が浮かんできた。  
『僕は、本気なんです。冗談なんかじゃありません』  
あれほど真剣なミシェルの顔を、メリルは見たことがなかった。心臓がとくんと音を立てたのが分かった。柔らかな感触が残っている唇に、指をあててみる。  
「・・・バカ・・・」  
「何がバカなの?」  
「きゃっ!?バ、バニラ?ちょっと何よノックもしないで」  
いきなり後ろからかけられた声に、メリルの心臓が飛び上がる。  
「何度もしたよ。やっぱり聞こえてなかったんだね。本当に大丈夫?」  
「だ、大丈夫よ!ほら、もう全快なんだから!」  
メリルはガッツポーズをして見せた。  
「そう、ならいいんだけど・・・そうそう、晩ご飯はどうする?  
 治ってるんだったら、皆と食べる?」  
「あ・・・いいや、なんか、食欲無くて・・・」  
「それはダメだよ。病み上がりなんだから、ちゃんと食べなきゃ」  
「分かったわよぅ・・・ちゃんと行くわ」  
「分かった。じゃぁ出来たらまた呼びに来るから、ちゃんと食べるんだよ?」  
「ありがと。ゴメンね、迷惑ばかりかけちゃって・・・」  
「気にしない気にしない。こんな時はお互い様さ」  
「ねぇ、バニラ・・・」  
 
「ん?何だい?」  
「ミシェルが、明日、シランドに帰っちゃうって、聞いてる?」  
「うん、お城の本読み尽くしちゃったから帰るって言ってたよ。  
 随分急だけどね・・・それがどうかしたの?」  
「うんん、何でもない・・・」  
「そう・・・じゃぁ、大人しくしてるんだよ」  
そう言って、バニラは部屋を出て行った。  
(あいつ、明日からいなくなるんだ・・・)  
明日からもうあのうるさい小言を聞かずに済む。顔をあわす度に喧嘩をすることも無い。あの生意気な顔を見ずに過ごせる。あの声を聞くことも、あの顔を見ることも無い。  
以前の生活が戻ってくる。何事も無いあの生活が、ミシェルが来てから願い続けていた生活が・・・願い続けていたはずの・・・なら、どうして・・・  
(どうして・・・こんなに辛いの・・・?)  
そこまで思い至ったメリルは、次の瞬間部屋を飛び出していた。  
 
「・・・メリル、さん・・・?」  
いきなり部屋の扉が開き、そこにはメリルが立っていた。流石の彼もこの来訪は予想しておらず、ミシェルは呆然と立ち尽くしていた。その彼にメリルが駆け寄り抱きつく。  
「な・・・?ちょっ、何やってるんですかメリルさん!?」  
「・・・いで・・・」  
「え?」  
「帰らないで!」  
メリルはミシェルに抱きついたまま叫んだ。彼を抱きかかえる手は震えていた。  
「・・・メリルさん・・・」  
「お願い・・・ここに居られないなんて言わないで・・・」  
ミシェルはメリルの身体をゆっくりと自分から引き離し、彼女と向き合った。メリルの目は涙で潤んでいた。  
「駄目です。もう決めた事ですから・・・  
 それに、僕はあなたの気持ちを無視してあんな行動を・・・・・・!」  
ミシェルの言葉が遮られ、とても長いような、とても短い沈黙が流れた。  
「・・・これが、私の気持ちよ・・・どう、文句無いでしょ・・・」  
唇を離したメリルは少し頬を染め、ゆでだこの様に真っ赤になったミシェルに言った。  
「だ、だだだ、駄目ですっ!もうっ、決めた事なんですからっ!!」  
ミシェルは残りたいと言う気持ちを必死で振り払った。しかしメリルは納得が出来ない。  
「何でよ!?どうして駄目なの!?  
私が残ってって言ってるのに、何で残ってくれないの!?」  
「これは!・・・これは、人間としての、ケジメです・・・」  
メリルはその場に力なくへたり込んだ。  
「・・・何でよぉ、何でこんな思いばっかりしなくちゃいけないのよぉ・・・」  
そんなメリルを見て、どうすることも出来ないミシェルは、ただ彼女を抱きしめる。  
「・・・済みません・・・」  
「じゃぁ・・・帰って来るって・・・約束して。絶対また来るって・・・」  
ミシェルの腕に包まれて、メリルはか細い声で言った。  
「・・・良いんですか・・・僕なんかで」  
「何度も、言わせないでよ・・・」  
「分かりました・・・約束します。きっと・・・きっと戻ってきます」  
そう言ったミシェルの背中にメリルの手が回る。  
「・・・最後に・・・抱いて・・・」  
 
「なっ!?」  
「いいでしょ、最後くらい!・・・最後くらい、わがまま聞いて・・・」  
「本気、なんですか・・・?」  
メリルはコクリと頷いた。  
「・・・分かりました・・・」  
「・・・ありがと・・・」  
そして二人の唇は、再びお互いに吸い寄せられた。メリルの帽子がとさりと床に落ちた。  
 
それから一体どうなったのか、ミシェルの手際の良いエスコートで、気が付けばメリルは生まれたままの姿で、自分に覆いかぶさってくる格好になっていたミシェルと、ベッドの中で口付けを交わしていた。  
「んっ、んっ・・・ねぇ、あんた本当に初めて?」  
あまりに手際の良い彼の作業に、メリルは疑問を投げかけた。  
「当たり前じゃないですか。異性を好きになったのは、メリルさんが初めてですよ」  
眼鏡を外した彼の顔は、普段と違ってずっと大人びて見えた。  
「ミシェルさ、いつから、私のことを・・・?」  
「・・・テレグラフで、貴女の映像を見てからです・・・」  
「え・・・?じゃぁ、もしかして・・・」  
「・・・あなたに会いたくて、ここに来たんです・・・」  
「ぷ、やだ、あんたストーカー?」  
「・・・っ!・・・何とでも言って下さい。自覚してますから・・・」  
「ふふっ、ウソよ。拗ねるな拗ねるな・・・んあっ!?」  
ミシェルに胸を弄られて、メリルは思わず声をあげる。  
「ちょっと、いきなり何すんのよ・・・あっ」  
「メリルさんがふざけた事言うからですよ。お仕置きです」  
「あぅ・・・ちょっと、あっ、止めなさいって、んあっ」  
「ふふ、メリルさんって、結構感じ易いんですね」  
「そんなこと・・・ないわよっ、あっ」  
「別に恥ずかしがらなくていいですよ。もっと感じて下さい」  
そう言ってミシェルは再び愛撫を続ける。  
 
「あん、ちょっとミシェル、んんっ、あんたホントに、あっ、初めてなの?」  
「そうですよ。メリルさんこそ初めてなんですか?こんなに感じるなんて」  
「私だって、あっ、初めてよっ、んんっ」  
その時ミシェルはメリルの乳首を強く吸い上げた。  
「んああぁっ!?」  
メリルは身体を仰け反らせ、軽い絶頂を迎える。  
「はぁ、はぁ、はぁ・・・んんっ!?ちょ、ミ、ミシェル!?」  
ミシェルは布団の奥に潜り込んで、メリルの秘部を舐め始めた。  
「んあぁっ!?ちょっ、そんなとこ、汚いよぉ、あんっ!」  
「もうすぐ夕飯ですからね、早めに済ませてしまわないと」  
そう言ってミシェルは再びメリルの股に顔を埋めた。うっすらと陰毛が生え始めたそこは、既に湿り気を帯びていた。ミシェルはメリルのそこを、舌と指で絶妙な刺激を与え続け、彼女の身体も、今度は本当の絶頂へと感度を高めて行く。  
「あぁっ、あんっ、あっ、らめっ、そこぉっ、あぁっ、あっ、ああぁっ!」  
メリルの中にミシェルの指が進入し、内側と外側の両方から彼女を攻め立てる。  
「やぁっ、もう、もう、だめぇぇっっ!!」  
絶頂を迎えたメリルの割れ目から愛液が溢れ出す。  
「はぁ、はぁ、はぁ、あっ、やぁ・・・」  
外に溢れた愛液を舐め取ると、ミシェルは布団の中から顔を出し、メリルに問うた。  
「本当に、ここから先もやるんですか?ここで、止めておいてもいいんですよ?」  
「うん・・・だってこのままじゃ、あんただって辛いでしょ・・・?」  
「僕のことは・・・」  
「あんたを感じたいの・・・お願い・・・」  
メリルの真剣な眼差しに、ミシェルも心を決める。  
 
「いいですか、いきますよ?」  
「・・・うん・・・」  
メリルの陰壁を押し分け、ミシェルのモノがゆっくりと彼女の体内へと侵入する。  
「・・・っ!」  
「力を、抜いて、下さい。僕も、できる限り、ゆっくり、動かしますから」  
ミシェルはベッドに両手を付き、ゆっくりと腰を動かし、メリルは彼の背中に手を回し懸命に力を抜こうと努力した。ミシェルの背中は汗でじっとりと湿っていた。  
「ミシェル、っ、動きたいなら、動いて、いいよ?」  
「そういうわけにも、いかない、でしょう。  
メリルさんに、痛い思いをさせてまで、気持ち良くなりたくは、ありませんよ」  
「ミシェル・・・・・・ありがとう・・・」  
ミシェルは、ゆっくり、ゆっくり、メリルの反応を見ながら腰を動かした。彼自身、初めて受ける、痛みとも快感とも取れない激しい刺激から開放されたかったが、メリルの為に必死で欲求を抑えていた。彼女の秘部から、血が流れることはなかった。  
「あっ、ミシェル・・・私、あっ、何か、変な感じ、んっ」  
「気持ち、よく、なって、来ましたか・・・僕も、そろそろ・・・」  
「ね、ミシェル、あんっ、お願いが、ある、んあっ、だけど」  
「何です・・・?」  
「あのね、中で、あんっ、中に、はっ、出して、欲しい、のっ、あっ」  
「な、何を」  
「お願い!」  
「メリルさん・・・」  
「私は大丈夫だから、ね?・・・あんたに、愛してもらったって、証が欲しいから・・・」  
それを聞いたミシェルは、メリルの身体を180度回転させた。  
 
「え、ちょっ、何するの!?・・・んあぁっ!」  
ミシェルの左手が乳房を、右手が秘豆を刺激する。  
「こうした方が、気持ちいいでしょう?どうせ中で出すなら、一緒にイきましょう」  
「それは、っあぁんっ!!」  
それに腰の動きも加わり、さらに舌が背骨をなぞる。一度に四箇所を攻められ、一度落ち着いていたメリルの熱に再び火がついた。  
「あっ、だめぇ、そんないっぺんに、あぁっ!凄いぃ!!」  
全身を快感に襲われ、力の抜けたメリルは腰だけを高く上げたまま、シーツにしがみついて快感に対抗していた。  
「あぁ、もう、私っ、私っ、あぁっ!」  
「僕も、もう、出しますよっ!」  
「きてぇ!私の中に、あっ、出してぇっ!!」  
「メリル、さん・・・くっ、うあっ!!」  
ミシェルの精液が、メリルの膣に注ぎ込まれる。  
「ああっ!熱いぃぃっ!!」  
その精を受け、メリルも二度目の絶頂を迎えた。  
 
それから数分後、二人はまだベッドの中にいた。  
「・・・ねぇ、ミシェル・・・」  
メリルは、隣りで自分と同じく横になっている少年に尋ねた。  
「・・・何です?」  
「どうしてあの時、すぐに起こしてくれなかったの?」  
「・・・内緒じゃ、駄目ですか?」  
「ダ〜メ。何?何かやらしい事でも考えてたわけ?」  
「そ、そんな訳ないでしょう!?・・・あれは・・・」  
少年はふいっと顔を逸らした。  
「あなたの・・・寝顔を見ていたかったんです・・・」  
メリルは顔が熱を持ったのが分かった。  
「・・・そういえば誰か言ってたわね、天才となんとかは紙一重って・・・」  
「・・・余計なお世話ですよ・・・」  
「あ〜あ、ここにいてくれたら毎日見させてあげるのにな〜、私の寝顔」  
今度はミシェルの顔が赤く染まった。  
「なっ、何馬鹿な事言ってるんですか!」  
「毎日一緒に寝たげるのに。ほら、こ〜んな風に」  
そう言ってメリルはミシェルの身体を抱きしめた。  
 
「・・・済みません・・・」  
「・・・うんん、言ってみただけ。私の方こそ・・・あ、またおっきくなった」  
「・・・男の性です・・・」  
「フフフッ・・・」  
「ふっ・・・」  
二人はお互いを見つめ合いながら笑った。  
「ねぇ、私の事看病してくれてたときに・・・手、握ったりした?」  
「え、あの時意識があったんですか?」  
「うんん、ちょっとそんな気がしただけ」  
「そうですか・・・」  
「あ、そう言えば・・・まだ言ってなかったね」  
「何をです?」  
「お礼。あんた、必死で看病してくれたんでしょ?」  
「あれは・・・あれはやって当たり前の事です・・・」  
「フフッ、いいの、言わせて・・・」  
 
・・・・・・・・・・・・ありがとう、ミシェル・・・・・・・・・・・・  
 
翌朝、ミシェルは馬車でシランドに発つ事になった。  
「それでは皆さん、短い間でしたけれど、お世話になりました」  
「城のことならワシに任せておけばよい。またいつでも来るが良いぞ、むほほほほ・・・」  
「そうじゃな、ワシにはお前さんのような、一歩抜きん出た人材が必要じゃからのぅ。おうっ!?」  
「ちょっとそれどういう意味よ」  
「そのまんまの意味じゃわい!年寄りを蹴るなこの小娘が!  
こうしてやるわい!ぺっぺっ!」  
「ぎゃ〜っ!体液を飛ばすなぁ〜!!」  
「・・・ふぅ、何をやってるんだか・・・。  
バニラさん、色々とありがとうございました。」  
「うんん、そんな事ないよ。僕も色々勉強させてもらったしね。  
有意義な時間だったよ。またいつでもおいで」  
「はい」  
「ミシェル!」  
「え?」  
「手ぇ出しなさい!」  
「・・・こうですか?・・・何です?この小さい箱は」  
「プレゼント」  
「・・・でも開かないじゃないですか、これ」  
「箱の鍵は私が持ってるもの。また来るんでしょ?その時に一緒に持ってきて。  
 その時開けるの。それまでは開けようと思っても開かないんだから」  
「はぁ・・・いちいち考える事が幼稚ですね、あなたは」  
「あんたはいちいち口に出す事が嫌味ね・・・」  
「・・・ふっ」  
「フフッ・・・」  
「じゃあ、有り難く受け取っておきますよ、このプレゼント」  
「無くすんじゃないわよ」  
「あなたじゃないんだからそんな間抜けな事しませんよ」  
「むか〜っ、さっさと馬車に乗んなさいよ!」  
「はいはい、分かりましたよ」  
そう言ってミシェルは馬車に乗り込んだ。  
 
「またいつでもおいでよ!」  
「次はゆるりとしていくが良いぞぉ!」  
「今度来たら天才発明家の助手は間違い無しじゃ!」  
「絶対・・・絶対、帰ってきてよ〜っ!」  
四人の声を背に受け、ミシェルを乗せた馬車は、粉雪の向こうに消えていった。  
「行っちゃったね・・・」  
メリルの横に立ってバニラが言った。  
「・・・・・・」  
「淋しいかい?」  
「そんなわけないでしょ!」  
メリルは目に浮かんだ涙を袖で拭った。  
「さぁ、伯爵、ジジィ、仕事するわよ!」  
「だ〜れがジジィじゃ!発明王と呼ばんか!」  
「な〜にが発明王よ、あんたは発迷王じゃない!ほらさっさと工房に行くわよ!」  
アーリグリフの空は一面純白の雲に覆われて、今日もいつも通りの一日が始まろうとしていた。 

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