「はっ・・・っぅ・・・」  
 カーテンの隙間から光の差し込む小さな部屋に、押し殺すような喘ぎ声が響く。  
 そこでは、フェイト・ラインゴットが机に向かったままにマスターベーションをしていた。  
 実はフェイトは溜まっていた。  
 ここ最近色々と忙しく、処理をする時間も余裕も無かったために、ふとムラムラと来てからどうにも収まりがつかなくなったのである。  
 と言っても風俗店を探すわけにもいかず、かといって手頃なオカズがあるわけでもなかったので、拙い妄想だけで何とか処理を試みていたのだった。  
 結構長い間シコシコやっていたので、流石にフェイトも限界に近くなっていた。サオも張り裂けんばかりになっている。  
(ぅ・・・あともうちょっと・・・)  
 フェイトの手の動きが段々と速くなる。あと少し、あと少しで・・・  
「フェイト、ちょっといいかしら?」  
(いぃっ!!??)  
 突然聴こえたマリアの声に驚いたフェイトは、ズボンを引っ張り上げようと急いで立ち上がって、弾みに椅子を倒してしまった。ガターン!と廊下まで聞こえただろう音がした。  
「ちょっと・・・何してるの?」  
 ワンテンポ遅れて、訝しげな顔をしたマリアが部屋に入ってくる。  
「いや、何でもないよ、うん、何でもない」  
 フェイトは何事も無かったように平静を装おうとしたが、一方で心臓はバックンバックン彼の胸板を叩いていた。  
「そう、じゃあいいんだけれど・・・」  
 そんなフェイトの様子を気にする風もないマリアの様子に、フェイトは内心ほっとした。そしてマリアはそのまま、フェイトの弁明を信じたように踵を返し・・・  
 
 ―――ガチャリ―――   部屋の鍵を閉めた。  
 
「・・・え、マリア?」  
「ふふ、なんてね」  
 マリアの行動の真意が掴めず、フェイトはそれ以上言葉が出なかった。  
「アナタ、今オナニーしてたんでしょう?」  
「な!?いやっ、そそそんなここししてないよ!!??」  
「・・・全然舌が回ってないわよ?」  
 マリアの口から出た言葉に、フェイトは心臓を口から飛び出しそうになった。生まれて初めてのスピードで、顔から血の気が引いていくのも分かった。  
 マリアはそんなフェイトの様子を楽しむように、妖しげな微笑を浮かべて彼に近寄ると、フェイトの股の間にすっと手を差し込んだ。  
 フェイトはもう何が何だか分からない。  
「それに、ココをこんなにしておいちゃ、説得力の欠片も無いわ」  
「うっ・・・」  
 あとちょっと、をオアズケにされていたフェイトのそれは、マリアの手のひらの中で硬く、大きく脈打っていた。その鼓動が布を通してマリアの手に伝わってくる。マリアはそのまま手をゆっくりとさすりながら、フェイトの顔を覗き込んだ。  
「ふぅん、こんなに大きくして・・・溜まってたのね?」  
「うっ、そ、そういう訳じゃ・・・」  
「あら、ということはエリクールに来てからもコンスタントにオナニーしてたのかしら?」  
「いや・・・そっ、そんな・・・」  
「じゃあやっぱり溜まってたんでしょう?」  
「・・・はい」  
 今度は顔が真っ赤になっているに違いない。心臓さん負担をかけてゴメンなさい、とフェイトは頭の片隅で思った。  
「そんなに恥ずかしがる事なんてないでしょう?ハイダの事件からで今までオナニーを絶っていたんだととしたら、溜まってて当たり前だわ。とても健康な男子十九歳ね」  
「あの・・・マリア?」  
「何?」  
 
「えっと・・・あんまり、その・・・オナニーって直球で言うのはやっぱり止めた方がいいんじゃ・・・」  
 フェイトのボソボソとした台詞にしばらくキョトンとしていたマリアは、ぷっ、と小さく噴き出すと、苦しそうに笑いに体を揺らし始めた。恥ずかしい思いをして真面目な指摘をしたつもりなのに笑われて、流石のフェイトもムッとした。  
「・・・マリア、何がおかしいのさ?」  
「ふふっ、ゴメンなさい。まさかそんな事を言われるなんて思ってもいなかったから。フェイトって結構ウブなのね」  
「いや女の子がそんな言葉連呼したら普通誰でも気にするって」  
「あら、じゃあフェイトは私のことをちゃんと女として意識してくれているのね?」  
「ちゃんと、って、マリアは女の子だろ?」  
「・・・ふぅ、まぁそんなトコロかしらね」  
 頭に?マークを浮かべるフェイトを見て軽くため息をついたマリアは、次の瞬間フェイトのズボンの中に手を突っ込んで収まりかけていたモノをガシッと掴んだ。  
「いっ!ちょっ、マリア何をすっ・・・!?」  
「何って、私のせいでイけなかったんでしょう?だからお詫びにアナタのオナニー手伝ってあげるわ」  
「い、いいってそんなの!どうしたんだよ、今日のマリアちょっと変だぞ!?」  
「あら、別に変じゃないわよ。私もね、溜まってるの」  
 
「・・・へ?」  
 真面目な顔をしてお下品な単語をサラッと発し続けるマリアに、そろそろフェイトの前頭連合野は対応しきれなくなってきたらしい。  
「リーダーって言うのもね、その名前に見合って色々と忙しいの。それに加えて最近の騒動でしょう?もう全然ヤる時間が無くて。だから時間があったらそろそろヤろうって思ってたところなのよ」  
 たったの一文字がどうしてこうもイヤラシく聞こえてしまうんだろう。という疑問だけが、活動停止しかかっているフェイトの脳をクルクル回る。  
「それに一人でやるより二人でやる方が絶対気持ちいいわ」  
「え、二人でってそれじゃぁセックスにな・・・」  
「あら、フェイトはセックスがしたいの?シックスナインで止めておこうかと思ってたんだけれど・・・私はしてもいいわよ?セックス」  
 ニヤリと笑んだマリアの顔を見て、フェイトは自分の発想の飛躍を後悔した。いや、もしかしたら嵌められたのかもしれない。  
「私、フェイトとならセックスフレンドになってもいいわ」  
「そ、そんなせっ、セックスフレンドだなんてっ!」  
「・・・私じゃ不満?」  
 一転してマリアの表情に影が射して、フェイトは慌てて否定する。  
「い、いや別に不満ってわけじゃ・・・」  
 その言葉を聞くと、途端にマリアの口の端がニッっと持ち上がった。  
「じゃあ決まりね」  
 その台詞が耳に届くや否やフェイトの身体はベッドの上に押し倒された。  
(あれ、僕ひょっとして襲われてる?)  
 彼女ってこんな小悪魔みたいだったっけ。もはや虚しい問答しか繰り返さなくなった脳みそを何とか鞭打って、フェイトは上半身を起こした。  
 
 マリアは、右手で髪をかき上げながらフェイトの亀頭を舌先でチロチロと舐めていた。  
 下半身から来る刺激よりも、その光景にフェイトのモノが一段と大きくなった。  
「あら、そんなにすぐに出したいの?じゃあ搾り出してあげるわ」  
「え、や、マリアあのそのっ、うあぁっ!」  
(あのマリアが僕のモノを口いっぱいに頬張って、しかも髪を乱しながらの前後運動に加えて舌まで使って亀頭を中心にねっとりとした淫靡な刺激を・・・)  
 下半身と視界からのダブルの刺激にフェイトの思考回路は暴走し、肉棒テンションは驚くべきスピードでマックスに向かっていった。  
「まっ、マリアっ僕、もうっ、うあぁっ!!」  
 フェイトの体が一瞬強張り、マリアの喉の奥に熱いものが激しく打ちつけた。彼女はそれを、ゴクリと飲み干すと美味しそうに舌なめずりをして見せた。  
「とっても濃かったわよ、フェイト。さすが何週間も溜め込んでいただけあるわね」  
「あ、あの、マリア・・・」  
「さぁ、萎えたままじゃ使い物にならないし、次は一緒に気持ちよくなりましょう」  
 マリアはプロテクターとストッキングを外すと、有無を言わさずフェイトの上に覆いかぶさった。  
 もう真面目に思考を巡らすのが無駄だと悟ったフェイトは、快楽に身を任せる事にした。  
(これが堕ちるっていうのかなぁ・・・)  
 彼の理性の最後の言葉だった。  
 
「んっ、そう、そこをもっと強く・・・あんっ、あっ、いいわフェイト、気持ちいい・・・っ」  
 フェイトは、圧し掛かってくるマリアの尻を両手で抱え、言われるまま無心に顔を埋めていた。彼女の蜜壷から漂ってくるイヤラシイ匂いに、頭が麻痺してしまっていた。  
 マリアも、再び大きくなり始めたフェイトのモノを味わうように舌を這わせ、口に含み、むしゃぶりつきながら、フェイトの愛撫に時折り身体をピクン、ピクンと震わせていた。  
「ねぇ!もっと、もっと奥まで舐めてっ!クリトリスも弄ってぇっ!」  
 フェイトは言われるままに肉壁を押し分けて舌を動かし、片方の手で陰豆を刺激してやった。  
「あんっ!いいっ、わっ、あっ!」  
 マリアの眉間に快楽の皺が寄る。それと同時に、彼女の愛液が止め処なく溢れてきた。  
(うわぁ凄い・・・)  
 それを見たフェイトは秘部に一層顔を押し付け、そして思いっきり愛液を吸い上げた。ズズズズッ、という音が響く。  
「えっ!?あっ、やっ、あぁっ!あぁぁあぁっ!!??」  
 下半身から全身に響き渡るような快感に、マリアは身を大きく震わせて力尽きたように倒れこんだ。  
「はっ、こんなに、気持ち良よかったの、初めて、だわ・・・はぁっ・・・やっぱり、二人だと、違うわね・・・」  
 その身体は、絶頂の余韻でビクビクと震えていた。  
「あの、マリア・・・」  
 目の前でイかれて、自分のモノは元気なままにされたフェイトは堪らない。フェイトの切なそうな顔を見て、マリアはまだ仄かに快楽の電流が迷走している身体を気だるそうに起こすと、大きく股を開いた。  
「いいわよフェイト・・・来て・・・」  
「マリア・・・」  
 
 初めて、フェイトがマリアに覆いかぶさる。そして二人の唇は、自然に交わった。彼女との初めてのキスは、ちょっと苦かった。  
「んっ・・・あ、入ってくる・・・」  
 フェイトがゆっくりと腰を沈め、マリアの身体中に、硬くて熱い異物感が充満する。それだけで、マリアは背筋にゾクゾクと快感を感じた。  
「すごい・・・フェイトのが、硬くて熱いのが私のナカで脈打っているのが分かるわ・・・」  
「気持ち良いの?まだ挿れただけなのに、乳首もこんなに硬くなってる・・・」  
 フェイトは、さっきマリアにされたように舌先でチロチロと彼女の乳首を舐めてやった。  
「あっ・・・ねぇ、それも良いけど・・・ね?」  
「うん・・・」  
 フェイトの腰がゆっくりと動き出す。部屋に肉のぶつかる音が響き始める。そしてその重みに、マリアの身体は彼女の想像以上に悦びの悲鳴を上げた。  
「えっ、あっ、んあぁっ!凄いぃっ!はぁっ、あっ、あっ、あっ!」  
 さっきの絶頂の余韻が残っているせいなのか、すぐにでも意識が飛んでしまいそうだった。全身で必死にフェイトの背中に、腕にしがみつく。  
「ダメっ、そんなにっ、激しくっ、あっ!したらっ、イッ、イッちゃうっ!あぁっ!!」  
「ダメだよっ、僕もっ、もう少しだからっ、我慢してっ!」  
「やっ、ダメっ!変になるっ!変になっちゃうっっ!!」  
 二人の腰の動きが、肉のぶつかる音が、更に大きく速くなっていく。  
「マリアっ!もう出るよっ!!」  
「いいわっ!あぁっ!私の中に出してぇっ!一緒にイってえぇっ!!あああぁぁぁっ!!!!」  
 フェイトの熱い性を受けて、マリアは恍惚の表情を浮かべながら絶頂に達した。両腕を力なくクタン、とシーツの上に投げだす。  
 全身がビリビリする。頭が真っ白でしばらく動けそうになかった。彼は私の身体を覆うようにして荒く息をしていた。身体を私に重ねきろうとしないのが、彼なりの気遣いなんだろうか、とぼんやりとした頭で考えていた。  
 
「マリア・・・」  
 しばらくして、フェイトが口を開いた。  
「何?」  
「ゴメンよ、こんな事になっちゃって・・・」  
「ヘンな事言うのね?誘ったのは私なのに」  
「それでも、受けちゃった責任があるし・・・」  
 マリアは、はぁとため息をつくと、フェイトの髪をワシャワシャとかき回した。  
「女の子に誘われたら受けるのが男ってものよ?どうせこんなんじゃ、ソフィアともヤったことないんでしょうね」  
「そっ・・・、・・・そんなイヤラシイ言い方は、止めた方がいいよ・・・うん・・・」  
「まぁいいわ。じゃあ改めて今日から、セフレとしてもよろしくお願いするわね、フェイト」  
 ため息交じりのマリアの台詞に、フェイトはフォックステイルにつままれたような顔をした。  
「・・・え、今日からって、ひょっとして・・・これからも?」  
「そうよ。お互いで性欲処理できて、しかも一人でするより気持ちいいなんて合理的かつ理想的じゃない?」  
「いや、それはそうかもしれないけど・・・」  
「それにセフレは恋愛にも関係ないわ。うん、素晴らしく理想的ね、セフレ!」  
「えっと・・・」  
「じゃあお互いセフレ決定ね。よろしく、フェイト」  
 マリアはフェイトの額に軽くキスを落とすと、服を調えてから呆然としているフェイトを残し扉の方にスタスタと歩いていった。  
「あ、そうだわ」  
「え、な、何!?」  
 急に立ち止まったマリアの言葉に、フェイトは思わずビクッ!とする。  
「今はセフレだけれど、ずっとそうだっていう保障は無いのであしからず」  
「えぇ!!??」  
「ふふ、じゃあね」  
 マリアは思いきりの笑顔を見せると、パタンと扉を閉めて行ってしまった。段々と遠くなっていく足音と逆に、フェイトの心臓はまた五月蝿く彼の胸板を叩く。フェイトの思考回路はまだショートしたままで、現実を受け入れるには時間が掛かりそうだった。 

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