「ふぅ……」  
 フェイトは溜息を吐き、肩をぐるぐると回した。  
 (何故…僕がこんなことを?)  
 エリクール文字の練習にはなる。しかし、何故ファリンとタイネーブの仕事を手伝わ  
なければいけないのか。久し振りにシランド城に来たのだが、書類仕事でかなりの時間  
を取られてしまった。  
 「さてと。やっと終わった。………何か面白い事でも……ないかな…」  
 二人は特別任務とかで出掛けてしまっている。既に夜だった。  
 「……よし」  
 少し外に出よう。そして夜風を楽しもう。そう思い、机から立ち上がった時だった。  
 
 バーーーンッッ  
 
 「うわ!?」  
 扉が勢いよく開き、筋肉質の男が飛び込んでくる。  
 「フェイト! 助けてくれっ」  
 
 「ど…どうしたんだよっ、クリフ!」  
 クリフは室内を見回し、クローゼットに向かった。  
 「匿ってくれ! ミラージュに追われてるんだ!」  
 「へ? ミラージュさんに?」  
 「いいか!?」  
 人差し指を突き出し、フェイトの胸をドスドスと突く。  
 「俺はここにはいないからな! ミラージュが来てもシラを切り通せ! 例えバンデ  
 ーン鑑が襲来して来ようとも、絶対に俺のことは言うな! いいか、絶対にだ!!」  
 「わ……分かったってば」  
 少し咳き込み、クローゼットに飛び込むクリフを見送る。  
 (そりゃ、いくらクリフでもミラージュさんには敵わないだろうけど。………それに  
 しても、一体何をしでかして……)  
 
 ……コンコン…  
 
 さっきとは正反対に、礼儀正しいノックの音が聞こえた。  
 「フェイトさん? 夜分済みません、ミラージュですが………」  
 「あ、開いてます。どうぞ」  
 「失礼します」  
 と断り、ミラージュが部屋の中に入ってくる。入って来るなり、  
 「クリフを知りませんか?」  
 「いえ? 見てませんけど……アイツが何かしたんですか?」  
 「違います、少し話があったのですが…」  
 ミラージュはあくまで笑顔である。  
 (………こりゃあ、相当マズイことやっちゃったんだろうなぁ)  
 「ところで、フェイトさん」  
 「はい?」  
 「本当に…クリフを知らないのですね?」  
 やはり鋭い。  
 「ええ、夕食の時に会ったきりで…」  
 「本当ですか?」  
 鋭すぎる。自分でもかなり冷静に出来たと思ったのに…。  
 
 「ええ、本当です」  
 「……それなら、約束を」  
 「?」  
 「もしウソを付いていたら、どんな罰でも受ける……そう約束して下さい」  
 「………!?」  
 どうしよう。クリフも恐いが、目の前のミラージュはその数百倍恐い。しかし、ここ  
で認めては男が廃る。意地でも認めない。  
 「……約束しましょう。もし僕がウソを付いていたら、どんな罰でも受けます」  
 目を逸らさず、真っ直ぐに彼女に告げた。と、ミラージュの笑顔から殺気が消える。  
 「そうですか。………ところで、フェイトさん」  
 「他にも…何か?」  
 「実は……クリフの件は、はっきり言ってどうでもいいんですよ」  
 「はぁ……?」  
 「本当は、フェイトさんに話があったんです」  
 「僕に……ですか?」  
 「ええ」  
 
 ミラージュが、こちらにゆっくりと歩み寄ってきた。そして、鼻頭が触れ合うほど顔  
を近付ける。  
 「!!?」  
 狼狽し、フェイトは顔を引こうとした。しかしミラージュは両手で彼の頭を抱え込む  
と、その青髪にそっと口付ける。  
 「ミ…ミラージュさん? あの…」  
 彼女の細い指が、自分の寝間着のボタンを丁寧に外していく。白い冷たい手で背中を  
撫で、続いて前に回り下に入っていった。  
 「あ…止め……」  
 慌てて手を掴もうとするが、彼女の手は既に彼自身に触れている。  
 「ふふ……何ですか?」  
 「止めて……下さい…」  
 「そう言ってるのに、すっかり固くなってますけど?」  
 「……生理反応です」  
 彼はふて腐れて答えた。  
 「…そうですよね。それなら、私も……」  
 ミラージュはそう言うと、自分の服のジッパーを摘んだ。  
 
 ジイィィィ……  
 
 ジッパーが下ろされ、下着で締め付けられているような、豊満な胸が目に入る。  
 「!? ミラージュさん! 何してるんですか!?」  
 「フェイトさん一人だけだったら、恥ずかしいでしょう?」  
 「じゃなくて! どうして服を脱ぐ必要が……」  
 「でも、邪魔じゃありませんか? セックスするのに」  
 「         」  
 開いた口が塞がらない。フェイトは一瞬、本気で自分の耳を疑った。  
 (今……何て?)  
 以前、酔っぱらったクレアさんに「このクソ野郎!」と言われたことがあるが、その  
時以来の衝撃である。  
 「な……何て言いました?」  
 「お話と言うのは、他でもありません。……私を……抱いて貰えませんか?」  
 「………………………………………………………えええええ!!!??」  
 「無理を承知で…お願いします。………やはり、私のような年増では…?」  
 「いえ! ……っじゃなくて! ミラージュさんは、その…クリフと……」  
 
「彼との間には、特別な感情はありません。…確かに、二・三度体を重ねました」  
 予想していた答えだが、こうはっきり言われると何故かショックだ。  
 「でも……後悔してます」  
 「え……?」  
 「私は…学生時代……輪姦されたことがあるんですよ」  
 「         」  
 さっきの百倍のショックである。MPが危ない。  
 「とにかく、忘れたかった。………それで、クリフと……その時は、誰でもいいと思  
 ってたんです。男なんて違いは無いと……」  
 「……………」  
 「でも…フェイトさん。あなたに会って、私は変われました。あなたと出会って、私  
 は勇気付けられたんです」  
 「僕が……?」  
 「ええ」  
 「何もしてませんけど…」  
 「それでも、です。それでもあなたのお陰なんです」  
 ミラージュはそっと彼を抱き寄せた。  
 「私からの……一生のお願いです…」  
 その声がかすれていることに、フェイトは愕然とする。それはいつも気丈なミラージ  
ュが、初めて自分に見せた“弱さ”のように思えた。  
 「……分かりました」  
 
 「ちょっと待てやコラァァァァッッ!!」  
 
 フェイトの承諾の声を耳にし、クローゼットから大男が飛び出してくる。  
 「そんなのお父さん認めんぞォォォォッッ!!」  
 
 バキィッ……  
 
 その瞬間、ミラージュの跳び蹴りがクリフの顔面にヒットし、彼は開けっ放しの窓か  
ら飛んで行った。  
 (甘い…甘いですね、クリフ)  
 クリフ以上の力を持つ彼女が、そこらの男にいいようにされるなど有り得ない。勿論  
フェイトをその気にさせ、クリフを誘き寄せるための芝居であった。………が。  
 
 パチ…  
 
 フェイトの指が、自分の短パンの留め金を外した。  
 (へ?)  
 「僕で……いいなら……」  
 (……信じてる!? ウソ……あんな無理がある設定で……)  
 彼が騙されやすいとは聞いていたが、まさかこれ程とは…。  
 (ひょっとして、私…今………悪女?)  
 そうなるだろう。  
 (…まぁ、いっか)  
 別に自分もイヤではない。元はと言えば、リジェールと浮気したクリフが悪いのだ。  
それに、この純情な少年に、一から手解きするのも悪くはない。  
 「……今の話…忘れて下さいね?」  
 「ええ。忘れます」  
 「ウソを付いた罰です。私を……満足させて下さい」  
 
 ウソを付かない人間などいない。逆に、多少のウソがあるからこそ、円滑な人間関係  
は成り立つのだ。知らない方が幸せな真実もある。  
 (……あれ?)  
 ベッドの上で、ふと彼女の胸を疑問が過ぎった。フェイトが少しもガッつかないので  
ある。  
 (魅力を感じてない?)  
 そんな筈はない。イーグル内で初めて出会ったとき、確かに彼の視線を感じたのだ。  
憧れのお姉さん……その女性がこうして下着だけの姿で、一緒にベッドの上にいるのと  
いうのに、フェイトは寧ろ落ち着いているようだった。  
 フェイトはそっとミラージュと唇を合わせる。取り敢えずは舌で……と思ったミラー  
ジュだったが、思わず口を離した。  
 「あぁはっ……!」  
 彼の指が、自分の胸の桜色の突起を摘み上げている。流石に掌で包めるような大きさ  
ではなく、フェイトは彼女の双丘を軽く握った。そして指を一本一本別々に動かす。  
 「んはっ…な…こんんん………ぁふっ…」  
 (ちょっ…これじゃ……立場が逆…)  
 思い掛けない事態に、ミラージュは焦っていた。年上のメンツというものもある。  
 「ンんっ……」  
 再び唇を合わせ、舌で彼を翻弄させ、何とか逆転を狙った。しかし、彼の手が下に伸  
び、割れ目に沿って這い回る。  
 「あんんん…はっ………んぅぅ…」  
 互いの唇は何度もぶつかり合い、激しく舌を絡み合わせていたが、ミラージュの股間  
からチュクチュクと湿った音が響いてきた。突然フェイトの中指が入り込む。  
 
 「あっ……」  
 指を折り曲げた。  
 「あぁあっ…ッッ……」  
 それを何度も繰り返す。  
 (そうだ……)  
 このままだと一方的過ぎる。彼女は咄嗟に手を伸ばし、怒張した彼自身を掴んだ。  
 「ぁっ…!」  
 フェイトの攻撃が緩んだのを機に、ミラージュは握った竿に顔を近付ける。そして吸  
い込むように口に含んだ。  
 「くぅあ……ぅッ………」  
 自身の豊満な胸で挟み込み、先端を舌先で撫でる。  
 「で…出ます……」  
 「我慢しなくていいですよ」  
 最後に、鈴口に舌を這わせた。彼自身が震え、堰を切ったように白濁した液体が飛び  
出る。  
 「あ……」  
 ミラージュの上にぶちまけてしまっていた。  
 「ご…ごめんなさ……」  
 「ふふ……可愛いですね、フェイトさん」  
 ミラージュはそう言って微笑むと、未だいきり立つ彼自身に口付ける。  
 (これで……主導権はこちらに……)  
 そう思った矢先だった。フェイトは体を移動させ、彼女の腰を持ち上げる。  
 「次こそは、ちゃんと満足して貰います」  
 彼自身が、シュブシュブと湿った音を立てながら、ゆっくりとミラージュの中に入り  
込んでいく。そして、緩急を付けて腰を動かし始めた。  
 
 「かふぅっん……あああぁ……」  
 「ふっ…く……どうですか?」  
 「ま…だまだですね……」  
 「それなら…これはどうです?」  
 フェイトはそう呟き、指を彼女の菊座の周りに這わせる。  
 「あっ……!?」  
 人差し指が狭い穴の中に埋まって行った。  
 「っああああ!? そんなっ……の…」  
 クリフ未踏の境地である。二つの穴を同時に責められ、ミラージュの足がガクガクと  
震えた。  
 (そんな、私……お尻で…感じちゃってる…!?)  
 反射的に様々な筋肉が収縮し、未体験の快感に呑み込まれる。  
 「ふぇあぁああァあっ、あはああぁぁあああっふぅっ」  
 「……く…!!」  
「あふっはっっはぁあぁぁああっ、くぁあんあああぁぁああぁぁっ」  
 絶頂を感じ、フェイトは急いで自分を引き抜いた。再び粘液を飛ばしつつ、続いて指  
も引き抜く。  
 「……ミラージュ…さん?」  
 彼女はベッドの上でぐったりとして、荒い息を吐いていた。  
 「……満足して貰えましたか?」  
 暫く呼吸を整えようと試みていた彼女だったが、やがて諦めて、小さく頷いた。  
 
 「……私…どんな顔でした?」  
 ベッドの上で後ろから彼を抱き締め、ミラージュは尋ねた。  
 「可愛い顔でしたよ。すごく」  
 「私って…変態だと思いますか? その、お尻で……」  
 「それを言うなら、僕の方が変態じゃないですか」  
 フェイトは苦笑する。  
 「ところで、フェイトさん。ひょっとして……童貞じゃないですね?」  
 「……済みません」  
 「いえ、誘ったのは私ですし。あなたが謝る必要は全くありませんよ」  
 「………そうです。初めてじゃないです」  
 「…それで、貞そ……いえ、童貞はどなたに?」  
 「…………」  
 「黙っていると約束します。大丈夫ですよ」  
 「………ファリンさんです」  
 「成る程。……それで、他には?」  
 「あと…その後、ファリンさんとタイネーブさんと……」  
 「さ…3Pですか?」  
 「そうなります」  
 ミラージュは溜息を吐く。まったく、可愛い顔してやることはきっちりと…。  
 「…そうだ、フェイトさん。……またやりませんか?」  
 「クリフにバレたら殺されます」  
 「大丈夫です。私が誘ったんですから」  
 「………そうだ! クリフはあれから……」  
 「あ…忘れてましたね」  
 「ちょっと助けて来ます」  
 そう言った彼の額に口付けると、ミラージュは自分の腕から解放した。  
 「黙ってれば分かりませんよ。それに、クリフだって浮気してたんですから」  
 「ハハ……」  
   
 そう言った彼の額に口付けると、ミラージュは自分の腕から解放した。  
 「黙ってれば分かりませんよ。それに、クリフだって浮気してたんですから」  
 「ハハ……」  
 彼は複雑な笑みを浮かべると、服を着て部屋から出て行く。  
 「油断していたとはいえ……今回は負けましたね」  
 ミラージュは再び溜息を吐くと、枕に頭を埋めた。 

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