(何だろう……?)  
 青年は、ぼぅっとした頭で考えた。  
 今まで自分が昼寝をしていたということは分かる。これで目を開ければ、完全に“起きた”ことになるのだ。しかし……さっきから顔に感じる、この感触。  
 顔の上を、何か湿ったものが這っている。不思議と、不快感はなかった。  
 ゴロリと、左に寝返りを打ってみる。  
 湿った感触は途切れたが、何かが動く気配がして、再び感触が戻った。  
 (んと……後十秒で、目を開けよう)  
 そう思ったのだが、湿ったものは首に下りる。  
 「……ん……」  
 思わず声を出してしまった。仕方がないと思い、ついに目を開ける。ぼやけた像は、すぐにはっきりとした。  
 「……何してんですか、ファリンさん…」  
 「んにゃ?」  
 上体を起こすと、紫髪の彼女は舌を引っ込め、不思議そうにこちらを見る。紫の茂みの中から、何かが突き出していた。  
 「……耳?」  
 丁度ロジャーの耳をもう少し上へ移動させたような……そんなカンジだ。つまりは、所謂ネコ耳である。  
 (やれやれ……今度はどんな悪戯なんだ?)  
 
 もう、彼女のこの手の事には慣れっこだった。ネコ耳をどういうルートで入手したのやら………やっぱりクリフか?  
 「にゃん」  
 ファリンはにっこりと微笑むと、身体を丸め、フェイトの胸に体重を預けた。  
 「ちょっ、ファリンさ…」  
 (抱き付きには、未だに慣れないんだよなぁ……)  
 やや頬を染めて慌てる青年だったが、ファリンは相変わらず満面の笑みのまま、彼の胸に顔を埋める。  
 「分かった、降参です。降参ですから……」  
 「……ふにゅぅ…」  
 「ほら、耳も外して……」  
 ネコ耳に手を伸ばしたとき、フェイトはふと手を止めた。  
 (……………………え?)  
 耳は、どうやら頭皮にしっかりと接合されているようである。  
 (んなバカな……本物の筈が……)  
 その時、彼女のスカートの中から、何かが飛び出ているのに気付いた。尻尾まで用意してたのか……一瞬そう思ったが、それは本物のようにパタパタと動いている。  
 
(…………)  
 「ファリンさん……」  
 「にゃ?」  
 フェイトはそっと彼女を膝から下ろすと、ベッドから下りた。そして弾かれたように部屋のドアを開け、隣の部屋へと向かう。  
 クリフはディプロに。  
 ネルとクレア達はシランドに急務。  
 アルベルはカルサア修練場。  
 スフレとソフィアは、ペターニの祭り見物へ。  
 ロジャーはサーフェリオ。  
 残るは……。  
 「マリア!!」  
 彼女が居るはずの部屋は、既にもぬけの殻だった。机の上には、一枚の置き手紙が残されている。  
 
 『ふと、金閣寺の雪化粧が恋しくなりました。byマリア』  
 
 読み終えたフェイトは、思わずその手紙をディストラクションで消滅させてしまった。 「アルティネイションで実験なんかするなぁぁぁ!!!」  
 と、ちらりとベッドが視界に入る。  
 
 「………!!?」  
 フェイトは急いでベッドに背を向けると、頭をぶんぶんと振った。  
 (今のは幻覚だ。幻だ。夢だ、悪い夢なんだ)  
 「……にゃん……」  
 (幻聴だ。間違いなく幻聴だ。夢だ、夢なんだ)  
 トタトタと、床の上を何かが走る。観念したフェイトは、ゆっくりと後ろを向いた。  
 黄色い短髪の女性。ファリンと同じように耳が生え、四つん這いで不思議そうにこちらを見上げている。  
 「……ウソだろ? ………タイネーブさんまで……」  
 
 
 食堂。フェイトは果物にも手を付けず、テーブルで頭を抱えていた。  
 (どうする? 誰もいないぞ。でも、だからと言って二人(二匹?)だけにはさせられない。かと言って二人を外に出すのもマズイ。肝心のマリアはバックレたし)  
 よく漫画であるように、薬でそうなった……それなら、まだいくらか希望はある。が、アルティネイションで“存在”を改変されてしまったのだ。マリアが戻らないことには、解決の仕様がない。  
 
 (……仕方ない、一緒にこの屋敷で待つしかないな)  
 「…お二人とも、朝ご飯にしますよ」  
 床の上で追いかけっこをしていた二人は、すぐにフェイトの所へ来た。  
 (! そうだよ……食事一つとっても、問題なんだよ)  
 流石に、床に皿を置いてというわけにはいかない。半分ネコ化してるのなら、当然猫舌だろうから、熱いものは避けるべきだろう。  
 (せめて、言葉が通じればなぁ…)  
 「……何が食べたいですか?」  
 「んにゃぅ?」  
 「にゃん…」  
 「………ふぅ…」  
 (可愛い…………っじゃなくて!)  
 自分自身に呆れ、再び溜息を吐く。  
 フェイトが再び考え事を始めたのを見て、二人も再び鬼ごっこを始めた。  
 (ミルクだけじゃ、ちょっとアレだよな。確かタイネーブさんが肉好きで、ファリンさんは魚派。……いや、でも朝食なんだから……ヨーグルト。って何でだよ?)  
 
 ガンッ  
 
 やや大きな物音に、フェイトはそちらを向いた。恐らく鬼ごっこの事故なのだろう。もつれ合った二人が、仲良く調理台にぶつかっている。  
 
 「………!! 危ないっ」  
 フェイトは咄嗟に彼女達の上に覆い被さった。そしてぎゅっと目を瞑る。  
 先ず、いくつかの小さな鋭い痛みを感じた。続いて牛乳の入った瓶が、その上に落下してくる。更に、食器やら調理器具やら、不安定に置かれていたものは残らず落ちてきた。  
 (………止んだ)  
 それを確認して、身体を揺すり落下物を払い落とす。丸まっていたお陰もあるのだろう、下の二人が被害にあったのは牛乳だけだった。  
 (危なかった……)  
 「大丈夫ですか? お二人とも……」  
 大音響に丸い目をしていた二人だったが、恐る恐るフェイトの下から這い出す。流石に彼が怪我をしたことは分かるのだろう、心配そうな顔でこちらを覗き込んだ。  
 「あ、大丈夫です。大丈夫ですから……」  
 背中や腕にいくつか切り傷がある。よく包丁が突き刺さらなかったな……と、変に感心してしまった。  
 「……あ〜あ、びしょ濡れになっちゃいましたね」  
 別に痛くないわけではない。それでも心配をかけたくはなく、明るい声で苦笑いした。 「さぁ、風邪を引きます。着替え……」  
 着替え?  
 
 (……ああっ!)  
 そうだ、これこそ最重要課題だ。牛乳の量は半端ではない。着替えだけならまだしも、ここまでずぶ濡れでは当然……  
 (お…お風呂に入った方が……)  
 ……イヤイヤイヤイヤ。  
 ちょっと待て。そりゃ、その方がベターだけど…。  
 
 ぴちゃ…ぴちゃ…  
 
 「ん?」  
 ネコは牛乳が好き。そうだった。  
 「ストォォォップゥゥゥ!!」  
 互いの顔を舐め合っていた二人を、フェイトは急いで引き離した。  
 「お風呂! 風呂ですっ、二人とも!! 風呂に入りましょう!!!」  
 危ない……年上のレズものなんて、そんな………。  
 (間違いなく、トチ狂うってば……)  
 
 
 (ネコだ。ネコだ。ネコなんだ)  
 そう、ネコなんだ。ネコを二匹、お風呂に入れるだけ……それだけだ。変な風に考えるな。  
 
 (……しっかし……)  
 取り敢えず二人を地下の浴場まで連れてきた後、フェイトはぼんやりと考えた。  
 (異様な光景だよな…)  
 白濁……いや、牛乳まみれの二人の女性。ネコのコスプレをしている…で片付けられないのが、何とも溜息の出る話だった。  
 (……さっさと済ませよう)  
 後の事は考えないようにする。覚悟を決めると、そっと跪いた。  
 「タイネーブさん、ちょっと失礼しますね」  
 「にゃぁ……」  
 先ずは、さっさと靴とグローブ、そしてタイツを脱がせる。マフラーを外し、続いてスカートの留め具を離した。  
 ふと、こちらを不思議そうに見ているタイネーブと目が合う。  
 (ネコだ。ネコだ。ネコなんだ)  
 曖昧な笑顔を浮かべると、彼女も合わせるように微笑んだ。 
 
 (さてと………)  
 上半身の服を外そうとしたところで、ふと手が止まる。そう言えば、網シャツの下は  
どうなっているのだろう? 喉が鳴った。  
 (そうそう、別にいいじゃないか。ネコの裸なんだから…)  
 服を脱がせると、網シャツの上に下着をしている。  
 (何悩んでるんだよ、どうせ全部脱がせなきゃならないんだぞ?)  
 「……失礼しますね、タイネーブさん」  
 ミニスカート、下着、網シャツを、迷いが出ない内に手早く取り外した。  
 「………」  
 目に付くほどではないが、少し筋肉が分かる身体。胸は椀を二つ乗せたような、小ぶりだが形はいいタイプ。そして、その下……。  
 「にゃっ!?」  
 床に額を打ち付けたフェイトに、タイネーブはびくりとなった。  
 (何マジマジと観賞してんだよ!? 誰もいないからって、そんな……)  
 心配そうに頬を舐めるタイネーブに震えつつ、彼は今度はファリンを招き寄せる。さっきと同じ要領で、手早く服を洗濯カゴに放り込んでいった。  
 「………」  
 タイネーブとは対照的に、かなり大きめの胸。そして……。  
 「「にゃっ!?」」  
 再び額をぶつけたフェイトに、二人はびくりとなる。  
 (ネコ…ネコ……ネコネコネコネコネコ………よっし!)  
 「さあ、早く入りましょう」  
 
 (僕は……二人が入った後にするか)  
 流石に自分も服を脱げる自信は、彼にはなかった。曇りガラスの引き戸をガラガラとスライドさせ、二人を中へと入れる。  
 一瞬、“ネコって風呂が嫌いじゃなかったっけ?”とも思ったが、別に二人が濡れるのを嫌がる様子はない。浴槽の傍まで来ると、先ずタイネーブを招き寄せた。そろそろとお湯をかけ、手で石鹸を泡立てる。  
 その手で、黄色い髪を撫で始めた。やがて軽く爪を立て、カシカシと頭皮を刺激し、髪の毛の牛乳を洗い落としていく。と、退屈そうにしていたファリンが、突然フェイトの上にのし掛かってきた。  
 「………え?」  
 バランスが崩れる。景色がぐるりと回転し、身体が傾く。次の瞬間、フェイトとファリンは仲良く浴槽の中に落下していた。  
 「………っっふはっ!」  
 お湯の中から顔を出し、軽く咳き込む。その前で、ファリンはちょこんと、神妙な顔をして座っていた。流石に、いくらか罪悪感を感じているのだろう。フェイトは慌てて笑顔を作ると、そっと彼女の頭を撫でた。それで安心したのか、ネコファリンはまた彼に飛び込んでくる。  
 
 「うわっ、ちょ……っぷっ…は」  
 可愛い。改めてそう思う。年上に失礼かも知れないが、心からそう思った。  
 「………ええいっ、もう」  
 自分でも訳が分からない英断を下し、フェイトは自分の服を取り去る。ボショボショになったシャツやズボンを、タイルの上に放り投げた。  
 「…っさ! 洗っちゃいましょう」  
 ネコに裸を見られたからと言って、それが一体どうしたというのだ。ファリンを背中に乗せたまま浴槽から出て、彼は改めてタイネーブの前に腰掛ける。  
 ………が。  
 「………!!」  
 タイネーブが、顔を赤くして俯いていた。それを見ている内に、フェイトも途端に覚悟が崩れる。  
 「ッッ…!」  
 慌てて近くにあった手拭いを腰に巻き、溜息を吐いた。  
 (やっぱり……無意識で恥ずかしいのかな……)  
 溜息を吐きながら、桶に湯をくむ。  
 「……あの…ファリンさん?」  
 「んにゃ?」  
 自分を呼んでいると分かるのだろう、彼女は背後から肩に顎を乗せ、フェイトの顔を覗き込んだ。  
 「……離れてもらえません?」  
 
 背中で押し潰されているであろう膨らみを想像し、体が熱くなる。腰の手拭いの一部が、山のように盛り上がった。  
 つい前屈みになってしまうフェイトだが、ファリンは知ってか知らずか、更に身体を密着させてくる。  
 じゃれているつもりなのだろうが、このままでは理性が保てない。四つん這いのタイネーブの背中を洗っていた手が、だんだんと下方にずれてきた。手が滑り、指先が彼女の胸の突起を掠める。  
 「あんっ……」  
 彼女の身体が鋭く反応した。  
 「に……にゃ………にゃぁ………」  
 いつの間にか潤んでいた瞳が、ちらりとこちらを見上げる。  
 (うぐっ……)  
 飛び掛かって犯そうかと考えた自分に愕然とし、フェイトは目を瞑って堪えた。恐らく心配したタイネーブだろう、横顔を舐めている。  
 (ちょ、そんな事されたら……!)  
 股間の硬度が更に増したのを感じた。何とか気合いで戻してみようかと思ったのだが、その時突然肩を掴まれ、一気に背を伸ばされた。  
 「!? あっ……」  
 その拍子で手拭いが外れ、大きくそそり立ったモノが目に入る。  
 (やばっ)  
 
 ファリンは仰向けになったフェイトの上に寝転がり、それを撫でた。退かせようとしたのだが、丁度両手首を両足で踏まれ、顔に股を乗せられている。  
 「!!?!?」  
 もはや真っ赤になるどころではない。息が苦しくなり、何とか呼吸しようと唇を動かすが、ファリンの喘ぎ声が聞こえてきた。  
 (あ……)  
 視線を上に動かすと、ひくひくと開閉している穴が目に入る。舌を動かしながら、しばしその光景に見とれてしまった。細い、フカフカした尻尾が、彼の鼻の辺りをくすぐる。  
 (…………って、何してんだよ!? 早く退けないと…)  
 そう思ったのだが、不意にモノが吸い上げられた。  
 「むふっ…!?」  
 (ぅあっ、そんな…!?)  
 お返しのつもりなのだろうか、チロチロと舌先を這わせる。混乱している様子だったタイネーブも、そっと唇を密着させてきた。  
 二人で舌先で弄びながら、左右から肉の棒を攻める。  
 (ネコだネコだネコなんだ! だから早く止めるんだ!)  
 無理に言い聞かせようとするのだが、どうしても行動に移せなかった。今や全神経は下半身の一点に集中しており、気が変になりそうな快感を残らず受け止めようとしている。  
 「む…ふぁ……んんん……はん…」  
 「んあぁ……ぅんあふぁっ」  
 
 下半身が溶解しそうだった。自分で処理するのと、比べモノにならないほど気持ちがいい。だんだん、頭の中に霧が立ちこめてきた。射精感の刹那、自分のモノがびくびくと痙攣し、より一層の快感と共に白濁した液体が射出される。  
 (……僕は………?)  
 一瞬、あまりの快感に意識が吹き飛びかけた。  
 (これが……イクってことなのか…?)  
 道徳心。理性。常識。  
 何だか……そんなモノにこだわるのが、限りなくバカらしく思えてきた。  
 フェイトはゆっくりと上体を起こす。  
 「にゃ…ん…?」  
 のし掛かっていたままのファリンが、コロリとタイネーブの上に転がった。フェイトはファリンの胸に口付けると、両掌で包み込むようにほぐし始める。  
 「んはっ……にゃふぅっんっ…」  
 「お二人とも…どうやら発情期だったみたいですね?」  
 そんなセリフが、ごく自然に口から発せられた。片手を離し、今度はタイネーブの胸の上に置く。  
 「! ひゃうっ…!」  
 「イケナイ子猫だ。…でも、折角ですから……みんなで楽しみましょうか」  
 楽しい…。普段なら考えもしないセリフだが、言っていて顔が緩むほど楽しかった。二人の身体中を様々に弄り回し、上気していく顔を見るのも……腰を上げさせて、独立した生き物のように閉じたり開いたりする小さな可愛い穴を眺めるのも、ゾクゾクするくらい楽しい。  
 
 その段階に満足したフェイトは、ファリンを抱え上げ、タイネーブの上に寝かせた。  
 「あらら……二人とも、もう洪水じゃないですか」  
 縦に並んだ二つの穴を見てから、彼女達の耳元でそっと囁く。  
 「じゃあ、また僕の方もお願いしますね」  
 腰を沈め、いきなりタイネーブの膣内にモノを突きさした。  
 「ひあ!? あっふぁぁあぁっ」  
 続いてファリンの上体を起こし、また彼女の胸に顔を埋める。  
 「んにゃ……うっ…ひっぐぅぅううう…!」  
 さっきの快感も、冷静に受け止める事が出来た。腰を大きく動かしつつ、硬くなった突起を弄り、張りのある肌を吸い上げる。  
 「ひゃ…んぐあっはぅっあっっぁっ」  
 「あんふぁっくンんっぁぁァぁあああゥンッ」  
 「さすが…タイネーブさん。ファリンさんに、筋肉バカと呼ばれるだけのことは……ウッ……ありますね。気持ちいい……締め付け……具合ですよ……」  
 不規則な円運動から、素早いピストン運動へと切り替えた。  
 「ぁんぐぁふィッぬふゥんんンッっ……ひにゃんっ」  
 「そんなに気持ちいいんですか? タイネーブさん?」  
 「ひぐぅあっ……あんあっ……ふぇ……フェイ……ト……さ……」  
 
 「………え?」  
 
 フェイトの動きが止まる。が、その時膣が締まり、彼自身も締め付けられた。  
 「!!? ゥあっ……」  
 「ひぐ…あんんんんあああぁぁぁあぁぁっっっ!」  
 引き抜けない。こらえることも出来ず、自身はびくびくと震え、彼女の体内で果てた。  
 
 
 「……つまり、お二人とも意識はあった……そうなんですね?」  
 あの後、にゃあと無理に鳴いて見せたタイネーブだったが、それで取り繕える筈がない。フェイトは湯船につかりながら二人に背を向け、溜息を吐いた。  
 「あはは……ちょっと、フェイトさんを驚かせようと思っただけですよぅ」  
 「……済みませんでした」  
 「いえ、お二人が謝るコトじゃありませんよ。……寧ろ、申し訳ないのは僕の方であって……」  
 はっきり認めよう。僕は調子に乗っていた…と。  
 「しかも中出ししちゃって……」  
 「大丈夫ですよぅ。赤ちゃんが出来たら、タイネーブと結婚すればいいじゃないですかぁ」  
 「さらりと言いますね……。いや、僕は嬉しいんですけど……タイネーブさんが…」  
 「だから、大丈夫なんですよぅ」  
 
 顔を真っ赤にしている彼女を掴み、無理矢理フェイトにぶつけた。  
 「きゃっ」  
 「うわっ」  
 「もう、鈍い人ですねぇ。タイネーブは、フェイトさんが好きなんですよう」  
 「ちょっファリ……」  
 「ええ!?」  
 「因みに、私とかぁ…ネル様とかぁ…クレア様とかぁ…デネヴとかぁ…ヘレザとか…」  
 「いや、“私”って……ファリンさんもなんですか!?」  
 「当たり前じゃないですかぁ」  
 彼女も多少驚いた顔をする。  
 「でもぉ、ベクレル鉱山での採掘のあと……誘ってたのに、気付かなかったんですかぁ?」  
 「へ?」  
 「折角寝たふりしてたのに……フェイトさんたら、鼻をつまんだり、ほっぺた押したり……」  
 「……済みません。寝顔見てたら、ついちょっかいを出したくなっちゃって……」  
 「ほら、タイネーブって直球一直線型純愛系じゃないですかぁ。結ばれてなかったら、不安になっちゃうって言うか…。よく寝言で、“フェイト様ぁ”とか言ってますし」  
 「!! それは秘密だって言ったでしょ!?」  
 「あ…本当だったんですか?」  
 
 フェイトの言葉に、彼女は更に赤くなって黙り込んでしまった。  
 「ですからぁ、タイネーブと結婚して、私を妾にすれば丸く……」  
 「いや、収まらないでしょう?」  
 さっき吹き飛んだ道徳心は、すっかりと直っている。暫く硬直していたファリンだったが、ばしゃばしゃと湯船を叩いた。  
 「細かい事はいいじゃにゃいですか! 見ようによっては、フェイトさんが強姦魔にゃんですよ!」  
 「! はぐぁっ……」  
 「文句言わにゃいでくだしゃい!」  
 「ファリンっ、もうネコ語はいいから……って言うか、ちょっと赤ちゃん言葉になってきてない…?」  
 「うにゃあああああ!」  
 ファリンはフェイトを引っ掴むと、自分の胸に抱き寄せる。  
 「だいたい……さっき、私だけイケにゃかったんですけどぉ?」  
 「あ……」  
 「……んふふふふふ」  
 
 頭でヘコヘコ動く耳を、改めて可愛いと思いつつ、彼も苦笑して彼女を抱き寄せた。  
 「ほらぁ、タイネーブも……」  
 「え?あ、ちょ……」  
 
 
 流石にネコ化していては、任務を任せるわけにはいかない。  
 マリアが見つかるまでの間の長い休暇は、まだ始まったばかりだった。  
 
 【2猫子の狂騒曲】  終わり 

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