(……ふぅ……)  
 シランド城・図書室。ソフィアはここで特に用事もないのに、椅子に腰掛け考え事をしていた。心の中で溜息を吐き、背もたれに体重をかける。  
 (どうすればいいのよ…)  
 私はフェイトが好き。ずっと前から、この気持ちは変わっていない。本当はハイダで既成事実を作ろうと決心していたのだが…。  
 失敗だった。いかんせん、相手が鈍すぎるのである。  
 (……それなのに!!)  
 タイネーブ。メインキャラに寝取られたのならまだしも、彼女は完全な脇役キャラなのだ。  
 (それに胸も小っさいしさ……腹筋割れてるしさ……乱暴だしさ……)  
 おまけに内気。一体何がどうなって、彼女とフェイトが結ばれたのか。謎だ。フェイトはタイネーブのどこに惚れたのだろうか。  
 (……ひょっとして、もう肉体関係が!?)  
 
 そこまで考え、それはないと首を振る。あの二人の事だ。恐らくデートだけとか、よくてキス止まりに違いない。  
 (……あ! それなら問題ない…)  
 もし、自分とフェイトが関係を持ち、尚かつそれが公になったら……。  
 (当然、フェイトは振られるわ。そして傷心する彼を、幼馴染みが慰め……!)  
 女の決心は早い。が、心に決めたはいいが、方法が問題だった。  
 (取り敢えず、フェイトから求めさせることが絶対条件ね。私が、彼を拒みきれずに仕方なくという方向で…)  
 よく考えてみると、それは不可能に近い。妙に頑固なところがある彼は、恋人に並々ならぬ操を立てている筈だ。どんなに誘惑しようとも、まず……  
 (無理…ね。ああ、でもどうすれば……!)  
 その時景色が回転する。真正面に天井が見えた。体重を掛けすぎてしまったのだろう、事態を悟ったときには、派手な音を立てて床に転がっていた。こちらを密かに睨む数人に慌てて頭を下げ、倒れた椅子を起こそうとする。  
 (……?)  
 その時、本棚の隙間にまるで隠すようにして、一冊の本が落ちているのに気付いた。興味を引かれて表紙を見る。  
 (『理性と欲望についての論』……?)  
 
 始めはパラパラと、やがて真剣に、ソフィアはそれに目を通し始めた。  
 【欲望と言うと、悪い意味に取られがちであるが、しかし生きていくために必要不可欠の要素である。発展欲、生存欲、食欲、性欲…。欲望の種類は限りない。  
 しかし欲望を解放してしまえば、それは自己の利益のみを求め、やがて自滅に追い込んでしまう。その欲望を抑えつけているのが理性である。そして………ナンタラカンタラ…】  
 何やらごちゃごちゃと書いてあるが、ソフィアはその一節、性欲についての研究結果を何度も読み返した。媚薬による実験結果に特に注目する。  
 (神様……)  
 きっとトライア神の贈り物だろうか。  
 ソフィアはそっとその本を鞄の中に隠すと、足早に図書室から立ち去って行った。  
 
 
 
 「……ふぅ……」  
 廊下をいつもの半分のスピードでゆっくりと歩きながら、タイネーブはそっと溜息を吐いた。  
 (私って……M…なのかな…)  
 目下、最大の悩みがこれである。  
 
 口に出して誰かに相談したいのだが、そんな事をしたら恥ずかしさで死んでしまうかも知れない。何しろ夜の生活に関することなのだ。  
 フェイトは優しい。それは分かっている。ベッドの中での愛撫も、出来るだけ自分に気を遣い、文字通り愛しそうに撫でてくれる。  
 (でも……)  
 別にフェイトを嫌いになったとか、飽きたとか、そう言うわけではなかった。ただ…多少申し訳ない気もするのだ。気を遣いすぎるせいか、時々彼が絶頂を迎える前に、自分だけイッてしまうことがある。  
 (べっ別に身体が合わないとか、そう言うわけじゃないのよ!? 私がいつもより欲情してたりとか、感じやすくなってたりとかする時だけで……)  
 誰に対するでもなく、自分の中で弁解する。  
 (ただ……)  
 強引さと言うか、雄らしさと言うか……そんなモノが足りない気がする。もっと激しくして欲しい。滅茶苦茶にして欲しい。  
 「……って、やっぱり自分の為じゃないの!!」  
 思わず声に出して叫び、壁に拳をぶつけた。  
 止めよう。優しい所も、彼の美点の一つなのだ。  
 そう思って再び歩き出したとき、こちらを見ている女性に気付く。  
 (あれは……ソフィアさん…)  
 フェイトの幼馴染み。  
 
 (やっぱり……乱暴じゃないの)  
 何故タイネーブが壁を殴ったのか、それは今はどうでもいい。ソフィアは改めてフェイトの選択の理不尽さに憤然としながら、しかし顔には出さず、タイネーブの方に近寄った。  
 「済みません、タイネーブさん。いきなりなんですけど、お願いがあるんですよ」  
 「? 何ですか?」  
 「今お暇ですか? ………良かった。じゃあ、ちょっとこちらへ……」  
 
 
 
 連れてこられたのは、シランド西の工房だった。いつもなら数人のクリエイター達が働いているのだが、何故か皆外出している。  
 「ソフィアさん、そろそろいいんじゃないですか?」  
 「あ、そうですね。じゃあ、これをここに……」  
 ソフィアは戸棚から容器を取り出すために、背伸びして手を伸ばした。その時、彼女の胸の膨らみが揺れる。  
 (……やっぱり…)  
 タイネーブはそっと自分の胸を見た。  
 (……小さい……)  
 「…タイネーブさん?」  
 「……! あ、はい。ごめんなさい」  
 
 ソフィアの頼み…それは、調合クリエイションの手伝いだった。何故自分に助っ人を頼んだのかイマイチよく分からなかったが、彼女の悩みを打ち明けられて納得する。確かに、自画自賛のようだが、自分は口が堅い。  
 (ちょっと……ここのところ、その…お通じが悪いんですよ。それで特効薬の作り方を見つけたんで、手伝って頂きたいんです)  
 封魔師団『闇』内での格闘ランキング2位の彼女が、未だに二級構成員である理由の一つに、この騙されやすさが挙げられる。  
 「これで、コムヌケの木の実を入れて………よし。完成ですね」  
 ソフィアの持ってきたメモを横目で見ながら、タイネーブは安堵の溜息を吐いた。  
 「ゴメンナサイ、タイネーブさん。他に相談出来るひとがいなくて……」  
 「いえ、お役に立てて良かったです。………それじゃあ、私はそろそろ……」  
 彼女が工房から出て行った後、ソフィアは試験管を手に取り、中の紺碧の液体をしげしげと眺める。  
 (実はフェイトに盛る媚薬だって知ったら……どうするかな?)  
 今は止めておく。フェイトが自分と身を固めたときに、彼女に全てを明かす。  
 (……ふふ…)  
 楽しみだ。タイネーブの事だ、一体どれ程の後悔と自責に苛まれるのだろう。  
 
 (……あなたが悪いんですよ、タイネーブさん。私から……フェイトを奪ったりなんかするから……)  
 ソフィアは少し唇を歪めると、試験管をしまい、工房から出て行った。  
 
 
 
 より確実さを求め、結局ソフィアはいつもと同じ服を着る事にした。論文には、被験者はいずれも完全に野獣と化し、衣服を引きちぎらんばかりだったという。それなら、無理に脱ぎやすい服を着る必要はない。  
 「それで? 話って?」  
 フェイトは彼女に宛われた部屋で、出された紅茶に口を付ける。  
 「実はね、フェイト……その……」  
 そうこうしている内に、早くも彼のカップの中身はカラになった。後は、薬が効き始めるのを待てば……。  
 「………?」  
 「言いにくいんだったら、ゆっくりでいいよ」  
 おかしい。一分と経たない内に効果が現れる筈だ。相談の内容を考えなかったことを、ソフィアは激しく後悔する。  
 
 「その……あの……」  
 「…………」  
 「だから……つまり……」  
 「……僕に出来ることだったら、何でも言ってよ」  
 じゃあ抱いて…とは、流石に言えなかった。  
 (…!! そうだ、バンデーン兵に捕まってるとき、輪姦されたことにすれば…)  
 いや。自分は処女だ。そういう泣き落としは通用しないし、それでは自分から誘ったことになる。  
 「……ち…」  
 「お?」  
 「地球のみんな、無事なのかなぁ……って」  
 「ああ…」  
 何とかフェイトは納得したようだ。彼の中ではソフィアは、種違いで腹違いの妹なのだ。ホームシックになるのも無理はないか、とすんなり感じる。  
 その後、今は壊滅的状態の地球の話をして、フェイトは部屋から出て行った。  
 (……当てにならない論文ね)  
 バカバカしい。書いたヤツの顔が見たい。  
 (あー、もう。バカみたい。さっさと寝よ)  
 一方部屋から出て、扉を閉めたフェイトは、胸を押さえて跪いた。  
 (く……何なんだよ、一体…!!)  
 危うくソフィアに飛び掛かりそうになった。悟られなかったから良かったものの、股間は爆発寸前である。  
 
 (タイネーブさんは仕事があるっけ……)  
 久し振りに彼女の寝室へ行こうかと思ったが、それでは彼女を道具扱いしているようなので止めた。  
 (仕方ない……一人で処理するか…)  
 フェイトは壁に凭れたまま、ずるずると歩き出した。暫くカタツムリのようにノロノロと進んだところで、不意に背後から呼び止められる。  
 「フェイトさん……!?」  
 間の悪い事に、女性…しかもタイネーブだ。  
 「真っ青ですよっ、どうしました?」  
 「いや……あの……」  
 「とにかく、ここは私の部屋です。少し休んでください」  
 「ですから……」  
 軽々と持ち上げられてしまう。止めようとしたフェイトだったが、上手く言葉が出なかった。直ぐ近くのドアを開け、中のベッドに彼を横たえる。  
 「すいません……」  
 「私はまだ仕事がありますが……大丈夫ですか?」  
 「気にしないで下さい。時々こうなりますから…少し休めば治ります」  
 
 早くタイネーブに出て行って貰いたくて、一気に捲し立てる。が、彼女はフェイトに毛布をかぶせると、自分の机に腰掛けた。どうやら仕事とは、書類の整理だったらしい。  
 (………どうしよう……)  
 
 
 
 「! ひぅっ……」  
 不意に耳朶に口づけされ、書類の文字が歪んでしまった。今この部屋にいる他人は一人だけだから、見ないでも誰か分かる。  
 「ちょ…フェイトさ……」  
 今度はタイネーブが軽々と持ち上げられ、ベッドの上に押し倒された。  
 「あの……今夜は仕事が…」  
 「だからどうした」  
 間違いなくフェイトの声だ。しかし敬語ではない。自分の上にのし掛かっている男も、紛う事なきフェイトなのだが、まるで性格が変わったかのように、荒っぽく唇を吸い上げられた。  
 「んむっ!? んんん……んぅ……」  
 忽ち口の中に舌が侵入し、自分の歯や舌を舐め回す。上手く呼吸が出来ないのと、口腔内をまさぐられるくすぐったさで、タイネーブの鼓動が早くなった。  
 満足に呼吸が出来ないまま、フェイトは下方に手を伸ばすとスカートを捲り上げ、ピリピリと下着を引きちぎり、中指で黄色い茂みを掻き分ける。  
 
 「んううぅうぅうっ」  
 「……っふぅ……どうした? タイネーブ。お前もやって欲しいんだろ?」  
 湿り始めた洞窟の入り口に少しだけ指を突っ込み、文字を描くように動かした。  
 「ひぃぐっ…ぁぁ…」  
 フェイトは指を離し、それを彼女の目の前に持ってくる。その指先は透明な液体でテラテラと光り、人差し指と中指の間で糸を引いていた。  
 「淫乱だな。たったこれだけで、こんなに濡らすとは……え?」  
 「………!」  
 顔を真っ赤にし、タイネーブは思わず顔を背ける。  
 「本当に……フェイトさんなんですか……?」  
 「へえ。僕以外の男に抱かれたいのか?」  
 「そんな……!!」  
 「男なら誰でもいい。所詮お前は、そういう女……いや、雌だったのか?」  
 「………っっ」  
 「答えろよ、タイネーブ」  
 彼はタイネーブの襟口に指を引っかけると、次の瞬間左右に引き裂いた。ビリビリという音と共に、布の下から白い肌が現れる。  
 「なっ…!?」  
 唖然とする彼女には構わず、フェイトは片方の乳首を軽く噛んだ。  
 「! ぁぐぅぅううっ!?」  
 電流が走ったような感覚に、背が仰け反る。そのまま左右の乳房を同時に揉みほぐされ、タイネーブは息を荒くしてシーツを掴んだ。  
 
 「小さい胸のクセに、やけに感じてるじゃないか……」  
 「ひぅあっ、は…ひゃんんぅぅぅ」  
 股間が熱い。いつもより激しすぎる愛撫…いや、攻めと言った方がよかった。自分の性感帯だけを集中的に攻撃し、息を付かせるヒマも与えない。  
 フェイトは彼女の耳元に顔を近付けると、そっと尋ねた。  
 「そろそろ……挿入れて欲しいんじゃないか?」  
 「………」  
 「答えろ」  
 手を伸ばし、肥大したクリトリスを摘む。  
 「!? ぅぁあぁあああっっ!?」  
 「こんなに濡らしておきながら……今更何を意地を張ってるんだ?」  
 「……さい……」  
 「んん? 聞こえないな」  
 「っ…! ……入れて……下さい」  
 「どこに?」  
 「その……下の……」  
 「具体的に、どこだ?」  
 「………」  
 「分かるだろう? “ま”で始まって、“こ”で終わる。たった三文字じゃないか」 
 
 「………!」  
 「……どこだ?」  
 尻の穴を指が這った。  
 「ひんっ………で…す…」  
 いつもと違うフェイトに戸惑い続けている彼女を、彼は寧ろ楽しんでいるようだ。  
 「聞こえないな」  
 「マンコ……です」  
 涙目になり、声を絞り出す。こんな単語を実際に口に出す時が来るなんて、考えもしなかった。  
 「やだな、ちゃんと“お”を付けて」  
 「オマンコ……に……入れて下さい…」  
 「何を?」  
 「……!!!」  
 恥ずかしさで、目尻から温い液体がこぼれ落ちる。  
 「お前のオマンコに、一体何を入れて欲しいんだ?」  
 「……許して……」  
 「何が許してなんだ? ……仕方ない、今日はもう止める?」  
 生殺しだ。  
 「…オ…………ン」  
 
 「小さいよ。もっと大きな声で」  
 「オチ……ンチンを……私の……オマンコに……入れ…く……」  
 「よく出来た。じゃあ、準備して貰おうか。そっちばっかり気持ちよくなってたんじゃ、流石に不公平だしね」  
 タイネーブをベッドの上で四つん這いの状態にさせ、自分は膝立ちになり、彼女の目の前に大きくそそり立ったモノを持ってきた。涙で充血した目で、タイネーブはフェイトを見上げる。  
 「……分からないのか?」  
 心当たりはあった。しかし、彼に求められたことはない。戸惑っていると、いきなり頭を掴まれ、口に巨大な男根をねじ込まれた。  
 「ぅむぅっ…!」  
 「歯を立てるな。ゆっくりと……いつも僕がやってるように、優しく舐めろ」  
 鼻息が荒くなる。そっと舌を動かし、口を塞いでいるモノを撫でた。  
 「……ま、初めてならその程度かな」  
 冷たく言い放たれ、タイネーブは思わず慌てたが、フェイトは彼女の腰を掴み、そっとモノを入り口にあてがう。  
 「行くぞ」  
 一直線に侵入させた。  
 「! ひイイぃいィんんっ、はッぁっ」  
 膣内を掻き回す湿った音と、尻と腰が打ち合う乾いた音が響く。  
 「アんんんっァフぁあぁうウぅぅう」  
 「くっ……いつもより締まるな…」  
 
 「いっあッ…あんぅううっ!」  
 「本当に……淫乱だ……こうされるのが望みだったのか?」  
 「い……イクッ…いっ…ク…」  
 「こっちもだよ。……出すぞ」  
 
 ドクンッ  
 
 「ああああああっ、熱…ぅぅ……ッ!」  
 「……っふぅ……く」  
 
 
 
 「……珍しいじゃないか」  
 ネルは少し驚いた顔をした。  
 「アンタが仕事を忘れるなんて……」  
 「……すみません」  
 タイネーブは深々と頭を下げた。  
 「あの、今日中には終わらせます」  
 「いや、別に急ぎの書類じゃないから……大丈夫かい? 随分疲れた顔をしてるけど」  
 「お気遣い有り難うございます。大丈夫です。……失礼します」  
 
 部屋の扉を閉めて、タイネーブは大きく溜息を吐く。あの後合計三回も絶頂を迎え、正直立ってるのも辛い。  
 何故かは分からないが、フェイトの性格は変わっていた。意識はあったのだが、ああいう行動しか取れなかったそうだ。どう謝ればいいのか分からないという彼を逆に慰め、彼女は一人考える。  
 (確かに、気持ち良かったけど……)  
 あのフェイトは、自分が好きになったフェイトではない。そうなのだ。  
 (やっぱり……)  
 優しいフェイトが好きだ。結局、自分は彼に野性味を求めていたのではない。自分に対して、もっと大胆になれと言いたかったようだ。  
 タイネーブは頭を掻くと、自室へと戻る。ベッドで未だ寝息を立てているフェイトの頬を愛しそうに撫で、そっと唇を触れ合わせた。  
 「ずっと……フェイトさんのままでいて下さいね。……フェイトさん……」 

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