「……あの……」  
 夏だというのに、冷たい汗がびっしょりと出ている。ようやく喉から声を絞り出した青年に、ミラージュはちらりと目を向けた。  
 「何です?」  
 「その……僕、未成年であって……お酒はハタチになってからっていう決まりは、宇宙歴が始まる前からあるワケで……」  
 「だから…何です?」  
 「いえ、何でもないです」  
 微笑みさえ浮かべない、文字通り氷のような無表情。ぶるぶると首を振ったフェイトから目を離し、ミラージュは酒瓶を掴むと、彼のコップに中身を注いでいった。  
 「………」  
 「……あの、溢れてます」  
 「………」  
 「……その……溢れて……そしてこぼれて…」  
 「………」  
 「……瓶、もう空になっちゃいましたけど…」  
 ようやく彼女の腕が動く。軽く投げただけなのだが、酒瓶は暴動時の火炎瓶のように勢いよく飛び、窓の外に出た。  
 
 ……ガシャンッ  
 
 数秒後、地面に落ちて木っ端微塵になる酒瓶の断末魔だけが、静まり返った室内に微かに聞こえてくる。幸い深夜で、誰もいなかったようだ。  
 つい数分前、フェイトの部屋に酒瓶と共に押し掛けてきたミラージュは、特に何も言わず、  
黙ってテーブルの上に酒瓶を並べ、戸棚から勝手にコップを二つ取り出し、それもテーブルの上に置いた。  
 (こ……怖い…)  
 
 いつもなら、目は笑っていなくても取り敢えず微笑みだけは見せてくれる。それですら充分な恐怖を感じられたのに、この徹底した無表情ぶりは…。  
 ところでミラージュはミラージュで、彼女なりに悩んでいた。  
 (……どう切り出そう…)  
 ずっとずっと、それを考えている。が、どうしても、そんな……八つも年下の青年に対する告白の言葉など、微塵も思いつかなかった。  
 普通に告白したら、ショタコンと引かれるだろう。かと言って攻めに回って誘っても、からかっていると思われる。  
 (えーえー、どーせ私は27の年増ですよ。年齢聞かれて二十代とか言ってられるのも、あと少しですよっ!!)  
 
 ダァンッ  
 
 ミラージュの拳がテーブルに叩きつけられた。びくんっとフェイトの肩が震え、両手で持ったコップがぶるぶると振動を始める。  
 (でもねっ、恋愛に歳の差なんて関係ないでしょう!? 可愛い可愛いと思ってたのが、いつの間にか愛しい愛しいになっていて…)  
 
 ダンダンダンダンダンダンッ  
 
 「……っ!!」  
 フェイトの震えは更に激しくなり、コップの酒はほとんど床にこぼれていた。テーブルがヤバイ音をさせている。  
 
 と、ミラージュは突然椅子を蹴って立ち上がった。椅子が床に倒れたときには、フェイトも既に立ち上がっている。  
 ミラージュはフェイトに向かって、一歩踏み出した。フェイトは素早く二歩下がり、生唾を呑み込んで安全地帯を探す。  
 (何で怒ってるのかは見当も付かないけど…これはヤバイ!)  
 捕まるな…本能がそう告げた。ドアはミラージュの背後。窓は……あそこまで間に合うか?  
 そう思った一瞬だった。その一瞬の隙にミラージュは目の前まで近付き、そしてフェイトはベッドの上に押し倒されている。頭の両隣のシーツに、彼女の拳がめり込んだ。  
 丁度、のし掛かられた格好。  
 (もう……逃げられない!)  
 フェイトの脳内状況は、「年上の美人に襲われるおいしい場面だ!」が3%。あとは全て、「何か知らないけどとにかくヤバイ!」である。  
 無表情のミラージュ相手に、そんな期待をする余裕はなかった。  
 (ぎゃ…逆マグロ!?)  
 蛇に睨まれたカエル。梟に睨まれた野鼠。  
 「………?」  
 頭の上から、すぅすぅと息づかいが聞こえてくる。  
 
 どさっ  
 
 「ごぐぅ!?」  
 思わず変な悲鳴を上げてしまった。ボディプレスかとも思ったが、違うようだ。何とか持ち上げ、這い出し…。  
 「……え?」  
 寝ていた。ベッドの上に俯せになり、ゆっくりと背中が上下している。そのまま寝返りを打った。  
 「……何だったんだよ、一体…」  
 そう、溜息を吐いて頭を掻こうとしたフェイトだったが、ふと動きが止まった。  
 
 「………」  
 いつもの服ではなく、Tシャツにジーンズという、かなりラフな格好だ。半ば自然にベッドに近付き、ミラージュの身体の横に腰を下ろす。  
 ずり上がったシャツの影から、白いものが見えていた。  
 「…ミラージュさん…?」  
 呼び掛けつつ、そっと手を伸ばしていく。ノロノロと慎重に、シャツを更に捲り上げた。  
 「ミラージュさん?」  
 指が、露わになった下着に近付く。慎重に、慎重に。起こせば今日が命日だ。  
 布に触れた刹那、触覚は快感を伝えてくる。  
 (柔らかい…!)  
 想像していたよりも、遙かに柔らかい。布越しでもそれは十二分に伝わり、指を更に押し付け、膨らみを掌で包み込もうとした。  
 
 「………ん……」  
 
 「!!!」  
 
 反射的にストレイヤー・ヴォイド。ドアまで瞬間移動したフェイトだったが、ベッドの上のミラージュはゴロリと寝返りを打ち、仰向けになっただけだった。  
 
 「……ふぅぅぅ…」  
 肩の力を抜き、大きく息を吐き出す。ゆっくりと彼女に近付き、再びシャツの裾を持つと、今度は鎖骨まで捲り上げた。  
 「………」  
 ブラジャーの端から、淡いピンク色の部分が見えている。真上から両手を近付けると、左右の乳房の上に添えた。そして十指を動かし、掌全体の神経で感触を確かめる。  
 夢中になって揉み扱いていた。その内にブラジャーの位置がずれ、固くなった突起が弾かれるようにして飛び出す。ミラージュの寝息は荒くなっているが、未だ目は開かない。  
 その突起に顔を近付け、唇で挟んだ。もう片方の胸当てもずらし、完全に乳房を露わにする。白い肌に舌を這わせ、何度も胸を弄った。  
 と、突然…。  
 「むぐぅ!?」  
 顔が胸に押し付けられる。首の後ろに腕が巻き付いていた。  
 「………!」  
 誰の腕かは言うまでもなかったが、フェイトはそっと瞳を動かし、上目遣いになる。  
 ミラージュがとろんとした目でこちらを見ていた。  
 「……わあああああっ!!」  
 悲鳴を上げて腕を振り解こうとするが、無理だ。顔を横に向け、必死で口を動かす。  
 「済みませんゴメンナサイ申し訳ありませんでしたぁっ! せ…せめて最後に、自分の短い人生を振り返る時間くらいは……!!」  
 腕が動いた。彼女の指がそっと、フェイトの首に添えられる。  
 
 (……終わった……)  
 
 そうか…今日が、生きるか死ぬかの分岐点だったのか。選択を誤った。来世では……もっと慎ましく、控え目に生き…。  
 
 ぐいっと、頭を引っ張り上げられた。頬骨を両掌で挟まれ、顔が上に向けられる。  
 「!?」  
 ミラージュの顔がぼやけたかと思うと、唇は塞がれていた。ミラージュの舌がフェイトの噛み合わされた歯を押し開け、彼の舌を捕まえる。  
 口の中が、アルコール混じりの吐息で満たされた。そのまま二人の舌は絡み合い、フェイトの頭の中にぼんやりと靄がかかってくる。  
 ようやく唇が解放されると、フェイトは不覚にも尻餅をついてしまった。  
 「…!? ……!! ……!?」  
 混乱している彼の手首を掴むと、ミラージュは一気に引き寄せる。フェイトの身体は彼女の膝の上に着地した。石化している彼を膝に乗せたまま、ミラージュはその目を見つめる。  
 「あの…ミラージュさ……」  
 「んふふふふふ…」  
 彼女は不意に目を細め、喉の奥で笑い出した。  
 「フェイトさん……そんなに私のオッパイが好きなんですかぁ?」  
 真っ赤になって黙り込むフェイト。よく考えてみたら、実にとんでもない事をしてしまったものだ。そりゃあ綺麗なお姉さんが泥酔して寝てたら、誰だって触りたくは…。  
 「あの……その……一体、いつから起きて…?」  
 「スレイヤー・ヴォイドあたりからですねぇ」  
 「……!」  
 ミラージュは舌を出すと、フェイトの頬を舐め上げた。  
 「ちょ…!!」  
 微かにアルコールが香る。そのまま彼女は青年の顔をぴちゃぴちゃと舐め回し、再び唇を合わせた。脱力しているフェイトの股間に手を伸ばし、テントの支柱を撫でる。  
 「!! んむっ…!」  
 唇は解放されない。あっという間にジッパーが下ろされ、彼自身はトランクスの穴から突き出る。ミラージュはその怒張に手を添えた。  
 ようやく唇が離れる。唾液が僅かに糸を引き、切れた。  
 
 「ミラージュさ…!!」  
 股間の手を振り解こうとするが、止められる。  
 「私だって、好きにさせてあげたんですから……私にも、好きにさせてくれないと」  
 さっきまでの自分の行為を思い出し、フェイトの動きが止まった。ミラージュはニヤリと笑うと、頭を下げていき、唇を軽く閉じたまま彼自身に口付ける。  
 「……くっ…」  
 恐らく喘ぎ声を必死に抑え込もうとしているのであろう、頭上からフェイトの呻きが落ちてきた。そのまま唇を押し付け、彼自身をめり込ませるように口腔内に納める。  
 そして一気に吸い上げた。  
 「! ぐ…くあ……」  
 童貞だろうが、案外しぶとい。口に納まりきらなかった竿を手で扱き、カリの裏側にまで舌を這わせる。舌先を立て、鈴口をなぞった。  
 「ぐぅうぅぅうう!!」  
 あとひと息…。指で袋をやさしく撫で、手と舌の動きを一層激しくした。  
 「くっ………ああああっ!!」  
 たまらずフェイトは声を出す。次の瞬間ミラージュは口を離し、手を伸ばして竿をぎゅっと掴んだ。放出しようと怒張は暴れていたが、やがて静かになる。  
 「あ……」  
 「フェイトさん……私のこと、好きですか?」  
 竿を握って放出を止めながら、彼女はフェイトの耳元でそっと尋ねた。  
 「て……手を…くっ!」  
 「好きですか? それとも……嫌いですか?」  
 もう片方の手が動き、指先で亀頭を撫で回す。フェイトはぐっと歯を食いしばった。  
 「……好きで…す…」  
 歯の間から、微かに声が漏れる。  
 
 「何です?」  
 「大好き……です…!」  
 「もう一度。何ですか?」  
 「ミラージュさんが…大好きですっ」  
 ミラージュは手を離した。鈴口からうっすらと透明な雫が湧きだし、亀頭を滑り降りてくる。  
 フェイトの身体はベッドの上に倒れ込んだ。シャツを脱ぎ、ブラジャーのホックを外すと、ミラージュは天を仰ぐ怒張に胸を近付ける。  
 谷間に挟み込み、飛び出した先端に舌を添えた。  
 「くっ…」  
 「まだです」  
 彼女は胸の前で腕を組み、乳房を更に怒張に押し付ける。先端を口に含むと、暫く軽く愛撫していたが、突然思い切り吸い上げた。  
 「あああっ」  
 さんざん焦らされた白濁液は、惜しげもなくミラージュの口腔に放出される。喉が忙しなく動いた。  
 イッた…自分でもそれが分かる。全てがぼんやりと霞がかかり、世界が急に虚ろなものになった気がした。  
 その中で唯一人…ミラージュだけは、妖しいほどの光を纏ってそこに存在している。下腹部にポタポタと、透明な液体が滴ってきていた。  
 「フェイトさん……」  
 彼女はフェイトにのし掛かったまま、こちらに足の付け根を向け、指で唇のような部分を押し広げる。  
 「私のココ……こんなにヨダレを垂らしちゃって…。分かります? 早くフェイトさんを食べさせてって…そう言ってるんですよ?」  
 そうして、未だにいきり立つ怒張の先端を、自分の胎内へと優しく導く。  
 夜はまだまだ長かった。  
 
 頭を押さえているミラージュに皆は聞く。どうしたのかと。  
 「……二日酔いです」  
 腰を曲げているフェイトに皆は聞く。何があったのかと。  
 「え? いや…その……おっ、重いもの急に持ち上げようとしたら、ギックリ腰に…」  
 「……重いもの…ですか?」  
 にっこりと微笑むミラージュに、フェイトははっとなる。まさか昨晩バカスカ犯りまくり、しかも足腰立たなくなったのは自分の方なのだ…とは言えなかった。  
 が、今の弁解は不味かった。  
 「ところでフェイトさん? 私……結構体重ありそうですか?」  
 「いっ、いえそんなことは決して。……でっでも、その…出るとこが出てるからと言うか…とっとにかくすっごい美人だと思いますっ!!」  
 「もうっ、フェイトさんったら。美人だなんて、関係ないじゃないですかぁっ」  
 バカップルオーラ全開で、フェイトをポカポカ叩くミラージュ。  
 「!? や…やめろミラージュ! お前はポカポカ可愛くやってるつもりなんだろうが、現実ではカンフー映画ばりの打撃音なんだぞ!!」  
 真っ青になって止めるクリフ。  
 「あ! だ……大丈夫ですか? フェイトさん……」  
 「………」  
 「………」  
 「………」  
 「……クリフ」  
 「え?」  
 「フレッシュセージを」  
 (戦闘不能!?)  
 
 
 
 拝啓母上様。フェイトです。  
 昨日、僕の元に…とっても頼りになるお婿さんが来てくれました。 

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