「フェイトさん…」  
 月明かりが差し込む宵の闇の中、光を反射して浮かぶ銀の髪を男がそっと撫でる。  
女はそれをくすぐったそうにしながらも素直に受け止めてはにかむ。そして男が抱き  
寄せるに逆らうことなく、自身の腕も彼の首にそっと廻す。  
「クレアさん」  
 彼の呟きに合わせて唇を重ねる。一つの布に包まりながら、互いを貪る様に。もう  
幾度目かわからない接吻を。部屋を覆う静寂の中で水音だけが映える。名残を惜しむ  
ようにしながらも、唇をそっと離す。  
 
 眉をそっと下ろしながら、クレアは憂愁の色を浮かべてフェイトに問いかける。  
「その…本当に、私で良かった…」  
 その言葉を聞く前に、彼女の唇を指でそっと止める。蒼髪の青年は、出来るだけ  
彼女を不安にさせまいと強く、されど優しい言葉で、  
「貴方じゃなきゃ駄目なんです」  
と微笑みかける。だけれども、彼女は言葉だけでは満たされることは無かった。月  
光に映えるその裸形を、彼の前に晒して、もたれあうようにしてから、顔を朱に染  
める。  
「でしたら、もう一度…」  
 切なそうに呟く彼女に、口付けをすることで返答を返して、クレアをベッドに  
横たえさせる。フェイトは均整のとれた、情欲をそそるその肢体にめまいを覚え  
つつ、クレアの胸にそっと掌をかぶせた。  
 
たわわな白い乳房に指先を沈み込ませる。それをゆっくりと押し返すかのような絶妙な  
やわらかさと弾力に、フェイトの息も自然と荒くなる。それに呼応して艶を増していくク  
レアの喘ぎ。互いに互いを確実に高めあっていく。乳房を揉みしだく力も、意識しないう  
ちに次第に強まっていく。  
「つっ…」と声を高くするクレア。フェイトは自分が思っていた以上に強く彼女の胸を  
嬲ってしまっていたらしいことに気付き、掌に感じる重みから一旦手を離す。  
「ごめん、痛かった?」  
耳元にささやき掛けると首を振るのだが、まなじりには涙を浮かべていた。堪えていたの  
だろう。それを指ですくってやる。潤んだ瑠璃の瞳は余計に扇情的であり、耐え難い衝動  
が彼を襲おうとしたのだが、何とかそれをこらえ、再び愛撫を再開しようとする。ふと、  
彼女の体を走る紋様が目に入る。それは彼女の同僚たちにも同様に見受けられるもの――  
施紋であった。そしてそれは何より彼女たちが闘ってきた証左とも言うべきものでもある。  
皆の衆望を受け、軍司令として輝いているクレアの証。でも、いまこうして自分の前にい  
る、自分だけにさらけ出しているクレアの姿には、何やらそれが重いものにフェイトには  
思えた。無意識の内に、紋の描かれた背中を撫でる。  
 
「ひ…あぁ……」  
今までとは違う種類の刺戟に身をくねらせるクレア。そして、フェイトは流れに従うよう  
に腕をなぞるようにして、続いてすらりと伸びた、それでいて女性的な丸みを全く損なっ  
ていない足に目をやって、太ももにじっくりと指先で触れる。クレアはシーツの端を握っ  
て堪えるようにしていた。続いて、彼女をしっかりと腕に絡めてから、フェイトは、先ほ  
ど指でなぞったのと同じ軌道を、だけれども今度はさらに先ほどよりゆったりと、舌先を  
ねぶるように這わせる。  
「…ふぇ…フェイトさん、そんな…」  
クレアが身をよじって抗議のようなことをするが、絡め取られた腕はほどけない。出来る  
ことは与えられる刺戟に喘ぐのみ。こと舌先が太ももに至るときとなって、先ほどの続き  
の言葉をようやく吐くことが出来た。  
「そんなこと…きたない…ですか…ああ!」  
が、快楽に沈みながらの言葉には、この行為を否定するよりも肯定的な意味合いが込めら  
れているようにすら感じられる。そして、――貴方の躯が、穢れているものか。そういう  
思いすら、フェイトは持っていた。窓から差し込む月光にさらされる彼女の姿に、一片の  
曇りすらも見受けることは出来なかった。その気持ちを表すかのように、舌先による責め  
は一層激しさを増していった。脚を閉じてはいるけれども、その間から何かが滴り落ちて  
いるのを見ながらもあえてそれを無視して、ラインを辿って膝やふくらはぎも丹念に丹念  
に舐め上げた後、ようやくフェイトはクレアを一旦開放した。  
 
ぐったりとして息も絶え絶えになっているクレアに口付けを唇、肩と順に落としていき、  
そして量感のある白い乳房を持ち上げて、乳房の大きさの割りに小ぶりな乳輪を口に含む。  
与えられた快感が彼女にとっては先ほどから強すぎたせいか、クレアの顔には若干の余裕  
が見えてきた。顔を朱にそめながらも、上気した笑みで「フェイトさんがまるで…赤ちゃ  
んみたいです」などと言いながら、蒼の髪を手櫛で弄ったり出来るほどに。だけれども、  
それは彼が彼女の濡れそぼった秘所を指先で触れただけでいとも簡単に瓦解してしまう。  
「し…んはぁっ…って…ちょ…ちょっと…ま…」  
そしてフェイトは間髪入れず口の中に含んだものの先端――クレア自身の昂ぶりによって  
すっかりたってしまったそれを、彼女をさんざ先ほどまでなぶっていたもので触れる。  
「いい…ん…ああああ」  
ピン、とのけぞるように首を上げる。クレア自身の腕は、フェイトの背中までしっかりと  
絡んでおり、今は快楽の波を受けるたびに彼を抱き寄せており、快感を求めようとしてい  
るようにも見える。水音を奏でる、指と秘所、口と乳房。本当に赤子のように乳を吸い続  
けつつも、指のストロークも怠ることは無かった。夢中でクレアを責め続けたフェイトで  
あったが、喘ぎ声が薄くなってきたところで、最後に豆に触れ、乳頭に歯をかすかに立て  
る。  
「だ、…め…ふぁあああああ!」  
 
快楽により一時的に気を失ってしまったクレアを布団に被せ、フェイトもその真横に添  
寝する。その穏やかな寝顔を見て、ああ、これは現実なのかなと、半ば夢心地でいる自分  
に気付く。なにせ、自分と彼女の想いが通じ合っているとわかったのは、つい昨日のこと  
だったのだから。――とはいえ、随分と遠回りなことではあったようなのだが。彼女を象  
徴する銀の髪をさらりと撫でる。これ一つ取っても他の女などとは比べ物にはなるまい、  
などと思ってしまうのは、多分に贔屓というものであろう。夢中になって撫でていると、  
目を覚ましたクレアが恨みがましげな眼差しで睨んでいるのに気付くのが遅くなった。  
「ふぇ、い、と、さん」  
「え?ええと」  
 思わずその気迫に慌てふためく。クレアはキッとまなじりに力を込めて、  
「やり過ぎです!」  
「ご、御免!でも、そんな大したことは…」  
「そうでなくて!」  
っと言ったあと、急にしり込みをしてしまったかのように顔を伏せた。  
「ええ、とクレアさん?」  
「だって…また…」  
「あ…」  
ようやく言いたいことが何となく分かってきたようだ。  
 
「また…私だけ…」  
俯いた表情から涙が零れ落ちる。そう、初めてことに及んだときも、やはり自分だけが彼  
によって逝かされて自分自身は彼を満足させることが出来なかったという思いがあった。  
それがどうにも悲しかったようである。  
「ゴメンね。クレアさん」  
コツン、と額をつきあわせて、優しく語る彼の声。それを聞くと、自然に心が落ち着いて  
くる。  
「確かに与えるだけとかじゃ駄目だもんね。クレアさんの気持ち、ないがしろにしてたと  
思う。本当にゴメン」  
「そ、そんな…私だって…その」  
真摯な表情で謝罪するフェイトに対して、クレアはかえって罪悪感を覚える。が、  
「でもさ、クレアさんの声を聞くと、虐めたくなってしまうっていうか、我慢が効かなく  
なってしまいそうになるっていうか…」  
頬のあたりをポリポリ掻きながら、目を泳がせるフェイトをぽかん、とした表情でクレア  
は見る。  
「うん…だから次もどうなるかはわからな…いてて」  
ギュッ、と脇腹の辺りを抓って抗議を表す。クレアの表情にも先ほどよりも剣呑なものが  
あらわれる。が、どこまでいってもクレアは可愛らしい、などとフェイトは考えていたの  
だが。  
「もう…いいです。今日のことを踏まえて、明日は」  
「明日…は?」  
 
先ほどと同じく、しっかりと彼の瞳を見据えて伝え、ようとして伏せてしまう。  
「私から…その…攻め…」  
「…は?」  
今度はフェイトのほうがキョトン、としている。が、クレアの顔のほうは真っ赤なので、  
先ほどと対照的なわけではない。  
「今日二回は貴方から攻められたからああなったのですから、私からならば丁度いい筈で  
す」  
「いや、多分そういう問題では」  
「……」  
「いえ、なんでもありません」  
流石に非難がましげに見られると何も見えなくなる。すると、クレアはコホン、と一つ息  
を吸って、  
「駄目なら、その、…良くなるまで試すしか…」  
「……」  
とりあえず、なんだかこれから数日は大変なことになりそうだ、などと思いつつ、文句を  
言われるのは承知で溜息をついてしまった。そして外を見ると…  
溜息をついたことを非難しようとした途端、何故か石化してしまったフェイトを、クレア  
は訝しげな目で見る。その視線の先を追ってみると…彼女も同じような状態に陥ってしま  
う。夜の闇に浮かぶは、なぜか涙を流して佇む裸のオヤジだったそうである。  
 
 ともあれフェイト=ラインゴットを迎えたラーズバード家は、この次の代から更なる興  
隆を迎えることとなったそうである。  
 

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