始めて見た時から綺麗だと思った。
歩くその姿が凛々しくて。
吊り目気味の目が美しくて。
銃で敵を打ち砕く様が勇猛で。
私の憧れ。
始めて見た時から可愛いと思った。
くりくりした目を覗かせて。
とってもスタイルが良くて。
魔術で敵をなぎ倒す姿が似合っていて。
私の憧れ。
私に無い物。
そしてそれはもう、憧れではなくなった。
深夜。
木箱の上の多機能時計は午前二時を指し示していた。河岸の村アリアスの人々はとっく
に寝静まっている時刻だ。
銃声。
暗い空間に、一縷の光が走り、木製の的に当たって弾ける。破砕音と共に的が爆散し、
周囲に木片を撒き散らす。
また銃声。
幾つも並べられた木製の的が、遥かな遠方からの光によって次々と砕けていく。その度
に弾けた光が、的の周辺に燐光のように纏わり付く。
それは、さながら流星群を見ているようであった。次々と的を砕いていく流星群。放射
線状に発されるそれは、寸分の違いも無く的に激突していた。
「…」
不意に流星群の到来が終わる。
声とも付かない声を上げて、青髪の女性、マリア・トレイターは、その怜悧な顔を先ほ
どまで流星群を発生させていた銃身に向ける。
そこには、少し小さめの塊が握られていた。フェイズガン。強力なエネルギーを対象に
向かって放出する事により、対象の分子結合を破壊する武器。後三割ほどになったエネル
ギー容量のバーを見つめながら、自分の横に置いてある木箱に少しずつ近づいていく。そ
こにある多機能時計を手に取ると、仲間たちが居る宿屋へと足を向ける。
だが、そこで草むらの影から物音がした。即座に振り向く。鍛え抜かれたしなやかな腕
が、直ぐに振り上げられ固定される。
数瞬も経たない内に、物音のした方角を正確に照準したフェイズガンは光を吐き出して
いた。光は、さながら槍の様に草むらに突き刺さった。
「きゃあ!」
いまいち緊張感に欠ける声。おっとりした中に、何処か甘い響きの有るその声を聞いて、
マリアはため息をついた。
「貴女ね…こんなところで何をしているの?」
言うと共に草むらを書き分けると、声の主、ソフィア・エスティードが姿を現した。
驚きでバランスを崩してしまったらしく、地べたに尻餅をついている。頭の少し後ろの地
面には、ソフィアの腰があった場所を恐ろしく正確に通過した光の焦げ跡があった。
「マ…マリアさん…その…何ていうか」
慌てた様子で弁解しようとするソフィアに、可愛いさを感じつつも言う。
「…で、何故私の射撃の練習を見に来たの?」
それを言うと、さらに慌てた様子で喋り始める。
「えっと私はその別に変な事をしようとしたとかそんな事じゃなくてでも」
上手く文が言えていない。それにマリアは微笑むと、指をソフィアの口に当てる。
「少し落ち着いて?ね?」
胸が高鳴る。ソフィアの唇の柔らかさと、行動の拒絶への恐怖が混ざり合い、何とも言
えない気分になる。しかし、その後のソフィアの様子は、想像を絶した。
「…ん、くすぐったいです…」
頬を赤らめて顔を引くソフィア。それは一気にマリアの心拍数を跳ね上げた。必死に悟
られないようにする。
だが、そんなマリアの慌てた様子には気付かず、ソフィアが話し始める。
「えっと。マリアさん、今日は話したいことがあってきたんです!」
深刻な声に、慌てると同時に頭の中で五十四個の妄想を展開させていたマリアが現実の
世界へ戻ってきた。つとめて冷静を装い、答える。
「…なに?」
何かを決意したかのように、顔を強張らせる。そして、一気に話し始める。
「…始めて見た時から綺麗だと思ってました!それで、それで…」
そこでいったん言葉を止め、少し逡巡し、口を開く。
「私と、付き合ってください!」
予測していたどんな考えよりも上を行く回答にマリアは再び硬直する。今度ははっきり
と態度にも表れていた。強張った顔。まるで表情が抜け落ちたかのよう。
その様子を見て、ソフィアの表情が、ひどく悲しげになる。体が震えて見えるのは、夜
の寒さからだろうか。それともマリアに拒絶されたように見えたからだろうか。
「ごめんなさい。女同士でこんなこと言うなんて、変ですよね?おかしなこといっちゃっ
て、すいません。寝ますね」
割り込む隙も無いほどに言い切ったその声は、酷く震えていた。抑揚ははっきりせず、
いつもの話し方とは明らかに違う。そのまま身を翻して宿屋の方向へ向かおうとする。横
顔から、涙が見えた。
その瞬間、マリアの体が動いた。
一瞬で近づく。
そのまま、身を翻していたソフィアの背中を抱いた。栗色の髪が目に入る。腕に感じる、華奢な体と甘い匂いが鼻腔を刺す。初めて密着したその体は、酷く脆くて、壊れてしまい
そうだった。
「マリアさんっ…あ」
何か反応を起こそうとしたその体と声は、さらに強く抱きしめられた事で止まる。
吐息もかかるほどの近くで。
今度はマリアが話し始めた。
「わ…私も好きだったの!ずっと!女の子同士なのにって悩んで…それでも答えが出なく
て、でも、貴女に言われて、それで…」
まるで、勢いに任せるかのように、早口でまくし立てる。早く届くように。思いが伝わ
るように。
言い終わってからソフィアの顔を見ると、大きな瞳に涙を溜めながら笑顔を浮かべてい
た。
「じゃあマリアさんも…?えへへ、良かった…」
お互いの服が触れ合うぐらい近い距離で見た彼女の笑顔はとても綺麗で。涙を滴らせな
がらも笑うその顔は、まるで陽光の輝きのように思えた。優しそうな顔立ちと、そこに浮
かぶ笑顔。マリアには、それが天使の笑顔であるかのように見えた。
「ソフィア…」
「マリアさん、痛い…」
先ほどより愛おしさを感じて、強く抱き締める。そのまま、穏やかに膨らんだ唇にそっ
と口付ける。口付けが終わると、さらに強く抱き締める。抱き締める。抱き締め続けて。
「マリアさん…ひょっとして、その先、知らないんじゃ…」
途端に、マリアの顔が真っ赤に染まる。
「…っ」
そのまま言葉を失う。先ほどまでのムードは無くなり、ただ顔を染めるマリアの羞恥だ
けが有った。
それを見て、ソフィアが何か悪戯を思いついたような顔になる。抱き締められたまま、
マリアの耳に舌を這わせる。
「ひゃっ!?」
拍子の抜けた声を上げるマリア。耳を噛み、吐息を吹きかけながら囁く。熱い息と這わ
せられた舌に、くすぐったさとは別のものを覚える。
「私が、マリアさんに、続きを教えてあげます。ね?」
そのまま、ゆっくりと優しい動きで、後ろに有る木の幹にマリアの体を押し倒していく。
背中に感じる、木の幹の感触。肌に感じる、夜風の寒さ。そして眼の前の少女と自分の
体温の暖かさ。これら全てが合わさって、興奮を生み出していく。
だが、寒さを体感する間も無く口付けをされる。初めてされた深いキスは、まるで口の
中を溶かされる様だった。歯の裏にいたるまで舐め回され、それだけに留まる事は無く、
直ぐに舌を絡められ、唾液を流しこまれる。いつの間にか、顔が紅潮し、何も考えられな
くなってくる。そこで、不意に口付けが止んだ。先ほどから受けていた快楽が突然止んだ
事に、ついついソフィアの唇を追ってしまう。そこにすかさず言葉が差し込まれる。
「マリアさんってエッチなんですね〜。初めてしたキスなのにそんなに良かったなんて。
クォークのリーダーは初めてのキスで悶える淫乱さんだったのかな〜?」
羞恥と明らかに違う理由に反論する。
「それは…貴女のことが好きだからっ…それで…」
再び顔を真っ赤にするマリアに、ソフィアが今度は微笑んで言う。それは、さながら小
悪魔のようだった。
「知ってますよ♪ただ、恥ずかしがるマリアさんも可愛いかなぁって」
その言葉に再び顔を朱に染めるが、その照れも、直ぐに別の感覚によって打ち消されて
いく。夜風が冷たい。肩を手が伝い、それに服が付いていく。ゆっくり、スーツがはだけ
させられていた。
はだけたスーツから、形の整った胸が露出する。
そして優しく、まるであやす様に胸を揉まれる。先ほどまでとは違う、緩やかな快楽に、
また情欲の炎がくすぶってくる。
「ああっ!?」
不意に電撃のような快楽が襲い、夜だと言うのにあられもない声を上げる。脱がされた
ばかりのスーツの秘裂に、ソフィアの指が滑り込んでいた。
「気持ち良いですか?マリアさん」
首を振って肯定しようとするが、与えられる快楽に上手く行かない。さっきまで口付け
ていた口は、その形の整った胸の突起を口に含んでいた。自分の胸の登頂を舌で転がされ、
甘噛みされるたびに、体の力が抜け、答えられなくなる。声にならない喘ぎが白い息とな
り、夜気に同化していく。
愛撫をしながら、ソフィアもゆっくり服を脱いでいく。女性らしい、丸みを帯びた体が
露わになった。服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になったまま悪戯っぽい目でマリアを見つめる。
「マリアさんばっかりそんなに気持ちよさそうにしてちゃずるいですよ。私も気持ちよく
してください…」
言われて困惑する。今までそんな事なんて無かったのに。私にどうしろと。
おろおろとしているのを見て、ソフィアが手を伸ばす。その手は、マリアの引き締まっ
た手に添えられた。そのまま手を自分の豊満な胸へと持っていく。
「まずは胸を…揉んでください」
その言葉に、思慮しながらも手を動かす。標準よりも遥かに大きい乳房が、揉む手に合
わせて妖しく形を変える。
「んっ…もっと…もっと強く…」
声に艶が混じり始まる。吐き出す吐息が耳を撫でる。その声で頬を染めながら、より一
層強く揉む。ソフィアの体に熱がこもってくるのが解る。
「他の…っ他の場所も…」
最早あまり言葉を紡げていない台詞に、また困惑する。何処を弄って良いか解らずに、
腕をもじもじさせるマリアに、軽くため息をついて言う。
「ふふっ…やっぱり、マリアさん、可愛いです」
そのまま、喉にキスをする。口を付けたまま舌で突付き、舐めて、くすぐる。その動き
にマリアが身をよじる。ソフィアの口はそのまま、吸い付いたまま、体を滑り落ちていく。
胸の間を通り、鳩尾をなぞり、腹部を滑り、臍を弾き、淫芽を撫でる。その間も口の中の
舌は蠢き、快楽を生み出していく。
やがて、口が淫裂に辿りつく。もう十分に濡れそぼっているそこを見て少し笑ってから、
一気に口を付ける。
「あんっ…!」
口の中に蜜の酸味が広がり、満たす。秘裂の中を舌でかき回す。壁を突付き、舐め上げ
る。その度に、マリアが体を震わせる。その様子が可愛らしくて、責めをより激しくする。
「あっ…あっああっ……!」
快感が最高潮に達し、今までより一際高い声を上げて、マリアが体を弓なりにした。
そのままソフィアにもたれかかる。
「くすっ…もうイっちゃったんですか?マリアさん」
そう言いながら、ソフィアはその体に肌寒さを感じるまで、その体を抱き続けた。
「あれ…?そういえば貴女は気持ち良くならなくて良いの?その…私は何も出来なかった
し」
既に服を着て、快楽の余韻に浸りながらソフィアに膝枕をして貰っているマリアが尋ね
た。何も出来なかったと言ったあたりで顔が赤く染まる。
「んー……マリアさんを責めてたら満足しちゃって」
その流れるような青色の髪を梳きながらソフィアが答えた。
「その…これからも…してもらって、良い?」
さらに顔を真っ赤にしながらマリアが聞く。ソフィアはそれを、甘い口付けで返した。
「アイスニードル!」
「はっ!!」
氷針が敵を凍らせ、凍らせた瞬間に間断なく発射された光が敵を粉々に打ち砕く。
「あの二人ってあんなに連携良かったっけ…?」
穏やかな午後の昼下がり、戦闘が終わった小休止で、一人首を傾げるフェイトであった。
憧れから変わったもの。
伝えたら壊れるかもしれないと思ったもの。
でも、それを伝えて、叶って。
あの人は、そばに居る。
ずっと。