無数の銀色の光輝が、交易の街ペターニを鋭く照らしていた。透き通った外気と星々の
様子は、まさに満天の星空と形容するのに相応しかった。夜光に照らされる宿屋の一室そ
の窓からは、容易にその情景を想像させる。たとえ、そこにいる少女がベッドに横たわり、
嬌声を上げていたとしても。
「んっ……んっ……」
あの人と同じ赤い目が、薄暗い室内に映える。押し殺した声が室内に満たされている。
体は自分ではっきりと感じ取れるほどに浮かされている。片手の指先を噛み、もう片方は
服の上からまだ熟しているとは言えない膨らみの小さな果実を刺激する。可憐な指先が先
端を撫で、過ぎ行くときに指が弾く度、押し殺した吐息が部屋を埋める。こんな私を見た
ら、あの人は何と言うのだろうか。素っ頓狂な顔をして、細工道具を取り落とすだろう。
心配してくれるかもしれない。悩みを聞いてくれるかもしれない。親身にもなってくれる
だろう。―そう、”親”身には。おそらく私が望めば、大抵の事は叶えてくれるのではな
いか。けれど。女として私を見てくれる事だけは無いのだ。もしあの人が私のことを女と
して見てくれるなら。
そう思うだけで、体を炎が焦がした。服の上からでももどかしく、手を中に滑り込ませ
て、手折れそうなほど細い指で膨らみの果実を弄んだ。すでに先端は張りつめ、痺れる様
な刺激を体に送り込んでくる。その時、ちょうど爪が果実に触れた。刺さるような快楽。
予期しない波に声が漏れた。
「……っ!」
身を捩る度に、流れるように何度も快楽が押し寄せてくる。この指が、あの人の物だっ
たら。何度も繰り返した想像。決して叶わない願い。でも、思わずには居られなかった。
いつも私を撫でてくれるあの大きな手。私のことになると途端に大げさに、愛情たっぷり
に言葉を歌い上げるあの唇。私の体をいつも包み込んでくれる大きな体。その全てが私の
体を弄り、抱き、睦言を囁くのだ。想像するだけで何度でも体が熱くなった。片手が使え
ないのがもどかしくて。うつ伏せになって控えめな膨らみを押し付ける。手は足の間の花
弁に伸び、やはり熟しているとはいえない小さな蕾を何度も撫ぜる。
「あんっ……!」
片手が使えなくて、散々焦らされたお陰で、蕾からびりびりした感覚が伝わってくる。
夜長の自慰は止まらない。花弁の中をまさぐる指は蜜に濡れ、声を上げまいとしてくわえ
る指は唾液で濡れていた。想像はますます猛り、指の動きは早くなる。曲げた指が、不意
に花弁に引っかかり、声が漏れた。快楽が高まってくるのを感じた。そのまま登りつめる。
「パパっ……!」
声が部屋に響き渡る。登りつめた瞬間にくわえていた指を離し、最も愛しい人の名前を
呼んだ。口を押さえたけれど、もう既に呼んだ後で、もうどうしようもなかった。口にし
たら叶わない気がして。熱くなったからだが冷えると共に不意に悲しさが襲った。周りに
聞こえないように声を殺していたのに、今は声を上げたことよりも、この妙な喪失感にと
らわれていた。一緒に、あの人のことが浮かぶ。パパといつも一緒にいる女の人。パパは
その人といる時、とても楽しそうに笑っている。私も良く話すし、物腰が良くて優しげで、
包み込むような雰囲気を持った人だ。私も大好きだ。パパと話して、そして笑いあってい
よく似合っていると思う。良く可愛がってくれるし、お守りもしてくれる。でも、その人
と一緒にいて、笑っているパパを見ると、胸が痛いのだ。私には無理だから。ああいう接
し方はして貰えないから。私はあの女の人が好きだし、嫌いにもなれない。多分無理だ。
でも、パパが私を見てくれるには、ぼろぼろにするしかない。あの人が壊れてくれれば、
ずっと私だけを見てくれる。私だけを。そんなに思っても結局望みは満たされないのに。
それでも、もっと私のことを見てくれるなら。
体を布で拭いた後、誰もいない部屋で、少女は一人呟いた。
「まったく……ブザマなのです」
少女の吐く白い息が、宿屋の大気に消えた。