スフィア社からエターナルスフィアに帰還したフェイトたちは、惑星ストリームで銀河の開放を望むブレア・ランドベルドからもらった  
アンインストーラーを起動させ、銀河から全てのエクスキューショナーを消滅させることに成功する。  
だが、その直後、オーナーの防護策により断罪者なる新たな存在が出現。  
フェイト達はブレアの薦めに従い、オーナーであるルシファーの説得をすることを決める。  
だが、彼の待つ空間に行く為には、あのエリクールの聖珠スフィアが必要だというのだった・・  
そして、フェイト達は懐かしきディプロにて彼の星を目指す・・・  
 
「ミラージュさん、エリクールへ向かってください」  
フェイトは目的地をディプロの舵をとるミラージュに告げた。  
「エリクールね?・・了解。」  
エリクール星系は遠い。  
ディプロは即刻、重力ワープへと突入した。  
(・・ふぅ、休んでいろっていわれてもな・・・)  
FD世界からなら空間どころか時間すら、指定しだいで自由自在に干渉できたが、現実にこちらがわにいる時はそうもいかない。  
惑星ストリームからエリクール二号星までは、亜光速を越える重力ワープといえど、 
体感時間で数日はかかってしまう距離があった。まぁ、早い方ともいえるが。  
この間できることはなく、目的地を告げた後、フェイトはブリッジからつまみ出されてしまうのも必定といえた。  
「連戦、連戦でお疲れでしょう?なにかあったら、連絡しますから、今は部屋で休んでいてください・・、ね?」  
柔和な笑顔でそう言われたが、フェイトは自分に与えられている個室に行くために通るはずの、 
ブリッジを出てすぐにある下り階段を無視して、艦の後方へ向かう。  
・・どうやら、まだ眠る気はないらしい・・  
ふとそこで、すぐ左のほうから、自分を呼ぶ声が掛かった。  
「フェイト君、こっち!」  
見ると、オペレーターであるマリエッタと、自称「ラゼリアの双星」の片割れ、スティングがベンチに腰掛けて、  
こちらに手をふっていた。  
 
「何ですか、マリエッタさん」  
通りすぎかけた足を戻し、2人のもとに駆け寄る。  
「ねぇ、フェイト君。焦る気持ちもわかるんだけどさ、少しくらいは体を休めといたら?」  
どうやら、フェイトがミラージュの薦めを蹴ってうろうろしてるのを見抜かれたらしい。  
「重力ワープ中にできることなんてあんまり無いんだしさぁ・・」  
「そうそう。どうせ向こうに着いたら、また忙しくなるんだしな。  
・・それにエリクールに着くまでに、そんなに時間がかかる、ってわけじゃない。  
今の内に休んでおかないと、身が持たないぞ。」  
マリエッタ、スティングが諭すように言う。たしかに、いつでも休める、というほど時間があるわけでもない。  
「それは分かってるよ・・でも、何かをせずにはいられないんだ。・・じっとしていると、どうも落ち着かなくて」  
正直な気持ちを告げると、半ば呆れたように、  
「あらら・・ソンな性格ね〜・・」  
とマリエッタ。それをフォローするように、  
「まぁ・・根がマジメなんだろうな」  
とスティング。  
はぁ、とため息をついてからマリエッタが、  
「ほぉ〜んと。誰かさんにも見習わせたいくらいだわ〜」  
「・・その誰かさん、ってのは・・・もしかして僕のことを言っているのか?」  
眼鏡をキラリとさせ、イヤミに押収するスティングだったが、  
「他に誰かいたかしら?思い当たる人がいないんなら、そうなんじゃないの」  
・・結局、マリエッタには勝てるはずもなく。  
 
苦笑しながらやりとりを見ていたフェイトだったが、話が自分に戻ってきたので顔を戻した。  
「でもさ・・こうして見ているとあなたが銀河系を救うための最終兵器だなんて、とてもじゃないけど信じられないわね」  
「あはは・・」  
最終兵器、という響きが少し古傷をチクリとした。が、大丈夫。もう乗り越えている。  
「あなたの事を初めて聞いた時は、銀河連邦が宇宙を支配するために作った生体兵器だ、 
なんて聞いたからどんなに怖い人なのかと思ってたけど・・」  
「あ、あはははは・・・」  
誰がそんなこと言ったんだろうか・・多分、あいつだ。マリアの話を話半分に聞いてたんだろう、あの筋肉オヤジ。 
・・実際、宇宙を支配もできかねない力があるんだけれど。  
「・・・実際に会って見ると・・むしろカワイイくらいよねぇ」  
うんうん、とひとり頷く幼く見えても年上(らしい)女性に言われて、フェイトは顔が紅潮していくのを感じた。  
「あ、えぇっと・・」  
プッ、と笑いながらスティングが、マリエッタの意見に口を出した。  
「オイオイ、外見は関係ないだろ?んなコト言ったらウチのリーダーだって化け物みたいな外見をしてなきゃいけなくなるぞ」  
あっ、という顔をして、  
「それもそうね・・いけない、いけない・・気をつけないと」  
とマリエッタが言うのを聞いて、  
(気をつける、・・何で?マリアはそんなことで怒りそうにないけど)  
などと思うフェイトだったが、  
「こんなこと言ってるのがリーベルなんかにバレたら、怒られるくらいじゃ済まないわ」  
おおこわ、と見を竦めるマリエッタ。  
 
「ま、烈火のごとく怒り出すのは確実だろうな。・・あいつはそのテの会話に、妙に敏感だからなぁ・・ 
 当の本人は、全く気にしていない、ってのにさ」  
はァ、とため息をしつつ、スティングが弟について語る。  
頭に疑問符を浮かべながら、フェイトが問う。  
「リーベルが?どういうコトさ?」  
リーベルとは、スティングの弟で、自称「ラゼリアの双星」の片割れである。  
他愛もない、さらに他人の話で怒るとは・・そんなに短気なやつだったろうか?  
フェイトは、烈火のごとく怒り狂うリーベルを想像して苦笑した。  
フェイトに聞かれて、スティングが答えた。  
「僕達「クォーク」のメンバーは、基本的にその理念に共感して、活動に参加をしているんだが・・」  
(そうか、だから怒る、ってわけだ)  
理念に反している、てことなのだろう。・・ん?  
「・・・だが?」  
「ああ、弟の・・リーベルのヤツには、もう一つ不順な理由があるみたいでね・・君にも、何か思い当たるフシがあるんじゃないか?」  
「え?・・ん〜・・・」  
そういえば、初めて会った時、「お前にはまけない」だのなんだの・・それからも何かとつっかかってきたような・・ 
誰が見ても一目で分かる。彼はマリアを・・・  
「・・まぁ、無いわけじゃないけどさ。けど、それは彼の誤解だよ。・・だいたい僕は、マリアのことどころか、 
 自分についての話すら聞かされてなかったんだぞ?」  
と言うと、一瞬「ホントか〜?」というような視線が・・あったような気がした。  
 
コホン、と気を取り直してマリエッタが  
「あのねぇ、そんな理屈があいつに通じると思う?」  
というと、フッ、と鼻で笑ってスティングも共感を示した。  
「同感だな。あいつは理屈より先に感覚で動くタイプだからな。・・あいつにとっては、この際事実関係はどうでもいいんだ。 
 大切なのは、ウチのリーダーが君のことを同じ境遇の人間だと認識していた・・ということなのさ。」  
(迷惑な話だな・・・)  
事実、自分とマリアにそんな関係はない。  
大体、そんなに好きならとっとと告白すればいいだろうに。こっちにあたられても困る。  
「少なくともリーダーは、君に対してある種の親近感を抱いていた。・・いや、共感と言った方がいいのかも知れないな・・ 
 とにかく、ウチのリーダーにとっては、君は特別な存在だったんだよ。それだけであいつにとっては十分なのさ」  
(・・そんな事いわれても。大体、改造されたのもマリアが共感とやらを抱いているらしいのも僕のせいじゃないし・・)  
憤り、という程でもないが、なんかちょっと嫌な気分になって来た。なんていうのか・・  
「・・男の嫉妬なんて、みっともないだけだと思うけどねぇ・・」  
マリエッタも、同じように感じてたらしい。そしてスティングも  
「まぁ、確かに見ていてあまり気持ちのいいものではないよな・・けど、それを言ったら僕としては、 
 女性の嫉妬のほうも、なかなかだとは思うけどね」  
再びキラリとする眼鏡。「誰のことです?」みたいなけして笑ってないマリエッタの笑顔を向けられて、顔をそむける眼鏡。  
「でも、ああいうタイプは思いつめるとなにするかわかんないのがまた、ねぇ」  
「そうそう、変に誤解して・・・まぁ、リーベルの場合洒落になりそうにないがね」「自殺とか?」  
「他殺とか。・・いやはや、誰かさんも嫉妬して大変だったしね」  
「・・・・そんなに二階級特進がお望みですか?」  
(・・物騒な・・にしても、仲がいいんだか、わるいんだかなぁ・・)  
なんとなく、大学のクラスメイトを思い出して懐かしくなったのだった。  
その後聞いた話によると、スティングは眼鏡を買い替える羽目になったとかならないとか。  
 
フェイトは、マリエッタとスティングに挨拶してベンチを去り、最初の忠告も忘れて艦内をうろうろしていた。  
「クリフさんなら、いくらでも怪我していいよ。」  
「ねえ、フェイト・・・間に合うよね?」  
「案外宗教も馬鹿にできねぇな・・偉そうなヤツらには自分勝手な野郎共しか居ない・・ってトコは当たってたんだしよ」  
医務室、ソフィアの部屋、クリフの部屋・・・  
下部デッキを適当に訪れ、仲間達と話でもしておこうかなと思い、フェイトは散策を続けた。  
「あれ、アルベルと・・ね、ネルさん?」  
二人が一緒の部屋にいた。  
フェイトはそういう方面に精通しているわけではないが、アレな想像が頭をかすめてフェイトは真っ赤になってしまう。  
そんな状態で想像を悟られないはずもなく、アルベルに呆れられてしまった。  
「何を考えてんだ、阿呆。・・・いいからこいつを見ろ・・・こいつをどうするか話してたんだ」  
「ああ、そうさ。・・まあ、あたしたちがこれ以上いくら話しても、なにか分かるとも思えないんだけどね」  
フェイトはアルベルの示したものを見た。  
「・・・薬?」  
それは体力活性剤、精神活性剤と似たような細長い試験管に入れられた液体だった。  
が、あきらかにムーンベースなどで市販されているそれらの薬とは違うと分かった。  
・・・凄い色をしていたからだ。見るからに・・やばい。  
「なにそれ、どうしたんだよ?」  
「あのブレアって女の仲間・・・あいつがよこした薬の中に紛れてたんだとよ」  
「確か、レイリア、って言ったっけね?アペリスの神々の時の女神様とおんなじ名前だから覚えてるよ」  
レイリアというと・・・  
 
(あぁ、あの人か)  
スフィア社突入直後戦ったアザゼルが病院送りで済んだと聞いて「皆さん、優しいんですね・・(ちっ)」とか言ってた・・ 
確かに、リザレクトミストやら何やら、ネルが受取ってたような。  
「だけど、この薬だけは何の添え書きもないから正体がわからないんだよね・・」  
「・・で、薬の効果をこの俺で試させろと来た・・全く、この阿呆が・・」  
ギッとネルを睨みつけるアルベル。  
それは話していたというか・・なんというか。  
「・・・うぅーん・・」  
フェイトはアルベルから受取ると、試験管をちゃぽんとさせた。  
・・が、正体がわかるはずもなく、今度はネルに手渡した。  
「ミラージュさんにでも解析を頼んでみればいいんじゃないかな?・・何か凄い効力を持つ薬なら、 
 エリクールに着いたあと特許を出してもいいし」  
拾ったものを特許申請とは妙な気もするが、ダイヤモンドやエメラルドでも取れているのだから別にいいだろう。 
あのギルドは完成品すらあればいくらでも同じものが作れるらしい。・・恐ろしく謎だが。  
「・・そうだね、んじゃそうするとしようか」  
それからとりとめのない会話をして、フェイトは部屋をあとにした。  
 
余談だが、フェイトが退出して、いつまでたってもネルもアルベルも出てこなかった・・が、それはまた別の話。  
 
「・・正直、博士の事は恨んでた。あなた達のことを妬んでもいたわ。」  
散策の最後に、と訪れたマリアの部屋。  
電気も付けず、机に突っ伏していたマリアに話し掛けると、マリアはフェイトに正直な独白をはじめたのだった。  
(・・確かにな。マリアに比べれば、僕なんてずいぶん幸せだと思う。)  
親と一緒に過ごせたというのもある。  
ほんの最近まで、「普通の人間」でいられたという事もある。  
片や反連邦組織のリーダーで、片やただのゲーム好きの学生・・・  
(・・釣り合うもんか、こんなの・・僕なんかよりずっと長く一緒にいたってのに、何で自信が持てないんだよ・・?)  
フェイトの意識はリーベルの不甲斐無さに行き、多少憤慨したりした。  
だが、マリアは彼にはこんな独白はしないだろうなあ・・とも思っていた。  
自分が特別な存在・・てのもわかる。  
が、その意識はマリアの言葉によって引き戻される。  
「・・・バカよね、私・・?」  
「・・どうして?」  
「だって、私は博士を悪者と決め付けて、彼が真実から逃げられない状況になって初めて動いたわ。 
 バンデーンに捕縛される前にも、いくらでもチャンスはあった、というのに・・ううん。多分、私は怖かったんだわ」  
「・・真実を知るのが?」  
「・・そうじゃない。多分・・一対一で話をするのが、怖かったんだと思う。 
 だから、同じ境遇のあなたと一緒に博士に会いたかったんだと・・思う。 
 ・・逃げていたのね、自分から。少し・・ほんの少しだけでいいから、キチンと話が出来たら良かったのに・・・」  
 
残念ながら彼はもういない。  
その事実を改めて噛み締めて、乗り越えた筈の何かがズキリとした。  
もう少し、早く・・・  
そういう思いがあるのか、マリアは何かをこらえているような顔をしていた。  
何か・・・  
「マリア、その・・」  
なんとか慰めようとするが、こればっかりは自分と彼女は同じ境遇では、ない。  
片や、話せなかった、後悔。  
片や、「あたりまえ」を失った、悲しみ。  
フェイトはロキシの死に対して誰よりも深く悲しんだと思っていた。  
事実、そうだろう。  
だが・・・  
(思い出すらないんだよな、この娘は・・)  
自分の紡ぐ言葉が、何の慰めになるだろうか。  
自分は彼女の「特別な存在」ではないというのに。  
 
「悪いけど、一人にして・・・誰にも弱い所は見せたくないのよ」  
そう言われては、出て行く他無かった。  
 
(ん・・?)  
マリアの部屋から出ようと、ドアの前に立つフェイトだったが、部屋の外の誰かの声を、 
ドア近くのインターホンが拾ったらしく、細々と聞こえるその声に耳を傾けた。  
『(やぁ、リーダー。我慢なんてしなくていいんだよ。オレの胸で思いっきり泣いて・・っだめだ! 
 あのリーダーからそんなイメージは、とてもじゃないが出てこない・・・)』  
(リーベルッ!?)  
どうやらリーベルがマリアを慰めようと訪れて、だが躊躇しているらしい。  
つくづく情けない男だ、だが・・  
(ま、まずい。このまま出たら・・・!)  
既に遅し。  
フェイトを感知したドアは勝手に開いてしまう。  
 
「あっ、リーダー?!いやその俺・・って、お前・・!?」  
「あ、あははは・・・」  
先にこっちが気づいてしまったものだからさらに気まずい。  
「な、なんでお前がリーダーの部屋から・・・っ!?」  
言いつつ、リーベルは絶望的に顔を歪めている。  
どうやら完全に誤解されている。  
「ご、誤解だよ、リーベル」  
「何が誤解だっていうんだよ!?」  
「そ、それは・・・」  
どうすればいいのか。  
今自分が何を言ってもダムダ・ムーダな気がする。  
 
「・・・・ッ!!」  
その沈黙を行為の肯定と認めたのか、リーベルは目の前にいる男に憎悪を向け、拳を叩きこむ。  
しかし、それは叶わなかった。  
「や、やめろよ!」  
リーベルの拳を、つい反射的に受け止めてしまってから、あっと思った。  
ここで殴られていたほうがよかったかもしれない。  
「ち・・畜生・・畜生ッ・・」  
怒りを浮かべつつ、苦悶の、どうしようもない感情が沸き上がった表情をしている。  
「リ、リーベル、僕は・・」  
どうにか誤解を解かなければ。  
そう思い、極力優しく声をかける。  
だが、リーベルにとってそれは敗者への哀れみとしか思えなかった。  
 
「ハ・・ハハハ・・そうだよな。俺なんかよりお前のほうがリーダーには・・・・くっ・・」  
そう言い残すと、リーベルは走り去ってしまう。が、足元がおぼついていない。  
フェイトは追いかけようと思ったが、  
「今は間がワリぃ。ほっといてやんな」  
と、一部始終を聞いていたらしいランカーに止められてしまった。  
(・・・なんでこんな事に・・)  
 
部屋の前で修羅場が展開してるなか、当のマリアはどうしていたのかと言うと・・・  
「すぅ・・すぅ・・」  
ひとしきり「何か」を流したあと、そのまま眠ってしまっていた。  
 
「・・というワケなんだけど・・・」  
激しく内輪的な問題を抱えてしまったフェイトは、事態を持て余し、誰かに相談することにした。  
リーベルの事を良く知り、さらに自分が相談しやすい人物・・・一人しか思い当たらなかった。  
「そりゃ、リーベルのヤツ、お前とマリアがヤッたと思ってるだろうな」  
言葉を選ばずクリフに言われ、真っ赤になりながらも、フェイトは  
「・・そうだと思う。・・参ったよ、こんな事になるなんて・・・」  
「ほぉん・・で?オレにどうしろってんだよ?」  
「え?」  
「え?じゃねぇよ。リーベルに誤解されて、んでどうするってんだ?」  
「と、解くに決まってるだろ。誤解なんだから」  
当然だ。  
このまま自分が原因で、リーベルとマリアの仲を裂くなんて、冗談じゃない。  
「解く、ってもなぁ?お前は知らんかもしれねぇけどあいつは変に強情なトコあるんだよなぁ・・そうそう簡単にはいかねぇ。 
 ・・大体、ホントにマリアとヤッてねえのか?」  
「そ、そんな事してるわけないだろっ!?」  
だから筋肉オヤジだっていうんだ、と続けたかったが相談に乗ってくれている手前、飲みこんだ。  
その時、部屋のインターホンが鳴り、声が聞こえた。よく見知る女性が外にいるらしい。  
『(クリフ、少しよろしいですか?)』  
(ミラージュさん?)  
「おお、ミラージュか。構わねぇ、入れ入れ」  
「お、おい!?」  
「なんだよ、別にいいじゃねえか」  
するとドアが横にシャッと開き、ミラージュが中に入ってきた。  
「あら、フェイトさん・・」  
「ど、どうも」  
何度見ても綺麗だなぁ、と思う。  
まぁハイダでバンデーンに襲われて以来、中途半端に女運がついたらしく何人も綺麗な女性に会ってきたんだけど・・・ 
そのハシリがこの人だったな。  
 
「で、何の用なんだよ?ミラージュ」  
クリフに言われると、ミラージュは何故かフェイトに頭を下げると、  
「すいません、フェイトさん。そんなつもりはなかったのですが、先ほどの話、聞こえてしまいました」  
「え?!」  
聞かれたということよりも、「聞こえた」という事に驚いた。  
(部屋の外まで聞こえるものかなぁ・・?それとも・・盗聴機でもあるんだろうか?)  
もしくは、クラウストロ人の聴力が成せる業なのかもしれない。  
なんにせよ、フェイトは目の前の女性に畏怖の念を抱いた。  
「あれ、そういえばミラージュさん、ブリッジにいたんじゃ・・」  
「ええ、先ほどリーベルが来て、何か仕事をくれ、と言っていたので交代してもらいました。 
 ・・ずいぶん荒れてましたけど・・それで、何かあったと思いクリフに」  
「・・・・」  
自分のせいで相当リーベルが荒れてるらしい。何もしてないとドツボにはまりそうなのだろうか。  
「それで、私なりにリーベルの誤解を解く方法を考えたんですが・・・」  
ミラージュが言うと、フェイトはぱあっとして、  
「本当ですか!?」  
と聞くと、  
「ええ、でも少し自信がないのでまずクリフに・・」  
ミラージュは言うと、クリフの耳元で小さく何かを囁いた。  
「・・・で、・・・に・・・」  
それを聞くと、クリフは爆笑を始めた。  
「な、なんだよ。何がおかしいんだよ」  
フェイトが尋ねると、笑いを静めつつ、  
「くっ・・くくく・・そいつぁいい。おいフェイト、それで決定な」  
「ミラージュさんはお前だけに聞こえるよういったんだろ、聞こえてないよ」  
そうだったな、という風に、クリフがミラージュに言った。  
「おいミラージュ、説明してやれ」  
「はい、クリフ。・・フェイトさん、その方法というのは・・・・」  
 
その方法を聞いて、フェイトは頭が真っ白になるのを感じた。  
 
「え?私の服を・・?」  
「ええ、しばらく貸してもらえますか?」  
ミラージュはマリアの部屋を訪れていた。  
マリアは少し気分が晴れたらしく、ミラージュの見る限りはいつも通りであった。  
「いいけど・・・どうするの?」  
マリアは今シンプルな寝間着で、すぐにいつもの服を持ってきて言った。  
「ええ、プレート部位は買い換えているから問題ないでしょうけど・・ほら、このマント、布がほつれてる」  
「あ、ホントね・・じゃあ、繕ってくれるの?」  
「もちろん。新品同然にして返しますよ」  
「そう・・じゃあ、頼むわ、ミラージュ。エリクールに着くまでには返してよ?」  
そういってマリアは部屋に引き返して行った。  
「ふふ・・わかっていますよ」  
そのため、何やら含みのあるミラージュの笑顔を見ることは無かった。  
 
ミラージュがマリアの服を持ち、下部デッキの通路を歩いていると声をかけてくるものがあった。  
「あ、ここにいたね、ミラージュ」  
ネルだった。言動から言って、ミラージュを探していたのだろう。  
「ネルさん?私に何か用事でも?」  
ミラージュがネルの方に向き直って言うと、ネルは細長試験管を取り出した。  
「これなんだけど・・・ほら、例のスフィア社の協力者からもらったんだけどさ、効果がわかんないんだよ。 
 フェイトに聞いたらあんたに頼めばいい、っていうからさ」  
謎の液体の入った試験管を受取ると、ネルは一礼して去っていった。  
(・・なんで私に?クォッドスキャナーさえあれば解析なんて容易いでしょうに・・)  
フェイトのことだ、うっかりしてたのだろう。  
くすくすと微笑しながら、ミラージュは自分のクォッドスキャナーを取り出すと、その場で解析を始めた。  
「・・これは・・・?凄い・・・さすがは創造主、ですね・・うふふ」  
異質な解析結果を受けて、ミラージュはまたも含みのある笑顔を浮かべたが、見ているものはなかった。  
ミラージュは鼻歌まじりで、彼等の待つ部屋へと戻っていった。  
 
「おら!もう降参しろ、フェイト!!」  
「いやだー!!なんでそんな事僕が・・!」  
ミラージュが部屋に入ると、そこではまた別の修羅場が展開されていた。  
フェイトは縄でぐるぐるに簀巻にされており、普通なら動けないのだが、エビのようにぴょんぴょん跳ねて、 
無理やり押さえつけようとしてくるクリフから逃げていた。  
「クリフ・・まだ納得しないのですか?」  
呆けながらミラージュが聞くと、  
「ああ、困ったモンだぜ。こっちはお前のためにやってる、てのに」  
とフェイトに目配せをしながら言うクリフ。  
「そんなもの持って言っても説得力ないだろ!」  
クリフが持っていたのは・・・カツラだった。  
いや、ウィッグと言ったほうがいいか。  
青く、長い髪。  
それはある女性の髪を彷彿とさせた。それは・・  
「大体、なんで僕がマリアの格好しなきゃいけないんだよ!?」  
リーベルの誤解を解く方法としてミラージュが語ったのがそれである。  
それから説明も何もなく、クリフは自分を縛り、ミラージュは何処ぞへと消えてしまった上、 
クリフがカツラを無理やりつけようとするので、フェイトには悪ふざけに付き合わされているようにしか思えなかった。  
「もう、クリフ・・・理由を説明しておいて下さいと言ったのに、まだ何も分かってないじゃないですか・・」  
ミラージュはフェイトの縄をゆっくり外しながらやんわりとクリフを責めた。  
ほっ、と安心したフェイトだったが、ミラージュの傍らに見慣れた彼女の服が折りたたまれて置いてあるのを見つけ、再び動転した。  
「・・ミラージュさん、その服って・・」  
「はい、リーダーから借りてきました。」  
「いや、そうじゃなくて、・・何のために・・・?」  
何となく帰って来る答えは予想できたが、一応聞いた。  
「フェイトさんが着るんです」  
やっぱりか。  
やっぱりそう来るか。  
 
「どうしてそうなるんですか!!大体リーベルの話は?!これでどう誤解を解こう、っていうんですか!」  
半分激昂しかけて言うと、ミラージュはやっと説明を始めた。  
「いいですか、フェイトさん・・・リーベルはあなたとリーダーの仲を肉体関係以上だと思っているんです。」  
ミラージュが急に真面目になったので、フェイトも少し落ち着いた。  
それを確認して、ミラージュはさらに続けた。  
「思い込みの激しいリーベルに、フェイトさん本人は言うに及ばず、他の誰が誤解だ、といっても信じようとはしないと思われます」  
「・・ええ、そうですね・・」  
たとえマリア本人がそう言っても無意味な気がする。  
いや、自分を庇護しようとしていると感じてかえって傷ついてしまうかもしれない。だが、  
「そこで、リーダーが直々に、彼に言うんです」  
とミラージュが言うので、フェイトは反論した。  
「いえ、マリアに迷惑をかけるわけには・・それに、多分リーベルはマリアに「誤解だ」って言われても信じるかどうか・・」  
「何言ってんだ、フェイト?」  
「え?」  
「ミラージュは別に、「マリアにリーベルに「誤解だ」つってもらう」なんて言ってねーだろがよ」  
とクリフに言われ、フェイトはミラージュに向き直った。  
「え?じゃあ・・・?」  
他にどんな方法があるんだろうか?  
自分には及びつかない方法に、少し期待しながらミラージュの言葉を聞いた。  
「だから、リーダーに直々に言われれば、流石にリーベルも思い直すでしょう。「好きよ」・・・と」  
一瞬、しんとなり、やっとフェイトの脳に言葉が浸透した。  
「えっ・・ええ!?マリアってリーベルのことを・・!?」  
逆ならバレバレだったが、まさか両思いだったとは。  
 
全然気づかなかった・・などというフェイトの考えを、ミラージュが否定した。  
「いえ、リーダーも疎ましくは思ってないでしょうが恋愛対象としては別ですよ。 
 それにリーダーに迷惑をかけられない、って言ったのはフェイトさんでしょう?」  
「え、マリアに頼まない、ってことですか?じゃ、じゃあ一体・・」  
言うが早いか、クリフが筋骨隆々の腕をフェイトの首に巻きつけて言った。  
「お前がやるんだよ。」  
・・・この一言で、やっとフェイトは事情を理解した。  
「ぼ、僕がマリアの格好をしてリーベルに告白しろ、っていうのか!?」  
「やっとわかったか。つまりはそーいうこった」  
「そ、そんなの上手くいくわけないだろ!大体・・」  
事情は理解したフェイトだったが、納得はしていない。  
当たり前だ。  
露出度はたかくないものの、女装をして、男に嘘の告白をしろなどと。  
甘んじて受けいられるものじゃあない。  
「そんなのできないよ、僕は!」  
「大丈夫だっつの。顔がそれだけ似てるんだから声のごまかしもいくらでもできる・・んだろ?ミラージュ」  
「ええ、先ほど思いかけずいい小道具を手にいれましたから、完璧にリーダーになれますよ」  
二人はフェイトが「そんな器用なことできない」と言っていると勘違いしている。  
だが・・  
「違う!そんな馬鹿なことできない、って言ってるんです!」  
というと、刹那、首に巻きつけられた腕が締まった。  
「ぐぶぶ・・・何するん・・・」  
「お前・・まだそんな事言ってんのか?この御に及んでよぉ・・」  
ギリギリと首が締まり、視点がぐるんと真っ白になった。  
 
「まぁまぁ・・クリフ。本当に嫌なのなら、強要はできませんよ」  
と言われると、クリフは腕を緩めて、  
「・・・まー、確かになァ・・」  
フェイトは心底ミラージュに感謝したが、そう上手くいくはずもなかった。  
「このままだとリーベルは思いつめて首吊り・・なんてことになるかもしれませんけど、まぁフェイトさんには関係ないですしね・・」  
ギクリとする。  
彼が宙吊りになって、足元に遺書がある様を思い浮かべた。  
「え・・」  
「そうだなァ・・全部終わったあと思いつめたリーベルに刺される事は確定だが、今のお前にゃ関係ないしなァ・・・?」  
ヒヤリとする。  
ルシファーを倒した後、ディプロに凱旋し笑顔で皆に受けいられたはいいが 
一人笑ってないリーベルに万能包丁で何度も何度もクシ刺しにされる様が思い浮かんだ。 
そして鮮血を浴びて歪んだ笑みを浮かべるリーベル。  
「そ、そんな・・・」  
「いやそもそも、私が彼にブリッジをまかせたのが間違いだったんでしょうね・・今この瞬間に、 
 彼が自暴自棄にアステロイドベルトに突っ込んで宇宙全体を巻き込み無理心中に走らないとも・・ 
 ああ、銀河の皆さん、ごめんなさい・・」  
「まぁお前は気にすんな。リーベルが勝手にする事なんだからな」  
と、ジト目でこちらを盗み見るミラージュとクリフ。  
もはや、逃げ場はないようだ。  
「・・・わかりましたッ!やります!!僕がやればいいんでしょうッ!?」  
と叫ぶと、さもあらんとばかりに頷く二人であった・・・ 
 
もの凄く、恥ずかしい。  
女装なんて、今までおふざけでだってした事はないのに。  
顔を真っ赤にしながら、「彼」は上部デッキへの階段を駆け上った。  
「あ、リーダー?・・どうしたの、顔真っ赤にして・・」  
すぐそばのベンチに、まだマリエッタが座っていた。スティングはもういないようだ。  
正直焦った。  
「あ、ええと・・」  
場を取り繕おうと出た声は、まさしくマリアのものだった。  
「ブリッジに用事?でもミラージュさん、今いないけど」  
言ってから、彼女の挙動が不審な気がした。  
何か・・  
「マリア?」  
呼んでも、そのマリアから反応は無い。  
「マリアッ!?」  
「な、何ですかマリエッタさん?!」  
・・さん?  
「何よ、マリア・・フェイト君みたいな喋り方して」  
(あ、やばい・・)  
「じょ・・冗談よ。少し星が見たくなってね。」  
フェイトは、ミラージュが用意してくれたカンペ通り、マリエッタに答えた。  
たった2時間で、無数に用意された「マリアらしい台詞」を、徹底的に覚えさせられたのである。  
テストで間違えれば、アクロバット・ローカス。  
正直、その2時間に比べれば大学受験の1年間が天国に思えた。  
「あぁ、成る程?でもいま重力ワープ中だから星なんて見えないよ?」  
とマリエッタがいうと、フェイトはまたも焦燥にかられた。  
(えっと、こういう時は・・・!?)  
 
「そ・・そうだったわね。まあ、ワープ空間を見るのも悪くないんじゃないかしら」  
「んー・・そう?まぁいいならいいけど」  
「え、ええ。じゃあね、マリエッタ・・」  
・・ハァと息をついて、ブリッジの前に立つフェイト。  
(つ・・疲れる・・・)  
ブリッジのドアが静かに開く。  
中にはリーベルただ一人が座っており、ドアとは逆の方向を向いているため、こちらには気づいていない。  
(う・・緊張してきたな)  
何故かフェイトは、自身が今までにない鼓動に苛まれていることに気づいた。  
自分は男だというのに、嘘の告白だというのに。  
(・・あの薬、何だったんだ?声を変えるだけじゃないのかな・・)  
あの薬。  
ミラージュが打ったあの薬・・どっかで見たような色をしていたが。  
フェイトは、先ほどのことを思い出していた、 
 
「よし、これでいいですね・・」  
ミラージュが化粧道具を持ちながら言った。  
「ほぉ・・まるきりマリアじゃねぇか」  
フェイトは、渋々リーベルへの嘘告白を承諾したあと、カツラを付け、少しサイズが小さいマリアの服に着替えた。 
そして、ミラージュに化粧を施されると、ぱっと見、とてもマリア以外には見えなくなっていた。  
「まるきり、じゃないよ・・声はほら、このまんまだし・・絶対気づかれるよ。服だってキツイし・・」  
この時、内心フェイトはマリアの服を見に付けているということで少し興奮したが、 
あまりに変態くさいのと、これはリーベルのためだということで自戒した。  
しかし、声の問題は大きい。  
いくら顔が似ていても、首のラインや体格の良さの違いは否めない。が、それはどうにかごまかせるとしよう。  
だが・・声には何のごまかしも効かない。  
保志声と根岸声ではあまりに差があった。  
「大丈夫ですよ。フェイトさん、手を・・」  
ミラージュはそう言ってフェイトの疑念を跳ね除けると、フェイトの手を取って、注射器を取り出した。  
「ミラージュさん、それ・・?」  
いかにも・・なもの凄い色をした液体が注射器の中にたぷたぷと揺れる。  
フェイトは戦慄を覚えたが時は遅く、液体はフェイトの血管に注がれて行き、やがて注射器はカラになった。  
「・・・・・」  
口をぱくぱくとさせて、目の前の女性に信じられない、というような顔を向けた。  
当のミラージュは臆面もなく、フェイトにこう言った。  
「フェイトさん、声を出してみてください」  
「え、あーーー・・・あっ!!?」  
「おぉ、こりゃすげえ」  
「上手く行きましたね・・・正直、びっくりです」  
フェイト本人も、クリフも、そして注射をしたミラージュも驚いた。  
「マ・・マリアの声になってる!?」  
 
それと同じころ、FD世界のスフィア社5階・・ブレア達のいる場所では、ツァイト姉妹がこんなやりとりをしていた。  
「ねえレイリアさぁ・・この前渡したアレ、出して」  
姉であるシャールが、妹のデスクに赴いて、言った。  
「アレって何?姉さん」  
「アレったらアレだよ・・ホラ、キャラクタ改変プログラムのなれのはて」  
「あ〜・・性別変化くらいしか特性がなくなっちゃったアレかぁ・・ちょっと待って、今探すから・・」  
レイリアは、コンソールを無数に開き、しばらくキーを叩いていたがやがてシャールに話し掛けた。  
「姉さん、アレなんでお蔵入りしたんだっけ?」  
「ん、問題あったからよ。CPUに使ったら思考ロジックがバグって・・ホモったりレズったり。まぁ体は男×女だけどね」  
「・・あ、そうだったね・・対処法は・・?」  
「ん?一発ヤれば直るけど・・どうしたのあんた、ちゃんと探してる?」  
「あはは・・なくなりました」  
「は?!」  
「ん〜・・多分、エターナルスフィアから来た彼等に渡した薬プログラムに混じってたんだと思う・・そうとしか思えないし・・」  
「ええっ!!・・って・・・まあいいか・・性別変わってヤりたくなるだけだし、問題ないか。」  
「姉さん、あのプログラム使うんじゃないの?」  
「いや、思いだしたから片付けようとおもっただけ」  
「そう?良かったぁ・・・」  
良かねーよ・・  
 
リーベルは荒れていた。  
(畜生・・なんで、なんでだよ・・)  
あいつは、フェイトは、やはりリーダーを自分から奪おうとしていた。  
否、既に奪われていた。  
もしかして、という思いはあったがそれを事実として付きつけられると・・  
正直、ここまでリードされているなどと、思ってもみなかった。  
リーダー・・マリアから見て、自分とフェイトの重きはほぼ対等のものだと思っていたのだ。  
(境遇が同じで共感を感じるとしても、こっちはずっと前からリーダーと一緒にいるんだ)  
そう・・思っていた。昨日までは。  
目を閉じると何度でもフラッシュバックする。  
マリアの部屋から出てくるあいつの姿が。  
その旅に、嫉妬と不甲斐無さと情けなさと切なさがごちゃ混ぜになったように沸き上がり、そしてただ耐え忍ぶしかない自分に腹が立つ。  
今自分が座っているのがブリッジのシートであるという事で、彼は自分を押さえつけていた。  
(・・・リーダーが俺のものなんて気になってるんじゃないだろうな、あいつ・・!)  
リーベルの意識はフェイトとマリアの行為の内容を想像するに及んでいた。  
嫌がる彼女を無理やり押し付けて、サドスティックな笑みを浮かべながらそそり立った己で彼女の濡れすぼった秘裂を貫くフェイト。  
甘んじて好意を受け入れつつ少しずつ快楽を見出すマリアの姿。  
フェイトとマリアがまぐわり合う様が、脳裏に映し出されて中々消えない。  
(やめろやめろっ!こんなのリーダーに失礼だろうがっ!)  
不謹慎な自らの妄想を跳ね除け、自責するリーベルだったが、マリアのあられもない姿を想像していたため、 
彼のモノは正常にあるべき反応を示していた。  
(・・・・!・・くそ・・っ!)  
もはやかなわないというのに。  
彼女は自分を選びはせず、あいつに抱かれたんだ。  
身を引くのがスジってものだってこともわかってる。  
しかし、それでも・・・  
(・・俺はっ・・!) 
 
リーベルが悶々と勘違いの自問自答を繰り返すすぐ後ろで、フェイトは自身の体に起きた異変と戦っていた。それが、無責任な女神ふたりのせいとは知る由もないが。  
(なんで、こんな・・・)  
急激に心臓が鼓動していた。  
頬を汗が伝い、地面に落ちる。  
いや、今や額、顔、手のひら・・体中にいつの間にか汗を帯びている。  
(胸が・・苦しい・・)  
体が真っ赤になって、燃えているような気がする。  
喉はひどく乾き、唾を飲みこむが潤いは得られない。  
(ほんの、2、3言・・そうさ、「好き」っていえば、それで終わりで・・)  
その時、くらっと来た。もう思考の波もいつもに比べてずいぶんと弱い。  
(あ、あの薬・・なんだったんだ・・?)  
普通じゃない。  
骨が溶けるような感覚に陥って、やっとそう結論したが、  
この格好で医務室に駆け込むわけにもいかず、今自分がしなければならない事をとっとと終わらせることにした。  
ハァ、ハァと息を荒げながら操縦シートへ近づくフェイトの足どりは重く、おぼつかない。  
だがしかし、リーベルがすぐ目の前に見えるまでにはそんなにかからなかった。  
「り・・リーベルっ・・・」  
やっと出た、掠れた声だった。  
 
頭を抱えて自問自答に没頭していたリーベルは、すぐ横からかかったその声で、現実に引き戻された。  
「り、リーダーっ!?」  
マリアがいた。  
しかも・・・  
「ど、どうしたんです、こんな・・」  
息は荒く、汗がすごい。さらに顔は赤く、目は潤んでいた。  
「だ・・大丈夫だから・・・」  
「大丈夫じゃありませんって!」  
「・・・い・・いいから、話・・を・・」  
そう言うと、マリアの意識は切れ、倒れこんでしまった。  
すんでの所で受けとめる。  
彼女の躯は柔らかくいい匂いがしたが、それよりも異様な体温の高さがリーベルを焦らせた。  
(な、なんだっていきなりこんな・・風邪でもひいたってのか?)  
リーベルはそのマリアを抱えると、すぐさまブリッジをあとにした。 
 
 

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