「あーあいい天気だなぁ.......」  
 
明るい日差しがフェイトをつつむ。  
緑の広原が広がる中で大の字になって寝転ぶ。  
3年前までは考えられない時間の使い方だ。  
ルシファーを倒し、新たな世界を形成したフェイト達は  
当時英雄として祭られる雰囲気があった。しかし、クリフ以外は  
みんな逃げていった。クリフは一人政治の舞台で活躍するハメになる。  
 
「なんか眠いや.......寝ちゃおうかなぁ.......でも怒られるなぁ......」  
 
いい気持ちでうつらうつらとなってきたフェイトは、  
軽く目を瞑った。渡り鳥の声、春の風、柔らかな空気を肌で感じる。  
意識がフワーッとしてくる、これ以上のものはない。  
ごろんと横になると、ふとポケットからメモが落ちる。  
白いメモ用紙には買い物のめもがかかれているようだ。  
達筆で綺麗な字はフェイトのものではなさそうだ。  
めんどくさそうにそれを拾おうとすると、目の前に細い足がそびえる。  
 
「フェイト、あなたは何をやっているのかしら?」  
至福の時間を魔女が狭める。結婚とはこういう事なのだ。  
「あぁぁ!マリア!それ!これはあれだよ!め・・瞑想みたいな!  
 近頃流行っている健康法だよ。。うん、ちょっとやってからね、行こうと・・」  
 
突然の出来事に嘘を連ねる。  
どう考えても瞑想というよりはごろ寝だ。  
フェイト自身口の回りは悪いほうではないと自覚している。  
が、目の前の相手の頭脳を考えると、あんまり得策ではない。  
この場合素直にあやまったほうがいいはずなのだ。  
 
「あなたは私達を飢え死にさせる気なのかしら?」  
 
「ご、ごめん!今行く。今、ほら足がたった!クララがたった...今行くよ!」  
 
慌てて足をかけたか、緑の広がる坂をごろごろと転がっていくフェイト。  
「いたた......い...今行くよ!じゃあ!」  
フェイトは持ち前の俊足であっという間に街のほうへ消えていった。  
 
「もう,,,,サボり症なんだから。あんなにぐうたらだとは思わなかったわね。」  
マリアは軽い溜息と柔らかい笑顔を同時に表現すると、家の中へ入っていった。  
 
窓の外からは春の暖かい風が差し込んでいる。  
ソファーにかけ、目を閉ざす。ふとあの忙しい日々が走馬灯のように甦る。  
フェイトに告白した時は、静かな日々に戻りたいという気持ちがあったが、  
あの頃の忙しさがあって、今の静けさがあると思うと、なんとも不思議な  
気持ちになった。  
 
「よく働いたわ.....ホントに。12歳〜19歳よ?青い春がとんでっちゃったわ」  
その代償としてか、彼女には今幸せな家庭がある。一つの家で、ステキな人と  
過ごす時間。今は、もう一人いるのだけれど。  
 
「う...うー.....」  
誰とつかないうめき声がマリアの耳に届く。  
「そろそろ起きる時間よね。もうフェイトったら早くしてよね」  
気がつくと時計は12時を回っている。お昼の時間らしい。  
「マイト、起きた?」  
マリアは膝を降ろし、床のカーペットに寝転ぶ男の子の顔を覗き込む。  
「ん......んーママァ?おはよう...」  
「眠い?そろそろご飯よ?」  
マイトと呼ばれる子供は、小さな手で目をこすりながら、母親につかまる。  
 
「ママァ。トイレ。」  
「あれ?一人で行けないのかなぁ?」  
マリアは意地の悪そうな笑みをマイトに向ける。  
「だってぇ...」  
「友達のタッチャンは一人でいけるって言ってたわよ。  
 あーマイトはおにぃちゃんじゃないもんねー。まだ赤ちゃんかなぁ?」  
マイトは声を大きくする。  
「赤ちゃんじゃないよ!おにぃちゃんだよ!」  
「じゃあ、一人で行けるわよね?」  
マイトはとことこと歩きながらトイレに向かっていった。  
ついこの前までは歩くのもおぼつかなかった自分の子供。  
「子供の成長って速いのね.....」  
くすくすとマリアは笑った。  
 
シュー。バタッ!自働ドアが勢い良く開く。  
「た、ただいまー!」  
ドアが開いて、入り口の前でスッ転ぶフェイト。  
「遅いわよ!ちゃんと買ってきたわよね?  
 あ!新しいファイトシュミレーターのソフトなんてかってないでしょーね」  
フェイトはビクっと身体を揺らす。  
「(図星なのね....)」  
「あ!あのさ!違うんだよ。今回は凄く面白そうで......  
 マイトでも楽しめるよ。この前のよりね!絶対さ!」  
自家製のファイトシュミレーターを目の前にフェイトが目を輝かせて言う。  
マリアが呆れながら喋る。  
「もう、こんな時間にマイトが昼寝するのも、あなたのせいなんだからね。  
 マイトもあなたも春休みだからって夜中までファイトシュミレーター  
 なんてやって!」  
フェイトはたじろいながら、答える。  
 
「そんな.....マイトだって楽しんでたしさぁ...  
 そうだ!マリアもやろうよ。最近運動不足みたいだし.......」  
「大きなお世話よ!私が太ったって言うのかしら?」  
マリアの眼の色が変わる。その眼を見てフェイトは思い出す。  
あの闘いの日々、常に先人を切っていたマリアを。  
自分がリーダーのようで、実はマリアに引っ張られていた事を。  
本気ヴォックスを一人で虐殺したマリアを。  
レベルが165だからって、あんなに頑張ってでてきたヴォックスを.....  
 
「そんな事いってないよ。マリアのボディーラインは完璧じゃないか。  
 毎晩拝んでるんだし。」  
ばこーん!  
クリフ直伝の→ストレートがフェイトを打ち抜く。  
「マイトが来そうなところでそういう事を言わないでくれるかしら」  
「は....はひぃ.....」  
 
そんなこんなな殺伐としたリビングへテケテケと歩いてくる天子のような男の子。  
二人の子供は緑の瞳と、青い髪、完璧な輪郭を持った美少年......であった。  
「あ!パパぁ。お帰り!ふぁいとしゅみれーたーのソフトかってきたぁ!?」  
ふいにマリアがフェイトにガンを飛ばす。  
「あ.......あなた....約束してたのね....」  
マリアの背後からオーラがほとばしる。  
「ち.....ちが......いません。」  
フェイトは言い訳もできず、その場にうなだれる。  
「まぁあなたが自分のお金を使うのはいいのよ。  
 でもマイトにゲームばっかやらせないでね!マイトもゲームばっか  
 やっちゃダメだからね。」  
「はい....」  
「うん......」  
一人の女性に怒られる一人の男性と一人の子供。ささやかな春の日常。  
 
「さぁて、できたわ。」  
マリアがエプロン姿で、キッチンから料理を運んでくる。  
その姿は世の男にはたまらない光景である。  
だが中身というと.....マリアは、料理が下手だ。  
料理を作る機会が少なかったという事もあるが。  
ちなみにマリアは専業主婦ではない。  
もともとクオークの元リーダー兼凄腕ハッカーなので、コンピュータ―系には  
めっぽう強く、今はIT関係の会社の社長で腕をふるっている。  
フェイトより収入が上なのかもしれないのは内緒だが。  
二人共、エターナルスフィアを救った英雄として、クリフを通して  
旧銀河連邦政府によって作られた新政府から膨大なお金を受け取っている。  
一生遊んで暮らせるほどの額だが、二人とも家にいるタイプでもない。  
出産後、マリアは世間のOL以上に働き出していた。  
 
「できたね....」  
「うん...」  
今日のお昼は軽めのパスタとサラダらしい。  
なぜか浮かない顔のフェイトとマイト。  
そう、彼等は知っているのだ、マリアが作る料理は味が奇妙だと。  
「あら、遠慮しないでいいのよ?普段つくれないんだしね。ていうか食べなさい」  
マリアの凄みに圧倒され、二人は慌てて口に運ぶ。  
パクッ。ぱくっ。  
「むぅ.....なんていうか、コレサラダだよね?」  
フェイトは疑問詩でマリアに投げかける。  
「えぇ。野菜と思われるものを色々いれたつもりよ....見栄えもいいでしょう?」  
何を色々入れたのか、見栄えから見ても想像もつかないほど  
グロイのだが。味ももちろんグロイらしい。  
「ママァ、なんかこれ変だよぉ。おいしくないー」  
マリアが恐いほどの笑みを浮かべながらマイトの顔を覗き込む。  
「あら、マイトのお口には合わなかったかしら?  
 好き嫌いはよくないわよ〜?お隣のタッチャンはお兄ちゃんだから  
 なんでも食べるのにねぇ」  
「食べるよ!お兄ちゃんだもん!」  
マイトはがーっと口につめこむ。  
3歳になるマイトは赤ちゃん扱いされるのが嫌な年頃のか、  
おにぃちゃんという言葉が魅力的なようだ。  
 
「じゃあ私も。」  
マリアが椅子に腰を掛け、料理を口にはこぶ。  
「うん.......美味しいじゃない。失礼しちゃうわ二人共。」  
マリアは平然と料理を食べる。  
どうやら、自分の料理に限り、彼女の味覚は神にも等しくなるようだ。  
マイトはやけになって食事を口に運んでいる。  
フェイトはあぜんとしながら、冷蔵庫から出した単品のチーズばっかりかじっていた。  
「(僕の理想とする奥さんじゃないよね........絶対......)」  
なんとなくソフィアを思い出してしまうフェイトだった。  
 
『一応おしまい』 

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