平和が戻ると思っていた。
サンダーアローさえあれば、戦争が終わると信じていた。
そんなシーハーツの人々の心は、アーリグリフとの戦争の最中に突如として空から現れた物体により
無残に傷つき、絶望していた。形ある物は破壊され、多くの命が奪われた。
あの恐ろしいバンデーン艦を消滅させた己の力を、フェイトはどう受け止めているのだろう。
いや、強大すぎるあの力を受け止める事が出来るのだろうか。
か細い体に宿命を背負った少年。彼のことを考えると、身を切られるような思いだった。
「こんな所にいたのか、ネル」
ハッとして振り返ると、大柄な男が腕を組んで立っていた。
「…クリフじゃないか。大聖堂に居るなんて珍しいね」
「俺ほどココが似合う男はいないだろうが。…顔が暗いな。フェイトの事が心配か?」
「あぁ…。自分のせいで人が死んでる、なんて考えてないかってね。その事ばっかりだ。」
「そうだな。初めて自分の力を知ったんだ。混乱してても無理はねぇ。
だけどよ、アイツにはマリアとソフィアがついてるんだ。心配いらねぇよ」
両手を上へ向け、肩をすくめたポーズのクリフが言った。自分も心配そうな顔をして。
「クリフの言う通りだ。私の心配なんて必要ないね」
そう言って背を向けて歩き出すと
「おいおい、悪い意味で言ったんじゃないぜ?まさか怒ってねぇよなぁ?」
と、私を追いかける声が聞こえてきた。
「怒ってるわけがないだろう。見回りだよ。街が混乱してるんだ、魔物が紛れ込んでないか気がかりでね」
「そ、そうかぁ。なら良かった。よし、俺も行くぜ!ちょうど体が鈍ってたところだ」
バシン、とグローブを叩き合わせる音が、澄んだ空気に響いた。
シランドの街は比較的被害が少なかったが、アリアスの惨状は酷いものだった。
家を失った者、家族を失った者。誰一人笑う者はなく、風の音すら悲鳴に聞こえた。
子供の墓の前でうずくまる女性。星の船への怒りと悔しさで知らぬ間に唇を噛みしめていた。
「おい、ネル」
顔を上げると、いつになく真面目な表情のクリフが居た。
「ここの人を守れなかったのは自分の力不足だ…なんて考えてないだろうな?」
「な、なんだい急に…」
「その顔見りゃわかるってんだよ。お前、さっきフェイトが自分を責めてないかって言ってたけどよ、
今のお前がその状態じゃねぇか。済んだ事は忘れろとは言わねぇが、考えすぎるのは良くないぜ」
「お前に何がわか…」
「戦争は何度も経験してる。人の死もな。守れなかった物の大きさも、知ってるつもりだ」
空のその先、ずっと遠くを見るようなクリフの目は、見た事が無いくらい真剣だった。
「・・・鈍いと思ってたけど、あんた、案外鋭いんだね…」
クリフの気遣いが嬉しかったが、こんな言い方しか出来ない自分が情けなかった。
「なんだそりゃあ。まぁ、憎まれ口を叩けるんなら上等だな。
辛いのはフェイトだけじゃねぇ。俺はよ、お前の事も心配なんだぜ。」
クリフが目を逸らさずに言った。
"心配なんだぜ"。今まで、そんな事を言ってくれたのは、クレアと女王陛下くらいだった。
これがクレアなら ─心配要らない─ と答えるのに、返す言葉が出てこない。
まるで、この男に心配される事が嬉しいかのように、
この真っ直な目で見つめられると、いつもの虚勢が出てこなかった。。
いや、クリムゾンブレイドのこの私に、そんな感情があるものか。
だけどなんだ、この気持ちは。
「なぁ、クリフ…」
「きゃああああああっ!!」
その時、門の方から悲鳴が聞こえた。魔物か!思うと同時に駆け出していた。
「皆!ここから離れるんだ!!はああっ、影払い!!」
「ネ、ネル様!ありがとうございます」
「いいから早く逃げるんだよ!建物の中に入るんだ!」
これ以上、犠牲を出してなるものか!この村から死人を出すものか!
村人を逃がす事に夢中になりすぎて、自分が魔物に取り囲まれている事に気がつかなかった。
「!!危ねぇ!下がれネル!」
私を突き飛ばして魔物から引き離すと、クリフは一人、猛然と魔物の群れに突っ込んで行った。
「オラオラオラオラオラァァッ!ビーン・バッガー!!」
「黒鷹旋!黒鷹旋!黒鷹旋!黒鷹旋!はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
立ち上がって援護するが、二人での戦闘は厳しく、前線で戦うクリフの体力はどんどん奪われていく。
「突っ込みすぎだ、危ないよクリフ!そら、ヒーリング!!」
「助かったぜ!おっとまだ居たか、フラッシュチャリオットォォォ!!!」
「クリフ!その敵は猛毒を持ってる!近づくな!!」
「なにぃっ!?」
白練色に光る毒牙がクリフの腕に向けられたその時、
私は無我夢中で敵の前に飛び出していた。敵に背中を向けたのは初めてだった。
痛みよりも、焼けるような熱さを感じてその場に倒れ込む。
「この野郎、許さねぇぞ!くらえ、アクロバット・ローカスッ!!」
敵の断末魔が頭の上で聞こえ、引きちぎれた敵の体がバラバラと落ちてくる。
全部倒したんだね。村の人は無事かい。あんたが居てくれて助かったよ。
口が動かず、言葉が出ない。体の感覚は無くなり、意識が遠くなっていった。
「ネル!ネル!しっかりしろ!まずいな、顔から血の気が引いてきてる…
そうだ、アクアベリィ!おい、口を開けろ!ネル!!おぉい!!」
遠くでクリフの声がする。返事をしようにも身体が言う事を聞かない。私はここで終わるのか。
悔しいけど星の船の事はあんた達に任せたよ。さっきのセリフ、嬉しかったよ…。
「くそっ、無理にでも飲ませねぇと、こいつはマジでヤバイぜ…!」
もう開く事はないと思った瞳に光が入ってきた。
いつもの何倍もの時間をかけて瞼を持ち上げると、目の前にクリフの顔があった。
「ネル!気が付いたか?」
「クリ…フ…?」
「はぁぁぁ。一時はどうなる事かと思ったぜ」
「あんたが…助けてくれたのかい?」
「無事で…良かった」
クリフは問いかけには答えず、ぎゅう、と私を抱きしめた。
こんな風に男に抱かれるなんて初めてで、恥ずかしさで突き放したかったが
大きくて暖かい体に抱かれるのは心地よく、何故か抵抗できなかった。
「あ…あんたこそ、口から血が出てるじゃないか…」
心臓の音が伝わらないように体を離すと、クリフが出血している事に気がついた。
「これか?アクアベリィの汁だ。口移しでお前に与えたからな。俺はぜんぜん平気だぜ」
「く、口移しぃ?」
「ああ。噛み砕いてから口に入れたから、効き目が速かったんだな。とにかく無事でよかった。
…おいネル、もう、あんな無茶するんじゃねぇぞ」
子供に言い聞かせるように、クリフが私のアゴを掴んで自分を見据えさせた。
素っ頓狂な声を上げた私の事など、まるで意に介さない真剣な眼差しで。
夕日を受けたその顔はとても綺麗で、彼の瞳に、唇に、吸い寄せられるようだった。
その瞬間、自分と彼の"口移し"という行為が頭に浮かんで、急速に頬が火照るのを感じた。
「ん、顔色も良くなったな。そろそろ戻るとするか」
赤い顔を見られたくなくて、クリフの笑顔から目をそらしてしまう。
「そ、そうだね。そろそろラッセルが苛ついてる頃だね」
「あ〜、アイツはイチイチうるさそうだからなぁ。よっこら…しょっと」
「えっ!?」
クリフが私を抱えて立ち上がり、歩き出した。
「こ、こら降ろせ…」
「いーいーから、しっかり掴まってろ。みんな待ってるぜ、"強くて頼りになる"ネルの帰りをさ」
強くて頼りになる自分。それを思い出させてくれたのはあんただよ。
クリフの首に掴まる手に、少し力を込めた。
「…ありがとう」
クロセルへのサンダーアロー取り付け作業も終わり、
憎き星の船との闘いが翌日に迫っていた。
ディオンたちの死に責任を感じて自暴自棄気味だったフェイトも
同じ境遇のマリアと話す事で少しは落ち着いたようだった。
異国の、否、異星の仲間たちは明日、自分たちの世界へと帰ってゆく。
「違う星から来た…?チッ、信じろと言う方が狂ってるよ」
明日の為に体を休めようと自室で横になるネルだったが、彼らのことを考えて寝付けずにいた。
そして、今日のクリフの体温を思い出していた。
「今になって、あんな表情を見せることはないじゃないか…」
間接的な言葉ではあったが、自分を励ましてくれたクリフの真っ直ぐな目。
広い胸、太い腕、そして、温かい唇…
「ドンドンッ!」
誰かが扉を叩く音で、現実の世界に戻された。
慌てて立ち上がり、さっと髪の乱れを整えて扉に向かう。
「だ、誰だい?こんな時間に?」
「俺だぁ、開けてくれーぃ」
ほんの一瞬前まで自分の頭の中で優しい微笑を浮かべていた、あの男だった。
カチリと鍵を外す。
「よぉ、入るぜ」
扉を開けると、いつものクリフが居た。手に何か袋を持っている。
「クリフ、まだ起きてたのかい?」
部屋に通して椅子を勧め、自分はベッドに腰掛けた。
「ん、まぁな。こう運動不足じゃ眠くならねぇよ。ネルこそ、起きてたんだな」
「あ、ああ。明日の作戦が気になってね」
「そうか。さすが任務に忠実なこった。まぁまだ時間はあるしな。ところで…
や ら な い か ?」
突然のクリフの言葉に、ネルも面食らった。
「なっ!なんだい、いきなり!!」
顔を真っ赤にして立ち上がる。ベッドから離れなければ、と本能が悟ったのか。
ここで護身刀を持っていたら構えていたかも…いや斬りつけていたかもしれない。
「おいおいどうした?落ち着けよ。これなんだが…」
ゴソゴソとクリフが袋から一本の瓶を取り出した。「船中八朔」と書かれている。
「いつも、お前の施術…?だっけか、あれで助けてもらってるからな、ほんの礼だ。
この酒は魔力の回復に利くらしいぜ。どうだ、俺と一杯、や ら な い か ?」
…そういう事なら早く言え、と思ったが、変な想像をしていたと思われたくはない。
「い、いいねぇ。ノドが乾いてたんだ」
くるりと背を向け平静を装ったが、上ずった声と、コップをガチャガチャ言わせる音で
クリフにはお見通しのようだった。ニヤニヤした顔で部屋を見回している。
ますます恥ずかしくなり、顔の赤さを酒のせいにしようと一気にコップを空にした。
「お、強いな。このチームじゃ飲み交わせるのはお前しかいないんだ。じっくりやろうぜ」
クリフもぐいと飲み干し、満足そうな笑顔を浮かべた。
ダムダ・ムーダからくすねて来たと言う酒は旨く、疲れた体に力がみなぎるようだった。
酒のおかげかクリフはいつもの何倍も饒舌で、ネルは久しぶりに心から笑っていた。
会話が途切れて、朝になる事が怖かったのかもしれない。色んな話をした。
今夜でゆっくり話す事も最後になるだろう…そう思ったネルは思い切って、以前から気になっていた事をクリフに問いかけた。
「あの、お前が空飛ぶ船で一緒に来たって言う女なんだが…」
「あぁん?ミラージュか?」
「ミラージュ、だったか。くちなし色の髪の女だ。あれはお前の…」
「くちなし色ぉ?なんだぁそりゃ?」
「いや、黄金色と言うか、山吹色と言うか、とにかく!お前と、どういう関係、なんだ…?」
「アイツか?俺を見りゃあ文句を言いやがる。まぁ腕も頭もいいから仕方ねぇな。
俺にはただの怖い女なんだが、けっこうオヤジ共にゃ人気らしいぜ。はっははは」
軽く笑い流すクリフの姿に安堵し、ため息混じりの笑い声が漏れた。
「それよりよ、さっきのナントカ色ってやつだけど、フェイトの髪は何て言うんだ?」
「ああ、フェイトやマリアの髪の青なら…千草色ってところかな」
「チグサイロ?それも聞いたことねぇな。俺はどうなんだ?」
「あんたは女郎花…いや、菜の花色だね」
無意識のうちにクリフの髪に触れようとしていた手を慌てて引っ込める。
「へぇ、よくスラスラ出てくるもんだ。お前みたいな古風な女、俺は好きだぜ」
「えっ…?」
「好きだぜ」という言葉の意味よりも、サラッと言ってのけたクリフに驚いた。
"古風"という感覚はわからなかったが。
「で、お前のその髪は、何色ってんだ?」
どぎまぎするネルを楽しむかのように、次々と質問をするクリフ。
「あ、あたしかい?これは牡丹色って…」
言い終わらないうちに、クリフの手がネルの髪に触れていた。
「綺麗な色だ…。いや、綺麗だ。ネル」
クリフはそう言うと、ネルの後頭部に回した手に力を込め、己の唇へと引き寄せていた。
「んんっ、な、んっ!」
突然の口付けに、グラスを落としそうになる。
それもネルが知っている軽い口付けではなく、心の在り処を確かめ合うような長い口付け。
初めは逃れようとしたネルだったが、体の力は抜ける一方で、抵抗する気は失せて行く。
次第に自らもクリフの舌を探りはじめ、グラスの割れる音など耳に入らなくなっていた。
やっと唇が開放された時、既にクリフの手はネルの胸の頂上を目指していた。
「い、いや…」
その手を制止しようとしたが、いつものネルの剣幕ではなかった。
クリフはベッドに座りなおし、ネルを後ろからきつく抱くと
「本当に嫌なら止める。けど俺はお前を抱きたいんだ…」
そう耳元で囁いた。
耳にかかる息がネルの最後の砦を崩すように、ネルの体をクリフにもたれさせた。
隠密として、様々な物を捨てて疾走し続けてきたネル。
最初に捨てたはずの女としての自分を、クリフには見せられる、そう思い始めていた。
少しの沈黙と圧し掛かる体重で、ネルの本心は充分にクリフに伝わった。
髪を撫で、耳に口を付けて舌を這わすと、ネルの口から熱く短い息が漏れた。
クリフのごつごつとした大きな手が、胸に当てた布の横から入ってくる。
その指が先端に少し触れただけで、ネルは下半身に熱い何かが湧き上がるのを感じた。
大きいが器用な指で、ネルの服を少しずつ解いてゆくクリフ。
耳にかかる息に意識が集まる。そのうちに、ネルの衣服は全て取り除かれていた。
バサッ。
背中ごしに、クリフがシャツを脱ぐ音が聞こえる。
素肌に感じるクリフの体はさっきよりも温かかく、それだけで気持ちがよかった。
「紋章…体中にあるんだな」
上腕や太ももの紋章の痕を、そっと指でなぞりながらクリフが言う。
重大な使命を背負う者の証のように、ネルの体を彩る紋章たち。これのせいで、望まぬ苦労をした日々もあった。
「それは…触らないでほしいんだ。仕事の事を思い出しちまう…」
クリフは何も言わずに体を離すと、ネルの体を半回転させ自分と向き合わせた。
初めて見るクリフの裸体にはあちこちに酷い傷跡があり、嫌でも目に留まってしまう。
「ん、この傷が気になるか?これはフェイズガンで撃たれた時のだな」
軽く笑いながら、自身の体にある数箇所の熔けたような傷跡を指す。
「いや、あんたも戦いの中で生きてるんだな、って思っただけさ」
その傷跡にそっと手を乗せるとクリフの鼓動が伝わってきて、違う星に生まれていようが
自分たちは同じ種類の人間だと思えて、嬉しかった。嬉しいのに、涙が出た。
涙を見られないように背を向けると、後ろから胸を揉まれて体がピクンと硬直する。
これから行われる行為を想像して力一杯に閉じた両足は微かに震えていた。
「…初めてか?」
クリフが聞いた。やはり鋭い男だ、と思いつつ、恥ずかしかったが素直に頷いた。
「…やめたくなったら、すぐに言えよ」
それだけ言うと、コーヒーテーブルのクロスを取ってシーツの上に引き、
その上にネルの腰がくるように、しなやかな身体を持ち上げ、両足の間にクリフが身を滑り込ませる。
「やっ…」
その体勢の恥ずかしさに、ネルは顔を両手で覆うしかなかった。
「ふふっ、ここは桜色ってところだな」
がら空きになった胸の突起に触れ、舌で転がしては吸い上げる。
もう片方の空いている方の胸は、クリフの手の中でしっかりと存在感を主張していた。
「ぅっ…ぁぁ…」
味わった事の無い感覚に教われ、こらえきれずに甘い声が漏れた。
「声、出していいんだぜ…。聞こえや、ハァ、しねぇよ…」
乳首に口をつけたまま話すクリフの言葉が、ますますネルを刺激した。
「あ、あぁ…恥ずかしい事を…言わないで、おくれ、よ…。ああああっ!」
その素直な反応にクリフも興奮を隠せなかった。ズボンの中で熱くなるモノを早く放出させたいと、愛撫を続ける手に力がこもり、舌の動く速度が速まる。額には汗が光っていた。
ついにクリフの指がネルの割れ目に到達した時、すでにそこは熱く潤っていた。
自分でも見た事のない部分に、クリフの顔が近づいていく。絶えられない羞恥だった。
「い、いやっ、そこは止め…」
逃れようと腰を上にずり上げるがクリフの力には敵わず、抵抗は簡単に終了した。
クリフはネルの腰を自分に近づけると、秘部に指を入れ、入り口付近で曲げてかき混ぜる。
「う、うあぁぁっ!!」
その行為にネルの体が大きく仰け反る。それを見てクリフは満足気に、かつ優しく微笑んだ。
その微笑みに安堵した瞬間、クリフの舌がネルの中に入ってきた。
「ひっ、ひゃあああっ!」
生暖かい異物の侵入にネルは混乱し、自分でも驚くほどの声を上げた。
「へっ、かわいい声を出すもんだ…」
ネルの反応を楽しもうと意地の悪い事を言うクリフの顔も、すっかり上気していた。
自分のアソコを舐められる音が、部屋に響く。
押し寄せる官能の波と羞恥心が、ますますネルの体を卑猥にくねらせる。
首を持ち上げて下を見ると、時折り眉を上げてネルの表情を見やるクリフの顔に自分の鳶色の恥毛が髭のように張り付いている。行為に慣れないネルには、見るに耐えなかった。
「はぁっ、はぁっ、も、もう、いいじゃないか…」
ネルは恥ずかしさで泣きそうな声になりながら、早くこの行為を終えたいと伝ると、
「んはっ、初めてだしな、んんん…そろそろ、終わりにするか…」
やっと口を放したクリフがズボンのファスナーを下げ、いきり立ったモノを露にする。
そのあまりの大きさに、ネルは言葉を失った。
「…心配なら、やめてもいいぜ?」
凍りついたネルの表情に気付いてクリフが言ったが
「いや、私は、あんたと結ばれたいんだ…」
勇気を出してそう言うと、ネルは自分からクリフのモノに手を伸ばした。
柔らかさと硬さをあわせ持つ物体はドクンドクンと脈打ち、臓器の一部であることを主張していた。
手にしてみたものの、その巨大な肉棒の扱い方がわからずに、己のモノを掴んだまま動けないネルを見て、クリフがククッと笑い声を上げた。
「無理するんじゃねぇよ。今日は黙って寝ててくれればいいさ」
そう言うと、ネルの腰に手をかけ、じりじりと距離を縮めてゆく。
「痛っ…」
先端が入り口をこじ開けた時点で、ネルは痛みを感じて小さく声を上げた。
クリムゾンブレイドの隠密ならば、敵にどんな拷問を受けようと「痛い」などと口にする事はない。
しかし今は、愛する者と一度限りの痛みを分かち合いたいと思っていた。
「もう少し、ハァ、入るぜ…」
ネルの締め付けに余裕を無くしたクリフが、すぐに迎えるであろう絶頂を目指し根元まで挿入する。
「あああああっ!い、痛いっ…。だ、大丈夫だ…来てくれ…」
ネルの太ももまで鮮血が伝い、紋章を汚してゆく。
ズブズブと肉を割って全てが収まると下腹部に膨らみを感じるほど、クリフのそれは大きかった。
「少しだけ、動くぞ…」
意外なほど荒々しさのない動きでクリフの腰が前後し、顎を伝った汗がネルの胸に落ちる。
もう最初ほどの痛みは感じなかったが、初めてのネルには合わせて動く余裕など無かった。しかしクリフのモノが中で動くたびに締まりを増すネルの肉壁は、何もしなくともクリフに刺激を与えていた。
「はあっ、はあっ、も、もう出るぞっ!」
「はぁっ、もう、お、終わってくれっ!」
ネルの頭が真っ白になり、体中の力が抜けていく。
同時に、クリフの精もネルの中に放出されていた。
しばらく肩で息をしていた二人だったが、目が合うと再び口付けを交わし微笑みあった。
クリフが張りを失ったモノを引き抜くと、シーツの上のテーブルクロスに、初めての証を含んだ紅色混じりの白い液体がドロリと溢れ出た。
痛みより、別れより、結ばれたことの喜びがネルを支配していた。
汗も引き、脈も落ち着いた頃、シーツに包まったままのネルが切り出した。
「明日、全てが終わったら…」
「終わったら?」
星へ帰るのかい?もう会えなくなるのかい?私のことを忘れるのかい?
「いや…クレアや女王に恩返しをしないといけない、と、思ってね」
聞きたい事は山ほどあったが、口にするほど幼いネルではなかった。
「酔った勢いなんかじゃねぇからな」
すでにベストを身に着けたクリフが、唐突に言う。
「え…?」
「アリアスの村、あそこはひでぇもんだ。復興には男の力が必要だろ?」
いつもの調子で言うクリフの顔は、涙で滲んで見えなかった。
〜完〜