「んっ、あっ、はあ……」  
室内に甘い声が響く。  
ここはペターニの職人ギルドにある一室。  
ベッドがひとつ置いてあるだけの何とも殺風景な部屋だ。  
部屋の窓際に位置しているベッドの上でウェルチはギルドマスターの上に乗り快楽に酔いしれていた。  
「あ〜、いい……もう少しでイキそう……あんっ……」  
ウェルチとギルドマスターがこういう関係になったのは半年ほど前のことだ。  
仕事仕事の日々に追われ、男をつくる余裕のなかったウェルチは仕事が終わると誰もいなくなったギルドの一室で、毎日のように自慰にふけっていた。  
ある日のこと、仕事を片付け、誰もいなくなったことを確認したウェルチはいつものように自分を慰めていた。しかしトイレに篭っていたマスターに気付かなかったために、行為中の所を見られてしまったのだ。  
普通ならば恥ずかしさのあまり逃げ出してしまうであろうその場面で、ウェルチはマスターを誘惑した。見られてしまったものは仕方がない。どうせなら利用させてもらおう。  
そう考えたのである。  
それからというもの、マスターはこうやって仕事が終わっては毎晩ウェルチに付き合わされていたのだった。  
「あっ……んっ……まだよ、あんたは……まだイクんじゃないわよ……!!」  
「おほっ……そんなこと言っても……もう無理じゃって……うっ!!」  
ウェルチの下で懸命に腰を動かしていたマスターの動きが止まる。  
膣内でマスターのものがビクン、ビクンと痙攣した。  
「あっ!あんたイったわね!!」  
「はひー、はひー……もう無理じゃよ……わしには……お前さんの相手はキツすぎる……」  
「……ったく、使えないわね〜。もう少し頑張れないの?こんなかわいい娘とエッチできる男なんてそうはいないわよ。あんたみたいなじいさんなら尚更ね。……あ〜あ、もういいわ、白けた。帰ろ帰ろ」  
そういうとウェルチはさっさと服を着て出て行ってしまった。  
「ううっ……わしだって、わしだって若い頃は……ううっ、グスっ」  
一人取り残された部屋でマスターのすすり泣く声だけが空しく響いた。  
 
翌朝、いつものようにマスターがギルドに顔を出すとウェルチはあからさまに素っ気無い態度をとった。  
「ウェ、ウェルチ、おはよう」  
「……何だ、じいさんか」  
「……」  
「そんなとこに突っ立ってないで早く準備しなさいよ」  
「……はい」  
そう言うとマスターは逃げるように奥の部屋へと入っていった。  
ウェルチを満足させられなかった次の日は大抵こうだ。  
ああいう態度をとられることに慣れてきてはいたが、やはり仕事を一緒にする以上、このままでは気まずい。  
それに何だかんだ言ってもやはりマスターも男だ。ウェルチのような若くて美人を抱けなくなるのは惜しかった。  
まずい、何とかしなければ……そう思いながらギルドの受付に戻るとウェルチか机の上に脚を乗せているのが見えた。  
「あ〜、どこかにいい男いないかな〜。こんな職場じゃあね〜」  
ウェルチはマスターが戻ってきたのに気付くと、  
「じいさんの相手するの疲れたしな〜!!」  
とあからさまに意識した声で叫んだ。  
居たたまれなくなったマスターはとりあえずこの場から離れたいと思い、職人の様子を見てくるとウェルチに告げ、ファクトリーに向かった。  
 
工房の中は相変わらず騒々しい。一所懸命に何やら作業をしているエプロンを付けた少女。  
おそらく娘であろう女の子の頭を撫で続けている男。実に様々な技能を持ったクリエイター達が創作作業に勤しんでいた。  
その中でおそらく自分と同じくらいの歳であろう男をマスターは発見した。  
クリエイターリストと照らし合わせてみる。おそらくあの男はゴッサムという調合を得意とするクリエイターだろう。  
そういえば街の広場で見かけたことがあった。若い女性の尻を追いかけてボコボコにされていた男だ。いい歳して見境もなく女性を追いまわすとは……。  
自分のことを棚に上げて、軽蔑の眼差しでゴッサムを見つめるマスター。そんな視線に気が付いたのか、ゴッサムはこちらに向かって近づいて来た。  
「なんだ?何を見ている。男に見つめられるのは気持ちが悪い。あっちへ行け」  
「…………」  
ウェルチに見下され挙句の果てにはこんなスケベじじいにまで……。  
マスターは首を吊りたい気分になってきた。  
「……何だ。まだ何か用があるのか?」  
その場で黙り込んだマスターに気付きゴッサムが面倒くさそうに言う。  
「はーん……そうか。ワシの天才的調合技術に見とれていたな?  
よし、ギルドマスターということで特別にワシの発明したとっておきの秘薬を見せてやろう」  
「はい?秘薬?」  
マスターがそう言い終える前にゴッサムは腕を掴み、工房の奥へと引っ張って行った。  
 
「これじゃ。これがワシの発明した夢のような薬じゃ」  
そういってゴッサムは試験管の中で妖しく光る液体をマスターの前に差し出した。  
「お前さんはワシと同じくらいの歳だろうから分かると思うが、この歳になると毎晩女性の相手をするのは正直ツライ」  
それを聞いたマスターは思わず吹き出しそうになってしまった。  
この世界のどこにこんなスケベじじいに体を許す女性がいるというのか。  
マスターは冗談も程々しろと言いたくなったが取り合えず我慢した。  
「そこでこの薬。ゼツリーンXの出番というわけじゃ!」  
そういって液体の入った試験管を横に振る。  
「ゼツリーン……X?」  
「そうじゃ、これを飲めばそこらにいる若造共に負けん位の肉体や精力が手に入る!  
ぐふふふ、どうだ?素晴らしいだろう?」  
「そ、そうですなあ」  
マスターの適当な返答に不満だったのかゴサッムは  
「信じてないな?無理もない。しかしこれの効果は本物だ。すでに実験済みだからのう」  
と言ってマスターに顔を近づける。  
「欲しいか?欲しいだろう?ぐふふふ、お前さんには特別分けてやってもいいぞ?」  
正直ゴッサムを信じたわけではなかったが、物は試しだ。仮に効果がなかったとしても別に何も問題はない。発明品リストを見た限り、この男の作る薬はどれも如何わしい名前のものばかりだった気がするが、人体に悪影響を及ぼすものを作ったという報告はなかった。  
マスターは大して期待をせずにその薬を受け取り、ギルドへと戻って行った。 
 
マスターが戻ると受付にウェルチの姿はなく、ほとんど無人状態になっていた。  
「……泥棒が入ったらどうするつもりなんじゃ、まったく」  
そう言いながら奥の部屋へ入ろうとした時、僅かに開いたドアから喘ぎ声が聞こえてきた。  
驚いたマスターは恐る恐るドアに近づいて耳を澄ます。  
「ああっ、いいっ!あ、そこを……もっと奥を舐めてください……ああっ!」  
その声は間違いなくウェルチのものだった。  
「(い、一体誰と!?)」  
年甲斐もなく独占欲丸出しの老人は敵意をみなぎらせ、その相手を確認しようとドアの隙間から部屋の中を覗き込んだ。  
「(あ、あれは……フェイト君!)」  
ウェルチの相手は、ほんの数週間前にクリエイター登録をしにやって来たグリーテンの技術者を名乗る青年だった。  
「(や、やっぱり若いやつの方がいいのか、ウェルチ……)」  
マスターの中でドス黒い感情が渦をまき始めた。  
「(ワシだって……ワシだってまだまだいけるのに……うぬぅ)」  
そう思いつつも悲しいかな、二人の行為を見て欲情したマスターは必死になってペニスをしごく。  
「……ふう。すごい濡れ方ですね……」  
そう言ってフェイトはウェルチの秘部から顔を離す。  
「うふふ……ごめんなさい。最近欲求不満で。淫乱な女だと思って引いちゃいました?」  
ウェルチが頬を赤らめながらそう聞くと、フェイトが慌てて答える。  
「そ、そんなことありませんよ!ウェルチさんみたいな人とこういうことができるなんて凄く嬉しいです。  
初めて見た時にかわいい人だなあって思ってましたから」  
「じゃあ、いっぱい愛してくれますよね?」  
「は、はい!あ、でも本当に大丈夫ですか?仕事中なのに」  
「あ〜、いいのいいの。どうせあのじいさん、しばらく帰って来ないだろうし。まあ居ても居なくてもどっちでもいいんだけど。  
……そんなことより早くしましょう?」  
甘えるような声でフェイトを誘うウェルチ。  
「ウェ、ウェルチさんっ!!」  
「キャッ」  
 
まるで飢えた野獣のようにウェルチに飛びかかるフェイト。  
それを見ていたマスターは膨張した自分自身を壁に擦りつけ、快感を得ようと腰を動かす。  
「(……ウェルチ、ウェルチ、ウェルチッ!!)」  
一方、部屋の中ではウェルチを下にして懸命に腰を振るフェイトの姿があった。  
「あっ……いいっ!もっと、もっと突いて下さいっ!!……やっ、あっ!」  
「はあはあ……ウェルチさんの中……温かくて……すごく気持ちいいです」  
快感のために行為に没頭する二人。ピストンを数十回繰り返したところでフェイトがウェルチの耳元で囁く。  
「ウェ、ウェルチさん……僕、もう……」  
「あ……はい、いい……ですよ。あっ……いつでもイって下さい……んっ、ぜ、全部……受け止めますから……っ!」  
「ウェルチさん!……出るっ!!」  
そう言うとフェイトは動きを止め、溜まっていた欲望をウェルチの中に注ぎ込む。  
「ああっ!!……お腹が……熱い…………」  
ビクンビクンと痙攣しながら自分の中で射精を続けるフェイトのモノを、搾り取るかのようにきゅっと締め付けるウェルチ。  
「うあっ、……くっ、ウェルチさん……そんなに……締め付けないで下さい……」  
「はあ……はあ……ん……。フェイトさん、私の中、気持ちよかったですか?」  
満足そうな表情でウェルチが聞くと、フェイトは彼女の中に入っていた自分自身を引き抜いてから言った。  
「最高でしたよ。こんなに気持ちよかったのは初めてです。……それでお願いがあるんですけど……」  
「……?……あっ、はい。綺麗にしますね」  
そう言ってウェルチはフェイトのものを丹念に舐め始めた。尿道口のあたりを重点的に刺激するとフェイトのモノはすぐに大きさを取り戻した。  
「うふっ、これはら……もふいっかひ……できますね?」  
ペニスをしゃぶりながら上目遣いに見上げているウェルチを見てフェイトはこれまでに無いほど興奮した。  
 
「ウェルチさん……そこの壁に手をついてお尻をこっちに向けてくれますか?」  
「はい……こう……ですか?」  
そう言ってフェイトに言われたとおりに壁に向き直り手をつく。  
「ふふふ……お尻の穴まで丸見えですよ、ウェルチさん」  
「やあ……恥ずかしいです……あまり見ないで下さいね」  
恥ずかしさで真っ赤になったウェルチの顔を確認するとフェイトは一気に貫いた。  
「ああっ!!すごいっ!!」  
パンパンパンと湿った肉のぶつかり合う音が室内に響く。  
「フェ、フェイトさんのが……お、奥まで届いてますっ!!」  
トレードマークともいえるツインのテールを振り乱しながらウェルチが喘ぐ。  
フェイトは後ろから、やや乱暴気味に二つの膨らみを弄る。  
すっかり硬くなった先端の部分を指で摘む。  
「……あひっ、……もっと、もっとおっぱいを弄ってくださいっ!!」  
「柔らかくて素敵ですよ、ウェルチさん……。そろそろイきそうなんで……どこにかけて欲しいか……ちゃんと言ってくださいっ!!」  
ウェルチをバックから責めることによって、すっかりサディスティックな気分になっていたフェイトは乱暴に言い放った。  
 
「ああっ……もうダメ……ダメですっ!……私……もう……イっちゃいます!!」  
「どこに……かけて欲しいか……ちゃんと言ってくださいよっ!!ホラ!」  
喋りながら腰の動きを速めたため、パシンパシンという音の間隔が短くなってくる。  
「あっ、ああっ……か、顔にかけてくださいっ!!あんっ!」  
ウェルチのその言葉を聞くと、フェイトは満足した表情で腰の動きを早める。  
「ちゃんと……言えましたね……はあはあ……それじゃ、望みどおりにっ!!」  
「やああっっ!!!イクっ、あああああああっっ!!」  
今までで一番大きな声を上げて壁に向かって反り返るウェルチ。  
「うあっ、で、出るっ!!」  
そう言って結合部からペニスを引き抜くとウェルチの顔に向かって精子を放出する。  
綺麗な顔に白濁色の液体が大量にかかっていく。  
「はあはあ……あはっ、あったかいですね……んっ、んっ」  
今日二回目だというのにフェイトの射精は中々終わらない。  
「はあはあ……うっ、くっ、まだ……出ますから……」  
そう言ってウェルチの下唇のあたりにペニスの先端を擦りつけるように動かす。  
「んっ、んっ、んっ………」  
その行為を黙って受け入れるウェルチを見て、先程から放置されていたマスターは壁に向かって、最近ではめっきり量の少なくなってしまったものを放出した……。 
 
行為が終わっても二人は一向に部屋から出てくる気配が無い。  
壁に出してしまったものはなんとか処理したものの、中の様子が気になって仕方が無いマスターは二人の様子を窺おうとドアに耳をつけた。  
「………あっ、んっ、はむ……ん……」  
……どのやらベッドの中でいちゃついている様だ。激しいキスを繰り返しているのだろう、時折息を吸う音が聞き取れる。  
「ああっ……やん……もう!ダメですって!……そろそろ仕事に戻らないと……」  
「……あと一回だけしましょうよ……ウェルチさんのココ、こんなになってるじゃないですか」  
マスターにとってそれは聞いているだけで腸が煮えくり返ってくるような会話だった。  
昨日までウェルチの相手は自分だったのだ。ほぼ彼女の奴隷のようなものだったが、二人の関係について、マスターは満足していた。  
ウェルチと交わることで、自分はまだまだ現役であると自信を持つことができた。  
しかし今、そのすべてが音を立てて崩れ去ろうとしている。何とかしなければ……。  
そんな思いめぐらせていると決定的な発言がウェルチから発せられた。  
 
「フェイトさん……今晩ここで待っていますから……来てくれますか?」  
「(……!!)」  
マスターの顔色がみるみる変わっていく。これではウェルチに宣告をされたも同然であった。  
そんなことは露知らず、今夜の約束をする二人。  
「……それじゃあ何時頃ここに来ればいいかな?」  
「えーと、仕事が終わるのが8時頃だから……9時頃ですね。……ちゃんと来てくださいね」  
「当たり前じゃないですか。今夜は寝かせませんよ、あはははは」  
そういってフェイトは身支度を整えドアノブに手をかけた。  
その気配にいち早く気付いたマスターは高速の速さでその場を後にしたのだった。  
 
マスターは仕事を終え、広場に座り込んでいた。  
あの後、帰り際にウェルチに今日はいいと面を向かって言われたが、大したショックはなかった。  
それよりも何とか彼女をもう一度自分の方に振り返らせたい……その思いでいっぱいだった。  
すでに陽は沈みかけ、約束の時間が刻々と迫りつつある。何とか、何とかしなければ……。  
しかし一体どうすれば……頭を抱え、何とか打開策を探ろうとするマスターにひとつの光明が射した。  
あのゴッサムというクリエイターに渡された薬。  
「確か若い頃の肉体や精力が手に入るとか何とか言っていたの……こうなったらヤケクソじゃ!!ワシの熱き魂を見せてやるわい!!」  
そういって薬を一気に飲み干す。  
 
「……ん?……何も起こらんが……。………やっぱりただのインチキ薬じゃったか……。  
はあ〜、もうお終いかの……」  
ガックリと首を落とすマスター。  
その時異変は起こった。  
「な、何じゃ?……か、体が、急に熱く……な、何が起こっとるんじゃあああっっ!!」  
焼けるような熱さを体の奥から感じる。と同時に視界が歪む。足元がふらつく。  
マスターは体を引きづって、何とか街の裏路地までたどり着いた。  
満足に歩くことができず、家の壁に沿って並べられたゴミ箱に突っ込んでしまう。  
「(わ、ワシは……このまま死ぬのか……ウェ……ウェルチ…………!!)」  
声にならない叫びを上げてマスターは意識を失った。 
 
ペターニの街はすっかり闇に包まれ、街灯の光だけが輝いている。  
ギルドの一室でウェルチはフェイトが来るのを待っていた。  
「うふふふ……久しぶりのイイ男ゲットね!誘惑成功してよかったあ。やっぱりじいさんが相手じゃ満足できないし……早くフェイトさん来ないかな〜」  
いやらしい笑みを浮かべながら期待を膨らませているとふいに部屋のドアが少しだけ開かれた。  
……しかし、誰かが部屋の中に入ってくる気配は無い。  
「……フェイトさん?」  
不思議に思ったウェルチがドアのほうに向かって尋ねる。  
……やはり反応は無い。  
気になったウェルチがドアに近づいたその時。  
「ウェルチ」  
背後から自分の名を呼ばれ、驚いて振り返ると、そこには筋肉隆々の大男が腕を組んで立っていた。  
「ひっ!」  
ウェルチは思わず悲鳴を上げてしまった。  
先程まで自分しか居なかったはずの部屋。そこに突然現れた大男。  
しかも……その男は全裸だった。  
 
普通の女性なら大声を出しているところだろう。  
しかしウェルチは意外にも冷静だった。  
「……だ、誰よ、あんた!?いつここに入ったの!?」  
「そう驚かんでも良いじゃろ。ワシじゃよ、ワシ」  
男はウェルチの質問に髭を撫でながら答えた。  
「……わ、ワシ?」  
「見て分からんかのう?ワシじゃ、ギルドマスターじゃよ」  
「……はあ?」  
何を言ってるんだ、という表情で聞き返すウェルチ。  
「まあ、少し体型が変わったかもしれんがの」  
「全然違うんですけど……っていうか何で素っ裸なのよ!」  
あまりの突然の出来事に男の何者か、という事だけに焦点がいってしまっていたが、このギルドマスターを名乗る男は見事なまでに全裸だった。  
「服が小さすぎて破れてしまったんじゃよ、それで仕方なく裸でここまで来た、というわけじゃ」  
「あのさあ……人呼んでいい?」  
「まだ信じていないのか?ふむ、それならばこれならどうじゃ?」  
そういって部屋にあるベッドを指差す。  
「そのベッドでワシとお前は毎晩愛し合っていた。もう半年くらいになるかの」  
「な、なんでそれを……」  
「だって本人じゃからの」  
自分とマスター以外知らないはずの秘密。それをこの男は口にした。  
彼が他の人間に秘密を話したりはずがない。何せ彼とウェルチは女王様と奴隷のような関係だったのだ。  
そんなことをすれば何をされるか分かったものではない。それを身をもって知っているはず。  
 
「……ほ、ホントにじいさん?」  
「そうじゃ」  
「な、何でそんな姿に……」  
ウェルチが信用し始めたその時、半分開いたままだったドアが開いた。  
「ウェルチさん、待ちましたか?」  
ドアを開けて入って来たのは、今夜ウェルチとここで会う約束をしていたフェイトだった。  
フェイトが部屋の中に入ると、そこにはウェルチの他に見知らぬ全裸の男が立っていた。  
「あ、あれ?」  
フェイトが状況を把握できない顔をしてウェルチの方を見る。  
「あ、ああこの人は……」  
ウェルチが状況を説明しようとしたその瞬間、マスターは信じられないスピードでフェイトの後ろに回りこんだ。  
「がっ!!」  
丸太ほどの太さがあろう腕でフェイトの首に手を回し、一気に締め上げる。  
「ぐあ……ぐ……がはっ」  
「な、何してんのよ!!」  
ウェルチが驚いて止めにかかるが、彼女の力ではびくともしない。  
必死になって抵抗しようとしていたフェイトだったが、やがてピクリとも動かなくなってしまった。  
マスターは意識を失ったのを確認すると、まるでゴミを捨てるかのようにフェイトを部屋の外に放り投げた。  
慌ててフェイトに駆け寄ろうとするウェルチの前にマスターが立ち塞がる。  
「ちょっと、どきなさいよ!あんた、何であんなことするの!」  
「これから始めるパーティーに彼は邪魔だからの」  
「え?」  
ウェルチが不思議そうな顔をして聞き返すと、マスターはニヤリと笑ってみせた。  
「……な、何?」  
「………………」  
黙って彼女を見つめるマスター。  
ウェルチにとって長い夜が始まろうとしていた。 
 
 

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