真っ先に目に飛び込んできたのは、女の白い裸身であった。
覆い隠すものは何もない、真白い女の肌がすぐ目の前にある。
ツンと張った双丘の頂にある慎ましやかな蕾。その、白と赤のコントラストが美しい。
女をそっと寝そべらせ、その上に覆い被さる。
その膨らみのひとつに左手を伸ばす。女は、あ、と掠れるような声を漏らした。
力を入れると、それは自分の思い通りにその形を変えてくれた。なぜかそれが嬉しくなり、さらに力を込めて弄ぶ。
女は、ああ、ああ、とはっきりと歓喜の声を上げた。
──自分の行為に彼女は喜んでくれている。
そう思うと、今度はもっと喜ばせてあげたくなった。
左手はそのままに、視線を下へと落としてゆく。ふたつの膨らみから、思いのほか細いその腰へと。
下腹部の淡々とした翳りが目に入ると、そこにもう片方の手を伸ばす。
閉じた内腿に触れると、女は、まるでそこへの侵入を防ぐかのようにきゅっと指をはさんできた。
女の顔を見ると、羞恥からか耳まで真っ赤に染めうつむいていた。
大丈夫、と言いながら唇を合わせる。と同時に、それまでも休むことなく女を刺激し続けていた左手で膨らみの頂点を摘み上げる。
刺激に女は目を見開くが、塞がれたままの唇から嬌声を漏らすことは叶わなかった。
舌を絡ませ合い、お互いの唾液が交じり合うくちゅくちゅという音がだけが辺りに響く。
唇を離すと、一筋の糸が互いを繋いだ。
女は、はぁはぁと荒い息を吐きながらも、うっとりとした表情で頬を染めている。
その表情に胸が高鳴る。
もう一度唇を合わせる。今度は触れ合うだけの軽いものだったが、強張っていた女の身体から余分な力が抜けていくのがわかった。
それを確認すると、再度手を下へと滑らせてゆく。
女の腹を滑り、その中心にある窪んだへそに指を這わせる。腰の線をなぞり、後ろへと手を回す。
程よい肉付きの尻を愛撫し、そのまま太腿を撫でると、女は切なそうな表情を浮かべた。
そして、先程ほどは叶わなかった秘所への侵攻を再度試みる。
閉じていた太腿は、今度はあっさりとその守りを崩してくれた。いや、自らそこへと誘うようでさえあった。
自分の勝手な思い込みだとは思いつつも、女が次第に従順になっていく様にはひどく興奮させられる。
ぴちゃり、と湿った音がした。
今までの行為によるものか、これからの行為に対するものか。
触れられることへの期待に、女のそこは既にしっとりと濡れていた。
女の入り口へと指を伸ばす。
と、それまでぐったりしていた女の身体が急にこわばり、瞳の焦点が結ばれる。
キッとこちらを見据えると、唐突に口を開いた。
「なにするのよ、フェイトのバカぁッ!」
罵声と共に放たれた拳は正確に顔面に突き刺さる。衝撃に、白目をむいて身体が後方へと流れていく。
僕が意識を保てたのはそこまでだった。
「なにするのよ、フェイトのバカぁッ!」
真っ先に目に飛び込んできたのは、よく見知った少女だった。
栗色の髪の、まだ幼さの残る愛らしい容貌に少し大きめの瞳が特徴的な少女。
「……ソフィアぁ? ってことは、夢?」
「なにわけわかんないこと言ってるのよ! まったくもう」
幼なじみのその少女は、元から大きな眼をさらに目一杯見開き、腕を組んであさっての方向を見上げている。
どうやら立腹を表しているようだが、それにしては迫力がないというか、どうにも可愛らしい。
「……どうしてお前がここにいるんだよ?」
「おじ様とおば様に頼まれたのよ」
「父さんと母さんに?」
「そう!」
「…………」
痛む頬をさすりながら、まだはっきりしない頭で今の状況の理解に努める。
窓から差し込んでくる柔らかな光に目を細める。いつもと同じ、ごく普通の朝だ。
そういえば、父と母は今家にはいないはずだ。ふたりとも優秀な研究者であり、家に帰ってこないこともしばしばある。
昨日もそんなことを言っていたっけ。
両親が留守なのは理解した。では、なぜソフィアがここに?
「……で、なにを頼まれたって?」
「え? うーん、見ててくれって言われたけだけだけど……」
「はあ? ……まったく、もう少し息子を信用してほしいな……」
思わず脱力しそうになり、気づく。
先程から、なんでか頬が痛む。異常に熱をもっており、ずきずきとした痛みが脳に伝わってくる。
「ソフィア、さっきから頬が痛いんだけど」
「そ、それは……! フェイトが寝ぼけて抱きついてくるのが悪いんだからね!」
「お前なあ、だからって殴らなくてもいいと思うけど」
「わ、私だってそれくらいでそんなことしないよ! その後にフェイトが……」
「俺が?」
「そ、その……いきなり……キ、キ……」
「き?」
「……んもう! と、に、か、く! フェイトが悪いの!」
消え入りそうな声でなにかを呟いたかと思えば、一転、大音量が鼓膜を叩く。
なぜか耳まで真っ赤になりながら理不尽なことを言ってくる幼なじみに首をかしげつつも、とりあえずは布団から這い出ようとする。
「そんなことしてたら遅れちゃうんだからね……きゃああぁ!」
またも顔を赤くして悲鳴にも似た叫びを上げたと思うと、ソフィアは踵を返し部屋から出て行ってしまった。
「フェイトのバカバカぁー!」
ドタドタというソフィアの足音とは裏腹に、シュッという小さな音で扉が閉まる。
「なんだあいつ」
結局なにをしに来たのかイマイチわからなかったが、それでも自分が来るのを待っているであろう幼なじみを待たすわけにもいかず、身支度を整える。
「あ……」
ここに至り、ようやくソフィアの行動の理由に気づく。妙にリアルな夢も、それに一役買っていたのだろう。
いわゆる、朝勃ちというやつである。男なら誰しも一度は経験したことのある、そして非常に厄介なもの。
目を覚ましたのが事に至る前だったのが幸いしたのか、暴発だけは避けられたようだったが、それでも自分の意思を無視して思い切り自己主張をしていたのだ。
乾いた笑みを顔に貼り付けると、フェイトはなかなか言うことを聞いてくれないそれを必死で宥めるのだった。
「悪かったって。そう怒るなよ」
「フェイトなんて知らないもん!」
「そうは言っても、あれは自分の意思でどうこうできるもんでもないんだぞ?」
「! もう、思い出させないでよ! そうじゃなくて……」
「?」
ぷりぷりして前を歩くソフィアをなんとか宥めすかしつつ、学園へと向かう。
あの後どうなったかと言うと、衝動を収めるのに結構な時間を要した。
一番手っ取り早い方法は他にあったのだが、ソフィアが待っているであろうことを思うと、まさかそんなことをするわけにもいかず、あの妙に生々しい夢の影響もあってか、言うことを聞かせるのには一苦労だったのだ。
おかげで、今はやけに悶々としていた。当然そんなことを表に出せるわけもないが。
そんなやり取りをしていると、学園の門が見えてきた。同時に、フェイトたちとは反対側から歩いてくる女性の姿が目に入る。
青い髪をした、遠目にも綺麗な顔立ちをしているのがわかるすらりとした女性だ。
「マリア!」
フェイトが呼ぶと、その女性はこちらに気づき手を振ってくる。
「じゃあな、ソフィア」
追い抜きざまにソフィアにそう声をかけると、フェイトはその女性の元へと走ってしまった。
「もう……フェイトのバカぁ……」
ふたり並んで楽しそうに門をくぐるのを見送ると、ソフィアは立ち止まってうつむく。
ソフィアとフェイトは幼なじみである。
お互いの家が近いということ、そして親が同じ職場で働いているということもあり、幼い頃から家族ぐるみでの付き合いであった。
小さな頃はよく一緒に遊んだものだが、お互いに成長していくにつれてそれも少なくなっていってしまった。ソフィアには、それが寂しかった。
ソフィアはフェイトのことが好きだった。いや、今もそうだ。
幼い頃はほのかな憧れでしかなかったが、それはだんだんと確かな恋心へと変貌していった。
しかし、ソフィアがいくらそう思おうと、肝心のフェイトにとって自分は単なる幼なじみでしかないようだった。
その証拠に、今のフェイトにはマリアという恋人がいる。自分には見向きもしてくれない。
「はぁ、敵わないかな……」
ポツリ、とそんな言葉がこぼれる。
マリアのことをよく知っているわけではないが、きっと自分なんかではとても敵わないような凄い女性(ひと)なんだろう。
フェイトは、自分ではなくマリアを選んだのだ。それがなによりの証拠であった。
(フェイトとマリアさんが付き合いだしてひと月くらいになるけど、もうキスくらいはしたのかな。ううん、もしかしたら……)
今朝のことが思い出される。あの時、確かに触れた……気がする。
「もしもそうなら、あれが初めてか……」
そう独りごちるとソフィアは、そっと唇に指を当てる。
嬉しいような、それでいて悲しいような。自分でもよくわからない感情に、ソフィアは戸惑いを覚えた。
耳元でトントンという音がした。肩を叩かれたのだと気づき振り返ると、ひとりの女の子がこちらを心配そうに覗きこんでいた。
「マユちゃん」
「どうしたの、ソフィアちゃん?」
同じクラスで同じクラブに入っている友達のマユだった。
「下向いて、もしかしたら気分が悪いとか? 大丈夫?」
「え? ううん、なんでもないよ。大丈夫だから」
「そう? だったらいいけど、無理しちゃダメだよ?」
「うん、ありがとう」
自分のことを気遣ってくれる友達がいるのは嬉しかった。沈みがちだった気持ちが、少し、落ち着いたように思える。
「あ、早く行かないと遅れちゃうよ。一緒に行こ」
「うん」
いくら考えても結論が出ないこともある。
これ以上いらぬ心配をかけるわけにはいかない。ソフィアは表面上とはいえ笑顔で応じた。
午前の講義が行われている中、しかしフェイトはぼんやりとしていた。
熱心にとはいかないまでも、普段はもっと集中できているはずだった。
原因はわかっている。あの夢だ。なぜあんな夢を見たのかもだいたいの見当はついていた。
つと隣に視線をやると、マリアが熱心に講義を聞いている。そう、マリアだ。
マリアと付き合いだしてからひと月あまりが経過している。そしてつい先日、フェイトは初めてマリアを抱いた。
お互いに経験はなかったらしく、戸惑いつつのものであったが、それでも初めて知った女というものの影響は凄かった。
今思い出してみれば、夢の女性はどことなくマリアに似ていたかもしれない。無意識にマリアを求めていることが自分にあのようなものを見せたのではないだろうか、という風に思えてくる。
「どうかした?」
こちらの視線に気づいたのだろう。マリアが不思議そうな顔で訊ねてきた。
「いや、なんでもないよ」
「そう」
まさか考えていることをそのまま口に出すわけにはいかない。
彼女は結構気が強いところがあるのだ。そんなことを言おうものなら、どうなるかわかったものではなかった。
もっとも、気の強い強くないに関わらず、そんなことを言えるわけはないのだが。
平静を装いそう答えた時、フェイトの手元で衝撃音が炸裂した。
驚き、何が起きたのかわからず、とにかく前方に目を向けると、講義を行っていた者の手に鞭のようなものが握られていた。
「フェイトぉ、それにマリア。ちゃんと聞いてたか?」
わずかに苛立ちの混じった声が耳に届く。
フェイトはすぐに理解した。
鞭を手にしているのは、大学部の教員のベルゼブルという男。短気なのか、少しでも自分の講義を聴かないものがいるとああして手にした鞭を振るってくる。
直接当ててくるようなことはしないのだが、そんなことをされればかなり怖いものがあるのは確かだ。
「す、すいません」
謝罪を口にすると、ベルゼブルは何事もなかったかのように講義を再開した。
「……君のせいで怒られたじゃない」
「ご、ごめん……」
マリアがこちらを睨みつけてくる。
今の一幕で、それまでのよこしまな考えも吹き飛んでしまったようだった。
小声で謝ると、またあんなものを振るわれてはかなわないと、フェイトは講義に集中することにした。
「もう、フェイトのせいで目をつけられたらどうするのよ」
「でもさ、あんなものを持ち込むほうがどうかしてるんじゃないかな」
「さあ。そういえば、ここの理事長は変態とかいう話だし、教師にも変なのがいてもおかしくないかもね」
「そういう問題かなあ」
午前の講義が終わり、ふたりは一緒に昼食を摂っていた。
マリアは皿に盛られたパスタをつつきながら呆れた顔をしている。
マリアのそんななんでもない仕草に、フェイトはなぜか気持ちが高ぶった。
講義中の感覚が甦ってくる。
と、口の中がからからに渇いてくる。唾を飲み込もうとするも、喉の奥に絡み付いてしまう。
フェイトはコップの水を一気に飲み干した。
その様子を見ていたマリアが首をかしげ不思議そうな顔をする。
マリアを見ていると抑えが効かなくなるかもしれない。
フェイトはマリアから視線を外すと、それを周囲に走らせる。見慣れた人物を見つけた。
「あれ、クリフ先生じゃないかな」
「え? そうね、ミラージュ、……先生も一緒みたいね」
フェイトの視線の先に目をやると、少し離れた場所で一組の男女が自分たちと同じように食事をしているところだった。
ふたりの言う通り、クリフとミラージュだ。ともに大学部の教員であり、フェイトとマリアとはよく講義で顔をあわせる。
女性にしては長身ではあるミラージュだが、大柄なクリフと一緒だと、ひどく小さく見えてしまう。
まさに美女と野獣という言葉がふさわしい。
「あのふたりもいつまでああしてるつもりかしらね」
マリアがそんなことを漏らす。
クリフとミラージュがただの同僚同士ではなく男女の間柄であるというのは、ここに通うものにとっては周知の事実であった。
一緒にいたとて、今更気にかけるものはいない。まあ、マリアのように、いつまでも進展しているように見えないふたりを揶揄するものはたまにいるが。
「ほら、フェイト。あれ見て」
クリフとミラージュのことには興味を失ったのか、マリアが別の方向を示してくる。
見ると、そこにいたのもクリフたちと同じここの教師だった。
アルベルというのが彼の名前だ。
やけに鋭い視線の持ち主で、なにか近寄りがたい雰囲気を持っている。それがいいと言うものもいるらしく、女生徒の一部に人気があった。
もっとも、端的に言ってしまえばなにを考えているかわからないというやつだが。
「あの噂、本当なのかしらね」
マリアの言う噂というのは、彼は生徒の誰かと交際しているというのだが、そのことを信じているものはあまりいなかった。
もちろん、フェイトも信じていない。
建物から出て行こうとするアルベルを視線で追っていると、出口付近で立ち止まるが目に入った。
向こうから誰か走ってくる。格好からすると女のようだった。フェイトよりも年若い、おそらく生徒のひとりだろう。
そしてその娘は、勢いもそのままにアルベルの腕に飛びついた。
アルベルは苦りきった表情を浮かべたようだが、ふたりはそのまま連れ立って行ってしまった。
フェイトは我が目を疑った。そして、走ってきた女生徒に見覚えがあることに思い至った。
「あれは確か、ソフィアのクラスの……」
「フェイト?」
記憶を探っていると、マリアがこちらを覗きこんできた。
「うわっ」
マリアの顔がすぐ近くにあることに、また胸が高鳴った。
「あなた、さっきからおかしいわよ? ぼーっとしたりして」
「……なんでもないよ」
とりあえず笑顔で返すも、フェイトの動悸はその後も収まりはしなかった。
午後の講義も終わり、学生たちは次々と講義室から立ち去ってゆく。
マリアも立ち上がると、隣のフェイトをうながす。
「私たちも行きましょう。帰りにどこかに寄っていきましょうか?」
「……うん」
「どうかした?」
「ねえマリア。ちょっといいかな」
「え? なに?」
フェイトも立ち上がり、マリアについてくるよう視線を送ると出口へと向かう。首を傾げつつ、マリアもその後に続く。
フェイトにつれられて着いた場所は、先程と同じような造りの講義室だった。
前の時間には使われてはいなかったのか、辺りはシンと静まり返っていた。外を歩くものの姿もない。
マリアはくるりと振り返った。
前に流れた髪を左手で払い除けると、フェイトに何事かと視線で問い掛ける。
フェイトはつかつかと歩み寄ると、マリアを抱き締め、いきなり唇を重ねた。
マリアは身体を硬くし、瞳を目一杯見開く。
「ちょ……っ!? いきなりなにするのよ!」
「マリア……、君が欲しいんだ」
「えっ? な、なに言ってるの、っ!」
また唇を塞がれる。口腔内に舌が侵入してきた。
マリアは身をよじってなんとか逃れようとするも、しっかりと抱きすくめられている状態ではそれも叶わなかった。
互いの唾液が絡み合う。
意識がぼうっとしてくる。マリアはそれを自覚した。
聞こえるのは、その行為から発せられる水音だけ。なぜか物凄くいやらしく聞こえるその音が、自分が物凄くいやらしいことをしているということを教えてくれる。
突然のことにびっくりしたけれど、マリアはフェイトとこうすることが嫌ではなかった。
フェイトが自分を好きでいてくれると実感できる。自分もフェイトが好きだと実感できる。
ただ、時と場所を選んでほしいのだ。こんな所だと誰かに見られるかもしれない。
知られたからどうこうするということでもないが、やっぱり恥ずかしいのだ。
そんなことを考えていると、だんだん身体の奥のほうが熱くなってくるのがわかった。動悸もしている。
フェイトが顔を離す。まるでそのことを惜しむかのように、銀色の橋がふたりの間を繋いだ。
お互い、呼吸も忘れていたようだ。酸素を求めてはぁはぁと虚空を喘ぐ。
マリアは、こくり、と混ざった唾液を飲み下す。奥だけではない、今度は身体中がカッと熱くなるような感覚が襲ってきた。
吐く息は荒く、瞳は焦点を結ばない。
それどころか、
(私……キスだけで感じてる……)
内腿をなにかが、つう、と伝うのが感じられた。
「マリア……」
フェイトが触れてくる。
「あ……」
そんな音が漏れたかと思うと、マリアは据え付けの机にうつぶせにされていた。
抵抗しようにも、うまく力が入らない。
なすがままにされ、ちょうど上半身だけを机に乗せて、フェイトに後ろを向けているという状態で固定される。
フェイトが覆い被さってくる。
「ちょっ、こんな格好──ぅっ」
抗議の声はそれ以上続かなかった。
首を回し後ろを向くと、視界一杯にフェイトの顔があったのだ。
ぎゅっと目をつむる。先程の感覚がまた襲ってくる。
(私ってキスに弱いのかな……)
ぼんやりしている頭で、マリアはそんなことを考えた。
キスを続けながら次第におとなしくなるマリアに、フェイトはどうしようもない昂揚感を覚えていた。
普段は物事に対し積極的で気の強いところがあるのだが、男女のこうした営みでは従順になってしまう。
彼女のそのギャップに、そして自分にだけ見せてくれるその痴態に、フェイトはさらに気分が高まるのを感じた。
左手をマリアの胸に伸ばし、服越しにまさぐる。
決して大きくはないが、掌中にすっぽりと収まる、触り心地のよいマリアの胸の感触を思う存分楽しむ。
「あ……やぁ……っ……!」
合わせた唇の端から、マリアの嬌声がこぼれ落ちた。
マリアは頬を上気させ、まつ毛をふるふると揺らしている。フェイトの目にはその表情がなんとも言えない淫靡なものに映った。
右手をマリアの股間へと持ってゆく。
スカートをたくし上げると、彼女の秘部を覆っている下着に触れる。
そして、縦スジに沿って指を這わせる。
マリアのそこはすでにじっとりと湿っていた。指を押し込むと、わずかに粘性のある液体が溢れてくる。
「マリア、濡れてる……」
唇を離しそう言うと、赤かったマリアの顔がさらに赤味を増したように思えた。マリアは羞恥で顔をうつむかせた。
これだけ濡れていれば大丈夫だろう。それに、こちらの我慢もそろそろ効かなくなってきていた。
はちきれんばかりに膨張した己の分身を取り出すと、マリアのショーツを膝の辺りまでずり下げた。
ちらとマリアを見やると、肩を上下させてぐったりとしている。
そしてフェイトは、入り口にそれを押し当てると、一息に根元まで潜り込ませた。
「ん……っ、はぁっ、はぁ、ああっんぅ……」
突かれるたびに、苦痛とも快楽ともとれる声が漏れる。
マリアにとって男と交わるのはこれで二度目だが、それで感じたのは意外にも気持ちいいということだった。
膣内に押し入ってくるフェイトに、まだ慣れていないのか、わずかな痛みはあったものの、それも次第に別の感覚へと変わっていった。
マリアは、ぼんやりとした、そして心地いいような、不思議なものを自分の下腹部に感じていた。
「う……はっ、は、はぁっ……あ……っ」
身体は正直である。
正しい男女の営みに反応するかのように、ゆるゆると蠢動する膣襞はフェイトを咥え込んで離さず、さらに奥へと導こうとする。
「ああっ、やぁ……ぁは……っ、やあっ」
机の端を握る手がおぼつかなくなる。
フェイトが与えてくる快感。
それとともに結合部分から聞こえてくる淫音。
そして自分の口から漏れ出る嬌声。
マリアは強すぎる刺激により、上手くモノを考えられなくなってきている頭で、それでも自分がこの行為に感じていることを自覚した。
フェイトは、マリアが自分の重みに潰されないように片腕で彼女の身体を支えつつ、抽挿運動を行う。
「ああっ、やぁ……ぁは……っ、やあっ」
マリアの口からは、はっきりとした快楽の呻きが漏れてくる。
空いた方の手でマリアの髪をそっとのけると、あらわになった彼女のうなじに唇を降らせた。
それが彼女をさらに刺激したのか、身体が弓なりに反れる。膣内の締め付けが強くなる。
脳の神経が焼き切れるような快感を味わいながらも、フェイトはさらにマリアに突き立てる。
後ろからの挿入により、より深くまで突くことが出来るのか、先端がなにかに当たるのを感じた。
「ひゃっ、あっ、あっ、ああっ、……っ!」
その度に、マリアがそれまでよりも少し高い声を上げた。
次第に、膣内の締め付けがが小刻みなものに変わっていく。
そろそろ限界だった。
「マリア……っ、いくよ……」
行為を繰り返しながら、マリアの耳元で囁くように言う。
マリアがカクカクと頭を縦に揺らすのを確認すると、フェイトは速度を速めた。
「ああ、あ、あ、はっ、ふあっ……」
マリアの喘ぎも、速く短いものへと変わっていく。
お互いの肉と肉とがぶつかる乾いた音が室内に響き渡る。
「くぅっ……」
マリアの一番深いところに己を突き入れる。下半身にじぃんとした痺れが襲ってきた。
それと同時に、マリアがそれまでで一番大きな声を上げる。
最奥に精を放つ言いようのない快感に浸りながら、フェイトはぐったりと脱力して、今度こそ完全にマリアに覆い被さるのだった。
「……若いのはいいけどさ、あのふたり、もうちょっと場所を考えてほしいもんだね」
講義室の中で繰り広げられた痴態を眺めていた女が、ぽつり、と呟く。
教材を抱えた、紅い髪のジャージ姿の女だ。
彼女の名前はネル。若いなどとと言ってはいるものの、彼女自身もまだ二十代の前半だ。
なにかスポーツでもやっているのか、すらりとしたしなやかなその肢体は健康的な美しさに満ちていた。
彼女は高等部の教師である。
「ほら、行くよ。邪魔しちゃ悪いからね」
ネルが振り返ると、そこにはもうひとりの女がいた。
柔和な顔立ちをした、ネルと同じくらいの年齢の女性だ。
「クレア、ほら、どうしたんだい?」
クレアという名前の女性である。この学園の保健医で、ネルとは親友同士である。
「クレア?」
呼んでも反応を示さないクレアの顔を覗き込む。
ネルのことなど目に入っていないのか、クレアは講義室の中をただただ凝視していた──。
最後の授業が終わり、ネルは頼まれていた教材を運んでいてクレアに出会ったのだ。
ふたりで雑談しながら歩いていると、近くの講義室から声が聞こえてきたのだ。
前の時間は使われていなかったはず……と見に来てみたところ、フェイトとマリアの現場に出くわしたのだった。
そして現在に至る。
講義室の中では、フェイトとマリアがねっぷりとした口付を交わしていた。余韻に浸っているのだろう。
「クレアー?」
ネルがクレアの顔の前で手をひらひらとさせる。
しかし、クレアはそれにも反応を示さなかった。なにやら凄い衝撃を受けているような表情をしている。
「……そ、そんな……、フェイトさんが……マリアさんと……?」
ようやく口を開いたかと思うと、わけのわからないことを言ってきた。
「ん? クレアは知らなかったのかい? あのふたりが付き合ってるってことはけっこう有名だと思ったけど」
「そうなの!? ネル!」
「え、ええ、そうだと……思うけど」
「そう……なの」
突然詰め寄ってきた親友に面食らう。
クレアは、なぜかショックを受けているようだった。
「別に知らなくてもどうってことはないと思うよ」
それはフォローと言えるのか、とりあえずそう声をかける。
ネルのその言葉を理解したのかはともかく、クレアが肩を落とした様子でぺたぺたと歩き出した。ネルを置いて先に行ってしまう。
「ちょっと、クレア?」
その後を追いながら、突然のクレアの変化に、ネルは首をひねるのだった。