暖炉の薪が爆ぜる音が、その部屋を支配している音に束の間混じる。
ギシ……ギシ……
寝台が軋む。リズミカルに。
その音に混じるかすかな粘性のある音。
声が出た。
「くっ……キツ……」
男の声だ。発する内容は呻き声だが、その響きは快感に満たされていた。
「が、我慢できねぇ」
「いいですよ……っ……もう少し……ですから」
女の声もする。
声色は疲れ、それでいてどこかに笑みすら混じっていた。
「う、うおおお!」<br>
男の絶叫が、そこで行われていた行為のフィニッシュを意味していた。
ゴギっ
鈍い音が、それまでの音を全て掻き消した。
「っくはぁ……効くなぁ……」
寝台にうつ伏せになったクリフは、弛緩しきった顔で言った。半裸の上半身の背中に跨る女性の姿がある。
「こんな物凄いコリしてる人、久し振りですよ」
女性が額から流れる汗を拭って、心底くたびれたように呟いた。
「背中から肩まで疲労がバッチリたまっちゃって……クリフさん、トレーニングや激しい戦闘とかした後、きちんと乳酸散らしてますか?」
シーハーツの女性兵士であった。クリフの背から降りると、自らの体をほぐすように軽く伸びをする。
「いや、してねぇ」<br>
クリフはあっけらかんと言う。女性兵士は呆れたように首を振った。
「いくら自分の肉体に自身があっても、やることはきちんとやらなきゃダメじゃないですか」
「いやぁ……でもま、あんたみたいな美人にこうやってマッサージしてもらえるなら、サボった甲斐もあったってもんだ」
まるで悪びれないクリフに、女性兵士は何を言っても無駄だと感じた。
と、その時部屋のドアがノックされる。
「終わったかい?」
女性兵士の姿勢がいきなり改まる。ネルだった。
そもそもはネルの計らいだった。
アーリグリフとの最終決戦を目前にし、作戦の要となるフェイトとクリフに少しでも万全の体調で作戦に臨んでもらいたいがための配慮だった。
アリアスに待機し開戦を待つばかりのわずかな間、ネルに呼び出されたフェイトとクリフはやおら別々の個室に通された。
そこでクリフは、待ち構えていた女性兵士に上半身を引ん剥かれ、問答無用でリフレクソロジーが始ったのである。
ネルが選んだだけあって、確かにその兵士の腕は確かだった。人体がリラックスできるツボを的確に押さえ、質の良いマッサージローションで凝り固まった筋肉をほぐされていく内に、ついついクリフはうたた寝までしてしまったほどである。
「いや、気分爽快とはこのことだな。体が軽くなったような気がする」
「そいつは良かったね」
「ああ、今ならミラージュにだって勝てる気がするぜ」
本人がいないこといいことに好きなことを言っているクリフ。
「フェイトは?」
「別室でまだ」
「そうか。ま、あいつと俺じゃ鍛え方が違うからな。なよっちい分アイツの方が疲れも溜まり易いってか」
クリフの言葉にネルは曖昧な笑顔を浮かべて頷くだけだった。
フェイトは9割がた崩壊した思考の片隅で、残る最後の理性を総動員しながら必死に考えていた。ネルさんは確か、僕とクリフにマッサージャーを用意してくれたとか言わなかったか。
自分が軽い肩こり体質だと気がついたのは初めてアイテムクリエイションをしたときである。メガネをかけていると、なぜかやたらと体が疲れるのだ。
そうだから、正直プロにマッサージをしてもらえるなら願ったり叶ったりだったはずだ。
いや、今のこの状況も冷静に考えれば世の男の大半が是非ともそうなりたいと思う状況であるに違いない。9割死滅している理性こそが何よりの証拠である。
確かにマッサージと言って言えなくはない。
だが、クリフと違いフェイトが脱いだ、いや、脱がされたのは下半分だった。
そして『マッサージ』は全身をくまなく揉み解してもらっていたクリフとは違い、非常に特殊な方法で局所的に集中攻撃されていた。
『マッサージ』の快感でオーバーヒート寸前の視界をゆっくり巡らせる。
そこには、美しく形の良い乳房でフェイトの限界まで膨張した分身を挟み込み、先走る頂上を淫猥な音を立てて舌先でいじるクレアの姿があった。
「どうですか?フェイトさん」
「うっ……くうう……」
生来のキング・オブ・ドンカンであるフェイトは未だかつて女性と親密なる付き合いをしたことがなく、従ってこのような行為に及んだこともない。
未体験の快感の渦にただただ喘ぐ以外、健康優良童貞青年にできることなどあろうか。
もちろん、最高に気持ちいいに決まっているのであるが。<br>
クレアはそれでもその反応に満足したのか、一見無邪気そうに目を細めて、その分魅惑の悪魔の輝きを湛えた目を再びフェイトの分身へと向けるのだった。<br>
優しく包み込むみずみずしい柔肌の弾力と、仄かに生暖かい舌の感触に、寧ろ今まで果てていないことこそ奇跡なのである。
「あああああっ!!」
フェイトの突然の叫びに終わりがすぐそこまで来ていることを悟ったクレアが、遂に分身をその口腔の奥まで包み込み、急ピッチで上下にしごきたてる。
束の間、粘り気のある音が続き、そして、
「!!!」
「うくっ」
フェイトの腰がわずかに跳ね上がり、クレアの喉の奥で小さい苦鳴が上がった。
そして、二人とも脱力したように息を大きく吐き出す。<br>
「随分と沢山でしたね」
クレアは邪気のない笑みを浮かべるが、それだけに形の良い胸元を惜しげもなくさらけ出している姿は果てた後も男に欲情を再び沸き立たせるに十分な魔力を持っていた。
「長旅で、溜まってらしたのですね」
「……突然こんなことになったら、溜まって、いようと、いまいと、変わらない、気がします、よ」
果てた直後のため、時折息が混じる。束の間わずかに復活した理性が述べたそれは、確かに間違ってはいない。
「あら、嬉しいですね」
その言葉に対するクレアの返事にフェイトは首を傾げた。嬉しいだって?
だが、そのささやかな疑問は身を起こしかけたフェイトにのしかかるように迫るクレアの肢体の前に沈黙した。
「まだ『任務』は終わっていませんから」
天然なのだろうか、計算なのだろうか。この上なく扇情的な仕草で身に纏う数少ない残りを一枚ずつ脱ぎ去りつつ、クレアはフェイトに口付けた。
クレアの髪と上気した呼吸、そして汗の香りに、今度こそフェイトの理性ゲージはクラッシュした。
代わりに己の分身のヒートアップゲージは限界に達し、それを迎え入れてくれる扉をこじ開けるべく悠然と屹立する。
「私が上になりますか?それとも……きゃっ!!」
フェイトを組み敷いていたはずのクレアが、いつの間にかその立場を逆転され、フェイトに組み敷かれる形となっていた。
「ゃあっ」
拒否の悲鳴ではない。クレアの乳房の弾力を、既に硬く上向いた先端を、谷間を容赦なく襲うフェイトの舌の動きに上がった矯声であった。
「ああああっ……ぃやっ、ふぅっん!」
まるで五感を総動員し、全身でクレアを味わおうとするフェイトの責め方に、クレアはよがり、全身を火照らせ、潤んだ瞳で更にフェイトを吸い寄せる。
ぴちゃっ
「ひあっ、そ、そこ……」
フェイトの指が、彼を迎え入れる準備が既に整った自分の秘門に触れ、小さな水音を発した。
「あっ、いぃ……っああああ!!」
執拗に責められる門、そして秘豆。溢れる液体はもはや止まることはないかのごとく、クレアの太ももの内側に輝く大河を作っていた。
それすらも丁寧に舐め上げるフェイトの舌と、未だ秘門をノックし続ける手の動きに、
「っっ!!!!」
クレアの体が先ほどのフェイトよりも大きく跳ねた。
「フェイトさん……フェイトさん!!」
果てて、息が上がり、それでもクレアはフェイトを美しい鳶色の瞳で見つめると、フェイトの体を抱き寄せた。
その繊細でしなやかな手がフェイトの分身を誘い、秘門の入り口へと誘う。更なる快感を共有するために。
門扉を開く直前、再び二人の唇は合わされた。
「んっ……あぁ」
門は開かれ、少しづつフェイトがその奥の肉の庭へと突き進んでゆく。
切なげな声をあげ、涙を浮かべつつ、クレアはフェイトの上体をかき抱き離さずまるでフェイトごと自分の中に押し込めんばかりだ。
フェイトの方も、その誘いを断る理由はどこにもなく、思うが侭に肉の庭を探索しようと考えていた。
その一瞬までは。
「……」
「んっ……あぁ、フェイトさん……?どうして……止まっちゃうの……」
クレアの媚薬を含んだ声を、はっきりとした青年の声が遮る。
「初めて……なんですか?」
フェイトの目には、完全に理性の光が戻ってきていた。
わずかに先端だけが入り、そこで門の奥の更なる扉の存在に気づいた分身が、そのカーテンの先に進むのを躊躇わせたのだ。
フェイトの問いに、クレアはフイと顔を背けた。
「私……は……」
結合部から流れる川の源泉はどちらのものであろうか。
「誰にでも体を任せるような……軽い女ではありません」
「クレアさん?」
「あなただから……あなただったから……あなたが、欲しかったから……あなただけが……」
「クレアさん……」
「あなたに心奪われてから、ずっと、ずっと……ずっとあなたと一緒にいるネルが……羨ましかった」
「僕は……」
「お願いです、今は何も言わないで……司令官の仮面を被った弱い私を……受け入れて下さい」
懇願とも取れるクレアの告白に、フェイトは返す言葉を持たなかった。
ただ、クレアの顔にかかる銀色の前髪を優しくのけると、涙を流す彼女の顔に柔かいキスを落とした。
「ありがとう……」
どちらの言葉だったろうか。
「んっ!!」
フェイトは意を決し、クレアの最後の防壁を突破した。
「っあああ!!」
喪失の痛みに、流石のクレアも悲鳴を上げた。川の流れに紅いものが混じる。
「ぅくっ」
フェイトからも呻き声が漏れる。
初めて迎え入れる男性を歓待する肉の園は、至上の美酒たる愛液と暖かい肉襞でもって、激しくフェイトを締め上げた。
気を抜けば、その瞬間あっさりと吸い尽くされてしまうほどの快感の渦。ただそこにいるだけで伝わる暖かさにフェイトは打ち震えた。
「んっ……ああぁ……」
だが、分身とそれに連なる腰は、更なる快感を得ようとクレアの中で一進一退を繰り返し始めた。
「ふっ……ひぁぁん……ぅっ」
初めての結合と悦びがない交ぜとなってクレアの美しい顔を歪ませる。フェイトとクレアが擦れ当たる度、クレアはフェイトを逃がすまいとフェイトを包み締め付けた。
クレアの中で行き来するうち、再びフェイトの理性にヒビが入り始めた。
「ひぁあゃぁっ!フェイトさん……フェイトさん!!」
クレアの腕がフェイトの体を、クレアの両足がフェイトの腰を彼の存在をより確かなものにするために捕まえる。フェイトも逃げる気はさらさらなかった。
もっとクレアの声を聞きたい。もっとクレアの顔を美しく歪ませたい。分身を支える腰の動きはますます速くなる。
「ひあっ!!そ、そこ……」
フェイトの手が、分身のすぐ上にあるクレアの秘豆を突然摘んだ。それを腰の動きに合わせてこね回し、
「ふああん!!もっと、もっとぉっ!!」
クレアの理性を切り崩してゆく。
一度出した直後だったからか、気が張っていたからか、フェイトはそのまましばらく果てることなくクレアを愛し続けた。
絶頂に達したいが、少しでも絶頂を先に延ばし快感を得たいという矛盾した思考がフェイトの動きに緩急を与え、
それがよりクレアに刺激を与える結果となる。
愛撫と進退は、十数分の後、遂にクレアが耐えられなくなり全力でフェイトを締め上げ、
その不意打ちを受けてフェイトの欲望がクレアの最奥に解放されるまで続いたのだった。
「うっ……ああっ」
ドアの前で、うずくまって声を上げまいと必死に我慢していたネルだったが、二人の達した声がドアから漏れ聞こえ、遂に我慢の限界を超えた。
自らの秘門に挿入されていた指と指の間が糸を引くほどに濡れている。
「ずるいよ……クレア……私だって……私だって」
ネルの指先は、己の最後の防壁に触れたまま、それ以上動くことはなく、半端に達したままのやりきれない溜息を大気に溶かした。
「おおっしゃ!目覚め快調!」
クリフは翌朝、一人すこぶる元気だった。
「どうしたフェイト!妙にくたびれたツラしやがって」
「ああ……あぁ、ちょっとね」
「お前もマッサージしてもらったんじゃないのか?」
クリフの問いに、フェイトはギョっとしたように顔を仰け反らせた。
「何だよ。俺は肩から背中にかけてバッチリ凝りも疲れも取れてるぜ。多分施術医療との併用だなありゃ。戦争終わったらまたお願いしたいくらいだ」
そっちは普通のマッサージだったんだ……と心の中だけで呟くフェイト。チラリとクレアの視線を投げるが、彼女は何事もなかったかのように戦争に向けての雑務を着々とこなしていた。
「何だよ……ネルもお前も妙に元気がねぇのはどういうことだ?」
「あんたが元気すぎるんだよ」
そこに現れたネルの突っ込みに、フェイトは半端に笑いクリフは顔をしかめる。
「開戦直前になって倒れないでほしいもんだね」
「あのなぁ、バカにすんなよ」
「ああ、そうか。バカは風邪引かないって言うよね」
「おいっ!!」
ネルは、らしくもなく軽口を叩くと、クリフをさらりと受け流してクレアに歩み寄る。
「クレア」
「どうしたの?ネル」
ネルはニヤリと笑う。
「負けないよ」
「え?」
それだけ言うと、ネルはフェイトに意味ありげな視線を送りつつ、仕事があるから、と去って行った。
まさか……と思いつつ、バツが悪そうに顔を見合わせるクレアとフェイト。
「ったく……何なんだよお前ら」
ただ一人、クリフだけが状況が分からず困惑するだけなのであった。