「あ…アァッ…」  
 
静かな部屋に、艶かしい、しかしまだあどけない声が響き渡る。  
ベッドに横たわる身体は火照って汗ばみ、褐色の肌には銀の髪が纏わりつく。  
細く、まだ幼い指先は、自身の一番敏感な場所をただ、撫で回すばかり。  
そして、出所不明のぬるり、とした液体が、熱を加速させていく。  
  これが『濡れる』ってことなのかな…  
浮ついた頭で考えられるのはそれだけ。  
あとは、愛しいあの人に、あんなことをされたり、こんなことをしたり…  
その想いが、指の動きを更に活発にさせる。  
それは、ひたすら淫らで純情。  
 
外の喧噪からできるだけ隔絶しようといわんばかりに、カーテンは真っ昼間から閉じられている。  
 
その少女ースフレにしてはやけに珍しく、昼間から宿に籠りきりだった。  
具合でも悪いのだろうか、とフェイト達は心配し、スフレの様子を伺いに行こうとしたが、  
「スフレちゃんだって乙女なんだから」  
などとソフィアに言われては、放っておくしかない。  
昼食を摂り終え、各々が買い出しやファクトリーに向かい出す。  
 
「あの、アルベルさん」  
不意に呼び止められ、プリン頭が振り返る。  
「何だ糞虫」  
アルベルは不機嫌そうにソフィアを見た。  
(この人はいつもこうだ。あほとかクソとか、こんな人のどこがいいんだろ!)  
内心毒づきながらも、ソフィアは表情を崩さない。  
「これ、スフレちゃんがこの間ファクトリーに置き忘れていったんです」  
そう言って、ソフィアは癒しネコを差し出す。  
「で?」  
アルベルが更に不機嫌そうになる。  
「アルベルさんにあげるんだって言ってましたけど、無くしちゃって、ずっと探してたみたいなんです」  
「…で、俺にどうしろと」  
釣れた。  
「はい!」  
「あ?」  
ソフィアは癒しネコを無理矢理アルベルの腕の中に押し込めた。  
そして、  
「じゃ、私リジェールさんと待ち合わせしてるんで!」  
言うが早いか、ソフィアは満面の笑みで立ち去った。そそくさと。  
「ま、待ちやがれっ…」  
  だからどうしろと  
自分の腕の中に鎮座しているこのネコが妙に憎たらしい。  
「…ちっ……行きゃぁいいんだろーが…」  
スフレの部屋に向かうべく、アルベルは仕方なしといった風に足を進めた。  
いつもより、幾分か小さい歩幅で。  
 
アペリスの神々がいるというのならば、これは神の悪戯心によるお遊びなのか。  
 
 
「あぅぅ…あっぁぁっ…すごいよぉっ…イイっ…よぉっ…!」  
スフレはもう、無我夢中だった。  
沸き上がる快感を、制御もできずにただ、秘所を指で犯すばかり。  
「はっあぁぁっっ…はぁんっ…あっ…あるっ…」  
自分の妄想の中で、自分を陵辱している想い人の名が口を衝いて出る。  
「あるべるちゃっ…あるっ…べるちゃぁんっ…」  
その名を口にした途端、下腹部全体が急激に熱くなる。  
どうやら出所が判明した液体が、奥から大量に流れ出す。否、吹き出す、と表現した方が正しいだろう。  
自分を犯す手は最早止まらない。  
何が待っているのかは分からない。だけど、いきたい。  
 
  ガチャリ  
何の前触れもなく、部屋のドアが開いた。  
「おい、クソガキ…」  
子供に気遣いなど無用と思ったのだろうか。  
ノックもせずにドアを開けたと同時に耳に飛び込んできたのは  
 
「あるべるちゃぁっぁぁぁあぁあぁぁっっ!!」  
 
アルベルは、我が目和が耳を疑った。無理もないだろう。  
  まだほんのガキだ。  
  いくら耳年増とはいえ、ガキがそんなことをするわけがない。  
    
本当はわかっている。  
自分の名を叫ぶ嬌声が、何を物語っているか。  
だがしかし、認めたくない。  
どうしよう  
 
初めて迎えた絶頂に、スフレは朦朧としていた。  
時折身体が軽く痙攣を起こす。  
秘所は未だじんじんと熱を持っていて、少し触れれば意識せずとも身体はピク、ピク、と反応する。  
 
ふと、ドアの方を見遣った。  
 
朦朧としていた意識が、急速に覚醒した。  
 
「あっ…アルベルちゃんっ…!?」  
さっきまで、散々妄想に付き合わせた人物が、目の前にいて、自分のことを見つめている。  
スフレは羞恥と絶望でいっぱいになった。  
何かでごまかさないと、そう思い、何とか言葉を紡ごうとする。  
「あ、あの…アタシ…「俺は…」  
言いかけた所で、アルベルに遮られた。  
怒鳴られると思ったので、アルベルの静かな口調に、些かホッとする。  
 
「ガキを相手にする趣味はねぇ」  
 
冷たく言い放たれたその言葉に、スフレの表情は凍りついた。  
 
アルベルは乱暴にドアを閉めると、踵を返して早々に立ち去った。  
 
冷たいのはいつも通りなのだ。  
ただ、もう少し、何か言ってくれるのかと期待してしまった。  
妄想の中で自分を抱いていた、あの彼を期待してしまった。  
ポロリ と、大粒の涙が、エメラルドグリーンの瞳から零れ落ちた。  
 
「なんだってんだ、畜生。ガキが、人をオカズにしやがって!」  
ぶつくさと呟きながら、アルベルはペターニの喧噪の中を歩いていた。  
「あんな、クソガキが…」  
  ―女の表情を、見せるなんて  
幼いのに、やはり女であるのか、それとも、幼いが故の妖艶さか…  
スフレが自分に向ける、その前の、絶頂の余韻に浸っていたであろうときの、あの顔が脳裏に焼き付いて離れない。  
もし、もっと前に遭遇していたら、良がっている最中の、別の…  
 
(あークソッ!!やめだ、やめ!!)  
アルベルはおかしな方向に働きそうだった頭を力一杯左右に振る。  
「…モンスターでも、狩るか…」  
そして、癒しネコを小脇に抱えたまま、街の外へと歩みを進めた。  
 

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