清々しい青空のもと、フェイトとマリアは手を繋ぎながら緑豊かな自然の中を散歩していた。
特に会話などないが隣に愛する人がいる、それだけで二人には幸せだった。
その途中、フェイトは歩き続けながら自分の隣を歩くマリアに常々考えていたことを打ち明けた。
「ねぇ、僕たちって付き合ってるんだよね?」
「じゃなきゃこうして手を繋いで出かけないわよ」
今になってそんな事を聞かれたマリアは、盛大な溜め息を吐くと呆れた声で答えた。
「じゃあさ…」
フェイトは歩みを止めマリアに視線を移して言葉を続ける。
「どうしてキスさせてくれないんだよ?いつもふれあう直前になると逃げたして」
「それは…」
マリアも足を止め、言葉を濁しながらフェイトから視線を逸らした。
そんなマリアの様子に気を悪くしたのか、フェイトは堪らず言ってしまった。
「正直僕のことが嫌いなんだろ?」っと。
その瞬間乾いた音が響き渡った。
「…ッ」
痛みに堪らずフェイトは頬を押さえた。
マリアがフェイトの頬を叩いたのだ。
「人の気持ちもしらないでそんなこと言わないで……ッ!!」
マリアは目に涙を貯めてフェイトを怒鳴った。
「ごめん…」
今になって自分が言ってしまった言葉がどれだけマリアを傷つけてしまったことに気が付き謝った。
たが顔をあわせずらいのか、顔を逸らしながらであるが。
気まずい空気が二人の間を漂う中、マリアが小声で呟いた。
「………の…」
「え?」
「大切な人に愛される程その人を失った時のことが怖いの…あの時みたいに……」
幼い頃両親と共に幸せな日々を送っていた最中の戦争の激化。
それによる両親の死。
それが未だにマリアを苦しめていたのだ。
“死んだら悲しい思いをしなくて済む”
そんなことすら考えるようになった。
そんなマリアの心情を悟ったフェイトは優しく微笑むとマリアを抱き締めた。
「大丈夫、僕はマリアを残して死なない。約束す「何を根拠にそんなこと言えるのよ!無責任なことは言わないで!!」
あまりにも勝手なフェイトの言い分に苛立ったマリアは声を荒げ、フェイトを突き飛ばそうとした。
だが到底フェイトの力には敵わない。
それでもマリアはフェイトの腕を振りほどこうと必死に抵抗したがフェイトは更に強く抱き締めた。
「いた…ッ」
マリアが痛がるが構わずフェイトは話した。
「確かに根拠のない約束だ。でも僕がマリアを失う時があるかもしれない。そしたら僕もマリアの気持ちを理解することができるんだろうけれど絶対そんなことありえない。」
「どうしてかしら?今すぐにだって死ぬかもしれないわよ。」
幾分か冷静さを取り戻したマリアは落ち着いた様子で言葉を返した。
その事に内心ほっとしたフェイトは続けて話す。
「僕が命の限り君を守り抜く。君のためならこの命も惜しくない。でも僕はマリアより先に死ぬつもりはないよ。マリアを幸せにすることができなくなるからね。もう悲しい思いは僕が絶対させない。だから信じてもらえないかな?」
マリアをそっと離し、フェイトが優しく微笑んだ。
マリアは顎に手を当て、暫く考えた後に答えを出した。
「貴方1人じゃ到底無理ね。だから私がフェイトを支えるわ。何があってもね。でも私だってフェイトより先に死ぬつもりはないわよ。貴方にいっぱい幸せにさせてもらうもの。約束忘れないでね。」
マリアはニコッとフェイトに今までにない満面の笑みを向けて答えた。
「マリア……」
フェイトはマリアの可愛らしい笑顔に思わず惚けてしまった。
「まぁ暗い話しはそれぐらいにしておいて、キスしたいの?」
唐突にマリアは意地悪な質問をした。
「えっ?」
予想外のことにフェイトは顔を真っ赤にさせ、思わず聞き返してしまった。
「ふふっ、君ってほんとにわかりやすいのね。」
「べ、べつにいいだろ…!」
フェイトはむきになって言い返し、顔を逸らした。
だが、マリアはフェイトの両の頬に手を当て自分の顔と向き合わせた。
「じゃあ目を瞑ってくれるかしら?」
フェイトに目を瞑るよう促す。
マリアの大胆な行動に戸惑いながらもフェイトはゆっくりと瞳を閉じた。
マリアは完全に瞳を閉じたことを確認するとフェイトの顔に近づきそっとキスを落とした。
おでこに。
「おっおでこ?」
てっきり口だと思っていたフェイトは驚きを隠せなかった。
「口が良かったのかしら?」
「いや、べつにいいんだけどさ…」
明らかに言葉とは裏腹にがっかりしているフェイトを見てマリアは笑みを浮かべた。
「さっそろそろ戻らないとみんなが心配するわ。行きましょ。」
そう言ってマリアは落ち込んでいるフェイトにすっと手を差し伸ばした。
“まぁ…こんなのもいいかな”っと内心思いながらフェイトはマリアの手を掴んだ。
fin