「こんなモノでホントに彼の気をひきつけることが出来るのかしら…」  
フリフリのレースをつけたその黒のスカートを、たおやかな蒼髪とともに  
靡かせて、眉間に微かに皺を寄せているのは、マリア=トレイターという名の  
少女だった。彼女がこのような給仕のような姿をしているのは、恥ずかしいのを  
こらえて、超朴念仁の彼の気をひく方法をミラージュに聞きに言ったとき、  
どこからともなく割り込んできたクリフが、  
「男のことは男のほうがわかる!」  
と力説して、この服と、彼を迎える為の「マニュアル」と称したピンク色の  
妖しいメモを渡してきたことが発端なのであった。ちなみにこのマニュアルは、  
本番までは開けるなといわれたので――どこかあやしいとも思いつつ――  
それに従ってまだ開けてはいない。  
 
 大体においてこの服、自分にあっているとは思えない。少しだけ服を  
揺り動かすだけで、玄関を通る人々がちらちらとこちらを見てくる。  
あまりに似合ってないから笑っているんだわ、などと思うと、恥ずかしさが  
こみ上げてきてきて、部屋にかえってこの服を脱ぎ捨ててしまいたくなる。  
けれどもここまで来たら、彼に当たって砕けてしまいたい気持ちも。そんな  
こんなで煩悶しているうちに、彼女と似た髪の色の思い人が、こちらに向かって  
くるのが見えてきた。きた。こうなったら覚悟を決めるしかない。そうして  
マリアは扉を閉めてマニュアルの1ページ目を開いた。  
 
「ただいま」  
フェイトが扉を開いたとき目に映ったのは、普段からは考えられない可愛らしい  
服装、フリルやレースを大量にあしらったメイド服に身を纏ったマリアが、  
顔を朱に染めて何やら言いよどんでいる様子だった。  
 
 
 フェイトは目をパチクリさせて、もう一度目の前を見る。それでもなんだか  
信じられなくて、まぶたを擦って、再び見たのだが眼前に広がる光景に違いは  
あらわれなかった。黒と白に統一された、どことはなく厳粛なイメージを思い  
おこさせながらも、確実に男ゴコロをくすぐるアイテム、メイド服。それに  
身を包んだマリアがそこにいた。クリエイションするときに偶にするような  
眼鏡をかけており、自分よりも更に深く美しい蒼の髪は、これはいつもとは違う  
今纏っている衣装に相応しいレースのリボンで結ばれていた。スカートは若干  
短めで、マリアのすらりとした美脚が――ストッキングは履いているが――  
さらされていて、そちらにも目がいってしまう。  
 
「…ご。ご主人様…お帰りなさいませ」  
 
いつものはっきりした口調では無く、言いよどむような形でマリアの口から  
出たのは、フェイトの耳を疑わせるような台詞だった。余りのことにポカン、  
としていると、顔を朱に染めたままマリアが上目遣いにして聞いてくる。  
 
「そ、その…ヤッパリ似合ってない?…わよね」  
 
フェイトは大急ぎで首を横に振って、  
 
「そんなこと無いって。その、可愛いよ」  
 
と、マリアに返答する。その台詞を聞いたマリアは余計に顔を紅くして、  
何か呟きながらフェイトの視線から逃れるように後ろを向いてしまう。そして、  
 
「で、では荷物をお運びしますね」  
 
と、小さくなりながらもフェイトの荷物を持とうとしたが、  
 
「いいよ。そんな悪いし…」  
 
という風にフェイトが返答したら、ほんの少し瞳に力を込めて、  
 
「駄目よ。今日はあなたは私のご…ご主人様なんだから」  
 
と、有無を言わさないような調子で荷物を持っててけてけと歩いて行く。  
 
 フェイトは一瞬またマリアの台詞に惑わされそうになった。先ほどのも少し  
男ゴコロにくるものがあったが、所有格がつくとまたイメージも少し変わって  
しまった。  
 
(わ…私のご主人様って…)  
 
考えないようにしても、あられもない妄想が頭の中に浮かんでいく。あんなことや  
そんなことが浮かび消えていくが、何とかそれらを取っ払い、マリアの後をついて  
自分の部屋に帰ろうと歩き出そうとした。するとポンポン、と肩を叩かれたので  
振り返ってみると金髪筋肉がニヤニヤとちょっと不気味な笑いを浮かべていたので  
 
「な、なんだよ」  
 
と聞いてみると、  
 
「ま、ガンバレよ」  
 
と意味不明の台詞を残して手を振って消えていった。一体なんなんだとは思いつつ、  
フェイトはマリアを追いかける。そして、メイド服を纏ったいつもとは少し様子の  
違ったマリアと歩みを並べる。マリアの髪からは石鹸の香りが漂ってきて、何だか  
頭がぼうっとしてくる感じがした。マリアは自分に向けられたフェイトの視線に  
気がついて、キョトンとした様子で、  
 
「どうしたの?」  
 
とまたも上目遣いに聞いてきた。フェイトはその表情に魅入られそうになって  
ドキリとしたが、  
 
「何でもないよ」  
 
と流して、マリアから視線を背けた。マリアは怪訝そうにしながらも、まあいいかと  
歩みを元に戻した。途中、何人もの兵士たちがマリアを見て目を留めているのが  
フェイトにはわかった。気持ちはわかる。逆の立場だったら自分もそうしていたで  
あろうから。だけれどもその視線がなんとなく気に食わなくて、それから守るように  
マリアに近づく。マリアはその意図こそつかめなかったものの、その行為に何か  
暖かいものを感じていた。  
 
そうこうしている間に、狭い屋敷なのでフェイトの部屋についてしまう。短いような、  
長いような不思議な感覚がした。普段もマリアと肩を並べることはあるが、それとは  
違った感覚をフェイトに与えた。これでこの服見納めだったりしたら寂しいなとは  
思いつつ、それを表に出さないようにして、ついたよとマリアに声を掛ける。マリアはええ、と  
頷いて荷物を一旦置き、一寸待ってね、と言ってこちらから背を向けてしまったので、  
自分の部屋のドアを開ける。するとほのかな香りが部屋の内から外へ流れていくのが  
わかった。  
 
(香かな…?誰かが焚いてくれたのかな)  
 
と頭の中で考えた。きつくはないし、むしろ心地よい香りだったので良いだろうと  
思って、焚いてくれた人に感謝していると、後ろから、  
 
「えええ〜〜〜〜〜〜!」  
 
といった叫び声が聞こえる。急いでその発生源であるマリアに問いただす。その背中は  
何故だか震えているようにも見えた。  
 
「ど、どうしたの?」  
 
こちらを振り向いたマリアは、先ほどより更に顔を紅く染めているようなきがした。  
明らかなあせりを顔に浮かべつつも、一言返す。  
 
「な…なんでもないのよ」  
 
「え?…でも…」  
 
「いいからいいから。さ、入りましょ…」  
 
何だか釈然としないものを感じたが、フェイトは再び扉を開いて、部屋の中まで入る。  
瞬間、フェイトは凍りついた。部屋の中で止まってしまったフェイトを訝しそうに見た  
マリアは、どうしたの?とでも問うようにひょいと顔を近づけて、フェイトの視線の先を  
見る。マリアもそれを見て一瞬自分の目を  
疑った。二人が見たもの、それは。  
 
「お、お帰りなさいませ…フェイト様…!ってあれ?」  
 
露出の多めなメイド服を見に纏った銀髪の女性、カチューシャを頭に載せた  
クレア=ラーズバードだった。クレアもフェイトの隣にいる女性を確認した  
瞬間、固まってしまったようであった。なんとも言えない雰囲気がこの場を  
覆った。  
 
 暫く固まっていた三人ではあったが、真っ先に動き出したのは蒼髪のメイドであった。  
反射的に、戦場で強敵と会ったかのように得意のバックステップでクルリとターンしながら  
後ろへ下がる。その動きに合わせてスカートも舞う。相対する銀髪のメイドの硬直も解け、  
二人はまるで火花を散らすかのほどににらみ合う。  
 
((よりにもよって、この人か…))  
 
お互い、そういった感慨がある。同じ男を巡るライバルであることは前々から互いに  
感づいていたところであったのだが、こうして露骨な形となって相対するのは初めての  
ことであった。クレアにとって、他にも彼を巡るライバルは彼の幼馴染や自分の親友など  
様々な人物が考えられたが、何より目下最大の障害だと思っていたのが目の前の蒼髪の少女  
であった。彼と同じ髪の色に憧れたということもあるけれど、初めて会ったのが自分すら  
より後だというのに、彼と親しげであった。マリアにとってみても、過不足のまるで無い  
体つきをしたクレアのプロポーションは憧れでもあったし、何よりフェイトがアリアスを  
拠点にしていたのは果たして無料で宿泊出来るからなんて理由からだけだったろうかという  
思いはある。来たばかりの時は兎も角、宿泊料に困ることなど到底ありえない額を持って  
いたわけであるし。何よりお互いが共通の意識として持っていたのは、互いが似ている、  
ということであろう。トップに立って指揮する立場であるということもあるのだが、その  
仕事に対する取り組み方や、判断の妙において相通じるものを感じていた。似ている相手と  
いうのは総じてやりにくいものである。この段階において二人とも同じ衣装で勝負に来た、  
ということもその表れでもあるのかも知れない。  
 
互いの意思を推し量るかのように対峙すること数刻であったが、その  
間にようやく硬直が解けた、二人の美人から想いを寄せられる果報者中の果報者は、  
恐ろしいほどの重い空気に驚いてしまった。  
 
(え?…え?この二人って何でこんなに険悪そうなんだ?…そんなにマリアは僕が  
宿代けちってこんな遠回りするのが許せなかったりするのか?)  
 
などと半ば当たって半ば外れている想像を巡らす。  
 
「…フェイト様!」  
 
「…ご主人様!」  
 
 急に声を掛けられてピクリとするフェイトだったが、半ばその迫力に気圧されるように  
しながらも、コクコクと頷いた。  
 
『お掃除を、させていただきます』  
 
その台詞を一回耳から頭に入れて咀嚼したが、フェイトは良く意味が分からず頭の上に  
クエスチョンを浮かべてしまうだけであった。  
 
 パタンパタンと銀髪のメイドははたきでもって棚などの埃を落としていく。それに  
対して蒼髪のメイドはほうきとちりとりでもって落ちている塵を集めていく。二人とも  
慣れているわけでは無いので、その動きはどちらかといえばぎこちない。最も要領が  
いい二人なので、余裕を持ってのぞんでいればそのようなことにはならなかっただろう  
が。そんな二人を見ながら、思わず喜びが顔に出てしまいそうになっているのはフェイト  
である。  
 
(う〜ん。いいなあ…)  
 
ある意味親父臭い感慨であるが、二人の美女が、まるで自分に仕えるかのようにしてくれる姿は、  
フェイトの心を捉えるものがあった。慣れて無さから来るその拙さは一生懸命やっている、  
という風に見えるところもあって逆にポイントアップの要素になっている。二人のアピールは  
成功していると言ってもいいだろう。ふたりがかいがいしそうにしているのを見て満足そうに  
しているフェイトであったが、とりわけ目がいってしまうのはクレアのほうにであった。理由は  
至極単純で、男の性というやつである。  
 
(っていうかクレアさん…スカート短すぎるよ…)  
 
マリアも比較的短いものを選んではいるが、クレアのものは完全にミニ、というか、  
下手したら中が見えてしまうのではないかというほどであった。はたきを伸ばすたびに  
肉付きの良い臀部を振っているようにも見えて、まるで誘っているのではないかとすら  
思えてくる。普段もスリットから覗く太ももも、こうして見るとなんとも蟲惑的である。  
ネルも良く考えると短いのだけれども、あくまで任務の為である姿より、こうしたモノの  
ほうがフェイトには艶っぽく見える。どこか後ろめたさを覚えつつも、クレアをちらちら  
覗き見るようにしてしまうのも致し方ないことと自分に言い聞かせる。そんなフェイトの  
様子を、二人のメイドは敏感に察していた。  
 
(フェイトさん、私のほう見てる…)  
 
(フェイト…そんな…)  
 
クレアは恥ずかしさと嬉しさを感じて、マリアはショックを受けて憔悴する。このままでは  
クレアにフェイトを取られてしまう。それはいやだ。何としても勝ちたい――そう思ったとき  
頭に思い浮かんだのは、先ほど読んだクリフのマニュアルにあった言葉であった。思い起こす  
と顔から火がふきだしてしまいそうな程恥ずかしい。だけれども、自分にはそれに賭けるしか  
道も無いのもまた事実。その策を取るべきか思い悩んでいると、  
 
「マリアさん?はたき終わってからでないと埃をとっても意味がありませんよ」  
 
そうやってライバルが声を掛けてくる。マリアの瞳に映るその顔には、どこか勝利者の余裕が  
浮かんでいるように思えてきて、彼女らしくもなくかっとなる。その激情に後押しされたかの  
ように、マリアは遂に覚悟を決めた。  
 
「ご主人様、少しの間席を外すわね…」  
 
 ドスを効かせた声だったので、少しひきつつも頷いてフェイトは答える。そして部屋の外に  
出て行くマリアを見送った。それを見たクレアは、しかし勝利の余韻に浸ることなどはしなかった。  
クレアは相手が強敵だという認識を変えてはいない。今席を外した時も、その瞳に確かな決意が  
宿っていたのを感じた。だけれども、ここがチャンスだということも又違いは無いだろう。  
クレアはそうそうにはたきを脇において、フェイト様、といって、想い人のほうに寄っていく。  
その想い人の視線が自分の太ももや、大きく開いた胸元に吸い寄せられるようになっているのを感じると、  
それだけで身体が火照ってくる錯覚に襲われる。そしてクレアはフェイトの近くまで寄ると、  
次のアピールへ移るための一言を発する。  
 
「フェイト様、その…ベッドで横になってください」  
 
「は?…」  
 
素っ頓狂な声を出してしまったフェイトであったが、クレアの言葉を飲み込むと、頭の中が真っ白になり  
ような感覚に襲われた。  
 
(ベッドでって…まさか…)  
 
そのフレーズから思い浮かぶのはやましいことばかりである。メイド服の上からでもわかる女の部分を、  
もっと直に見たいという欲望もある、が、今の二人の関係には相応しくない様に思えて、理性を  
振り絞って首を横に振る。  
 
「だ、駄目ですよ。そんなの…」  
 
「え、そんな」  
 
クレアは目を伏せて悲しそうにする。それを見るとフェイトの頭の中に後悔の二文字が浮かんでくるが、  
いや、これで良かったのだと言い聞かせる。クレアはフェイトの目を覗き込むようにして問い掛ける。  
 
「私の耳かき、そんなに不安なんですか?」  
 
「…へ?」  
 
幾度目か分からない声を、フェイトはこうして又出してしまった。  
 
 
 
「あ、頭動かさないでくださいね」  
 
「ご、ごめん」  
 
ベッドの上に横になり、頭をクレアの膝の上に乗せているフェイト。そのフェイトの横顔を優しく  
みつめながら、クレアは耳掻きで耳垢をとっていく。奥のほうが見えないので、フェイトに頭の向きを  
変える様に頼む。  
 
「ああ、もう一寸顔傾けてください」  
 
「こ、こうかな」  
 
「ありがとうございます」  
 
膝の上でゴロンと頭を転がすようにすると、その柔らかい感触が更に伝わる。肉付きの良い、  
ふっくらとした女らしさを持つ、スリットからのぞいていた太股が自分の頬にくっついている。  
思わずすりすりと頬擦りしてしまいたくなるけれども、クレアの慈母の如き優しい瞳を見ると、  
その気がそがれて、まあいいかという気にもなる。穏やかな時が二人の間に流れる。  
 
「く、くすぐったいよクレアさん」  
 
「ふふ、ちょっとくらいは我慢してくださいね…さ、今度は左耳行きますよ」  
 
「うん」  
 
その言葉に立ち上がり、頭の向きを変えて乗せた瞬間、ば、っとドアを開く音が聞こえる。  
 
「ま、…待ってください…ご主人様…」  
 
そこに居たのは、先ほど席を外したマリアなのであったが、なぜか息も絶え絶えで身体全体を  
微かに震わせていた。その姿に不安を感じたフェイトはマリアの元へ駆け寄り、  
 
「大丈夫かい?」  
 
と身を案じる言葉を掛ける。マリアはコクリと頷いて、  
 
「え、ええ…残り半分は私に任せて…」  
 
と伝えてくる。残り半分、というのは耳掻きの左耳のことだろうか?と思ったフェイトだったが、  
息の荒いマリアの様子を見ると、部屋で休んだほうがいいだろう、と考えた。  
 
「休んだほうがいいよ…」  
 
自分をおもかんばる気持ちを嬉しく思ったマリアだったが、それではここに来た意味は無いのである。  
 
「ん、ありがとう…でも、私のことを気に掛けるのなら好きなようにやらせて頂戴?」  
 
フェイトもそう言われると強く出ることの出来ない性質である。とみに女に弱い自分の性格をちょっと  
呪いつつも、先ほどクレアが居た位置に正座で座り込むマリアの膝に、大人しく頭を預ける。スカート  
越しではあるが、マリアのクレアよりは引き締まった太股の感触を感じる。  
 
「ぁん…」  
 
艶っぽい声がマリアの口から漏れる。今まで聞いたことの無いマリアの声に内心どぎまぎしながらも、  
再び身を案ずる声を掛ける。それに返される言葉も先ほどと同じものではあったが、息の乱れが  
多くなっているようには感じた。だが、それは辛そうなものというより、どこかしら浮ついた感覚の  
ものであったのだが。感覚を自分の頭の下にあるものに戻す。  
 
(マリアって脚奇麗なんだよなあ…)  
 
脚線美とか、そういった種類のものをいつもの姿からでも、ストッキング越しに感じる。得意とする  
クレッセント・ローカスはその美しさを余計引き立てるものである筈なのだが、短いスカート(?)の  
せいで、中が見えてしまいそうに思えてモンスターどもがうらやま…もとい憎い。恥じらいとか  
無いのかなあとか思っているうちに、その技を見ることも無くなってしまったのだが。頭を落ち  
着かせるとなぜだか微かな機械音が聞こえてくる気がした。しかもマリアの方から。何かのタイマー  
だろうかと予測を付けて、マリアに問いただす。  
 
「マリア…何か鳴ってるんじゃない?」  
 
マリアはその言葉を聞くと、驚いた上で耳まで顔を真っ赤にする。  
 
「ん…?気のせいじゃないの?…っ…はぁ…」  
 
何かにこらえる様に目を半分閉じながら身体をピクリ、ピクリと震わせて答えるマリアの姿が、  
何故だかとてもいやらしい姿に見えた。  
 
(ど、どうしたんだろう、マリア…これじゃまるで感じちゃってるみたい…ま、まさかなぁ…)  
 
漫画で見たような展開を頭に思い浮かべるが、あくまでこれは現実の筈である。いや、マリアや  
クレアがメイド服でこんなことしているだけで十分現実味には欠けているのだが。とはいえ、  
その漫画で見るような展開が頭から離れず、先ほどの機械音に注意を傾けてしまう。ヴヴ、と  
いう断続的な微かな音と、それに合わせて、先ほどまでは聞こえなかった音が耳に届いてくる。  
水音のようなクチュ、クチュという音色が。  
 
(こ、これってやっぱり…!)  
 
それに引き寄せられるかのように頭を音の発生源であろう方向に近づける。予想を裏付けるかの  
ように耳に届く音は大きくなる。頭で太ももを押さえつけている為、布が擦れてマリアの息が  
荒くなる。それにつられる様にフェイトの妄想は暴走してゆき、息もマリアと同じように荒くなる。  
 
はぁ、はぁ、と荒い息をしながらも、嬌声を上げるのを何とかして堪えようとする。クリフの  
マニュアルにあったのは、「男は感じている女に弱い!」ということであった。まるで意味が  
理解出来なかったマリアであったが、マニュアルにあるとおりにメイド服のポケットを  
まさぐった時に出てきた道具――ローターを見て悟ることが出来た。下着を外し、これを着けて  
フェイトに応対しろとある。最初冗談じゃないわと思ったマリアであったが、予想外のライバルの  
出現によって、状況を覆す必要性が生まれてしまった。ここで負けてしまえば、フェイトは流されて  
クレアの元にいってしまう可能性だって十分考えられる。負けは許されない、そういう思いがマリアの  
冷静さを奪って、クリフの言葉のつけいる隙を与えた。マリアは意を決してその準備に取り掛かろうと  
する。下着を外せ、とあるので、先ずはブラジャーから取っていく。前をはだけ、シックな黒と、服に  
合わせたエレガンスなレースであしらわれたブラジャーを、留め金を外して取り去る。そして再び前の  
ボタンを掛けて元通りに戻す。  
 
「…ん、ああ…」  
 
敏感な性感帯である、ほどよい大きさの乳房の上についた可愛らしいピンクが、今までの滑らかな生地  
から急に荒い生地にさらされるようになって、思わず感じてしまう。が、余り時間を掛けるわけにも  
いかない。スカートをする、とたくし上げて、ブラジャーと同じ意匠を施したパンティを足元へするする  
と落とす。そして、クリフに与えられた道具を見る。男性器をあしらった機械式の道具である。こういった  
ものに対する知識はあっても、実際使うことになろうとは今まで露ほどにも思わなかった。ためらいを  
見せるマリアだったが、時計の針音がするたびにせめたてられる感覚に襲われる。  
 
(ためらっている場合じゃないのよ、マリア…ここが勝負の分かれ目なのよ)  
 
そう言い聞かせて、濡らすためのローションを塗る。自分で一人彼を想ってするときのことが思い出されて、  
恥ずかしさもこみ上げ来る。息を荒くしながらも、ローターを持って一息に入り口まで持って行く。  
 
「…あ、ああ…」  
 
今までは精々自分の指程度の太さしか入れたことの無いそこに、ローターがズブズブと入っていく。異物の  
挿入による不快感と、それを上回る快感が押し寄せる。  
 
(んん…だ、だめ、これからフェイトの元へ行かないと…)  
 
震えながらも立ち上がり、持ち前の精神力を発揮してフェイトの部屋まで戻っていく。さすがはクォークの  
リーダーというべきであろうか。だが、動くたびに服の裏地と乳首が擦れあって感じてしまう。その部分が  
たってしまって、ひょっとしたら服の上からわかってしまうのではないかとかまで思ってしまう。  
部屋の前まで行くと、フェイトとクレアの声が聞こえてくる。急がなければと思って部屋の扉をバン、と開けると、  
耳掻きを持ったクレアの膝の上にフェイトが頭をのっけてる姿が目に映る。  
 
(この女…やっぱり…)  
 
自分の計画にもあったアクションを先にとられ、内心悔しがる。が、幸いなことにまだ片側だけなようだ。  
クリフのマニュアルが本当に正しいなら、自分のアドバンテージを取り返すことも可能と考え、クレアの  
役を奪うことにする。フェイトは心配してくれるし、なんだか顔を赤らめていて可愛らしい。やっぱり  
ちょっとは効果があるのだろうか、と思っていたのだが…  
 
(こ、これって…)  
 
こうしてフェイトを膝にのせてよくよく考えてみれば、危険な状況であることがわかる。フェイトの頭を  
太ももに乗せるのだから、当然耳は脚の間に来る、ということは音で現在の状況がばれてしまうと  
いうことも考えられる。  
 
(フェイトに淫らな女だって思われてしまう…)  
 
本来絶望的な筈なのに、身体の芯から熱さがこみ上げてくる。フェイトに音を指摘され、フェイトの顔がその  
場所に近づく度に更に昂ぶりが増す。そこでフェイトが上ずった声で思いも寄らぬ言葉を発してくる。  
 
「マリア、その…出きれば直に脚を枕にしたいんだけど…」  
 
「え?…」  
 
 
 

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