眠れない。
ハァ。マユは息を吐いた。吐息は冷たい空気に白く浮かび、
一瞬にも満たないうちに溶けていった。
充分な暖房設備が整っておらず、石造りの建物である
カルサア修練場での夜は冷え込む。
調理場で明日の朝食の下準備をしていたマユの掌は
すでに冷たくなってしまっていた。
カチカチという音を刻む時計を見上げると、もう夜も遅くなっている。
「早く眠らないと…明日も皆さんの朝食を作らなくちゃいけないんだし」
独り言ちて、自室に戻るべく座っていた椅子から
立ち上がるも、どうしても寝付けない。
理由は判っている。
「……アルベル様…どうして帰ってこないんだろう…」
ぽつりと呟いて、再び腰をおろす。
マユとその母が身の回りの世話をしている
アーリグリフ攻撃軍、漆黒の団長であるアルベル・ノックス。
彼も一般兵と同様、このカルサア修練場で
普段を過ごしているのだが今日は帰りが遅い。
確か『会議がある』、と言っていたような気がするが、
それでもここまで遅くなると不安になる。
どうしてこんなにも彼のことが気に掛かるのだろうか――
理由は簡単だ。自分は彼に恋愛感情を抱いているのだから。
自覚しているのだから、どうしようもない。
いつからだったかは忘れてしまったが、
気がつけば彼のことを目で追う毎日が続いていた。
十八歳という多感な年齢でありながら、このような隔絶された空間で
過ごす事を余儀なくされたマユにとって、それくらいしか心が休まる事は無いのだ。
「…………」
アルベルのことを思い出していると、何故だか淫靡な気持ちになる。
「……ちょっとくらいなら…いいよね…」
マユは近くに誰もいない事を確認し、
スカートの中のショーツに手を滑らせて、紅く染まった秘部に手を当てた。
クチュ…
軽く触れた陰部から卑猥な音が漏れた。
そして人差し指と薬指を秘部の割れ目に沿わし左右に広げ、中指を転がす。
「ぅ…ん、ぅぅ…」
同時にマユの、幼さの残る唇から不釣合いな淫らな声が零れ落ちる。
内気で大人しく、慎ましやかな毎日を送ってきたマユにとって
このような行為で声を出すのはとても恥ずかしい事のように思えた。
とっさに空いた左手で、荒い息を吐き続ける口を押さえる。