餅は餅屋  
 
 上には上がいるもので、その分野において自分より優れた人間の意見は、大変役に立つものである。  
 それが、自分にとってはとてつもなく苦手な分野であれば、尚更に…。  
 
 「……情けないね」  
 
 グサァッ  
 
 言葉の暴力。言葉の斬撃。  
 アルベルには、はっきりと聞こえた。見えない剣によって、自分の体が貫かれる音が。  
 
 「歪のアルベルともあろうものが……恋煩いだなんて。チョーウケるんですけどー」  
 
 グササァッ  
 
 剣が、更に二本。  
 何故……ほんの…たったの24時間だけでいい。自分は時を巻き戻せないのだろう。  
 本気で、そんな疑問を抱いてしまう。  
 
 何故、俺はコイツに打ち明けてしまった?  
 
 「まぁそう言うなよ、フェイト。健全な若者ってカンジで、いいじゃねぇか」  
 
 何故、コイツがここにいる!?  
 
 「でも……ともかく。この僕を頼るとは、なかなか見る目があるね、アルベルも」  
 「っつーか、何で俺に相談しねぇんだ? 口説き文句なら山ほど…」  
 「はははは、決まってるじゃないか。成功率ほぼゼロのダメ大人が、一体何を…」  
 「ひどいなお前!?」  
 
 『漆黒』団長アルベル・ノックス(24)  
 彼は、大切な選択を誤ってしまったのかも知れない…。  
 
 「それにしても……いい事聞いちゃったなぁ」  
 
 いや、誤った。(断定)  
 
 
 
 
 世の中の様々な相手に阿呆阿呆と言い続けて……24年。  
 一番の阿呆は、昨夜酔ってうっかり想い人の名を口に出してしまった自分だと、アルベルはどこか高い場所から飛び降りたい気分だった。  
 
 「そんな落ち込むなよ、アルベル。僕、実は結構前から、薄々感づいてたし…」  
 
 それはそれでショックである。  
 
 「ネルさんと僕が話してる時、思いっきり僕の方睨んでたじゃないか?」  
 
 アルベルはハッとなる。そう言えば確かに、あの赤い髪の隠密が他の男と会話するたびに、不快な気分を抱いていた。が……まさか、はっきりと面に出ていようとは…。  
 
 「しかしまぁ、気持ちは分かるぜ。フェイトに相談したのは正解かもな」  
 
 シランド城、フェイトの部屋。  
 クリフは腰掛ける椅子をギィギィと揺らしながら、向かいに座る青髪の青年を顎でしゃくる。  
 「こいつ、異様にモテやがるからなぁ…。本当、正直むかついてんだよ、俺も」  
 
 フェイト・ラインゴット(19)  
 一見、少しばかり顔がいいだけの、どこにでもいそうな青年ではあるが、救国の英雄とも呼ばれ、シーハーツの女性陣からは特に概ね好意的に見られている。  
 中には、本気で恋心を抱く女性も…。  
 
 「あのねぇ……努力もしてないヤツが、勝手なこと言うなよ」  
 「……努力?」  
 モテる秘訣でもあるのかと、アルベルは参考のために聞き返してみた。  
 「勿論。まずネルさんだけど……ネルさんの頑張りを認めてあげて、アーリグリフに敵対心を抱いてるような言動を選んで…あとは、思いやりの心を見せるのが大切だね」  
 
 「………は?」  
 「………え?」  
 
 「相手がソフィアなら、子供扱いは禁物。思いやりのある言動と、穏やかな優しさが大事。  
マリアの場合、一生懸命さをアピールして、いつでも冷静な判断が出来るところを見せて、出来る限り意見を合わせてあげる」  
 
 「………!?」  
 「………!!?」  
 
 「スフレは寂しがりやだから、常に心配してあげる。そして皆を気遣い、優しく接するのが大事。  
ミラージュさんはお姉さんタイプだから、行動的な、優しい好青年キャラで。あとはマリアの場合と同じく冷静な判断を心がけて、年下なのに頼れる男の子…」  
 
 「「ちょっと待てぇぇ!!」」  
 
 予想外の内容に、クリフとアルベルはほぼ同時に椅子を蹴飛ばすと、真っ青な顔のままフェイトへと詰め寄った。  
 
 「お…お前……思いっきり八方美人じゃねぇか!?」  
 「今まで……んな事を考えてたってのか!?」  
 「うん、そう。ちなみにクリフの好みは、思い切りの良さと、行動的な考えと、現実的な意見という、体育会系のオンパレード。  
そしてアルベルは、過激な意見とひねくれっぷりを好む、アブナイ男。とにかく自分の意見を第一にしてるから、合わせてあげるのが本当に大変で…」  
 
 「「お…お前っ、最低だぁぁぁぁぁ!!」」  
 
 クリフの感情値、−20  
 アルベルの感情値、−20  
 
 「あ、別にいいよ? 女性キャラとのエンディング以外は興味ないし…」  
 
 「間違ってる! 世の中間違ってるぞっ、絶対! こんなギャルゲー攻略気分で女に接するヤツなんかにぃぃ!!」  
 「この……クソ虫がぁぁぁぁ!!」  
 
 「何言ってるのやら……。帝国華撃団の隊長さんなんか、もっと大変なのにね…」  
 
 
 
 
 
 ともかく、フェイトが女性陣から好意的に見られているというのは、否定しようがない厳然たる事実である。  
 「じゃ。まずは、作戦その1。雰囲気作りだ」  
 「雰囲気作り?」  
 「自分についての噂が立つと、もともと何とも思ってなかった相手でも、変に意識しちゃうもんなんだよ。この、第三者の介入によって恋心が芽生えるケースは、少なくない」  
 まぁ見てて、と、フェイトは二人を柱の影に隠す。  
 そして彼は、礼拝堂の赤い絨毯の上を歩いていき、祭壇の近くで談笑する、二人の女性へと近付いていった。  
 
 「ネルさん、こんにちは」  
 「ん…? おや、フェイトかい」  
 
 それを盗み見るアルベルの心が、少し痛んだ。  
 あんな微笑み……自分に向けられたことなどない。  
 
 「ああ、紹介するよ。この娘はロザリア」  
 司祭の娘だという彼女は、フェイトに向かって淡く微笑み、初対面の挨拶をする。フェイトも同じく頬を緩めると、ロザリアに挨拶を返した。  
 「今度、アーリグリフ王の王妃になるんだよ。……けど、よかったね、ロザリア。長年の恋が実ってさ」  
 「も……ちょっと、ネル……」  
 親友の言葉に、ロザリアの頬はリンゴのように赤くなる。  
 
 フェイトは、知っている。  
 誰も口には出さないが、これは紛れもない政略結婚である事を。  
 アーリグリフ王の本当の想い人が、エレナだという事を。  
 
 「……それは……大変喜ばしい事ですよね。僕からも祝福させてもらいます。……おめでとう、ロザリアさん」  
 「あ、ありがとうございます。……そうだ、ネルはどうなの?」  
 「……え?」  
 話をフられた理由が分からず、ネルは首をかしげる。  
 「ネルったら、恋愛に関しては初心者だから…。なかなか進展してないんでしょ?」  
 「ちょっ……何をっ……!?」  
 あらぬ事を言い出すロザリアに、彼女はすっかり狼狽してしまった。  
 (何で……! よりにもよって、“コイツ”がいる時に…!!)  
 「裏では、結構噂になってるのよ? ネルの好きな人…」  
 「ロザリア……」  
 短刀の柄をしっかり握り、威嚇しつつ、彼女はなおも言葉を続けようとするロザリアを睨み付ける。  
 「そ…そのへんにしときな………アーリグリフ王をヤモメにはしたくないだろ…!?」  
 
 「あ、知ってますよ。僕。ネルさんの好きな人」  
 
 「………え!?」  
 
 「アルベルでしょ?」  
 
 「………はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」  
 
 何故!? 一体どうして!?  
 普段は任務遂行のみに使用される頭脳をフル回転させ、ネルは今の青年の言葉を自らに問う。  
 (アルベル!? 歪のアルベル!? アルベル・ノックス!? 何で!? どんな根拠で!?)  
 チラリとロザリアを見ると、彼女は顔を引きつらせ、何とも言えない表情でフェイトを見つめている。  
 間違いない、ロザリアはきちんと知っている。ネル・ゼルファーの想い人を。  
 だからこそ、こんな顔をしているのだ。  
 
 「ちっ…違うに決まってるだろ!? どこからそんな噂を!?」  
 
 しまった。  
 あまりにも予想外の言葉に、否定が遅れてしまった。  
 
 「え? 違ったんですか? お似合いだと思うんですけど…」  
 「私が!? 歪のアルベルと!? 冗談じゃないよっ、まったく!!」  
 「……でも実は、ちょっといいかなーって思ってたり…?」  
 
 ふと、この青年を思いきりぶん殴ってやりたくなった。そして、今すぐその口を閉ざしてやりたかった。  
 
 (こいつは……アタシが、どんな気持ちで……!!)  
 
 「……ほら、喧嘩するほど仲が良いって言いますし。隠さなくても大丈夫…」  
 「……フェイト」  
 
 ネルは大きく息を吸い込む。  
 はっきりと……はっきりと、否定しておかなければならないのだ。  
 
 「大攻撃がゴキブリみたいで!  
  雪国でも馬鹿みたいに薄着で!  
  礼儀や品性の欠片もなくて!  
  顔を合わせれば阿呆とかクソ虫とか!  
  ファリンとタイネーブに未だ謝ろうともしないし!  
  無限空破斬とか言っときながら、実際に当たるのはせいぜい2回くらいだし!  
  変てこな髪だし!  
  ヘソ出し股チラだし!  
  はっきり言わなくても変態だし!  
 
 あんな馬鹿プリンっ、例え天地がひっくり返ろうとも! 好きになんかなるワケないだろ!?」  
 
 
 
 「……だってさ」  
 「リアルタイムで聞こえてんだよ! 追い打ち掛けてどーすんだ!」  
 
 体育座りして落ち込むアルベルに、どう接すればいいのか分からず、クリフはとりあえずフェイトを怒鳴っておく。  
 
 「……アルベル。諦めるな」  
 「何言ってんだ、クソ虫…。望みの欠片もねぇじゃねぇか…」  
 「まったく…。いいかい? 今、ネルさんの頭の中は、アルベルの事でいっぱいになってるんだ」  
 「い…いや、フェイト。確かにその通りだが…」  
 「黙ってろ、クリフ。ここでアルベルと顔を合わせれば、もうネルさんのハートはドッキンバックンドッキンバックン…。それがすなわちっ、恋!」  
 
 (アホかこいつ!?)  
 
 「……そう…なのか…?」  
 
 (信じやがった!? どこまで初心者だ!)  
 
 「男ならっ、当たって砕けろだ! 大丈夫っ、はっきり顔を合わせて告白しちゃえば、きっとネルさんはハートブレイク!」  
 
 (……ブレイクしちゃだめだろ…)  
 
 
 
 クリフは小さく、しかし底なし沼のように深い溜息をつくと、そっと廊下の向こうを伺った。ちょうど死角になるところで、向こうから歩いてくるネルは気付いていない。  
 「よしっ、アルベル! GO! ビシッと決めてやれ!」  
 フェイトは小声で叫び、さっきまで何度も深呼吸していたアルベルの背を押し出した。  
 
 「!?」  
 
 突然すぐ前に現れた彼に、思わずネルは息をのむ。  
 
 (アルベル…! クソッ、そう言えば一体誰なんだろうね? あいつに妙な噂吹き込んだのは…)  
 
 「……おい」  
 
 出来れば、無視してさっさと通り過ぎてしまいたかった。が、呼び止められればそうはいかない。何しろ、一応は共に戦った仲間同士である。  
 
 「……おや、アルベルかい。何か用でも?」  
 
 腕を組み、顎を上げ、その場に斜めに立つ。怒ってどこかへ行ってくれるかも、と期待していたのだが、アルベルはじっとこちらを見つめ、口をモゴモゴと震わせている。  
 
 「……? あたしも暇じゃないんでね。用があるんなら、さっさとして欲しいんだけど…」  
 「………す………ぃ…だ……」  
 「は?」  
 
 
 
 (ああもうっ、じれったいなぁ!)  
 (いや……飛び出せた事自体、奇跡だと思うんだが…)  
 
 
 
 「す……すすす…すすっすっすぅ……」  
 「何なんだい? すかしっ屁の物真似かい?」  
 
 
 
 「すす……すすすすすすす…」  
 「……?」  
 
 「すすっ…すすすすすスキ有りだクソ虫がぁぁぁ!」  
 
 アルベルの右手は、一瞬で刀の鞘を握る。一歩でネルとの間合いを詰め、抜き打ちで斬りつけるが、間一髪、ネルは後ろに跳び下がっていた。  
 
 「ッ…! 何すんだい、あんた……」  
 
 
 
 (マジで何してんだアルベルぅぅぅ!? ……て、あれ? フェイト…。鉄パイプなんか持って何を…)  
 
 
 
 「うううううるせぇ! 手違いだ!」  
 「手違いで殺されるつもりはないね! そうかい、あんた…。ちょうどいいよっ、あたしもあんたにゃ、いい加減ウンザリだったんだ!」  
 
 取り返しの付かない事態に陥ったということは、アルベルにも痛い程分かっていた。  
 ネルも短剣を抜き払い、構える。  
 
 「……ッ!」  
 「来ないんならこっちからヤルよ!? 黒鷹せ…」  
 
 
 
 カッキィィィィィィィンッッッ  
 
 
 
 「……ん…て……え?」  
 
 
 
 金属音。吹き飛ぶアルベル。勿論、攻撃したのは自分ではない。  
 自分の後ろから突然、翼のある青年が飛び出し、アルベルの頭を持っていた鉄パイプでぶん殴ったのだ。  
 
 
 
 (……ひでぇ。けど、正しい判断かもな…)  
 
 
 
 翼を動かし、ふよふよと宙に浮かぶ青年は、被っているレスラーマスクを改めて引き下ろすと、アルベルの襟首を掴む。  
 
 「……あの……何してんだい? フェイト…」  
 「え? フェイト? どこの素敵な好青年の事ですか、それは? 僕は通りすがりの撲殺天使です」  
 「撲殺天使って…。いや、ちょっと。その鉄パイプは、確かにフェイトの…」  
 「これは鉄パイプではありません。何でもできちゃうエスカリボルグです。では、ネルさん。さようなら…」  
 
 ガガガガガガガガガ  
 
 アルベルを引きずって運び出そうとしているらしいが、何しろ中途半端に浮いているので、何度も頭を床にぶつけている。  
 
 「あ…あの、フェイト。幾ら何でも死ぬんじゃ!?」  
 「でーもーそーれも、僕の愛なのぉぉぉぉぉぉぉ……」  
 
 
 
 「まったく…。アルベルのせいで、危うくネルさんに感づかれるところだったじゃないか」  
 「……っつーか、アルベルの口からクリームソーダが湧いてんのは、間違いなくお前のせいだろ…」  
 
 蘇生薬が必要な状態のアルベルに、クリフは心の底から同情した。  
 
 「……そういや、今…ふと思ったんだけどよ」  
 「何?」  
 「フェイト。お前さ……本気で、アルベルを応援するつもりあるのか?」  
 「馬鹿かい、クリフ? 何を今更…」  
 「いや……そっか…。ひょっとしたら、暇つぶしにアルベルで遊んでんのかなぁ、とか思っちまったからよ…」  
 
 「……………チッ…。ははは、イヤだなぁもう」  
 
 (図星かよ!?)  
 
 その時、クリフの顎の下から呻き声が聞こえる。  
 ようやく意識を取り戻したアルベルが、むっくりと起きあがったのだ。  
 フェイトは腕を組み、彼の前に立つ。  
 
 「どーゆーつもりかな? アルベル。僕だって、遊びでやってるつもりはないんだけどね?」  
 「おい、アルベル。こいつの話、もうスルーしていいぞ」  
 
 原因は分かっている。  
 緊張しかないのだ。  
 いざ目の前に立たれると、どうしても、たった一言が言えない。実に単純明快な、一言が。  
 
 「……しょーがないなぁ、もう。方法を変えよう」  
 「その前にお前、もうちょっと真剣さを身につけろ」  
 「要するに、アルベルから告白しようとするから、うまくいかないんだろ? こうなったら、ネルさんから言わせるしか…」  
 「……んな事出来たら苦労は」  
 
 しない。  
 自嘲するように俯くアルベルだが、フェイトは数本の試験管を取り出すと、彼の目の前に並べた。  
 
 「……おいっ、フェイト! これは…」  
 「そう、惚れ薬さ!」  
 「惚れ薬さ!じゃねぇだろうが!! 名前とは真逆に、これって嫌われ薬なんだぞ!?  
 ただでさえ毛虫みてぇに嫌われてるアルベルをこれ以上嫌わせて、一体どーしよってんだ!?」  
 「ひどいなクリフ! 言っていい事と悪い事があるんだぞ!?」  
 「テメエに言われる筋合いなんざ、爪アカほどもねぇんだよ!」  
 「別にアルベルに飲ませるワケじゃないよ。ネルさんに飲ませるんだ」  
 「……は?」  
 「皆がネルさんから離れていく。ネルさんは理由が分からず、ただ絶望するしかない。しかしそこで、白馬に乗った王子様(笑)が!  
 唯一自分を受け入れてくれるアルベルに、ネルさんの頑なな鋼鉄のハートも解けていき、そして迎えるハッピーエンド!」  
 「………こんの外道小僧ォォォォォォ!!」  
 
 叫んだのはクリフだが……飛び出したのは、アルベルだった。  
 
 「!」  
 
 ダンッ  
 
 フェイトの襟を掴み、彼を堅い壁に叩きつけると、その首筋に刃を寝かせる。  
 
 「……おい…クソ虫…」  
 「………」  
 「テメエはこの筋肉ダルマよりゃ、ちっとはマシなクソ虫かと思ってたんだが……俺の見込み違いだったらしいな…」  
 
 本気だ。本気で怒っている。  
 久々に感じたアルベルの殺気に、クリフは無意識に生唾を飲み込んだ。  
 
 「んなクソ下らねぇ事やるくらいならなぁ……腹かっさばいて死んだ方がマシなんだよ!」  
 「…………じゃあ」  
 
 フェイトは突然微笑むと、アルベルの肩に右手を置いた。  
 
 「19歳にマジ相談するなよ、24歳」  
 
 グサササァッッ  
 
 「ん? どうかしたの、アルベル…」  
 「アルベルっ、死ぬなぁぁぁぁ! ほらっ、ブラックベリィブラックベリィ!」  
 
 
 
 
 
 その後も……  
 
 「ミラクルオラクル! アペリス神の神託で付き合わせよう作戦」  
 「突如襲い掛かる暴漢! 颯爽と現れる白馬の王子様作戦」  
 「身代わり忍法! ロマンチックアルベルに変身作戦」  
 
 ……等々、その全てが失敗に終わった。  
 
 第一の作戦では、アペリスのお告げを告げようとしたクリフが間違ってネルに斬られ、第二の作戦では、覆面をしたクリフにネルが速攻で封神醒雷波をぶちかまし、  
第三の作戦では、マリアのアルティネイション(有料)を使ってまでアルベルに変装したフェイトが、あっという間に見破られ…。  
 
 「……っつーかフェイト! 俺だけ貧乏くじ引いてねぇか!?」  
 「ははは、まさかそんな事は…」  
 「信じられるかぁぁ! 暴漢作戦の時は真っ先に逃げやがってぇぇ!!」  
 
 
 
 「………」  
 
 既に、黄昏時…。  
 窓際に立ち、沈みゆく夕陽に思いを馳せながら……アルベルは一人黄昏れていた。  
 
 所詮、無理だったのだろうか…。あれ程憎み合っていた者同士、結ばれる事など…。  
 確かに、あの時、自分は彼女の二人の部下を叩きのめした。それは間違いない。  
 だが、あの時は敵同士だったのだ。自分はアーリグリフの戦士として、あの二人を見過ごすことなど出来なかった。  
 間違ってなどいなかったと、アルベルはそう思う。だからこそ、謝るつもりなど無い。  
 
 しかしそれは当然のことながら、自分の立場での考え。  
 
 ネルは二人の部下を、本当に大切に思っている。それは共に戦うようになってからの行動で、よく分かった。  
 ネルにすれば、部下達を叩きのめした自分は、憎むべき敵なのだろう。  
 
 (……謝る、か……)  
 
 確かにあの時、女相手に少々むきになり過ぎたとは思う。あそこまでせずとも、十分に戦闘能力は奪えた筈だ。  
 謝って、それで蟠りが解けるとまでは思わない。しかし……一歩くらい、何かが前進しそうな気がするのだ。  
 それで、いいのではないだろうか…。  
 
 「よし…。おい、俺は謝るぞ」  
 
 「「………は??」」  
 
 突如として聞こえた声に、それまで口論を続けていたフェイトとクリフは、素っ頓狂な顔をして振り向いた。  
 
 「誰が?」  
 「俺が」  
 「歪のアルベルが?」  
 「ああ」  
 「アーリグリフ軍で最凶の男が?」  
 「そうだ」  
 「……ファリンさんと…タイネーブさんに…?」  
 「……そうだ」  
 
 「「無理だろ」」  
 
 「なっ…!? 何だとこのクソ虫共が!!」  
 「歪んでないアルベルなんて、アルベルじゃないじゃん。ねぇ?」  
 「ああ。異名はどうすんだよ? 優男のアルベルとか、軟弱のアルベルとかになっちまうけど……いいのか?」  
 「勝手に付けるんじゃねぇ! だいたいっ、歪ってのも周りが勝手に付けたんだ!!」  
 
 ぱあんっ  
 
 フェイトは取りあえず手を鳴らすと、二人の注目を自分へと集める。  
 
 「まぁ、アルベルの冗談は置いとくとして…」  
 「冗談!?」  
 「いいかい。これが本当に本当の、最終作戦だ」  
 「……一応聞いといてやる」  
 
 ドンッ  
 
 腕を組むアルベルの目の前のテーブルに、彼は一升瓶を置いた。  
 
 「……酒?」  
 「僕が酔った振りをして、ネルさんを襲う」  
 
 「……!?」  
 「アルベルは、それを助けろ」  
 「……ちょ…ちょっと…待て…!?」  
 「普段、いい子ちゃんで通ってる僕だからこそ、ネルさんも大ショックを受けるだろう。言っとくけど、僕が出て行った後は、アルベル次第だ」  
 
 二人とも、淡々と説明する青年の言葉を信じられなかった。  
 
 「さっきも言った通り、ネルさんは思いやりのある優しい行動を好む。間違っても、襲ったりするなよ? ただ気遣い、ただ優しく…」  
 「……フェイト…本気か?」  
 「ああ、本気」  
 「じゃ…じゃあ、そうなったらお前……ネルに嫌われ…」  
 
 それだけでは済まないだろう。  
 ソフィアやマリアには勿論、クレア、ファリン、タイネーブ……いずれは、ほとんどの女性にその事は知れ渡り、フェイトは孤立する。  
 
 「未開惑星保護条約」  
 
 フェイトのその言葉に、クリフの目が大きく開いた。  
 
 「どうせ、いずれはこの星を出なくちゃならないんだ。もう会える事もないさ…」  
 「………フェイト…」  
 「アルベル。絶対に失敗するなよ? 消し飛ばすからな」  
 「………」  
 
 
 
 
 
 そのころ…。  
 三人の頭上……天井裏で動く二つの気配には、彼らはついに気付かなかった。  
 
 
 
 
 
 意外と……と言うより、殆ど知られてはいないが、フェイトは酒に強い。  
 
 「……っふぅ……」  
 
 相手は、シーハーツ最高の隠密の一人、ネル・ゼルファー。生半可な演技では騙せはしない。  
 テーブルの上で空になった一升瓶をゴロゴロ転がしながら、さすがに飲み過ぎかと、彼は静かに苦笑した。  
 
 「………」  
 
 深夜。皆は寝静まっている。  
 フェイトは部屋を出ると、足音を消して廊下を渡り、ネルの部屋の前に立った。  
 予め作っておいた合い鍵で解錠し、細心の注意を払って室内を進む。そして僅かに赤髪がのぞくベッドへと、そろそろと近付いた。  
 「………」  
 静かな寝息と共に、そっと、掛け布団が上下する。  
 
 (……よし!)  
 
 意を決して跳びかかった瞬間、ぼふっと、顔面が何かに埋まった。  
 
 「!?」  
 
 寝ていた筈の彼女は背後へと回り、自分の右腕を首に回し、両足を腰に巻き付ける。  
 
 「……今晩は、フェイト。どうしたんだい?」  
 「ッ…!!」  
 
 ぬかった…。  
 もっと、用心に用心を重ねるべきだった。  
 何しろこれは、相手の得意分野なのだから。  
 
 「ごっ、ごめんなさいネルさんっ!」  
 
 それが、ドアの外のアルベルに対する、作戦中止の合図。  
 
 ギィッ……  
 
 が、予想に反し、自分がさっき閉めたばかりのドアは動いた。  
 
 「!?」  
 
 「どうも〜〜」  
 「こんばんは……」  
 
 一人はひらひらと手を振りながら入室し、もう一人は静かに挨拶すると、後ろ手にドアを閉め、施錠する。  
 
 「ファリンさんに……タイネーブさん…て……どういう…事…!? アルベルは…!?」  
 「おや…。久々だねぇ、あんたが慌てるなんざ…」  
 ベッドの上でフェイトを羽交い締めにしたまま、ネルは背後から、そっと耳元で囁いた。作戦成功とばかりに、声に弾みがある。  
 「今日一日、どうも様子がおかしいと思ったら…。成る程ねぇ、そういうワケかい…。二人に調べさせて、ようやく分かったよ」  
 「……!!」  
 「あ、クリフさんとアルベルさんにはぁ、フェイトさんの伝言だって言ってぇ、城下町の宿まで行ってもらいましたぁ」  
 
 ファリンが親切に説明してくれるが……彼女を包む怒気は、手に取るように分かった。タイネーブは無表情のまま、ドアの前から動こうとしない。  
 
 (……死んだな……これは……)  
 
 フェイトは観念するかのように、重い溜息をついた。  
 
 「さて……ファリン。タイネーブ。どうしようかねぇ、こいつ…」  
 「ええっとぉ……要するに、ネル様に夜這いを仕掛けたって事ですよねぇ?」  
 「そうなりますね…」  
 「罰が必要…だね?」  
 「はぁい」  
 「お手伝いします…」  
 
 ネルはフェイトの身体を回転させ、ベッドの上に仰向けに寝かせると、腹部に馬乗りに座る。ファリンとタイネーブもそれぞれ彼の両手を握り、大の字に広げた。  
 
 「………」  
 「……っネル…さ……!」  
 
 ランプ一つの、頼りない照明の仲、ネルが無言で引き抜いた短刀が妖しい光を放つ。彼女はその切っ先をフェイトの胸に近づけると、抉った。  
 
 「! ……?」  
 
 寝間着のボタンが飛び、襟が広がる。更に、残るボタンも、次々と取り外されていく。  
 
 「ネル…さん……!?」  
 
 フェイトの寝間着は完全に左右に開かれ、素肌が外気にさらされた。短刀を鞘に収め、それを台の上に置くと、ネルは背を曲げ、鼻先同士が触れる程に顔を近づける。  
 
 「……アンタ……この星を出て行くんだってね…」  
 「そ……!」  
 
 急いで否定しようとしたところで、彼は気付いた。  
 作戦が全てバレているという事は、夕方の話は全て筒抜けだったという事。  
 
 「………」  
 「……黙って、かい…? 黙って…」  
 
 頬に、熱い水が落ちた。  
 
 「……!?」  
 「……いつから…アンタがリーダーって決まったんだっけね…。……当たり障り無く、八方美人に…皆に仲良く接して…。いっつも何でも、一歩下がったところから…見て…」  
 
 ポタ  
 ポタ  
 
 ネルの涙腺から溢れ出る雫は、何度もフェイトの顔を濡らす。  
 
 「我慢して……みんなを気遣って……扇の要みたいに、みんなを纏めて……」  
 「………」  
 「アンタが好きだけどっ、それが……嫌い」  
 
 彼女は目を閉じ、コツリと額をぶつける。  
 
 「知らなかったろ? アタシも、ファリンも、タイネーブも……」  
 「………」  
 「アタシ達に、あんな星の船はないし…。アンタが出て行ったら、どうやって会いに行けばいいんだい?」  
 「……僕達は、この星の人間じゃありません…。だから……帰らないと…」  
 「……やだね」  
 「……?!」  
 「夜這いの罰だ。絶対に……帰るんじゃないよ。アンタは一生……ここで暮らしな」  
 「それはっ…!」  
 「どうしても帰るってんなら…」  
 
 額が離れた。  
 ネルはゆっくりと上体を起こし、それと共に、彼女の顔が鮮明になる。  
 
 「帰れなくしてやる…。二度と、帰りたいなんて言わないくらい……それくらい、心残りを作ってやるさ…」  
 
 再び、妖しく光る瞳が近付いてくる。  
 唇が塞がれた。  
 
 「ッ…ッッ…!」  
 「……ん……!!」  
 
 息苦しいのは、互いに同じ。  
 最初はそっと、しかし徐々に、ネルの舌は荒々しくなっていく。フェイトの舌を締め上げ、歯の裏をなぞり、唾液を掬い取り…。  
 
 「ああ〜〜、もうカチカチですよぅ」  
 「…!?」  
 
 万歳の形でタイネーブが両腕を封じ、ファリンがネルの向こう側に回っている。いつそうなったのかも分からないほど、頭の中はぼうっとしていた。  
 下着と肌の間に指が入り、下着ごと寝間着を引きずり下ろされる。既に怒張している自分自身が、外気にさらされるのを感じた。  
 
 「っはっ……!」  
 
 ようやく、ネルはフェイトの唇を解放する。  
 
 「……アンタ、随分と飲んだんだね…。こっちまで……酔ってきた……」  
 
 オレンジ色に照らし出された彼女の微笑に、その妖艶さに、フェイトの鼓動が更に加速した。  
 
 「申し訳ありませんが、フェイトさん…。拘束させて頂きます」  
 
 丁寧に断りを入れ、タイネーブは彼の両手首を縛り、ベッドの柱に固定する。  
 ネルが身体の上から降り、いきり立つ自分自身が見える。そして、小悪魔という呼称が相応しい笑みを向けるファリンと目があった。  
 
 「んふふふふぅぅ…」  
 
 彼女はくぐもったような笑い声をさせると、あっと言う間に隠密服を脱ぎ去る。  
 同じくベッドに寝そべり、豊満な乳房を持ち上げると、フェイト自身をその谷間に挟み込んだ。  
 
 「……!」  
 
 やわらかい肉で、ぎゅうぎゅうに締め付けられる。ファリンは余った先端に顔を近づけると、亀頭をちろりと舌先で撫でた。  
 
 「ぁっ…!?」  
 「へぇぇ……可愛い声、出すんですねぇ〜〜」  
 「ッ…! ふぁっ…ファリンさん…! やめてっ、ください……」  
 「イヤですよ〜〜だ…。朝になるまで……たっぷり、付き合ってもらいますからねぇ……」  
 
 そう言うと、彼女は俯き、亀頭を完全に口の中に納める。自分の乳房に手を添え、更にフェイト自身を締め付けると、ゆっくりと愛撫を始めた。  
 
 「ファリンっ…さ…ん……! そんんっ…!!」  
 「……タイネーブ。フェイトの口、塞いでやりな」  
 「え……」  
 「“下の口”でね」  
 「……! ……は…はい……」  
 
 ベルトを外し、ロングスカートを落とす。ファリンの胸に敗北感を抱いているのか、隠密服の上は脱がず、次に下着を下ろした。  
 
 「ッ…たっタイネーブさ…」  
 「……ッ!」  
 
 ベッドの上に乗ると、タイネーブは顔を真っ赤にして目を閉じ、フェイトの顔の上に腰を落とす。  
 
 「ご……めんなさ…い、フェイト……さん…!」  
 
 そう言いつつも、彼女は膝で頭を挟み、両手をつく。  
 
 「っっく…ぅっ……っはっ…!」  
 
 息をされただけで、ビリビリと電気が走るような快感が訪れた。  
 やがて、フェイトの唇が開き、密着状態の秘所に舌が伸びる。  
 
 「あ…ンっっ……ふぁっあっ…!!」  
 
 好きな男の顔に股を押しつけているという、奇妙な罪悪感。それを感じる度に、快感はより一層深く、重く、激しくなっていく気がする。  
 
 「んんんああっ……あっ、あ、あああぁああっ、はっ、ぅあっ…!」  
 
 羞恥心で閉じていた瞼が、徐々に開き出す。涙が溢れ、目尻から頬を伝った。  
 
 「はぁっ、いっ……ッふぁ…んっ…あっ、はぁっ、あっ、ああああっ、あっ!!」  
 
 びくんっ  
 
 タイネーブの身体が、大きく揺れた。  
 
 「っあ……あ………」  
 
 唇の端から、だらしなく唾液が垂れ、口が半開きになっている。  
 
 「……そんなに、かい…」  
 
 ネルは呟き、タイネーブを支えると、傍の椅子に座らせた。  
 
 「タイネーブったらぁ……感度良すぎですよぅ」  
 
 そう言って笑い、ファリンは再び、震えるフェイト自身を口の中に埋め込む。舌を滑らせ、ぷにぷにと裏筋を押した。  
 
 「はっぐっ……あ…!」  
 
 身体を起こそうとしたフェイトだが、両腕が縛られている。  
 再び視界にネルが現れ、身体の上に馬乗りに腰掛けてきた。  
 
 「ネル…さん……」  
 「………」  
 
 彼女はそっと顔を近づけると、タイネーブの愛液を拭うようにして、頬や額、瞼、鼻筋に舌を這わせる。  
 そして最後に唇に達すると、半開きになった唇の間に舌先を差し込み、そのまま唇を押しつけた。  
 
 「ん…む…ん……ぅん……ン……」  
 
 キスだけでこんな快感を覚えるなど、想像もしなかった。  
 フェイトはほとんど無意識のうちに舌を伸ばし、何度もネルのそれと絡め合わせる。押しつけられた胸の膨らみ、腹を濡らすネルの秘所、そして、自身を包む熱い口。  
 全てが、その熱で、自分を溶かそうとしているかのようだった。  
 
 「んっ……あっ!!」  
 
 そろそろ絶頂を迎えようという時、突然、ファリンは男根の付け根を握り締める。顔をゆがめるフェイトに、ネルは後ろを振り向いた。  
 
 「一番は……ネル様でいいですよぉ…」  
 「……そうかい……」  
 
 ネルは馬乗りになったまま下がり、僅かに腰を上げる。そして、ファリンの手で垂直に立てられた彼自身の先端へと、ゆっくりと、腰を下ろしていった。  
 
 「ンッ…!」  
 
 亀頭が接触し、秘穴の入り口にぶつかる。やがて徐々に入り口が押し広げられ、ゆっくりと亀頭がめり込んでいく。  
 
 「っくぅっ…あっ……あ…」  
 
 カリが収まり、亀頭が全てネルの胎内に収まったところで、突然彼女は力を抜き、一気に挿入させた。  
 
 「っふぅぅっっ、ああぁア…あっ!」  
 
 ファリンの手は、まだフェイト自身を縛り付けていた。  
 ネルはそのまま、腰を上下させ始める。  
 
 「っはぁっ、ひ…んっ、はっ、はぁっ、っふ…!」  
 
 信じられない程愛液が湧き出し、ぬらぬらと男根を濡らした。  
 
 「っひっぃっ…っはっ……ふぁっ、あっ、いっ…いいっ…!」  
 
 愛液は十分すぎる程の潤滑油となり、怒張は何度もネルの膣を押し広げ、擦る。  
 
 「っくっ……あっ、あっ、ああっ、ひっ、ぁんっ、あっ、ああああっ!」  
 
 ネルが更に上下動を加速させたのを見て、ファリンはそっと、フェイト自身を締め上げていた手を離した。  
 その刹那、抑圧されていた衝動が一気に解放され、ネルの胎内の奥深くまでを灼く。  
 
 「あああっ!? あっ…ああっはっ……っはぁっ……!!」  
 「ふぅっあっ……くっぅ……あ……!」  
 
 暫く、二人はそれぞれの絶頂に浸る。  
 やがてほとんど倒れ込むようにして、ネルはフェイトの上へと覆い被さった。  
 
 「んあっ……っはぁっ……」  
 
 まるで何かを惜しむかのように、彼女はフェイトの首筋に口づけ、強く身体を抱きしめる。彼女の秘所からは、小さな音を立て、白濁した液体が流れ出していた。  
 
 「……膣内に……たくさん……」  
 「………」  
 
 フェイトは目を閉じ、荒い呼吸を整えようとする。  
 
 「……出来るかな…子供」  
 「そっ……それ…は……」  
 
 例え一回だろうと、十分に可能性はある。  
 しかも、あんな量を一度に注ぎ込めば…。  
 
 「……まぁいいさ…。また…何度でも…」  
 「……!!」  
 「アンタ……四人の女、捨てられるかい?」  
 「それは……………………………え? 四人…!?」  
 「明日にでも…アリアスへ行ってもらおうかねぇ…」  
 「え…? え? ええ?」  
 「……ま、その前に…」  
 
 ネルが呟いた次の瞬間、フェイトの背が海老のように反り返った。  
 
 「っ…!」  
 「もう……私がまだですよぅ」  
 
 ファリンは再び、あの笑みを浮かべながら、再び硬質化しつつある男根に細い指を這わせる。  
 
 「……アンタもう、この国で死にな…」  
 「………」  
 
 今晩あたり、死ねるかも知れない。  
 フェイトは顎をくすぐる赤髪を眺め、首を起こすと、自分でもよく理由の分からないまま、そこに口付けた。  
 
 
(終)  
 

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