「それじゃあ…………また明日、ね」  
「ああ、おやすみ」  
皆はもう寝静まった頃だろう。フェイトは自室の入り口で微笑む。その視線の先には、彼と同じ色の髪の少女がいた。  
「ええ」  
背を向けて去る少女は、すぐに立ち止まる。やがてもう一度フェイトの元へ駆け寄って、耳を彼の胸に付けるように体を預けた。  
フェイトはまるでそれが分かっていたかのように驚くことなく彼女を優しく抱きとめた。  
「……おやすみなさい」  
ゆっくりと二人は離れ、フェイトは穏やかな気持ちで彼女の背中を見届けていた。  
「………♪」  
嬉しそうに歩くマリアは、曲がり角の裏の赤い影に気付くことなく自室へ戻ったのだった。  
「ふぅ」  
フェイトはベッドに寝転び、先程までの出来事を頭に思い浮かべた。その時だった。  
呼び鈴が部屋に響く。  
フェイトがベッドから起き上がり、自動ドアのスイッチを押そうとドアの前に立つと、ドアが先に開いた。  
ああ、鍵をかけるの忘れてたな。フェイトはマリアを今しがた送り帰した記憶を辿った。  
「お邪魔するよ」  
そう呟いてなかば無理矢理部屋に入ってきた人物にフェイトはさらに驚く。  
てっきりまたマリアだと思っていたのだ。何か忘れ物でも、と。  
「どうしたんです?こんな夜更けに」  
彼の目の前に現れたのは先程の少女とは対照的な赤い髪の女性、ネル・ゼルファーだった。  
「……………」  
ネルは黙ったままベッドに腰掛けた。全く訳のわからない展開にフェイトは困惑した。  
だが、フェイトが喋るとネルはそれを遮った。  
「…………あの」  
「この髪の毛」  
「はい?」  
「………蒼いね。あんたの色だ」  
「………はあ」  
「でも、あんたのよりはずっと長い」  
「……何が言いたいんです?」  
フェイトはシラを切ったものの、内心慌てていた。バレているのだ。マリアとの今の関係が、おそらく。  
部屋は再び沈黙に包まれた。重苦しい時間が流れる。  
「……何が、言いたいんだろう」  
ネルは自分を嘲笑うようにこぼした。  
「あたしにもわかんないね、そんなことは」  
「…………?」  
どうも彼女の様子がおかしい。  
「あんたが、誰と寝てようが誰を好きだろうが、あんたの勝手さ」  
ネルは床を見つめながら喋りだした。  
「ほんと、お門違いもいいとこだよ。自分でも解るんだ」  
やはりバレていた。何もかも。  
「それでも」  
ネルは言った。  
「それでもあたしは、そんなの耐えられないんだ」  
「え………?」  
フェイトはネルの言うことが理解出来なかった。いや、理解は出来るが信じられなかったのだ。  
「こんな星の船に乗ったのも、部下を救ってもらったり、国を助けてもらったからじゃない、建前さ」  
ネルは続けた。  
「だめだったんだよ。もう、あんたがいないなんて、だめだったんだ」  
その手は色が変わるほど強く握り締められていた。  
「…………ネル、さん」  
「舞い上がってただけに、余計ときついもんさ。自分の想い人が他の女と寝てるのを知ったときってのはね」  
「でも、あたしはそんなにできた人間じゃない」  
ネルは急にフェイトの瞳に視線を合わせた。  
「だから、自分勝手で悪いけどあんたにも、傷をつけさせて貰うよ。心に、消えない傷。あたしと同じさ」  
フェイトはそう言われた時にはもうベッドに押し倒されていた。  
「!?ちょっと、な……」  
そして、フェイトはマトモに返事をする間もなく口を塞がれた。舌を絡めとられて、うまく息ができない。  
「んむっ!んんんっ!」  
何度も何度も互いの唾液を飲み込み、ようやくネルはフェイトの口から舌を抜いた。粘性のある絃がライトに反射してチカチカと光る。  
「嫌というほど喜ばせてあげるよ」  
ネルは、こんなに近くに自分の最愛の人がいるというのに、彼が今まで以上に手の届かない場所に行ってしまった気がした。  
わかっているのだ。虚しいだけだと。  
わかっているのだ。傷つくのは自分だと。  
ネルはそんな複雑に混ざりあった負の感情を真っ白にしてしまうくらいに、体を求めることでなんとか自分を保っていた。  
 
ネルは体をくねらせるようにして装束を脱いだ。大きな胸がフェイトの目前で震える。  
「……!!や、やめてくださいっ!」  
フェイトは彼女を突き飛ばそうとしたが、素早くネルに両手を掴まれてしまった。  
「なんでそんなこと言うんだい……?あたしはもうこれきりなんだ、あんたと触れ合うのは。だから、だからせめて……」  
ネルは目を細めながら掴んだフェイトの両手を自分の胸にあてがった。  
柔らかい肌に指が沈み込んでいった。あたたかい、とフェイトは思った。予想以上に、はっきりと彼女の体温が指から伝わってくるのだ。  
「あたしを……溶かしてくれないかい?」  
ネルはまたゆっくりとフェイトの口を塞いだ。もう抵抗する意思を彼は持たなかった。  
「んっ………んっ……ふぁぁ……んむぅ」  
なまめかしく舌が絡まりあう。二人の口のスキマから、妖しい声が漏れた。  
ネルは太股でフェイトの股間に固いモノがあるのを感じた。ああ、彼も自分に欲情してくれているのだ。  
ネルはある種の嬉しさと、自分に対する変な失望感を抱いた。  
口を離して、フェイトはネルを押し倒す。ネルは自分から股を開き、馬乗りになったフェイトを見つめた。  
「ほら…………好きにしとくれよ。あたしは、それが目的なんだ」  
ネルは何か大事なものを諦めるように、自分に言い聞かせるようにそう言った。  
「めちゃくちゃに……乱暴に……犯して……それがあんたの心に傷を遺すのさ」  
ネルは目を閉じた。  
自分はこれで彼を、彼への想いを棄てるのだ。もう、何も考えたくなくなるほどに激しく犯して欲しいのだ。  
「ネル…………」  
フェイトが服を脱いで自分に覆い被さるのがよくわかった。肌と肌が擦れあう。  
今、私は幸福と絶望の狭間にいるのだろうか、ネルはそう思って現実を受け入れようとした。  
 
ちゅっ  
 
しかし。フェイトは予想に反して、ネルの唇に優しくキスをした。先程までとは違う、軽く、そっと触れるような、優しいキスだった。  
 
「ふぇ!?」  
ちゅ、ちゅ、ちゅ………  
フェイトはそんな口づけを何度も何度もネルに落とした。まるで、とても大事なものを愛でるように。  
「……あ、あんた……何して………はぅぅ」  
 
フェイトはなおも口づけを続けながら、彼女の脇腹や背中を両手でゆっくりと撫でた。  
「あ……あぁっ………ふぁ………」  
ネルは敏感にそれに反応して、思わず声を上げてしまう。  
「かわいいよ」  
フェイトは口を彼女の耳もとに持ってきて囁いた。  
「ネルは、本当は、すごくかわいい」  
「な、何をバカなこと…………」  
フェイトはそのままネルの首筋から鎖骨へと舌を這わせていく。  
「あっ………あぁ……っん」  
フェイトは体をよじらせるネルを楽しそうに眺めながら、彼女の胸に吸い付いた。  
舌の先で乳首を転がすように舐めまわす。もう一方は指でコリコリと優しく掻くようにいじくりまわした。  
ネルは普段からは考えられないような媚声をあげて、ビクビクと体を震わせている。  
「ひぁぁ………んぁぁっ………ダメだ…よ……こんな……うぁぁ」  
(こんなに優しくされたら……あんたのこと………忘れられなくなるじゃないか……)  
「ネル」  
フェイトはまた囁いた。  
「気持ちいいかい?」  
「はぁ……ふぇいとぉ………あた……あたし……ぃ」  
 
あんたが  
 
あんたが  
 
好きだよ  
 
やっぱり  
 
捨てられやしないんだ  
 
自分の気持ちを  
 
「………ぃ……よぉ」  
ネルは口を開いた。が、うまく声が出ない。  
「きもち……いいよぉ……」  
「ネル………」  
「だから……もっと………もっとぉ………」  
フェイトは穏やかな笑顔でネルの頭を一度撫でてから、彼女の股へ手をやった。  
ゆっくりと下着の上から秘所を探って指を擦り付けていく。  
もうすでに出来ていた小さなシミがどんどん拡がり、下着が湿り気を帯て透けていく。  
ピッタリと肌に密着した下着は、ネルの蜜壷のラインを浮き上がらせた。  
フェイトは指を下着の中に潜り込ませる。割れ目はそれを吸い込むように中に招き入れて淫らな音をたてた。  
「ひぁっ……!?」  
ぐちゅぐちゅと蜜があふれてとまらなくなった蜜壷にフェイトは舌を這わせていく。  
赤く腫れあがったクリトリスを時折そっと甘噛みしてやると、パクパクと口を動かした。  
「あァん……そこ……だめ……」  
「だめじゃないよ」  
フェイトは言った。  
「すごく、きれいだ」  
「フェイト………ふぇいとぉ……あたし……もう……」  
「……わかった」  
フェイトは頷いて、ズボンを降ろした。そそり立ったフェイト自身にネルは息を呑んだ。  
(大きい………)  
「いくよ……」  
フェイトはネルの秘所にペニスをあてがい、ゆっくりと腰を沈めた。  
 
「………っくぅ……!!」  
自分の内部が恐ろしい程の衝撃と共に埋め尽されていく、ネルはそんな感じがした。  
反り返った肉棒がネルの膣内を暴れまわる。  
「あぁっ………すご……ぃぃ……よぉ……」  
お互いが腰を動かしているために、不規則に前後左右に内部が擦れあう。  
「ネル………ネル………っ!!」  
「いっぱい………こすれてぇ………ふぇぇ……」  
肉のぶつかりあう音が部屋に響き渡る。その度にネルの言葉にならない声が重なった。  
ネルはもはや口を閉じることもままならず、涎を口の端から垂らしたまま、フェイトに無意識に抱きついた。  
「ふぇい……ろぉ……あついよぉ」  
「ネルの膣内……気持ち………いいよっ……」  
二人は今までで一番深く舌を絡めあった。もう、彼から離れることなど、ネルには考えられなくなっていた。  
フェイトは自分の限界が近づくのを感じて、肉棒を淫核の裏に擦り付けるように角度を変えた。  
「あ、あぇぇぇ!?これ………すご……ひぃぃ……!!!」  
「ネル………僕………もう……」  
「ふぇいと……ふぇいと………ふぇいとぉ……」  
ネルはぞくぞくっと頭に何かが登るのを感じた。下の口が痙攣するように締まり、頭が真っ白になった。  
大声で叫んだつもりが、まったく声が出ていなくて、自分がベッドにうまっていくように意識がとおのく。  
「はぁん……っん……くぅっ〜〜〜〜〜!!!!」  
少ししてから、自分の膣内に熱が吐き出されるのを感じて、意識が段々と戻っていった。  
「……かい?」  
目を開けると、すぐそばには蒼い髪の青年がいた。彼はしっかりとネルの手を握っていた。  
「大丈夫かい?ネル」  
頭の隅々まで意識が行き渡り、今までのことをゆっくりとネルは思い出す。  
「…………ああ」  
「よかった」  
フェイトはほっとした様子でネルを見た。しかし、ネルはフェイトを冷たい目で睨み返した。  
「………何で」  
「?」  
「何で………あんなに優しくしたんだい」  
「ネル…………?」  
「これから……あんたを忘れようっていう女に……」  
ネルは静かに涙を流した。  
フェイトは少し黙っていた。それはネルをもう死んでしまおうかと思う程に絶望に追い込んだ。  
「………あつかましい、と」  
フェイトは言った。  
「そう、思っていました。僕らのために、危険な目に会わせた上に」  
「……?」  
「あなたが好きだなんて言ったら、欲張りすぎだって」  
「フェイト……?」  
「だから、すごく、すごく、嬉しかったんです」  
 
「あ……で………でも!」  
ネルは慌ててマリアと彼の関係を言及しようとした。しかし、言葉を遮られてしまう。  
「僕と………マリアはそういうんじゃないんです。彼女は気付いてはいないんだろうけど」  
「……どういうことだい?」  
「彼女はまだ知らないけど、僕らは兄妹なんだ」  
「何だって……?」  
フェイトは深くため息をついてベッドに腰掛けた。  
「彼女に想いを告げられてすぐのことでした。ムーンベースでその証拠を搗かんだのは」  
「でも」  
フェイトは続けた。  
「僕はどうやってそれを切り出していいかわからなくて」  
ネルは驚いた。  
「じゃあ!あ、あんた知ってて妹と寝てたのかい!?」  
「誤解ですよ!」  
フェイトは声を荒げた。  
「その一緒に寝てたのは……アレですけど、シてないです。流石にそれは………ねぇ」  
なんともいい加減な、とネルは思った。真面目そうに見えて、彼は以外とアレな方だ。  
「だから」  
フェイトはネルを見つめた。  
「もう忘れるとか、悲しいこと言わないで下さい」  
「フェイト………」  
「僕は、あなたを忘れたりなんかできない」  
「ばか………あたしも……………だよ」  
二人はそっと抱き締めあった。ネルはまた、涙を流した。  
 
 
 
 
「フフ」  
ネルは笑った。  
「な……何ですか?」  
「お兄ちゃんはこれからも可愛い妹と一緒に寝るのかい?」  
「へ、変なこと言わないで下さい!」  
「じゃあ、ここはあたしの特等席だ」  
ネルはフェイトの隣に寝転がり、フェイトに抱きついた。  
「あ、ちょ………何してるんですか………うわ」  
 
夜は、まだ長い。  
 

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