三日後。
その日の夜は、嵐だった。
雨風が窓を激しく叩きつけ、ガタガタと揺れる。
微かに、遠雷が鳴り響く。
「これじゃ、眠れないな。…仕方無い、本でも読んで時間を潰そうか…」
クレアの看病のおかげで、すっかり復調したフェイトは、寝台から身を起こすと、燭台の明かりを燈す。
ぽう、と、焔が闇の中で揺らめき、暗い部屋が明るくなる。
「不便だけど、味があっていいな。ん…?」
ふと、違和感を感じたフェイトは視線を移す。
「あ、あれ…?」
扉が、少しだけ開いていた。
「おかしいな。ちゃんと閉めた筈なのに…」
寝巻の帯を締めなおし、首を傾げながら進むと、ドアを閉める。
「よし。施錠して、と。…って、うわぁ!」
振り返ったフェイトの眼前に、一人の女性がローブ姿で立っていた。
「フェイトさん…」
「く、クレアさん…、どうしたんですかっ、こんな時間に、僕の部屋に…」
「……」
何も答えず、ぎゅう、とフェイトを抱きしめるクレア。
「うわっ! く、く、クレ…」
「お嫌、でしたか…?」
消え入りそうな、声で。
「え…? いえ、そ、そんな事はないですが…」
「…こんな事をする女は、嫌いですか…?」
そのまま、唇を重ねあわす。
「えっ?! あッ…、んっ…、う…、ふぅぅ…」
「んん…、ん…、ん…」
初めてのキス。
フェイトは驚いたような瞳で、クレアは潤んだ瞳で見つめあいながら…。
「んぁ…、ふあっ…、く、クレア…さん…」
「…ん…、ごめんなさい、私…、自分勝手ですね…、フフ…」
名残惜しげに離した唇から、謝罪の言葉を紡ぐクレア。
「こんな時間に、押しかけて、勝手に唇を奪って…」
顔を伏せ、瞳を閉じて。
「フェイトさんを私だけのモノにしよう、なんて考えて…」
「…」
「ごめんなさい、自分の部屋に帰ります…」
クレアは身を翻すと、横を抜けて部屋を出ようとした。
「…待って、クレアさん」
そんなクレアをそっと、後ろから抱き止めるフェイト。
「え…?」
「嬉しいです、貴女みたいな人に、そこまで想われてるなんて…」
「フェイト…さん…」
「クレアさんになら、その…、奪われたいです…。だって、一番大事な人だから…」
そこまで言って、フェイトは赤面する。
「ぼ、僕、何言ってるんだろう…」
「フェイトさん…、本当ですか、今の言葉…」
「二、二回も言わせるんですか…? 恥ずかしいです…、ただでさえ心臓が爆発しそうなのに…」
「…私の事、好きですか?」
「は、はい、クレアさん。世界でいちば…」
その後の言葉は、熱き唇で塞がれ、続ける事が出来なかった。
雷雨の音より一層、激しく。
「あッ…、ふぁッ…」
ベッドの上で重なり合う影絵が、稲光に一瞬照らされてカーテンに映る。
「フェイト…、可愛い…、フェイト…」
「やっ…、可愛いなんてそんな…、くあっ…」
クレアがフェイトの胸に舌を這わせ、固くなった突起を執拗に愛撫する。
右手は固くなった若き鋼鉄を上下に扱いて。
「んっ…、女の子にこんな風に、されるなんて…、ああっ…」
「フェイト、嬉しいわ…、女の子って言ってくれるのね…」
クレアは恍惚の表情で、さらにフェイトの屹立を攻める。
「ふぅぅっ…、ク、クレアッ…、そんなに、激しくしないで…」
「一回出した方が、楽なんでしょう…? こんなにパンパンになってるんだから…」
クレアの言うとおり、そのしなやかな手の中で、フェイトの熱き滾りがはちきれんばかりに増大している。
「だ、駄目だよ…、気持ちよすぎて、おかしくなっちゃいそうなんだ…」
はあはあと、荒い息の下、クレアの為すがままにされるフェイト。
「そんな切なそうな顔されたら、もっとシテあげたくなったな…」
フェイトの胸を攻めていた舌が、下腹部に沿って下がっていく。
「え…はぁっ…く、クレア、何を?」
「私の口で、フェイトを愛してあげます」
衝撃的すぎる言葉。
「!!! そ、そんなコトされたらっ!!!」
「…こちらの方は、とてもシテ欲しそうに跳ねてますが…?」
「うう…。く、クレアさん積極的すぎます…」
「もう…、二人きりの時はお互い呼び捨てにしようって、先刻決めたばかりじゃない…」
「で、でもこんな…、あッ…!」
ふっ、とフェイトの先端に息を吹きかけるクレア。
ビクン、とフェイトの身体とソコが反応して震える。
「ふふっ…、失礼しますね…ン…うちゅ…ふぅッ…」
軽く亀頭の先端にキスすると、愛しげに指と舌を使って奉仕するクレア。
「はあっ…ああぅ…くっ、クレアぁ…」
背筋を突き抜ける様な甘美なる快楽に、フェイトは上体を起こすと、瞳を潤ませる。
(こんな…ッ、こんな清楚で綺麗な年上の人にッ…大事な所をっ…)
フェイトの頭は爆発してしまいそうなくらいに混乱していた。
(あんなに颯爽と、一軍を指揮して、政務も処理して、男女問わず人気のある人が、こんな事…)
信じられない光景が、目の前にある…。
「あむ、はむ、チュ…、フェイト、どんどん先端から溢れてくるよ…? 気持ちいいの?」
クレアは一心にフェイトの分身を舌で舐り、指を這わせる。
「う、うん…、溶けちゃいそうだよ…くぅッ…」
窓を叩く雨風の音と、クレアの奏でるピチャ、ピチャと言う音が、まるでサラウンドの様に部屋に響き渡る。
「溶けて…、私の舌と指で…」
ほどなく、フェイトに限界の時が迫る。
「あっ、も、ヤバいよ、僕ッ…!」
クレアは舌を離すと、男性器をくい、と自分の胸の方に向ける。
「いいよ…、全部、受け止めてあげるから…」
右手で握り締め、性器が壊れる程の激しいスピードで上下に動かすクレア。
「ちょっ、そ、そんなにしたら…! う、うわっ、もう、駄目、だッ……!」
瞬間、フェイトの怒張は、クレアの豊満な二つの丘の間に、想いを乗せた迸りを勢いよく放った…。
「んッ…、一杯出たね…」
うっとりとした表情で、自分の胸の谷間を見るクレア。
「はあ、はあ…クレアさん…、いや、クレア、ごめんね、汚しちゃって…」
荒い息で謝るフェイト。
「いいの。好きな人のだから…」
「ふ、ふくよ…」
枕元にあったタオルでクレアの胸を拭くフェイト。
「はい、綺麗に…、って、あ…」
フェイトの右手を取り、自分の左胸に手を添えさせるクレア。
「触って…」
とくん、とくん…。
柔らかな胸の感触とともに、伝わる、命の証。
「凄く…、ドキドキしてるの…。お願い、私、もう…」
クレアは潤んだ瞳で真っ直ぐにフェイトを見つめる。
「来て…」
その言葉に、項垂れる自身は直ぐに復活を果たした。
「う、うん…。君がこんなに愛してくれたなら、僕も答えるよ…」
そっとクレアを抱き寄せると、蘇った自身を、クレアの鍵穴付近に宛がう。
「あ…」
「何も言わないで…」
すでにそこは、フェイトを迎え入れる準備が出来ていた。
「クレアも、感じていたんだね…、嬉しいよ…」
淫水が、止め処なく溢れていた。
「と、当然よ…あんな事してたら…」
頬を染め、やや怒ったように言うクレア。
「可愛いよ…クレア…、僕より大人な君が見せるその可愛さは反則だよ…」
「な、なに言って…あっ、は、ハイって来た…」
「うわ、ヤベッ…スゴイ…何コレ…ッ!」
フェイトのつるりとした先端部分が、クレアの銀の茂みを掻き分け進入する。
と。
「ンッ!」
クレアの身体がビクンと仰け反る。
「え? ぼ、僕まだあんまり入れてないんだけど…」
フェイトが面食らった様な表情でクレアを見つめる。
「んぅ…」
「ひょっとして…、軽くイッちゃいましたか?」
「!」
「あ、あの、いいんですよ? クレアさん? ぼ、僕だって少しヤバかったんで…」
気遣うあまりに口調が元に戻るフェイト。
「ゴメンナサイ、続けて…」
「う、うん」
ずぷずぷと、フェイトはクレアの奥へ入ってゆく。
「あ、痛…ッ!」
やがて、関門に当たる。避けては通れない道。
「あ…。ここは、一気に行った方がッ!」
フェイトがそれは何かはとうに理解している。
「ごめん、クレア!」
何かが、メリ、と破れる。
「ッつぅ…クッ…」
破瓜の痛みに耐えるクレア。
ついに、女になった瞬間でもある。
「い、痛かったでしょ?」
「ふう…、お、思った程じゃ…」
切れ長の瞳の端に少しだけ涙を浮かべ、クレアが答える。
「ごめんね…じゃ、ゆっくり、優しく動くから…」
正面から抱きかかえるような態勢で、フェイトはゆっくりと腰を動かす。
「ああっ…、フェイトっ…フェイト…!」
「んっ…、クレアッ…、スゴイよっ…クレア…! 僕の事、締め付けて離してくれないッ…!」
降り続く雨はサラウンドの様に。
ベッドの軋む音は規則的に、ゆっくりと。
「うんッ…愛してる、愛してるのッ、フェイトッ…!」
「ああっ、クッ、僕もだよクレアッ…! ああ、君の中で僕が溶かされていくッ!」
そして、重ねあわす唇。
「ううんっ…んむぅ…ッ…ふぅ…ッ!」
「ん…ッ。ぷあ…、大好きな人とするキスが、こんなにも気持ちイイなんて…ッ!」
「私もッ…同じッ…ひぁっ…、フェイト…も、もう…」
そして、また再び、フェイトの芯が甘く痺れだす。
「げ、限界だよ、もう…クレアの中凄すぎるッ…!」
「中に出してッ…」
「で、でもその…、こ、子供出来ちゃうよ…」
「いいの…出来てもイイ…から…。ね…?」
問答している間にも、快楽は容赦なく襲い来る。
「や、やばっ、ああっ、うわっ、くあああっ!」
「んっ、フェイトっ! あっ…、お腹の中に一杯…」
「ああああ…、ああ…」
全てを出したフェイトは、ばったりと大の字になってベッドに身を沈めた…。
荒い呼吸と、弱い雨音が部屋に流れる。
「はあ、はあ…は…、クレア…。す、凄く良かったよ…」
「ふう、ふう…。凄く感じやすいのね、フェイトって…」
互いに一つベッドで横たえて、残りの夜をまどろむ様に。
「クレアさん…、いや、クレア、ごめんね、汚しちゃって…」
「いいの。フェイト…。貴方をどうしても独り占めにしたかったから…」
「ええ? 僕を?」
どうして? と、青い瞳が瞬く。
「…貴方、凄く人気あるのよ? 女の子から…」
「え?」
きょとんとするフェイト。
「…貴方を狙ってる子は、私の調べでもかなりいるわ。ネルだって、凸凹コンビだって…」
無論、タイネーブとファリンの事だ。
「ソフィアさんやマリアさんだって、どうだったか怪しいわね…」
クレアの双眸が険しく光る。
「ええッ? 嘘ッ?」
その言葉に目を見開いて驚くフェイト。
「…鈍感」
ぼそり、と。
「べ、別に僕は…、君さえ側に居てくれれば…」
「…でも、それでよかった。そうやって、即死級の愛の言葉を紡いでくれるから…」
クレアはとても嬉しそうに瞳を細める。
「ハハ…君だけを、見ているから。心配しないで」
「私も、貴方だけを見てる。誰にも、渡したくない」
「僕も、だよ」
絆を確かめる様に、強く抱きしめあう二人。
互いの温もりを分かち合う、至福の一時。
「ねえ、フェイト」
「なんだい、クレア?」
「…いつの日か、フェイトのお母様に挨拶したいな…」
「ハハハ…、そうだね…。僕も君を、母さんに紹介したいな…」
「私の婿養子になるんだから…ね」
「え…、やっぱりそうなるわけか…。フェイト・ラーズバードになるのか、僕は…」
「お父様が絶対に逃がしてはくれませんよ?」
「そう…だね…ハハ…」
羽根が舞い、花が散る夜に、二人の想いは一つになった。
「フェイト、そういえば」
「うん。雨、止んだみたいだね…」
いつの間にか、雨は止んで、綺麗な星空が雲間から二人を羨ましげに窓を通して覗いていた…。
さらに、二週間後…。
アリアスは今日も穏やかに日々が流れていく。
「ここに作るのはどうかな? ちょっと大変だけど」
「そうね、予算はなんとかするわ。あとは人員の確保ね」
領主の館の会議室で、クレアとフェイトは地図を見ながら論議していた。
新しい補給路の開拓の件だ。
と、そこへ。
「よう。やってるね、フェイト、クレア」
友人のネル・ゼルファーが顔を出した。
「あ、ネルさん、今日は」
「ネル。何かあったの?」
二人の視線が、ネルの方を向く。
「いや、今日は任務明けだから、様子見にね。すっかり元気になったようだね、クレア、フェイト」
ネルの言う様に、クレアもフェイトも精気に満ち溢れていた。
「ええ、全て新任の副隊長のお蔭、よ」
「いや、隊長のお蔭です」
お互いの顔を見合わせて、嬉しそうに微笑むクレアとフェイト。
「ほほう。私の前で見せつけてくれるじゃないか…」
ちょっとだけ残念そうに、けれど笑顔で冷やかすネル。
「ええ、感謝してるわ、ネル…」
「いや、いいんだよ…」
その理由は、二人だけが、知っている事。
「…お礼に、ネルに素敵な殿方を紹介しようかしら?」
話題を転じようと、クレアはフェイトに目配せする。
「アルベルなんかどうかな。アイツまだ独り身だよ」
フェイトがそれを察して、素早く合わせた。
「ああ、それはいい案ね。ネル、貴女もそろそろ…」
クレアが悪戯っぽく笑う。
「ちょっ…、冗談! 誰があんなのと…!」
ネルがムキになって否定する。
「この前のお返しよ」
「アハハ、そうですよ、ネルさん」
「ええい、もう…。ま、息もぴったりなら何よりさね」
ネルがやれやれ、と肩を竦め、片目を閉じて苦笑う。
つられて、フェイトもクレアも笑った。
窓からは小春日和の穏やかな日差しが差し、人々のざわめきが聞こえてくる。
(側にいてくれるこの人と、日々を過ごしていきたい…、これからも、ずっと、ずっと…)
互いの手をそっと重ねながら、クレアとフェイトは願った。
−fin−