ソフィアは何かと理由をつけてフェイトの傍から離れようとしなかった。
そして、シランドからペターニへ向かう途中の今もソフィアはフェイトの隣で楽しそうに話をしていた。
時折、笑い声も聞こえる。
そんな様子をマリアは後ろから面白くなさそうに見つめていた。
〈伝えたい想い〉
一同は目的地である交易都市ペターニに到着すると、休息を兼ねて自由行動にした。
酒場に行く者、買い物へ出かける者、喫茶店へ出かける者、皆様々な行動をとる中、マリアだけは外出をしようとはせずベッドの上に横になっていた。
先程の光景を思い浮かべながら。
「フェイトがいないだけでこんなにも退屈するなんてね……」
マリアは誰に向かって言うわけでもなく小さな声で呟き、つまらなそうに溜め息を吐いた。
自分が今までフェイトの傍にいたのだ。
街に買い物へでかける時も、アイテムクリエイションをする時も。
どんなに細やかな事でも、フェイトの傍にいると楽しそうに笑っている自分がいた。
しかし、ソフィアが仲間になってからは2人で過ごす時間はまったくなくなり、今だってソフィアがフェイトを連れ出して買い物にでかけている。
だから、こうして暇をもて余しているのだ。
(きっと明日もつまらない1日になりそうね)
「んっ………」
目を覚ますと辺りが暗い。いつの間にか寝てしまっていたようだ。
そろそろ顔を出さないと皆が心配するかもしれない、そう考え起き上がろうとした時、ふと、誰かが傍にいることに気がついた。
しかし、特に慌てることもなくその見慣れた人物に目をやり、
「まったく、何しに来たのかしらね?」
呆れが混じった声で、しかし表情はどこか嬉しそうに微笑んでいた。
そう、フェイトがベッドの傍で気持ちよさそうに寝ていたのだ。
そんな様子を暫く眺め、起きる気配がないことを確認すると自分の気持ちを打ち明け始めた。
「フェイトがいないと私はダメね。あなたと過ごす時間がなくなってみてようやく気がついたの。私はフェイトを必要としていることに。同じ紋章遺伝子改造を受けた同類だからとかそんなんじゃなくて、私の幸せにあなたを必要としていることにね。」
告白にもとれる言葉。
起きていたら絶対こんなこと言わない、いや、むしろ言えない。
寝ている相手に言葉を伝えただけで耳まで真っ赤にしてしまったのだから。
その時、
「ん………マリア…起きたんだ…」
まだ眠たそうに目を擦りながらフェイトが目を覚ました。
「フェ、フェイト!?」
もしかして聞かれたかもしれないと思い不安になったが、
「突然ゴメン。マリアが気持ち良さそうに寝ていたから僕もつい眠くなってね」
そう言ってフェイトは欠伸をし、体を精一杯伸ばした。
どうやら聞かれていなかったようで安心したが、少し残念な気もした。
「それより何しに来たのかしら?勝手に人の部屋に入るなんて失礼よ。」
冷静さを取り戻し、いつもどおりに振る舞った。
「久しぶりにマリアとゆっくりしようかなって思ってね。逢いたくてもソフィアがいて中々逢いに行く機会がなくてさ。」
フェイトは優しく微笑んだ。
「ふーん。それよりソフィアと一緒に買い物にでかけたんじゃなかったの?」
どんな理由であれ、フェイトも逢いたい気持ちでいてくれたことが嬉しかったが、普段から素直な気持ちになれないマリアは素っ気ない言葉で返した。
「ソフィアとならすぐに別れたよ。用事があるからまた今度にしようって言ってね。」
「珍しいわね。ソフィアとの約束を途中で反故にするなんて。で、その用事はもう済んだのかしら?」
そう返したマリアの言葉にフェイトは少し困った様な表情をした。
「だから、マリアに会いに行くための理由だって。そうでも言わないとソフィアが離してくれるわけないだろ?マリアとって言えばなおさらだし。」
「……え?」
驚いているマリアをよそに、フェイトはもう後には引けないと思いながら話しを続けた。
「ソフィアといても楽しいよ。幼馴染みだしね。でもそれ以上は何も思えない。だけど、マリアといると幸せでずっと傍にいて欲しい、そんな風に考えるんだ。」
こういったことに鈍感なマリアもさすがに気が付いた。
フェイトが私のことを好きでいてくれることに。
「もっとわかりやすく説明しなさいよ。」
嬉しさで涙がでそうなのを必死に堪える。
「ようするに、僕はマリアのことが好きってこと。」
フェイトは照れた様子で想いを告げた。
一方的に想っていなかった、フェイトもまた自分を想っていてくれたことがマリアにとって嬉しかった。
「私も…!」
マリアはついに抑えきれなくなり涙を流した。
そんなマリアをフェイトが慰めるように優しく抱き締めた。
そして、暫くしてマリアがようやく落ち着つきを取り戻し、その頃を見計らってフェイトは話し始めた。
「そう言えばさ、僕が寝ている間に何か話しなかった?寝惚けてたから聞き取れなかったけど。」
フェイトの気持ちもわかった今となっては聞かれてもよかったかもしれない、そんなことを考えながら、
「もういいのよ。」
そう一言だけ答えた。
「そっか、まぁいいけどね。」フェイトも追及するわけでもなく納得した。
「さて、クリフに娘さんは僕がもらいましたって言いに行かないとね。」
「……バカ…」
(ずっとこの人と共に歩みたい。)
抱き締めながら二人はそう願った。
fin