アーリグリフとシーハーツの戦争終了から数ヵ月後。  
全銀河の存亡を賭けた戦いは終わった。  
だが、エリクール2号星での最終決戦後も相変わらず魔物の脅威が消えることはなく、  
アーリグリフの漆黒・疾風・風雷とシーハーツの隠密部隊が対処に当たっていた…。  
「…という訳だ。アルベル、行ってくれるな?」  
「フン…城の奴らじゃあ、まともに戦えない程強い魔物ってか…うまくノせやがるぜ、アンタも…」  
「そう言うな。どうやらあの時の生き残りらしいのだ…この国で対抗できるのはお前しかおらん」  
アーリグリフ王はアルベルに念を押すように言い放った。強い者と戦うことを生きがいとしている  
彼なら、この話に応じてくれると思ったのだろう。事実、アルベルは先程から不敵な笑みを浮かべている。  
「……いいだろう。ちょうど強い奴と戦いたいと思ってたところだ…」  
ガチャリとアルベルの義手が音を立てる。どうやらやる気になったらしい。  
「それともう一つ。助っ人としてシーハーツから封魔師団『闇』の構成員を1人呼んでいる。協力して退治に当たってくれ」  
「…誰だ? ネル・ゼルファーか…それともクレア・ラーズバートか?」  
「いや、2人とも復興作業と周辺の情勢管理に忙しいようでな…別の者が任に当たるそうだ」  
「だから誰だと聞いてるんだろーが」  
王は少し躊躇しながらアルベルを見た。何か言いにくそうな表情である。  
「……ファリンだ」  
「…何だと?」  
ファリン。ネル・ゼルファー直属の部下でシーハーツ隠密部隊・封魔師団『闇』の二級構成員。  
以前アルベルが完膚なきまでに打ちのめした、あの隠密である。トロくて無能、そんなイメージが  
付きまとう、どこか気の抜けた様な少女。政治的判断力と指揮能力に優れているという話も聞くが  
少なくとも自分が見た限り、あの女は阿呆だ。アルベルはそう思っていた。それに…。  
「会うのは久しぶりだろう? 何かと話すことも多いだろうし…しばらくは休暇扱いにしておいてやる」  
アルベルに返すかの如く、アーリグリフ王もニヤリと不敵な笑みを浮かべた…。 
 
「チッ…ハメやがったな!」  
エアードラゴンにまたがり、辺境の村アリアスに向かう途中、アルベルは毒づいた。  
どうして自分があんな阿呆のお守りをしなければならないのか。封魔師団『闇』といえば  
シーハーツ最強の隠密部隊だが、どう見てもあの女…ファリンは隠密というガラじゃない。  
第一、銅を採掘した直後の彼女らを奇襲した時、ファリンは自分に手も足も出なかった程弱かった。  
バンデーン襲来の時に休戦して協力関係を築いた時にファリンとはアリアスで何度も顔を合わせたが  
自分を避けるような感じであった。当然、アルベルも無視していた。だが…。  
「……あんなことはするモンじゃねえな……阿呆ってのはすぐ調子に乗りやがるんだからよ!」  
イラ立ちながら、グイとエアードラゴンの手綱を引き、アリアスの手前にアルベルは着陸した。  
 
「よぉ、アルベル。来たんだね」  
「…あの阿呆はどこだ?」  
「会議室で待ってる…アンタに会いたがってたよ」  
「フン…」  
ネルとの挨拶も程々に、アルベルは歩みを進めた。このアリアスはどうにも居心地が悪い。  
元敵国の領地でもあるし、自分が不覚にもある少女と契りを交わした場所でもあるからだろうか?  
「……いるのか、阿呆?」  
乱暴に会議室の扉を開け、アルベルはわざとらしくファリンの姿を探す。…居た。  
「あ〜、アルベルさん。お迎えに来てくれたんですかぁ?」  
「……」  
相変わらず、のんびりとした口調。聞いているだけで殴りたくなってくる。自分を小馬鹿に  
したような笑い方もムカツクし、何より、親しげに話しかけてくるのが気に入らない。  
「お待ちしてたんですよぉ。アルベルさん、自分から会いに来てくれないしぃ…」  
「……とっとと来い、阿呆」  
ファリンの腕をグイと掴み、まるで誘拐するかの様にアルベルは会議室から廊下に出る。  
他の構成員らが自分達を見てクスクスと笑っているのは空耳だ。アルベルはそう思いたかった。 
 
「わあ〜、お久しぶりぶりですぅ〜。お元気でしたか〜?」  
アルベルに誘拐されるかの様なカタチでアリアスの外に連れ出されたファリンは  
彼が乗ってきたエアードラゴンを撫でながら、はしゃいでいる。  
「ガウゥ」  
「くすぐったいですぅ」  
エアードラゴンの方も久々にファリンに会えたのが嬉しいのか、彼女の体に擦り寄って来る。  
本来、エアードラゴンと心を通わせるには継承の儀式が必要なのだが、何故だかアルベルのエアー  
ドラゴンはファリンに懐いていた。これも施術のなす奇跡なのだろうか?  
「……はしゃぐな。乗れ、阿呆」  
いい加減にしろと言わんばかりにファリンを自分の後ろに乗せ、アルベルはエアードラゴンを飛び立たせた。  
向かうは西の山。イリスの野の更に向こうである。  
「うわぁ〜、こんなに高く飛んでるんですねぇ〜!」  
アルベルの腹に手を回し、ファリンはまたはしゃいだ。確か、一度目もこんな感じだった気がする。  
「アルベルさんとお空を飛ぶのは楽しいですぅ〜♪」  
「……(…俺は全然楽しくない。分かって言ってるのか、この阿呆は?)」  
まさに子供そのものだ、とアルベルは思った。数ヶ月前まで敵だった男の前で、どうしてこんなにも  
無防備にはしゃげるのか? 自分の腹に手を回したり、背中に胸を押し付けてくるのは、わざとか?  
それとも単にガキだからか? 24歳にもなってガキのお守りとは、つくづく自分は運が悪い、そう思った。  
だが…少しは評価できるところもあるかもしれない。自分専用のエアードラゴンが他人に懐いたのは初めてだったからだ。  
普段は他の漆黒や疾風の兵士が乗ろうとすると、すぐに嫌がっていたはずなのに…。  
「……貴様で2人目だ」  
「ふぇ? 何がですかぁ?」  
「コイツが懐いた人間だ。俺が一番目、貴様が2番目……俺以外は乗せるのを嫌がってたんだがな……」  
「えぇ〜、そうだったんですかぁ?」  
「……事の重要性が全く分かってねえな……やはり貴様は阿呆だ」  
「む〜、私は『阿呆』じゃなくて『ファリン』ですよぅ〜!」  
「……そういうところが阿呆なんだろうが」  
 
西の山。かなり高所に位置し、エアードラゴンなどの飛行生物に乗らなければ来ることも  
ままならない場所である。だが最近、この山から魔物が下りてきては暴れているのだと言う。  
しかもかなり凶暴らしく、アーリグリフの討伐隊も散々な目に合ってエアードラゴンともども  
引き返してきたほどだ。しかし、アルベルにとっては格好の獲物であった。  
「着いたぞ…さっさと降りろ、阿呆」  
「は〜い」  
トンと地面に着地し、ファリンは気の抜けた動作で辺りを見回す。  
「この山のどこかにいるんですねぇ〜」  
「日が暮れる前に退治するぞ。夜になれば魔物共は力を増す…」  
「分かってるですぅ」  
「…怪しいもんだな」  
アルベルも地面に着地し、エアードラゴンに向かって言い聞かせる。  
「いいか、お前はここで待ってろ。もし俺達が夜になっても帰ってこなかったら、その時だけ  
探しにこい…いいな?」  
「ガルッ」  
「よし…」  
「おりこうさんにしててくださいね〜」  
 
西の山は難所だが、アルベルにはどうということもない山だった。それはファリンに置いても  
同等で、軽い身のこなしで岩肌を跳んでいく。さすがに封魔師団と言ったところか。  
ネルの話によればファリンの戦闘力は封魔師団の中でも上位クラスだと言う。あの時、アルベルが  
ファリンとタイネーブを圧倒したのは単にアルベルの戦闘力が化け物じみていただけで、ファリンでも  
その気になれば、あの『代弁者』や『執行者』、『断罪者』を1人で倒せる位の実力はあるのだという。  
まあ、アルベルにしてみればあの程度の魔物は糞虫同然なわけだが……。  
「…この山の魔物がどんな奴かは知らねえが……糞虫が何匹かかってこようと、俺の敵じゃない……」  
「アルベルさん、気合入ってるですねぇ」 
 
そして昼過ぎ…それは現れた。アルベルとファリンの眼前に。  
「てめえが例の魔物か……俺は弱いものイジメは嫌いなんだがな……」  
「大きいですねぇ……結構、強そうですよぅ!」  
背中に広がる無数の翼、この世の物とは思えない醜悪な姿形。間違いなく、この間の  
FD世界から来た魔物の生き残りだ。しかも、エリクール土着の野生の魔物を吸収し、  
異様さを増している。鋭い爪と牙がギラリと光り、今にも襲ってきそうな雰囲気だ。  
「俺に気配を気づかれずに近づくとはやるじゃねえか…おい、阿呆! お前は手を出すんじゃねえぞ!」  
カタナを抜き、アルベルは魔物に切りかかる! 常人には理解できない程のスピードで瞬時に魔物に  
接近し、その腕を切り落とした!  
「ゴオオッ!!!」  
「はははッ、双破斬の威力…思い知ったか糞虫!」  
「グググ…ゲアアッ!!!」  
「遅いんだよ……逝ねや、剛魔掌ッ!!!」  
アルベルの左腕の義手が赤く輝き、魔物を原型をとどめない程ズタズタに切り裂いた!  
「ガ…ガ…ガ…グハッ……」  
「フン……あっ気ねえ……」  
ほんの数十秒の出来事だった。ファリンが見ただけでも、あの魔物はかなりの手練だったはず。  
それを1人で、しかも1分足らずで倒してしまったアルベルは、やはりこの星最強の男なのかもしれない。  
「ア、アルベルさ〜ん! だ、大丈夫でしたかぁ?」  
「この程度の糞虫にビビってるようじゃ、うちの軍の連中も糞虫同然だ。ったく、わざわざ出向いた俺がバカみたいだぜ!」  
「でもアルベルさん、カッコよかったですよぅ!」  
「…お前は戦ってねえだろうが」  
「だってアルベルさんが『お前は手を出すなって』って言ったからですぅ」  
「…チッ」  
義手のズレを調整し、アルベルは気まずそうに舌打ちをする。どうもこの女は苦手だ。  
だが……彼が倒したと思っていた魔物がピクリと動いたのを、ファリンは見逃さなかった。  
 
「! アルベルさん、アイツ、まだ生きてるですぅ!」  
「何ッ!?」  
魔物は最後の力を振り絞って触手を伸ばし、はるか頭上の岩壁を崩した!  
ひび割れた岩壁が次々となだれ落ち、アルベルとファリンを襲う!  
「わ、わあ〜ッ!!」  
「阿呆、とっとと逃げるんだよ!」  
大揺れに揺れる地面をふらつきながらも、アルベルはファリンを抱えて走りだした。  
この山には来たことがないため、どこがどこだかさっぱり分からない。後ろには岩が  
ゴロンゴロンと大量に迫ってきている。ファリンはアルベルの胸にしがみついたまま  
でてんで役に立たない。さらに、目の前には滝つぼ。もう逃げ道はなくなった。  
「おい、阿呆……」  
「な、何ですかぁ?」  
「しばらく息を止めてろ」  
「えっ……きゃ、きゃう〜!」  
迫り来る岩を避けるには、滝つぼに落ちるしかないと判断したアルベルはファリンを抱えたまま  
ダイブした! 常人なら全身を強打して死んでしまうところだが、アルベルは100m以上真下に  
飛び降りたのだ! 直後、空を仰ぐと豪快な音を立てて別の方向に転がっていく岩の群れが見えた。  
「あの糞虫……道ずれにしようとしやがるとはな……」  
滝の水に打たれ、アルベルもファリンも水浸しになってしまっていた。一刻も早くこの山から出よう。  
そう思った矢先、またしてもトラブルが発生した。  
「おい、起きろ阿呆! おい!」  
「……」  
返事がない。どうやら気絶したらしい。あれだけの高所から飛び降りれば気絶もするだろうが…。  
「…チッ、だから女は嫌いなんだよ」  
このまま気絶したファリンを抱えたまま山中を歩くのは得策ではない。まだ野生の魔物がいるだろうし、  
夜ともなれば奴らは凶暴性と力を増す。どかかで野宿してエアードラゴンの迎えを待つのが妥当だろう、  
とアルベルは考えた。ともかく、ファリンをこのままにしておくのは何となく気が引ける。そう思った。 
 
日はすっかり暮れ、夜が訪れた。シーハーツ方面と言えど山間部の夜は寒い。  
アルベルはファリンを抱えながら手ごろな大きさの洞窟を見つけ、今晩はそこで野宿する  
ことにした。滝の水で塗れた衣服を乾かして暖を取るため、薪をかき集めて自らの闘気で  
燃やす。洞窟内が明るくなり、冷えた体が温まっていった。  
「……クソが。本当なら日暮れまでに帰れたんだ……!」  
未知の土地での夜の散策が危険なことくらい、アルベルにも分かる。漆黒の騎士団長時代に  
敵地で迷ったあげく死んでしまった部下を何人も見てきたからだ。こういう状況だからこそ冷静  
になれるのがアルベルのよいところだ。  
「…のん気な奴だ…やはり阿呆だな」  
無造作に寝かすのも何なので、できるだけ焚き火の側にファリンを寝かしておいたアルベルだが、この  
様な状況でも寝ていられるファリンの阿呆さ加減は、ある意味彼の興味を引いた。  
「こうして寝てりゃあ…ただのガキじゃねえか…」  
シーハーツの封魔師団『闇』と言えば精鋭中の精鋭のはず。だが、今自分の傍らで眠っている少女に  
そんなものは微塵も感じられない。寝顔も無邪気な少女そのままだった。  
「…(あの時より…少し痩せたか…?)」  
焚き火で浮かびあがったファリンのボディラインを見ていたアルベルは、ふと思った。  
あの契りを交わした夜より、確かにファリンは細くなった気がする。ろくに食事や睡眠をとらずに任務に  
当たっていたのだろうか? 上司のネルに似て、そこらは生真面目らしい。  
「ふぁ……あ、あれぇ?」  
ようやく、ファリンは目を覚ました。状況を把握できず、洞窟内をキョロキョロと見回す。  
「やっと起きたか…散々待たせやがって」  
「アルベルさん……ど〜して私達、洞窟にいるんですかぁ?」  
「……お前のせいだろうが!」  
キョトンとしているファリンにアルベルはイラ立ちながらもこれまでの経緯を説明した。  
「…つー訳だ。少しは責任を感じろ、阿呆!」  
「はうぅ…すみませんですぅ…」  
 
「全く…お前が気絶なんぞしなければ…おい、聞いてるのか!?」  
「…お腹減りましたねぇ…」  
「…(コイツはぁ…ッ!!!)」  
この状況で腹が減ったなどと、本当にこの女は阿呆だ、いつものアルベルならそう思った  
だろう。だが、確かに朝から何も食べていないため、アルベルも多少は空腹であったのも事実。  
「…マジでのん気な奴だな…」  
「えへへ〜、よく皆からも言われますよぅ♪」  
「褒めてねえ!」  
「お腹が減ってると怒りっぽくなっちゃいますよぉ…えと…あ、あった♪」  
ゴソゴソと懐から包みを取り出したファリンはアルベルの肩に寄り添い、中身を差し出した。  
「これ、非常食のビスケットですぅ。ちょっと湿気ちゃいましたけど、お腹いっぱいになりますよぅ」  
「…シーハーツの食いモンか…」  
以前なら、絶対に口にしようとしなかっただろう。だが、この際食べておかないと後々に差し支えかねない。  
「…よこせ」  
「あぅ〜、乱暴は駄目ですぅ。アーンしてくださぁい」  
「何で俺がンなことしなきゃいけねえんだ! あほ…ッ」  
「はい、よくできましたぁ〜♪」  
阿呆と言おうとした瞬間、ファリンが無理矢理にアルベルの口に非常食を放り込んだ。  
この手の子供じみた行為は、アルベルにとって理解不能なものなのだったのだが…。  
「おいしいですかぁ?」  
「……マズイ」  
「え〜ッ? そんなはずないはずですぅ!」  
「…俺がマズイと言ったらマズイんだ! ……もっとよこせ」  
「ふぇ?」  
ここで、ようやくファリンはアルベルが何を言わんとしているかを理解した。  
そうなると、素直になれない不器用な片腕の男がとても愛らしく見える。  
「(素直じゃないですねぇ…)」 
 
ファリンの手からビスケットを全部奪い、アルベルは口の中に放りこんでボリボリと  
貪った。今思うと、ビスケットなど子供の時に食べて以来、口にしていなかった。何となく、懐かしい。  
「あぅ〜、私の分まで食べちゃ駄目ですよぅ〜」  
持っていたビスケット全部をアルベルに食われてしまったファリンは涙目で訴えた。  
一口食べれば一日中歩き続けられる程の効力を持った非常食なので万が一の時のために取っておいたのが  
裏目に出てしまったのだ。掌に残ったのは、少しのカケラのみ。  
「…これで我慢するしかないですねぇ…はぅ…」  
ペロリ、自分の掌をファリンは舐め、少しでも空腹を満たそうとする。それを見たアルベルはちょっとした  
イタズラを思いついた。昼間のお返しにはちょうどいい。それに、元はと言えばこの女がトロくさいのが  
原因だ、と自分に言い聞かせながら…。  
「ふぉい、あふぉう(おい、阿呆)」  
「ふぇ? 何です…ッ…」  
自分の方を向いたファリンの唇に自分のそれを重ねあわせ、アルベルは強引にファリンを洞窟の床に押し倒した。  
だが、貪る様に彼女の唇を吸っていたかと思いきや、それは違った。直後、ファリンの喉が、ゴクンと音を立てたのだ。  
「美味かったか……阿呆?」  
「ケホッ、ケホッ……乱暴ですよぅ、アルベルさん〜」  
アルベルは飲み込んでいなかったビスケットを口移しでファリンに与えたのだった。以前、彼女と契りを交わした時も  
強引に唇を奪ったのだが、今回もその強引っぷりは健在の様である。当のファリンも困惑しながら顔を赤くしている。  
「腹いっぱいになったか? …入り口には結界を張ってある。糞虫如きじゃ破れねえやつをな…分かったらとっとと寝ろ」  
「え〜、夜と言えば怖い話ですよぉ!」  
「……阿呆。ガキはとっとと寝ろ……最近、ろくに寝てねんだろうが」  
「あ、分かりますかぁ?」  
「…この前抱いた時より…細くなってやがったからな…」  
俯き加減なアルベルの顔を見た時、ドキリとファリンの胸が高鳴った。2人の間に静寂が流れる。 
 
「もしかしてぇ…アルベルさん、それで怒ってるんですかぁ?」  
「? 何がだ」  
「そのぅ…『この前』のことでぇ…」  
訳が分からないアルベルに対し、ファリンは『この前』のことを思い出していた…。  
あれは螺旋の塔突入の数日前。最終決戦間近ということでフェイト達がアリアスでの  
最後の夜を過ごしていた時のこと。皆が屋敷で盛り上がっている中、当然のように仲間内  
から外れていたアルベル。時間はもう午後11時過ぎだろう。  
この位の時間になれば子供は寝る時間で、後は大人の時間だ。仲間内にも知らず知らずの内に  
恋愛感情が芽生えていたのか、先程フェイトとマリアがアリアス郊外に連れ添って行くのを見た。  
「…フン…甘ちゃん同士が馴れ合いか…」  
フェイトは以前、自分を憎んではいないと言っていたが、あの甘ちゃんのフェイトが堅物のマリアと  
デキていたとは意外であった。が、アルベルにしてみれば同じ境遇の者同士の傷の舐めあいにすぎない。  
「…俺には関係ねえけどな…」  
屋敷の上に座り込んで空を見ていたアルベルも今後のことを考えると少し身震いを起こす。  
怖いのではない。むしろ嬉しいのだ。星蝕の日から夜空の星が消えて以来、自分らが信じてきた神がどれだけ  
強大な存在か、卑汚の風で変化した魔物達の凶暴さを考えると、さぞかし『オーナー』とやらは強いのだろう、と。  
「…最強はこの俺だ…!」  
自身の左腕の義手を見つめ、アルベルは吐き捨てる様に呟く。と、そこに…。  
「あれぇ、アルベルさん? 何してるんですかぁ?」  
下から自分を覗き込んでくる少女…ネル直属の部下・ファリンだった。以前、銅を  
採掘した時にアルベルがズタボロにした隠密の一人である。  
「…貴様には関係ないだろうが、阿呆」  
「あ〜、それよりも怖い話しませんかぁ? みんな聞いてくれないんですよぅ〜」  
やってられない、アルベルは仕方なしに屋根から室内に戻ることにした。 
 
「えへへ〜、お話しましょうよぅ」  
「…ガキか、貴様は?」  
アルベルは集団行動が苦手なクチだった。そこで夜寝る際には倉庫で眠ることにして  
いたのだ。予備のベッドはさっき手入れをしたので寝れないわけではない。だが…。  
「…どうしてここに居るんだ、阿呆!」  
「だってぇ、みんな誰かお相手を見つけてお喋りしてるんですよぅ? 私だけ仲間外れですぅ」  
大きなクッションを抱き、ファリンが寝間着姿でアルベルに付いてきたのだ。シーハーツの服の  
センスはアルベル達アーリグリフの者にはイマイチ理解できないデザインをしており、ファリンなど  
元々胸が大きいのだから胸元が開いた寝間着から時折見えてしまっている。これはこれで普段の隠密  
スタイルよりも官能的であった。が、当のアルベルは一切興味無し。恋愛とは無縁の男であるからだろうか?  
「第一…貴様は俺のことが嫌いだと言ってなかったか?」  
「それは戦争してたからですよぅ。今は…あうぅ…みんなのために戦ってるアルベルさんはぁ、とーっても  
カッコいいから、好きですぅ♪」  
「阿呆は単純だな…お前、分かってるのか? 仮にも俺とお前は敵同士だった…殺そうとしたこともあるんだぞ」  
「でもアルベルさんは私とタイネーブを殺さなかったじゃないですかぁ? 本当はいい人なんでしょぅ?」  
「…夢見てろ、阿呆」  
灯りを消し、アルベルは床についた。早く寝なければ明日に差し支える、というのは建前で、本当はファリンを  
追い出すためのものだ。が、当のファリンも夜目が効くのでなかなか帰らない。  
「アルベルさ〜ん、1人で寝ちゃうのはズルイですよぅ〜!」  
うるさい、やかましい、もうやってられない。いっそ、この義手で切り裂けたらどんなに楽だろうか?  
だが、アルベルはファリンの言葉を聞き逃さなかった。夜の余興を思いついたのだ。  
「…おい、今…『1人で寝るのはズルイ』と言ったな…」  
「ふぇ? はい、そ〜ですよぅ、1人で寝ちゃうのはズルイです!」  
「フン…だったら…貴様も一緒に寝れば話は早いんだよ!」  
ファリンを強引にベッドに引き寄せ、そのまま床に押し倒すアルベル。ファリンは突然のことに  
目をパチクリ状態であった。  
 
「あ、あれれ…何するんですかぁ、アルベルさん?」  
「お前…カルサア修練場のことを覚えているか…?」  
「お、覚えてるですぅ」  
「本当ならなぁ…磔だけじゃすまなかったんだ。口じゃ言えないような拷問がお前達を  
待ってたのさ…少なくともシェルビーの野郎はその予定だったんだがな…」  
困惑気味のファリンの首筋に義手の爪を滑らせ、刺激を与えつつ、アルベルの手が彼女の  
体に伸びた。年相応の少女の持つやわらかさとほのかな香が否応なしにも伝わってくる。  
「だが…なかなかお前らはクチを割らないだろう…なら、拷問をして傷つけるよりも助けが来る  
のを待たせて全員を殺っちまおう…ってのが俺のプランだったんだ…分かるか、阿呆?」  
「んぅ…はうぅ…」  
手に余る程の大きさと弾力を持つファリンの胸をゆっくりと揉み、耳元で囁く。  
「だが…お前らを助けに来たのはヘタレの糞虫共だった…さすがに弱い者イジメはしない主義だった  
俺は自分から引いたが…数週間後に糞虫共に返り討ちにあい…今はこのザマだ…ククク」  
ファリンの首筋に喰らいつき、独占欲の証を次々と刻んでいくアルベルの姿は、どこか寂しそうでもあった。  
別に彼女を自分のモノにしたいという気持ちはなかったが、もともと野獣のような神経をしていただけに本人  
もブレーキが効かないのかもしれない。ファリンも抵抗せず、アルベルのなすがままにされたいた。  
「…抵抗しないのか? ここはお前らの本拠地だ…下の階には仲間が大勢居る…俺に犯されるのが嫌なら呼べば  
いいだろう? ……なのに、何故、呼ばない?」  
首筋を吸っていたアルベルは涙目になったファリンを見つめて憐れむように言った。だが、ファリンの反応は…。  
「…嫌じゃないですよぅ」  
「…何?」  
「あ、あのぅ…私、こういうことされるのって…初めてだからよく分からないんですけどぉ…アルベルさんが  
寂しがり屋さんだってことは…分かったですぅ…」  
「俺が寂しがり屋だと…? 何だ、何を言っている?」  
「…無理しないでぇ…素直になれば、私もアルベルさんに優しくできるですよぉ…きっと」  
今度は逆にファリンがアルベルの顔を強引に自分の顔に近づけ、彼の唇を貪る番であった。 
 
漆黒の騎士団長でもあったアルベルはアーリグリフでも貴族階級のクラスに当たる。  
当然、左腕が義手になるまではその傲慢な性格が現す通り、何十人もの女を抱いてきた。  
今、目の前の少女が涙を流しながら自分の唇を貪る光景はアルベルにとっては得難い現実で  
あった。本来なら主導権を握るのは自分のはず。なのに、今度は自分がなすがままにされている。  
「んッ…はぅ…んんッ…」  
この少女は自分からしてみればまだ幼い。24歳という年齢がそう感じさせるのかもしれないが、  
それでも自分を不快にさせないように小さな舌を絡ませてくるファリンの姿は痛々しい。  
隠密という仕事もあるし、男と付き合ったり、はたまた口づけなどしたこともなかったのだろう。  
ぎこちない動きが久々に女を抱くアルベルにはちょうどよかった。それに、女の方から自分を求めて  
きたのも左腕を失って以来だった。と、長時間の口づけにしびれを切らしたのか、アルベルが唇を離した。  
「…阿呆が…何のつもりだ…!」  
「アルベルさん…寂しそうだったからぁ…私が優しくしてあげられたらなぁ…って思ったんですぅ」  
自分の唇をなぞり、ファリンは恥ずかしそうに答えた。だが、目は嘘を言ってはいない。  
「…本気か?」  
「本気ですよぅ!」  
「これでもか…?」  
ガチャリ、とアルベルは自分の左腕の義手を外した。エアードラゴンの炎によって失った右腕。  
これを見せるのは父親以外にいないはずだった。今も見る度に嫌悪感に襲われる、呪われた腕だ。  
「貴様は…これでも俺に優しくできるのか…答えろ、阿呆ッ!」  
「……やっぱりアルベルさんは…寂しがり屋さんですねぇ…」  
アルベルの背に手を回し、ファリンは彼の左腕にそっと口づけた。失ってしまったところを中心に  
丹念に舐め始める。不快ではない。これが彼なのだから。なら、彼を受け止めればいい。普段のファリン  
では到底想像もつかないようなことを心の中で思っていた。いつしか涙も乾いている。  
「俺に優しくするってことは…それなりの覚悟があるのか?」  
「えへへ…アルベルさんは優しい人だからぁ…信じてるですよぅ♪」  
「チッ…体がブッ壊れても知らねえぞ…」  
左腕からファリンを離し、アルベルは彼女の胸に顔をうずめ、再び独占欲の証を刻み始めた。  
 
「…貴様…本当に抱かれたことがないんだな…」  
「分かるんですかぁ?」  
「ああ…まあな」  
ファリンの寝間着をはだけ、アルベルは彼女の胸に喰らいついていた。以前ならば  
レイプ同然に犯していたかもしれないが、今はファリンに気を使ってか優しくしているようだ。  
誰も貪ったことのない青い果実を貪るという行為は普通の男なら理性を忘れるだろう。  
ファリンの様な天然系の少女ならそのテの男が放っておかないはずであろうし。  
特にシェルビーやヴォックス辺りは捕虜の女性兵士を慰み物にしかねない性格であったし…。  
「…アルベルさん?」  
「いや…貴様は運がいい…そう思ってな…」  
堅くなった乳首を口に含んで吸うと、ファリンの顔がますます真っ赤になってアルベルを抱く  
力を増させた。乳首を吸う卑猥な音が聞こえる度にファリンは意識が遠くなっていく気がした。  
「はうぅ…赤ちゃんみたいですよぅ…アルベルさん…」  
「お前もいずれは子を生むんだろう? 予行練習と思え、阿呆」  
口調は乱暴だったが、アルベルは優しかった。ファリンが痛がらないように力を抑えて抱いてくれて  
いた。銅の採掘の一件の時の彼とは全く違う人間にも思えるから不思議だ。  
「しかし…ガキにしちゃあ、もったいない程デカイな…やっぱ阿呆だからか?」  
右手でファリンの胸を掴んでいたアルベルは何となく感想を述べた。  
「えっとぉ〜、封魔師団の中でおっぱいが一番大きいのが私なんですぅ。2番がクレア様でぇ、3番が  
ネル様ですねぇ。シーハーツは食べ物がおいしいから、大きくなっちゃったんじゃないですかぁ?」  
「…胸のデカイ女は阿呆が多いというのは…迷信じゃなかったってことか…」  
「あぅ〜、私は阿呆じゃないですよぅ〜!」  
と、アルベルの胸にじゃれる様にファリンが顔を埋めたとき、倉庫のドアを叩く音がした。  
「…誰だ」  
「私だよ、ネルだ。アルベル、起きてるかい?」  
ネルの声を聞いた途端、ファリンはアルベルの布団の中に隠れてしまった。上司の前ではさすがに  
恥ずかしいのだろう。口元に人差し指を置いて「シーッ」のポーズが何となく愛らしい。 
 
「…何か用か?」  
「いや、用って程のことじゃないんだけどね。アンタ、もう寝るところかい?」  
ドアの向こうから伝わるネルの気配を警戒してか、ファリンは息を殺しながら布団の  
中でアルベルにしがみついていた。少し震えており、涙目でフルフルと首を振っている。  
「…(…阿呆なりに体裁を気にしているってことか)」  
「…アルベル?」  
「……ああ、寝るところだ。貴様も早く休むんだな」  
「…そうかい…」  
ドアから立ち去るネルの声はどこか寂しそうで、再び倉庫内に静寂が訪れた。  
「……ネル様、行っちゃいましたかぁ?」  
「……みたいだな」  
「はぅ…心臓が止まるかと思っちゃいましたよぅ」  
布団から頭を覗かせ、涙を拭いながらファリンはアルベルの腰に抱きついた。  
「…アイツ、何しに来たんだ?」  
「あ〜、それはですねぇ…えっと…ネル様も…そのぅ…アルベルさんが好きだからぁ…」  
「…ハァ? アイツはシーハーツの中でも一番俺を憎んでた女だぞ…んなこと有り得ねえ」  
「…乙女心は複雑なんですよぅ」  
「…くだねえ」  
アルベルは腰の辺りのファリンを抱き寄せ、ベッドに再び押し倒した。  
「つまりこういうことか? 貴様は上司が惚れた男を寝取ったってワケか?」  
「ふぇ? 私を押し倒したのはアルベルさんが先ですよぉ?」  
「……フン、計算高い女だ」  
ファリンの肌を指先でなぞり、彼女の反応を楽しむ。隠密にしてはきめ細やかな肌をしている。  
拷問で傷つけるのはもったいない、そんなことを思わせる程で、施術のために刻まれた紋章も魅惑的だ。 
 
「あのぅ、アルベルさん…そろそろぉ…」  
「あん? ……ハッ、そういうことか」  
「は、はいですぅ」  
恥じらいながらも懇願するファリンを前に、アルベルは一種の征服感の様な気分に  
浸りながら彼女の秘部に己を入れる。予想以上に狭い。何十人もの女を抱いてきた  
アルベルだからこそ分かる、処女特有の狭さだった。  
「爪立てるんじゃねえぞ…痛ければ歯ァ食いしばってろ」  
「ふぁ、ふぁい…ッ…んッ…」  
ファリンに全然興味の無かったアルベルも、何故に自身がこんなにいきり立っている  
のか分からなかった。分かっているのは、今この女を自分のモノにしたいという独占欲だけ。  
「…元敵の騎士団長に純潔を奪われるってのは…どんな気分だ…?」  
「う〜、すごぉく痛いですぅ…でも、これから気持ちよくなるんですよねぇ…?」  
「…さあな」  
子宮内に走る未体験の痛みに耐えながら、ファリンはアルベルを信じつつ彼を受け入れた。  
隠密という職業のためか、ファリンは多少の痛みには耐えれる自信があった。  
だが、いざアルベルを受け入れるとなると頭の中が真っ白になり、喘ぎとも呻きとも取れる  
声がファリンから漏れる。まあ、男を受け入れるのが初めてなので仕方ないと言えば仕方ないのだが…。  
「きゃうぅ…っぅ…ア、アルベ…ルさん…ッ…」  
「…そろそろ出すぞ。貴様だってイキたいだろ、阿呆?」  
「…ふぁ、ふぁい…ですぅ…」  
「外に出すからな…ガキが何ぞ出来ちまったら…ウォルターのジジイがうるせえんだ…」  
自身をファリンから抜き、先程から溜め込んでいた欲望を一気に彼女へと放つアルベル。  
飛び散った精液で汚れたファリンの顔や体は何とも言えない卑猥な雰囲気を醸し出している。  
「う〜、苦いですぅ…」  
飛び散ったアルベルの精液を指で取り、口に含んだファリンは思い切り拒絶反応を示す。  
「はぅ…でも…赤ちゃん…ちょっと欲しかったですねぇ…」  
 
「貴様…子供が欲しかったのか?」  
「だってぇ〜、いつかはお嫁に行かないといけないしぃ…。私、ネル様やクレア様  
みたいに強くないからぁ…引退してぇ、早く家庭を持ちたいって思ってたんですぅ…」  
意外な答えだった。そう言えばファリンの料理の腕はプロ級だと聞いたこともある。  
普段の隠密行動では発揮されない才能というところだろうか。心の中に忍ばせた狡猾さ  
も侮れない、アルベルはそう思った。  
「アルベルさん…あのぅ…赤ちゃんのお父さんになってくれませんかぁ…?」  
「…くだらねえ。それ拭いたら、とっとと寝ろ」  
プイ、と後ろを向いて寝転がり、毛布をかぶってアルベルは寝てしまった。  
「あぅ〜、怒っちゃいましたかぁ?」  
「……」  
仕方なく、ファリンは布巾で汚れを拭き、寝間着を着た。アルベルの背中に体を密着  
し、彼の体温を間近に感じることにする。アルベルは何も言わない。  
「離れろ、阿呆」  
「嫌ですよぅ。えへへ〜…意地悪なアルベルさんは嫌いですけどぅ…優しいアルベルさん  
は大好きですよぅ♪」  
「…勝手に言ってろ」  
アルベルの体温を感じながら、ファリンは眠りに落ちて行く。夜は更けて行った…。  
翌日、ファリンが気づいた時にはアルベルの姿は無かった。朝早くフェイト達とともに螺旋の塔  
に向かったと言う。タイネーブが「昨晩はどこにいたのか」と聞いてもファリンには聞こえず、  
アルベルと過ごした時間が夢のように感じた。何となく、切ない気分だった。  
もう、彼には二度と会えないかもしれない。でも、また会える気もする。  
「ファリン、聞いてるの? 昨日の晩はどこにいたのさ?」  
「…秘密ですよぅ♪」  
もう一度彼と会えることを信じて、ファリンは心の中で呟いた。  
「(もう一度…絶対に会えますよねぇ、アルベルさん…?)」 
 
「やっぱり…『赤ちゃんのお父さんになってくれませんかぁ』って言ったの  
怒ってるんですかぁ…?」  
「…フン。この俺がンなこと気にするワケねえだろう」  
「…じゃあ、何で怒ってるんですかぁ?」  
内心ドキドキしながらファリンはアルベルに擦り寄り、その口が開かれるのを待った。  
仏頂面のアルベルのこと、真相を話すはずもない。だが、今日のアルベルは…。  
「…てめえから来なかったからだよ、阿呆」  
「…ふぇ?」  
「戦争は終わった…二国間の交流も復活した。だが…貴様が俺を訪ねて来ることは無かった  
だろうが」  
「…そんなことで怒ってたんですかぁ?」  
素っ気無いファリンの言葉にアルベルは反論する気にもならなかった。やはり、こいつはガキで  
阿呆だと確信した。こんなことなら、あの時抱くんじゃなかった、と後悔する。でも…。  
「じゃあ…一緒に住んじゃえばいいんですよぉ」  
「…あん?」  
「だからぁ、私がアルベルさんと一緒に住むんですよぉ。私もアルベルさんと同じで寒いのは苦手  
ですからぁ、アリアスかペターニ辺りがいいですねぇ♪」  
結婚前の男女が一緒に暮らす。すなわち同棲である。2人とも国家公務員の様なものなので収入は  
それなりに安定している。アルベルとしてもウォルターが身を固めろとうるさいので、そろそろ結婚を  
考えていたのだが…まさか元敵国の隠密の方から同棲話を持ちかけられるとは…。  
「…阿呆が」  
ファリンを引き寄せ、口づけるアルベル。乱暴なものではない。労わるかのような口づけだった。  
彼女の方もその気になり、彼の口内に舌をすべりこませ、彼を味わった。 
 
「…朝か」  
気だるそうに起き上がったアルベルは半分眠気眼だった。結局あの後ファリンの  
膣内に3回出し、一晩中愛し合っていたのだ。アルベルは何ともなかったが、ファリン  
の方は堪らない。アルベルに起こされると腰を擦りながらあくびをする始末だった。  
「ふぁあぁ…おはようございますぅ…こ、腰が痛いですねぇ…」  
「自業自得だ…すぐに発つぞ。俺のエアードラゴンがすぐそこまで来てる」  
「ふぇ? そんなこと分かるんですかぁ?」  
「…俺がアイツの羽ばたく音を聞き逃すか…来い、ファリン」  
「…あれぇ?」  
洞窟の入り口に向かおうとしていたファリンは歩みを止め、アルベルをもう一度見た。  
「…どうした、さっさと来い!」  
「アルベルさん…今、私のこと『貴様』とか『阿呆』じゃなくて…『ファリン』って呼びましたよね♪」  
「…だから何だ?」  
「…なんでもないですぅ♪」  
腰が痛いのも忘れ、ファリンはアルベルに駆け寄り、昨晩の様に抱きついた。  
「…離れろ」  
「離れませんよぅ♪ アルベルさんには責任を取ってもらいますからぁ♪」  
「フン…」  
その後すぐにエアードラゴンは主人の匂いを察知して現れた。あっという間に  
西の山は遠ざかり、見えなくなる。アーリグリフ王から休暇をもらっていたこともあり、  
ファリンの提案でカルサアにある自宅に舵(?)を取るアルベル。  
「私がお嫁さんになればぁ、おいしいお料理を毎日作ってあげますよぅ♪」  
「…一応、期待はしておいてやる」  
何だかんだでイイ感じになったしまったアルベルとファリンでした…。 

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