エリクール2号星に平和が戻ってから、十数ヶ月が過ぎたある日…。  
 一隻の未確認飛行物体がエリクールの大地に降り立った…。  
「…フン。辺境の未開惑星らしい野蛮な所だぜ…」  
 未確認飛行物体…いや、宇宙艇から出てきた長身の男…金色の髪、額のバンダナ、燃える赤い  
瞳、この世界の者とは異なる奇妙な衣服…。  
「さて、さっそく探すとするか…」  
 胸ポケットから何やらメカの様なものを取り出し左耳にセットする、謎の男…。  
「こんな文明レベルの低い星に先進惑星のお嬢が1人きり…見つかるのも時間の問題だな」  
 男がメカのスイッチを入れると…。  
 
 ピピピ…ッ!!!  
 
「ムッ、感知したか…エナジー指数…300越えが5人ッ!? こんな未開惑星にか!?  
クックッ…だが、たいした問題じゃない…この俺はこいつらを遥かに上回っている…!」  
 自信たっぷりの謎の男は耳に付けたメカのボタンを押し続ける…。  
「…その中で最も大きな反応…これがルミナかッ!?」  
 エアーバイクにまたがり、爆走する謎の男! 森を抜け、山を越え、谷を下り、巨大な火山に  
行き当たった…。  
「まさか…ここか? 奴がこんな所にいるとは考えられんが…」  
 半信半疑ながらもバイクを走らせ、急なウルザ溶岩洞側面を駆け上がっていく謎の男…。  
 
 その頃、ウルザ溶岩銅最深部では…。  
「…何だ…この闘気はッ!?」  
 相変わらず修行中のアルベル。だが、この溶岩洞に近づく何者かの気配に気づき、剣を振るう  
手を止めた…。あいにくこういう日に限ってクロセルは別大陸に散歩(散空?)に出かけて  
しまっており、アルベルだけであったのだが…。  
「…来るッ!!!!!!」  
 
シュタッ!!!!!!!!!!!  
 
「チィッ、ルミナじゃない…!」  
 クロセルの間の天井に空いた火口から妙な乗り物に乗って降りてきた男…さすがのアルベルも  
剣を構えて姿勢を整える。  
「ほう、エナジー指数417…こんな奴もいたのか…だが所詮、この俺の敵ではない」  
 突然現れた男はアルベルをこう評価した。俺の敵ではない? アルベルの怒りのボルテージが  
上昇してゆく…!  
「なんだと!? 阿呆がッ、この俺が誰だか分かって言っているのか!?」  
「さあな」  
 この男…無防備な格好だが全くスキがない…かなりデキるとアルベルは一瞬で悟る。  
「(な、何だ、こいつのパワーは…!?)」  
「命が惜しかったら失せろ、野蛮人が…」  
「ワケ分からん事をほざきやがって…気攻掌―――――――――――――――――ッ!!!!!」  
 
 ズド―――――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!  
 
「…ハハッ、やったか!?」  
「…野蛮人が生意気にも『気功術』を使うとは…だが、くだらん。土埃を起こす事しかできんとは…!」  
「(バッ…バカなッ!?)」  
 ルシファーを倒した後もアルベルは修行を続け、この惑星最強クラスのパワーを身に付けたはず。  
だが、彼の気攻掌は全く男には効いていないのだ…!  
「さて、次は俺の番かな? 技の基本というものを教えてやろう……んっ!?」  
 
 ピピピピッ…!!!!!  
 
「別の方角から違うエナジー反応…今度こそルミナかッ!?」  
 火口入り口に止めてあったエアーバイクを呼び、再び飛び乗って急浮上!  
あっと言うまにどこぞへと飛んでいってしまった…。  
 
「ハアッ、ハアッ…バ、バカな! この俺が…震えて動けなかった…ッ!」  
 カランと床に魔剣クリムゾンヘイトを落とし、アルベルは激しく息づいた。  
一体、何者なのか? あの妙な機械から察するにこの星の者ではないようだが…。  
「クソがッ…あの野郎、許しちゃおけねえ…ッ!!!」  
 と、アルベルの脳裏にあの男の言葉がよぎる…。  
「(…『今度こそルミナかッ!?』…だと?)』  
 奴のセリフから察するに、どうやら奴は『ルミナ』という人物を探しているらしい。  
それも、アルベル並の戦闘力を持った者のようだが…。  
「ルミナ…まさかッ!?」  
 アルベル並の戦闘力を持つルミナと言えば1人しかいないではないか。  
「ルミナ・G・ドギー…あのガキかッ!?」  
 マリアと同等かそれ以上の光の弓(フェイズガンのこと)の使い手で、全身に様々な武器を  
隠し持ち、友人からは「歩き武器庫」と呼ばれ、自身の戦闘力もかなり高いものがある…それが  
ルミナ・G・ドギーだ。銀河を放浪するからには、それなりの腕っ節が必要なワケだが…。  
「…ならば奴はシランドに向かったはずだな…このままじゃ済まさねえッ!!!」  
 クリムゾンヘイトを鞘に収め、口笛を吹くアルベル!  
「グキャ――――――ス!!!!!」  
 修行中に契約したエアードラゴンを呼び、その背にまたがる!  
「シランド方面に向かえ、全速力だッ!!!」  
 
 一方…シランド【ラドルとルミナの至高のお店】では…。  
「あーもうッ! ラドルなんかに仕入れを頼んだのが間違いだったわ〜ッ! まさか一ヶ月も  
帰ってこないなんて〜ッ! あのバカ、もー知らない!」  
 ラドルが帰ってこないので商品を売る事もできないルミナが家計簿を見て怒鳴っていた…。  
 
 エアードラゴンにまたがり、シランドを目指すアルベル。あの男が何者か知らないが、ここまで  
コケにされて引き下がる自分ではない、と怒りに燃える心を抑えつつ、敵の闘気を探る。  
「…どうやらまだ来てねえみたいだな…」  
 とは言え、いささかルミナが気になる。いつも一緒のラドルの様なナヨナヨした男では彼女を  
守りきるのは不可能…と言うか、殺されるのは間違いない…。  
「クソが…このまま引き下がる俺様じゃねえんだよッ!」  
 シランド城下を目指し。アルベルは降下してゆく…。  
 
 その頃、アリアス上空では…。  
 
ピピピピッ…!!!!  
 
 シランドに向かったと思われていたあの男は、何故かアリアス上空に停滞していた…。  
「違うな…ルミナじゃない…あの女に反応したのか…エナジー指数288…」  
 はるか上空からアリアスを見下ろす男の目線の先にいたのは…クレアだった!  
「どうなってやがる…こんな辺境惑星にどうして、こんな数値を持つ奴が…?」  
 だが、彼のターゲットではない事を確認すると、踵を返し、再びエアーバイクを動かす…!  
 
ピピピピッ…!!!!  
 
「チッ、今度はこっちにエナジー指数325ッ!? 本当にどうなってやがるッ!?」   
 
 一方、再びシランド城下…。  
「ヒマね〜…あ〜、ヒマ…ヒマだぁ〜」  
 【ラドルとルミナの至高のお店】のカウンターでうつ伏せになっているルミナの姿がそこに  
あった。ここ一ヶ月、武具の材料を仕入れに行ったラドルが戻って来ないためにアイテムを売る  
事ができず、売れてもブルーベリィが数個だったので帳簿は赤字状態…。  
「在庫ももうすぐ尽きちゃうし…あのバカ…帰ってきたらただじゃおかないんだからッ!」  
   
 バキュンッ!!!  
 
 もはや日課となったブラスターガンの射的練習。壁のダーツ盤をかたどった鉄板をブチぬき、  
燻らせる。未開惑星保護条約など彼女には関係ないらしいが…。  
「我ながら…うっとりする腕前ね〜♪」  
 ストレス解消にはやはりコレだ、と自画自賛をしつつ、クルクルと銃を回すルミナ。  
以前、カルサアまでの道のりを教えてくれたフェイト一行のメンバーの1人、マリア・トレイター  
と早撃ち勝負した時の腕はまだ衰えていなかったらしい。この未開惑星に幸運にも機械技術が  
存在していた事がよかったのだろう。今でもたまにイザークやメリル、バニラから改造銃や特製  
銃弾を提供してもらっているし、この具合なら、まだまだ自分は伸びるかもしれない…。  
「お父様の言いなりになんか…ぜーったいになんないんだからッ!」  
   
 バキュンッ!!!  
 
「うおッ!?」  
 父への怒りまじりに第二波をダーツ盤に再度見舞ったルミナ。しかし、ダーツ盤を入り口の  
側に飾っておいたために、どうやら入ってきた客をかすめてしまったようで…。  
「ごご、ごめんなさいッ! だだだ、大丈夫でしたかッ!?」  
「…俺に恨みでもあんのか、阿呆」  
「あ、あら…って、アルベル君ッ!?」  
 
「…俺じゃなかったら、確実に脳天ブチ抜かれてたぞ…相変わらず、いい腕してやがる…」  
 店を訪ねて来たのはアルベルであった。たまにアーリグリフ兵士に武器を供給するので顔見知り  
であるし、何といってもこの銀河を救った英雄の1人である。軟弱で頼りにならないラドルと  
違い、野性的で殺伐とした雰囲気のアルベルはルミナにとってとても魅力的に見えていた。  
 極め付けに片腕を失った、というダークな過去さえもワイルドに思えてくる…らしい。  
どうもお嬢様だけあって周りにはいつもボディーガードがいたため、そんじょそこらの男には  
見向きもしなかったルミナだったが、イイ男は居る所には居るものだと痛感した…そうである。  
「久しぶり! いつ修行から戻ったの!?」  
「修行はまだ終わってねえ」  
「あ、分かった! もう、このこの! デートに誘ってくれるんなら今日はお店閉めたのに!  
イキナリやって来て連れ出すつもりだったのね…アルベル君たら直情的な・ん・だ・か・ら♪」  
「…んなワケないだろうが、阿呆」  
 アルベルはどうもルミナが苦手だ。彼女の強さは分かっている。機械兵器の扱いも手馴れた  
ものだし、体術もなかなかのものだ。アルベルは本能的に強い奴と戦うのが好きなのだが、ど  
うもこの少女とは戦う気も起こらないし、いつもペースを崩されてしまうので苦手だったのだ…。  
 と、ダベっている暇はない。あの男は間違いなくルミナを狙ってくるはず…その前に、どこか  
へ連れ出さねば。彼女が売る武器は非常に強力なのでアーリグリフも数年契約で雇用しているし、  
「あの時の約束」もまだ果たしていない。それにここでチンタラしていたら奴がここに現れ、  
また戦闘になってしまう。自分はいいが、街の人間や家屋に被害が出たらネルに何を言われるか  
分からない。ルミナの手を取り、外に連れ出そうとアルベルは力を込めたが…。  
「…俺と来い」  
「恋ッ!?」  
「…字が違うぞ、阿呆」  
「でっ、でも『来い』って…やっぱデートに誘うつもりだったのね!? も〜、恥ずかしがり屋  
なんだから〜、アルベル君は! でも…そんなアルベル君もかわいくて、好・き♪」  
「(チッ…やっぱ、放っておいた方がよかった気がしてきたな…)」 
 
「おい…どーでもいいから行くぞ」  
「分かったわ、アルベル君…でも優しくしてね♪」  
「…何勘違いしてんだ、阿呆…」  
 何とかルミナを外に連れ出し、待機させていたエアードラゴンに乗せるアルベル。自身も  
乗り込み、手綱を引く!  
「どこでもいい、こっから遠くへ飛べッ!!!」  
「グギャア―――――――――――――ス!!!」  
 
 その頃、謎の男は…。  
「クソッ、またルミナじゃない! だがこのエナジー指数は…どう見てもあの尻尾の生えたガキ  
からのものだ…どうしてあんなガキが…?」  
 男の眼下に居たのはロジャーとその子分達であった。ほかの2人のエナジー指数は5と、ゴミ  
の様なものだったが、ロジャーだけはずば抜けた数値を誇っていたのだ…。…と。  
 
ピピピピッ…!!!!  
 
「これは…エナジー指数250、342、417…!? 3つが同じ速度で移動している…その  
うちの1つはさっきの男と同じ数値ッ!?」  
 この惑星でエナジー指数が高い者はほぼ調べ終わった…だが、この342という者は未調査だ。  
「確かめてみる価値はありそうだな…!」  
 
 で、またまたアルベルご一行…。  
「空のデートなんて…アルベル君、ロマンチックなのね!」  
「ふざけてる場合じゃねえだろうが…狙われてのはお前だぞ、阿呆」  
 
「ふふん、この私にケンカ売ろうなんて…とんだマヌケね♪ まあ…もしもの時はアルベル君が  
守ってくれるんでしょ? でしょでしょッ?」  
「(俺でも勝てるかどうか不安なんだよ…)」  
 そう、あの男の戦闘力はかなりのものだ。やはり世の中は広い、アルベルはそう思った。  
だが、ルミナと組めば少しは勝機が見えてくるかもしれない。いつも武器を隠し持っているだけに  
物騒極まりないが、こういう時となると頼りになるものである。  
「ねえ、どこに行くつもりなの?」  
「俺も知らん。コイツに聞け」  
「グクァ?」  
 ともかく、遠くに行かねば。どうもあの男の持つ機械は相手のパワーを計れるらしい。  
なら、それが計れない場所に移動すればよいだけの事…だが、逃げているという事実に変わりは  
なく、アルベルはそれにイラだつ…。   
「(…俺は何やってんだ…クソがッ!)」  
「…アルベル君、もしかして…怒ってるの?」  
「…」  
「私、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった?」  
「…」  
「…ゴメンナサイ」  
「…お前のせいで怒ってんじゃねえ」  
「え…」  
「…逃げてる俺自身が許せねえだけだ…ッ!」   
――――その時!  
 
「! 見つけたッ!」  
 
「! しまったッ! もうこんな近くにまで来てやがったのかッ!?」  
 ついに謎の男に発見されてしまったアルベルとルミナ。アルベルがエアードラゴンを急かせる  
も、機械仕掛けのエアーバイクとの差はどんどん縮んでゆく。  
 そしてとうとう追いつかれ、仕方なくアルベルはエアードラゴンを空中で止めた…。  
「クックック…また会ったなクズ野郎…」  
「な、何よアンタはッ! そのエアーバイク、明らかに未開惑星保護条約違反じゃないッ!  
 …お前が言うと説得力ねえ、と心の中で呟くアルベル(余裕あるな…)。  
「やっと見つけたぜ…追いかけっこはここまでだぜ……ルミナ・G・ドギーッ!   
お前はこの俺、デービス・パルカポネが貰い受けるッ!!!」  
「パッ、パルカポネですってッ!?」  
「…知ってんのか?」  
「お父様の商売敵の苗字が確かそうだったはず…ジェイムズ・パルカポネだったかしら…?」  
「ご名答…俺はジェイムズの息子だッ!」  
 何とこのエアーバイクに乗った男・デービスが、ルミナの父の商売敵の息子だったとは…。  
「そのデービスが私に何の用!?」  
「単刀直入に言おう…俺はお前を誘拐しに来たのさ!」  
「ゆ、誘拐ッ!? こ、この〜、未成年略取の疑いで逮捕されるわよッ! て言うか、お父様が  
黙ってないんだから〜!」  
「どうかな…お前の親父は、お前がこの惑星にいる事なんざ知らないんだろう?」  
「うっ…!」  
 そう言えばそうだった…。  
「実はこの前のエクスキューショナーとか言うふざけた連中に親父が星ごと消されてなぁ…俺が  
ファミリーをまとめる事になったんだが…親父と一緒に金も吹き飛んじまったんだ。そこで俺は  
商売敵のドギー家の娘が家出したとの情報を耳にし、お前がこの辺境惑星にいる事を突き  
止めたってワケよ…ククク!」  
「よく喋るわねえ…自分の計画をベラベラ喋る悪者って長生きしないって知ってる!?」 

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