「ネル…ちょっといいかしら?」  
「ん、クレアか…ちょっと待ってな」  
 シランド・図書館内。調べ物をしていたネルに声をかけたのはクレアだった。  
取り合えず要件は聞かねばなるまい…そう思い、手にとっていた本を本棚に戻し、  
メガネを懐にしまうネル。クレアもそれを見届けると同時に、話を切り出した…。  
「実は、お父様のことなんだけど…」  
「アドレーおじ様がどうかしたのかい?」  
「その…今度、シランドに帰って来る…って」  
「へえ、よかったじゃないか。久々の再開ってワケだ」  
 そう、クレアの父・アドレーは現在、シランドから見て北の果てに位置する  
海洋諸島の調査・探索に赴いている。シランドやアーリグリフとはまた違った気候や  
風土が生み出すものは数知れない…きっと貴重な発見があるはず。  
 施術士でありながら自然風土や鉱石、生物学にも造詣が深いアドレーは第一線を  
退いてから、ずっとその地方で過ごしていたのだ。  
 が、戦争も終了したことで北の海への渡航手段である船舶の行き来が復活、  
娘のクレアが心配なアドレーは調査どころではなくなり、急な帰国が決まったらしい。  
 父を以前の戦で失ったネルにとって、アドレーは第二の父とも呼べる存在。  
彼の帰国は素直に嬉しい…が、当の娘であるクレアは浮かない様子で…。  
「…おじ様が帰って来る、ってのに…あんまり嬉しそうじゃないねぇ」  
「嬉しいのは嬉しいんだけど…」  
「?」  
 ここでクレアは声を一段と潜めて話し出した。図書館には人はまばらだったが、  
それでもクレアは一応の警戒としてネルに耳を傾かせる…。  
「(お父様には…まだ言ってないの)」  
「(何を?)」  
「(…私が、アルベルさんとお付き合いしてる…ってコト)」  
「( (゚Д゚)ハァ?)」  
 
 何かと思えば…そんなコトだったとは。  
が、ネルは腑に落ちない。アーリグリフとの和平も成立してもう随分経つし、両国の  
復興もかなり進んだ。あの廃墟の様だったアリアスもほぼ原型を取り戻している。  
 何故か? それはクレアとアルベルの力が大きく関係していた。  
ネルを通してクレアと知り合ったアルベルが、戦争終了後に漆黒部隊を  
引き連れてアリアスの復興援助に来る…と言う、戦争中ならば考えられない  
出来事があったのだ。  
 その後、住み込みでアリアス領主の屋敷で働く様になったアルベルにクレアが…  
という経緯らしいのだが、この話をすると彼女はいつも俯き加減に  
なるのでネルはあまり言及していなかった。だが今回ばかりは…。  
「アンタねえ…ノロケ話は他所でやっておくれよ」  
 あーもう馬鹿らしい、という表情でネルは潜めていた声を大にした。  
クレアは慌てたが、周りには誰もいない様である…よかった。  
「もう、ネルったら! そんなコト言わずに助けて」  
「隠す必要ないだろ? 今じゃ国中の噂の種なんだ。隠したって、いずれは  
おじ様にはバレるだろうし…第一、アンタ達は人目を憚らずイチャつくし…」  
「イ、イチャつくだなんて…わ、私はそんな破廉恥なコト…」  
 クレアは一応否定するものの、ネルの目は誤魔化せない。  
以前、ペターニのカフェテラスで食事をしていたクレアとアルベルを見た時…。  
「2人でチョコバナナDXをパクつきながら“アルベルさん…口の周り、チョコ  
ついてますよ…仕方ないですね”とか言いながら、アイツの口に……」  
「プ、プ、プライベートアクションの侵害よ、ネルッ!」  
「あれって、PAだったのかい…?」  
 敢えて2人でチョコバナナDXを食べていたことにはツッコまず、  
彼女らのやり取りを記憶していたネル…さすが隠密、と言ったところか?  
 いや、この場合は人通りの多いカフェテラスで堂々とそんなモノを食べていた  
クレアに責任がある。普段は男に縁が無かっただけに、浮かれていた自分が恨めしい…。  
 
「と、とにかく…お父様には何とかして、アルベルさんとのお付き合いを…」  
「分かった、分かったから…スカーフで首を絞めるのは…」  
「あ、あら…」  
 ネルの言葉で興奮気味だったクレアは一時暴走…が、すぐに持ち直し…。  
「まぁ…今夜、フェイトと相談してみるよ。アイツはアルベルと親しいしね」  
「じゃあ…頼むわね、ネル?」  
「はいよ、頼まれました」  
 ネルとしても親友であるクレアがここまで必死なのを見るのは久しぶりだし、  
何より何とかしてやりたい…が、相手があのアドレーとなると…。  
「(厄介だねぇ…どうしてクレアも“歪のアルベル”なんぞに惚れたんだか…)」  
 
「エレナ様、フェイトをちょっとお借りしたいんですけど…」  
「フェイト君? 確か庭園のに居たわよぉ…何か、実験するんだって〜」  
「庭園ですね…分かりました」  
 エリクールに残ったフェイトは、現在エレナの施術研究所で働いている。  
救国の英雄ということで待遇もよく、なかなか使用を許可されない書物や  
実験器具の持ち出しも彼は顔パスで通っていた。が、平和な日々に慣れすぎたのか、  
はたまたネルとの生活が妙な作用を施したのか…最近は変な発明ばかりを…。  
 
 シランド城・白露の庭園。サンダーアローを設置したり、マリアがディプロから  
転送されてきたり、とシランドでも何かと曰くの多い場所である。  
 そこに佇むのは施術士用のローブを羽織った少年…渦中のフェイトであった。  
伊達のつもりなのか、銀縁メガネがよく似合う(IC失敗時のアレである)。  
 で、今回の発明品の実験は…。   
「いくぞ…『5』…『5』…『5』…『ENTER』!」  
【STANDING BY】!!!!  
 フェイトの動向を見る限り、どうやら地球で20世紀末と21世紀初頭に流行った  
「携帯電話」を模した通信装置にボタン入力している様であるが…。  
 
「よしッ、イケる……変身ッ!!!!!」  
 ガシッ!  
 携帯電話型通信機を閉じ、そのまま腰に巻いた金属ベルトに勢いよく差し込む  
フェイト。機械的な電子音が鳴り、フェイトの身体は光に包まれる…ハズだった。  
 が…。  
【ERROR】!!!!  
「ヘッ?」  
 
 ドカ―――――――――――――――――――ンッ!!!!!!!!!!!  
 
 シランド城の庭園から巻き上がる煙。城下町の住人の何人かはこれを見ていたが、  
すぐに“ああ、またフェイト様が実験に失敗したな…”と言わんばかりに、すぐに  
騒ぎは治まった。つまり、こういうことなのでった…。  
「ケホッ、ケホッ…おかしいなぁ、どこを間違ったんだ…?」  
 あの爆発で生きているフェイトもすごい。さすがは最終兵器彼氏である。  
が、彼がこの数週間、心血を注いだ発明品は見事に爆発し、無残な姿に…。  
「あーぁ、またやらかしたのかい?」  
「やぁ、ネル」  
 フェイトがローブに付着したススをパンパンと叩いていあると、ヤレヤレと  
言った顔のネルが姿を現した。彼女もフェイトの実験には慣れてる様で…。  
「そーいう物騒な実験は、ファクトリーでやれ…っていつも言ってるだろ?」  
「今回は絶対に成功すると思ったんだけどなぁ…」  
「…後でラッセル執政官に小言を言われるのは、アンタの保護者の私なんだけどね?」  
「す、すみません…」  
 実生活ではネルに世話になりっぱなしのフェイトだけに、この場合は逆らおうにも  
逆らえない。が、夜はこの作用が相まって非常に可愛らしい彼女だが…。   
「ま、それはさて置き…今夜、ちっとばかしアンタには骨を折ってもらうよ」  
「それって…やっと子造りする決心が着いた…って解釈で、いいのかな?」  
「いや…そういうコトじゃなくてだね…って、話を変な方に持ってかないどくれ!」  
 さすがに同棲生活が長いと、夫婦漫才もバッチリの2人なのであった…。 
 
 そしてすっかり日は暮れて…。  
「…ってワケなんだけどさ」  
「ふぅん…クレアさんのお父さんがねぇ…」  
 フーフーと息で冷ましながら、ネルの作ってくれたシチューを口に運ぶフェイト。  
彼女が“骨を折ってくれ…”と言うので、てっきり変な方に想像を膨らませていた  
のだが、何のことはない…ネルと同じく、ノロケ話にしか聞こえないではないか。  
「残念だけど、僕達じゃどうしようもないと思うな。クレアさんの家庭の問題なんだし…」  
「そりゃそうだけど…放っておくわけにもいかないだろ?」  
 皿を運び終えたネルもやっと食卓につき、晩御飯にありつく。  
「まぁ…明日あたり、ウルザ溶岩洞に行ってアルベルに  
会ってみるよ。ちょうど火属性施術のエネルギーも採取したかったし…」  
「火属性施術の…? また妙な発明かい?」  
「ひどいなぁ…。これでも特許は何件か取ってるんだぞ」  
「全部評価は“1”なんだろ?」  
「うッ…」  
 フフッ、とネルに見透かされ、フェイトは虚を突かれた。  
一緒に生活を始めてはや半年以上経つけれど、未だにこの女性には頭があがらない。  
別に4つも年上…というワケではなくて。  
「冗談だよ…誰も責めてやしないさ。それに、発明に打ち込んでる時のアンタは…」  
「僕は…何?」  
「…イイ顔してる」  
 フェイトの口についたシチューを拭ってやり、ネルは笑う。  
いつもは仕事で互いに会話する機会はあまりないけれど、彼女はちゃんと自分を見ていて  
くれる…かつて父のロキシや母のリョウコが研究に明け暮れていた時とは、違うのだ。  
「…ありがとう、ネル」  
「いいさ、別に…私はアンタの、そういうトコに惚れたんだから」  
 
 食後…ネルが風呂に入っている間、  
フェイトは城の図書館から借りた数冊の本に目を通していた。  
 如何せん、他文明のためにまだまだ解読できない文字が多く、時々ネルに  
「これは何て読むの?」と聞く時もある。元々覚えは早い方だったフェイトだが、これ  
ばかりは時間をかけて習得するしかない様である…。  
「(うーん…そもそもグロビュール歪曲を光属性施術の流動体だけで制御しようと  
したのが誤りだったのかな。だけど、これはドカターク効果の応用を闇属性の分子構造  
として見立てることにより…そうか! だからベルトが拒絶反応を起こしたんだ…)」  
 どうやら、今日の失敗した発明についての反省をしている様だが…  
何だか、別作品の専門用語を口走ってないかい、フェイト?  
「失敬だな…ファロース山からセレスティアに行けさえすれば、全て理の適った説明を…」  
「1人でブツブツ、何言ってんだい?」  
「あ、ネル…出たんだ」  
 年下の同居人がトライア様(?)らしき人物の電波を受信していると、  
風呂から上がったネルがツッコんできた。実にナイスなタイミングである。  
「今日も暑かったからね…ぬるめに沸かしておいたから」  
「助かるよ。あの研究員のローブ、何とかならないのかな? 重い・暑い・動きにくい…」  
「フフッ、今度エレナ様に進言すればいいじゃないか」  
 グチりながらローブをソファーに置き、フェイトは風呂場へと向かう。  
今日の実験でまたホコリっぽくなってしまった…ネルの洗濯物が増えた様だ。  
「(せんたくき…ってのがあれば楽らしいんだけどねェ…アイツが作るワケないか)」  
 これまでフェイトが発明したものと言ったら…何があっただろう?  
 決してアイテムレクリエーションのレベルは低くないのだが、メリルやバニラ、  
イザークらのスキルレベルが高いクリエイターとの共同作業を、最近のフェイトは嫌っている。  
 特にイザークとの共同作業に関しては、何故か生理的に拒絶したいらしい…。  
「(それはさて置き…おじ様が帰ってくれば、こりゃまたひと波乱ありそうだね)」  
 
「フゥ…補給終わり、っと」  
 風呂上りの後のために、井戸水で冷やしておいたミルクセーキを飲み干すフェイト。  
流し台にコップを置き、そのままネルの待つ寝室へと向かうが…。  
「(まさか先に寝てるなんてことはないよな…)」  
 いや、一応昼間にそういう解釈をしただけに、期待はしておきたい。それに…。  
「(ネルは…僕との家族が…欲しくないのかな…?)」  
 
「…ネル?」  
 普段なら気軽に入る自分達の寝室…シーハーツの夜は  
一年を通して寝苦しい日が多いため、この日もアイスボールがかかせなかった。  
心地よい冷気が足元に漂う中、フェイトは最愛の女性の名を呟く…。  
「…起きてる、よね?」  
「…先に寝る程、薄情な女だと思う?」  
「何だ、起きてるじゃん」  
 タオルケットを捲り、ポンポン…とベッドを叩くネル。“おいで”と言う仕草に他ならない。  
フェイトもそれを知っているため、躊躇することなくベッドに潜り込み…。  
「今日も暑かったね…」  
「戦争中は時期的にまだ春の手前だったからね…暑くなるのはこれからだよ」  
 他愛のない会話。だけど、2人にとってはお互いを確かめ合うことのできる貴重な  
時間でもある。そして、フェイトはここぞとばかりに切り出し…。  
「…あのさ、ネル。昼間の話なんだけど…僕、一応は真面目なつもりなんだよ…?」  
「…知ってるさ。アンタはいつでも大真面目だもんね…」  
 風呂上りで火照ったフェイトの首筋から胸の辺りに指を這わせ、ネルが呟く…。  
「…家族が欲しいんだ。普通の家庭で構わない…ネルが居て、僕が居て…子供が居る…」  
 ネルの頭を抱き寄せ、フェイトも呟いた。夜の闇には、紅い髪が本当によく冴える…。  
「普通か…そんなコト、考えたことも無かったね。私には…縁の無い話かと思ってたよ」  
 ネルもフェイトに応えたい。でも、本当に自分にそんなことが出来るのか…正直、自信が無い。  
「私…幸せ、ってのが怖いんだよ。本当に自分が幸せになれるのかな…ってね」  
 
「ネルは僕が幸せにする。  
今までが不幸せだったなら、2人で幸せになればいいじゃないか」  
「…自信家だね」  
 フェイトに“自分が幸せになれるか自信がない”と言った手前、  
彼の励ましは嬉しかった。だが同時に少し可笑しくもあり、自嘲気味にネルは笑う。  
「可笑しいかな…やっぱり」  
「いんや、アンタらしいよ」  
 フェイトの身体に回されたネルの腕に、少しだけ力がこもり始め…。  
「初めから可能性を否定しちゃ…何もできやしないもんね」  
「ネル…」  
「それに、アンタがココに残ってくれるって言ってくれた時…」  
 愛しい少年の胸に顔を埋めていたネルは体勢を変え、彼の顔を覗きこむ。  
「…嬉しかったのは事実だからね」  
 ニィッと微笑むネル。  
少女の様な無邪気さと大人の女が醸しだす余裕…その2つが合わさったかの様なカオ。  
「ホントに幸せに…してくれるかい?」  
「するよ」  
「嘘ついたら…どうなるか分かってるんだろうね?」  
「…まぁ、何となく察しはつくケド」  
 以前、クレアと施術を応用した接近戦用武器について  
話している現場をネルに目撃されてしまい、あらぬ誤解を招いたことがあるフェイト。  
 その後の彼女の仕打ちと言ったら…(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル  
「(あれは怖かったナ…)」  
 今思い出しても、心臓が高鳴るくらいに恐ろしかった…。  
 
「…アンタ、鼓動が早くなったね」  
「あ…わ、分かる?」  
 ネルに見透かされた様な態度を取られ、一瞬フェイトはマズった…と思った。  
だが彼女はフェイトを咎めることもなく、心臓の位置する左胸に手を添えて…。  
「生きてるんだよ」  
「え…ッ?」  
「この命は紛いモノなんかじゃない…今、私もアンタも生きてる」  
 覗き込む様に伺いを立てるネル。  
生命について問われたならば、フェイトが返す言葉は一つしかなかった。  
「僕は…大事な人を守るために戦った。僕達の世界を守るために戦った。  
この世界で生きるために。生きることを…素晴らしいと思いたいから、戦ったんだ」   
「例え勝てる見込みが…限りなく不可能に近くても?」  
「命の尊さは、計算なんかでは表せやしないよ」  
「…あぁ、そうだったね」  
 その言葉を待っていた…と言わんばかりに、ネルはフェイトを強く抱く。  
彼との出会いを経て変われた自分…彼への感謝を込めて。  
「だからさ、今度は私達で…」  
 思わずゾクッとする様な笑み。悪い意味ではない…余りにキレイ過ぎて怖かった。  
「命を造ろうよ」  
 この時点で形勢が逆転した。   
当初、求めていたのはフェイトだった。が、今ではネルが求める番となっている。  
 如何わしい気持ちや疚しい気持ちが無かった…と言えば嘘になる。  
けれど、彼の求めに相応しいかどうか…それだけが彼女の不安要素だった。  
 しかし、もうその不安もない。自分が彼を求めてもいいと、気がついたから…。  
 
「んッ…ぅ…フェイト」  
 シーツの掠れた音がする。タオルケットなど要らない程に、熱い身体。  
「ネル…もっと声…聞きたいな」  
 故意か不意か…若干余裕を見せるフェイトが嫉ましかった。  
 
「ネルは…キレイだね」  
 隠密として鍛錬を受けている割に、ネルはほっそりとしている。  
そしてその肌…ここ最近は暑い日が多かったせいか、肌理細やかで艶やかな  
肌にも若干の日焼け跡が見て取れる。残るは…訓練や戦闘で作ってしまった傷くらいか。   
「ふ…ぁッ…?」  
「キレイだよ」  
 灯りはつけていない。月明かりだけが、彼の表情を確認する手掛かり。  
優しげだかれど、どこか嬉しげでもある。今までも身体を重ねる機会は何度もあった。  
 でも、こんな彼を見たのは…これが初めてかもしれない。  
「これ以上…傷を増やさないで」  
 肩から胸へと移るフェイトの指先を、少しだけ涙目の視線で追うネル。  
胸の突起に辿り着いたそれは全体を包み込んで、ゆっくりと…そしてやんわりと這う。  
「あッ…どこ…触ってんのさ…」  
 胸に触れる彼の指先は、不快ではない。寧ろ逆で、動く度に身体の  
奥から“疼き”の様なモノが沸いてくる。貞淑な女を演じるつもりはないが、  
彼女の性格からして、自分から求めても“〜をしてほしい”とは言えない様で…。  
「気持ちイイ?」  
「ッ…アンタ…ねぇ…」  
 紅潮したネルが何かを訴え様と口を動かす度、声にならない言葉が紡がれる。  
嫌な素振りは見せてはいないが、普段のクールな彼女からは想像もつかない姿。  
「ネルも女の子だもんな」  
 時折、首筋に吸い付いていたフェイトが耳元で囁いた。  
女の子…もうそんな歳でもない、と思っていたのだが。初体験が遅いとこんな感傷に  
浸ってしまうものなのだろうか? 大人な自分、子供な彼。今まではその形式だったはず。  
「こんな時に…ッ…変なコト……んッ…」  
「女の子だよ、ネルは」  
 今はもう違う。彼は随分大人になった。自分は…こういうコトにまだ慣れない  
せいか、いつも通りに振舞えないのが恨めしい。でも、それはそれで構わない…。  
「(アンタの背中は…大きいね)」   
 いつも自分の側に居てくれた彼だからこそ…今度は自分が側に居たい。きっと…。 

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