その日、街の噴水広場は人で賑わっていた。
何か事件でもあったのだろうか・・・いや、違う。人々は見入っていたのだ。
噴水の前でパフォーマンスを繰り広げる、銀髪の男女に・・・。
「吼竜破ッ!!!!!!!」
ギャウゥゥ・・・・・・ッ!!!!!!!
銀髪の男性がそう叫んだ瞬間、鋼に包まれた彼の左腕から巨大な龍の群が飛び出した。
それはまるで天に昇天するかの如く次々と空を駆け、やがて大きな花火となって散る。
だが、これで終わりではなかった。
空を見て呆ける人々を包み込むかの様に、幻想的な光がもう片方の銀髪の少女から
溢れ出している。彼女のダンスの動きに合わせて、時に強く、時に激しく瞬く光・・・。
現実とも非現実とも思えない不思議な時が、過ぎていく・・・。
「またのお越しをお待ちしておりま~す♪」
拍手とおひねりに包まれながら、少女が恭しく観客にお辞儀する。
男性の方もムッとした感じではあるが、少女に促されるカタチでその頭を垂れた。
大きなシルクハットの中には、観客からの
見物料のフォルが万単位でジャラジャラ…どうやら、今日の公演も大成功だった様である。
「やったね、アルベルちゃん。今日も大収穫!」
「買うモン買ったら、とっとと街から出るぞ…目立つのは嫌いだ」
「えーッ、せっかく来たのに~?」
連れ添って歩く2人の男女…アルベル・ノックスとスフレ・ロセッティ。
アルベルは嫌そうだったが、スフレは露骨に不満を露にした。
やっと次の街に来たのに、もう出発と彼は言う…それは面白くない。
「お祭見物していこうよ~、お金だってこんなにもらえたんだし~!」
「ダダこねんな、ガキ」
街での観光を希望するスフレだが、アルベルの返事は素っ気無い。
もともと騒がしい場所が苦手であるし、何よりここはアーリグリフから遠く離れた土地。
土地の勝手が分からない以上、公演を終えたらすぐ移動…これがアルベルのプランである。
「親父、ブルーベリィ3つとブラックベリィ2つだ」
街の露店を見て回っていたアルベル達は道具屋の前で足を止めた。
ちょうど回復アイテムが何個か足りなくなっていたはず…補給をしておくのも悪くない。
「あいよ…お、アンタ達さっき噴水広場で芸をやってた人達だね」
「え、おじさん見てくれてたの~?」
「まぁね。久々に面白いもの見せてもらったよ。
ホラ、ブラックベリィもう一つオマケで付けてあげよう」
この道具屋の店主も2人の公演を見ていたらしく、機嫌よくオマケまで付けてくれた。
「わぁ、ありがと!」
「お嬢ちゃん達、兄妹かい? 仲いいねぇ」
「エ…エヘヘ」
アルベルの腰に腕を回していたスフレを見て、店主は笑った。
“兄妹”…と呼ばれ、スフレは顔を赤くし、アルベルの後ろに隠れてモジモジと…。
「オイ、ボーッとすんな…行くぞ」
「あ、う…うん」
店主に手を振り、スフレはアルベルを追う。彼の大きな背中…いつも追いかけるのは
自分ばかり。それは楽しいことでもあり、ちょっと悔しいことでもあった。
「(もう…アルベルちゃんはすぐにアタシを置いて行っちゃうんだから~)」
タッタッとかけるシューズの音は、どこか軽快で、それでいて少し寂しげ。
「ったく…テメェが“祭が見たい”なんて
ダダこねなきゃ、とっくに出発済みだったのによ…」
「エヘヘ…ゴメ~ン」
結局、アルベルとスフレは街の祭を見てから出発…ということになった。
早くもスフレは“何食べようかな~?”などとはしゃいでいるが、
アルベルは乗り気になれない。別にスフレの面倒を見るのが嫌なワケでもない。
髪の色で兄妹に間違われるのがウザいワケでもない…ただ、アルベルは…。
「(他の奴らにテメェを見せるのは…惜しいんだよ、阿呆が)」
何だかんだで、ここ数ヶ月の間に保護者が板についてきたアルベル。
スフレがエンターテイナーの修行のためにエリクールに残り、
しかもアルベルと一緒に興行に回る…と行った時は、誰もが耳を疑ったものだ。
が、今では“白銀の騎士と妖精”の名で呼ばれる程に知名度はアップ。
そのド派手なパフォーマンスで見る者全てを魅了する…これぞまさに、スフレの夢だったのだ。
「お祭が始まるまで時間あるし…お部屋でゴロゴロするのも、い~かもね」
「…あぁ」
髪をかき上げ、アルベルは呟く。実はこの銀髪は、生まれついてのものではない。
以前は仲間から「プリン頭」の愛称で呼ばれていたアルベルだが、
仲間達と分かれてからはイメージを一新。髪を銀色に染め、ヘソ出しもやめた。
本人曰く、気分転換らしいのだが…。
「…スフレ」
「ん、なぁ~に?」
今日、初めて彼がスフレの名を呟いた。普段は“テメェ”で通っているだけに、嬉しい。
「こっち来い」
「う…うん」
アルベルに言われるまま、スフレは彼の元に赴く。その肩に身体を預け、項垂れると…。
「きゃぅ…アルベルちゃ…くすぐったいよォ…」
「いいから黙ってろ、阿呆」
自分よりも数倍大きなアルベルの腕の中に捉えられたスフレ。
その小さな首筋にアルベルは顔を近づけ、静かに舌を這わせてゆく…。
「ダメ…だってば…汗かいちゃってるから…」
「ガキがいちいち…ンなこと気にすんじゃねぇ」
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