無事修練所にたどり着き、漆黒の副団長を撃破。囚われの身であったファリンとタイネーブの無事を確認。
漆黒の団長『糞虫のアルベル』と遭遇するも「俺は弱い物いじめはしない主義でな。分かったらさっさと
国へ帰れ、阿呆。」とけなされる。しかし現時点で勝算のあるとは言えない相手だっただけに何事もなく
去っていってくれたことはフェイト達にとってありがたいことだった。クリフが暴れだすもそれを何とか征し
彼女らの無事を一刻も早くクレア嬢に伝えるため修練所を後にする。アリアスまではアーリグリフ兵に会う事もなく
難なく到着する。クレアはネルらの無事を確認するやいなや号泣しながら飛びついてきた。抱きつかれたネルは
足元が崩れ落ちその場に座り込むとはにかんだ笑いを見せた。ネルは立つことすらままならない状況だった。
この状態ではしばらく旅立つのは無理と判断したフェイトとクリフはクレアの強い要望もありしばらくの間
アリアスで休養することにした。
コンコン、ドアをノックする音が廊下に響く。
「ネルさん、いますか?フェイトですけど。」
「フェイトかい?いいよ、入って。」
「失礼します。」
フェイトが一礼しネルの部屋に入る。
「とりあえず好きなところにかけな。で、何か用事でもあるのかい?」
「いや、特別用事って訳じゃないけど…体大丈夫ですか?」
カルサア修練所の一件の後、ネルの体は一種の麻痺状態に陥った。日ごろの疲れもあったのだろうがそれ以上に
あの一件が体に響いたのだろう。あんな場所に一人で突っ込みたくさんの猛者と一人で相手していたのだ。
フェイト達が間に合わなければ今頃どうなっていたか、想像するだに恐ろしい。
「心配してくれてるのかい?大丈夫だよ、ありがとう。あの時、あんた達が来てくれなかったらどうなってたことか。
本当にありがとう。」
ネルは優しく微笑みそして深く頭を下げた。
「いやぁ、そう言われると照れるじゃないですか。それに当然のことをしただけですよ。僕たちは仲間じゃないですか。」
フェイトは照れ隠しに頭を掻いてみせる。
「ふふ、そう簡単に言ってのけるとこがあんたらしいと言えばあんたらしいよ。」
部屋からはしばらく笑い声がこだましていた。
数日後
「あっ、ネル。もう体は大丈夫なの?」
会議室で職務をこなしていたクレアは突然ネルが入ってきたので少し驚いていた。
「さすがにそう長くは休めないからね。それより…なんかする事はないかい?」
ネルが会議室の中を見渡し自分のできそうな仕事を探す。
「今のところは何もないわ。それより、せっかくだから散歩でもしてきたら?」
今のところ何もない、そういう割にはクレアはだいぶ分厚い書類を抱えていし部屋の隅では仕事に追われている
兵の姿も見える。彼女なりの気遣いなのだろう、と思いネルはその言葉に甘える事にした。
「ふふ、本当に何もする事がないみたいだから、ちょっとぶらついてくるよ。」
ネルが会議室から出ようとした時、
「あっ、待ってネル!」
不意にクレアが呼び止める。
「どうしたんだい?」
「えっ、いや、その、たいした事じゃないんだけど…フェイトさん…どこにいるか知ってる?」
ネルは狐に摘ままれたような顔をした。まさかクレアの口からフェイトの名が出てくるとは思わなんだし、
なぜかクレアはもじもじしている。しばらく思考錯誤を繰り返した後ネルは一つの結論に達した。
『こいつ、フェイトに惚れたな。』と。多分自分とフェイトが一緒に散歩するとなるといろいろと問題でも
あるのだろう、と悟った。
「フェイトかい?あいつならさっき部屋にいたけど…なんか用事でも在るのかい?」
ネルはここで一つ嫌がらせした。実際のところ先程屋敷から出て行くフェイトの姿を確認していた。
ネルなりのジェラシーなのだろうがなぜそんな事言ったのか、自分では理解できずにいた。
「えっ、ん〜ん、何でもないわ。只…ちょっとね(良かった、部屋にいるのね。なら安全だわ。)」
ネルが二つ目の嫌がらせを思い付いた。
「そうかい。さてと、私はフェイトでも誘って散歩でもしてくるかな。」
ネルはにやつきながらちらちらとクレアの事を眺めている。案の定クレアはその事に抗議してきた。
「えっ、そんな、悪いわよ。ほらっ、その…フェイトさんだって疲れてるだろうし…。」
クレアの顔はどんどん赤くなってきた。
「そうかい?あいつなら嫌がらないと思うけどねぇ。」
「ちょっ、ちょっとネル、おこがましいわよ!」
クレアの純な反応を見るのもなかなか面白かったがそろそろ怒り出しそうなので打ち切る事にした。
「わかったよ。散歩なら一人でしてくるよ。別にフェイトを誘わなくてもできるからね。フェ イ ト を。」
「ちょっと、ネル!」
ネルはくすくすと笑いながら部屋を去っていった。
「もう、ネルったら…。」
クレアは頬を含まらせて怒っている。顔の赤さを含めさしずめ餌をほうりばったリスといったところだった。
「あれ、ネルさんじゃないですか?どうしたんですか、体のほうは大丈夫なんですか?」
フェイトは町の外れの林間部で剣の素振りをしていた。さすがに何日を黙っていると体がなまると思ったのだろう。
フェイトの額は汗で光っていた。
「ああ、大丈夫だよ、今まで心配かけたね。今は散歩中さ。どうだいフェイト、休憩がてら一緒に散歩でも。」
「散歩…ですか。いいですね。ちょっと待っててください。」
そう言うとフェイトは持っていた剣を地面に深く突き刺した。
「じゃあ、行こうか。」
そうしてクレアのおきてを破り、散歩が始まった。
二人は町を練り歩くようにして散歩した。噴水の脇、宿屋の横、子供たちの後ろ、頭を下げる部下達の前。
しばらく歩いていると小さな料理店が見えてきた。
「もう、昼時ですかね。どうですネルさん、一緒にご飯でも食べませんか?お代は僕が払いますから。」
「いいのかい?」
「もちろんですよ。」
そうして二人は店の中に入っていった。
「ご注文はお決まりになられたでしょうか?」
お冷やを運びに来たウェイトレスが注文の確認を取ろうとする。
「え〜と、じゃあ僕は…ドリアお願いします。ネルさんは何にしますか?」
「そうだね…、じゃあシーフードパスタにするよ。」
「わかりました。それではご注文の確認をさせてもらいます。ドリアがお一つ、シーフードパスタがお一つ。
以上でよろしいですね?」
「はい。」
「それではしばらくお待ちください。」
ウェイトレスが去っていった後二人はしばらく黙っていた。フェイトは何か話すきっかけがほしかったが
結局何も見つからず無情にも時間だけが過ぎていった。
「お待たせしました〜。」
この状況を打開するかのようにウェイトレスの元気な声が響く。
「え〜と、ドリアが一つ、シーフードパスタが一つ、以上でよろしかったですね?」
「はい。」
「それではごゆっくりどうぞ〜。」
結局ウェイトレスは役に立たず何も進展がないまま二人は黙々と自分のご飯を口にする。
『どうしたんだろうネルさん…。さっきから黙ったまんまで…。』
等とフェイトが心の中で思っているとそれを読んだのかネルがその重い口を開けた。
「あんた…、クレアのことどう思ってるんだい?」
不意な質問にフェイトは口に含んだ物を吐き出しそうになった。
「あっ熱っ!!」
ただでさえ熱いドリアだ。それを吹き出しそうになったフェイトの口はただ事ではすまなかった。
「だ、大丈夫かい?ほ、ほら、水だよ!」
フェイトは差し出された水を一気に飲み干した。
「ふぅー、ネルさん…、何聞くんですか?」
フェイトはひりひりする舌を外気にさらしながらネルに問い掛けた。
「何って、そのまんまの意味だよ。あんたがクレアをどう思ってるか?っていうね…。」
「どう思ってるって…、それは…、いい人だなぁ…って思ってますけど。」
フェイトはあせった。あせりにあせってぼろが出ないか心配なぐらいにあせった。
頭の中に以前の出来事がよぎる。あの晩の事だけじゃない。あれから二人は人目を盗んでは
愛し合っていたのだ。流石にそれがばれたらまずいと思ったフェイトは必要以上のことを言うのを止めた。
「本当にそれだけかい?」
ネルの眼が光る。全てを見透かされそうな目だった。
「ほ、本当ですよ…。それ以外に何があるっていうんですか?」
フェイトのあせる態度はいかにも怪しかった。必要以上のことを言うのをためらうフェイトにとって
その態度の方がかえって怪しまれるということが分かっていなかった。
「そう、それならいいんだけどね…。」
ネルが冷ややかな視線を送る。
「あっ、あの、ぼくそろそろ行かなくちゃ…お代払っとくんで…失礼します!!」
フェイトは駆け出しレジで金を渡すと「釣りは要らない」と言い、物凄い勢いでその場を去っていった。
「ふぅー…。」
フェイトが去った後、ネルは一人なにかに思いふけっていた。
流石に今日はネルと顔を合わせるのが怖くなったフェイトは夕飯も早めに切り上げすぐさま眠ることにした。
翌日
「おはようございます。ネルさんもクレアさんも早いですね。」
一晩寝てスッキリしたフェイトは昨日のことはすっかり忘れて上機嫌だった。まだ日は上ったばかりではあるが
ネルとクレアは会議室で話し合いをしていた。
「あっ、フェイトさん。おはようございます。ずいぶん早いですね。」
フェイトに気付いたクレアは丁寧に挨拶した。
「んっ、それはなんですか?」
フェイトはデスクの上に無造作に置かれている地図に目が行った。
「地図…。」
「それはわかりますけど一体どこの地図なんですか?」
「ええとですね、この町から南にだいぶ行った所に今は使われてない鉱山があるんですよ。そこの地図なんです。」
クレアは説明を続けた。
「この場所は結構安全だからよく子供達の遊び場になったりするのですがココ最近この鉱山に
未確認の魔物が出るって通報があったんです。それが本当なら大変だ、ということで急遽その魔物を討伐しに
行くことになったのですが…」
クレアの説明の途中にネルが割って入る。
「今、わが国じゃそんなことに避ける人員はいないし時間もないから、私が行くことになったんだけど、
この子が私一人じゃ心ともないからって誰か連れて行くことにしたんだ。」
「それでその連れて行くっていう人を探してたんですね?」
フェイトがポンっと相槌を打った。
「そういうこと。でも、なかなかその連れ人が決まらなくてね。」
ネルが困ったように言うと、
「じゃあ、僕がついて行きますよ。たぶん足手まといにもならないでしょう。」
フェイトが急にそんなことを言うもんだから例によってクレアはあせった
「そっ、そんな、フェイトさんがいくこと…。」
「そうだね。じゃあ一緒に行ってもらうよ。」
あせるクレアを横目にネルが協力要請をする。
「わかりました!じゃあクレアさん、そういうことで良いですよね?」
この展開にクレアは了解といわざるを得なくなった。
「えっ、ええ、勿論です…。フェイトさん、くれぐれも無理をしないでください。」
「わかってますよ。それじゃあ行きますか。」
「そうだね。それじゃあクレア、行ってくるよ。」
「えぇ…。気をつけてね。」
クレアは渋々フェイトを見送った。会議室に一人残されたクレアは一人考え込んだ。
『どうしてフェイトさん私のことだけを見てくれないのかなぁ?」
クレアはとりあえずもう一眠りすることにした。
「やっと着きましたね…。」
やっと坑道の入り口に着いたフェイトとネルのココまでの道のりは山あり谷ありのきつい物だった。
そのせいでフェイトは息が絶え絶えだった。
「意外と長かったね。そんなに息切らして…疲れたなら少し休もうか?」
ネルは息一つ切らしていなかった。長い間寝たきりだった者とは思えない身のこなしを見せる。
フェイトも足手まといにはならないといった手前こんなところで休むわけにはいかなかった。
「休むなんて…、そんなに疲れてるように見えますか?」
フェイトは精一杯強がって見せる。
「無理する必要も無いんだけどね…。それじゃあ先に行くよ。」
二人は鉱山の中へと足を運べた。
鉱山の中は深く入り組んでいた。明かりである松明の光を頼りに地図を読み、迷わないように前へ進んでいく。
「…今のところ何もありませんね。この分なら未確認情報ってのも本当に未確認で終わるかもしれませんよ?」
消えている松明に火をつけながらフェイトが訊ねる。
「今のところは…だろ?この先何が起こるかもわからないんだ。気を抜かないことだね…。」
ネルが万が一のために自分達が来た道に印をつけている。
「それもそうですね。」
二人は黙々と歩きつづけた。やがて細い道だったのがだんだんと開けてきた。
「これは…?」
フェイト達の前を激流が流れている。対岸まで10mといったところだ。所々に平たい岩が飛び出ており
渡れない事も無かったが一度足を滑らせたらお終いだろう。
「何でこんなところに川が?」
フェイトが首をかしげる。
「まぁ、一応地下道だからね。地下水脈があってもおかしくは無いと思うんだけど…。」
「で…どうします?」
「? どうって?」
「いや、ココをわたる方法ですよ。まさかこれを飛んでいくんですか?」
「それしかないじゃないか、ほかに方法があるかい?」
ネルがあっさりと言ってのける。
「これしか方法が無いんだ、行くよ。」
ネルは一人で進み始めた。蝶が舞うように岩を一つ一つ飛び越えていく。一呼吸する間もなく対岸に着いてしまった。
「さあ、次はフェイトの番だよ。」
ネルが急かす。しかしフェイトの足はすくんで動かなかった。
『僕の番って…。落ちたら終わりじゃないか…。』
フェイトは震える自分を戒め足に力を込め飛ぼうとするが、
「やっぱり無理ですよ!こんなの。飛べっこありません!!」
戸惑うフェイトを見かねたネルはなにやら印を唱え始めた。
「なっ、何してるんですか?ネルさん。」
「フェイト、そこから離れてな。いくよ! 凍牙!!」
ネルは対岸に向けくないを投げはなった。川の表面すれすれを水平に飛んでいく。
湿度100%の大気が絶対零度によって凝結させられていった。
「これは…?」
フェイトが見た先には氷の橋が出来上がった。常識では考えられない発想だった。
しかしそれをいとも簡単にやってのける彼女の方が凄かった。流石はクリムゾンブレイドといったところか。
「これで渡れるだろう?さあ、先に進むよ。」
フェイトは氷で足を滑らさないように先に進むネルを追っていった。
「まいったなぁ…。」
フェイト達の目の前には大きな分岐点があった。今まで分かれ道というのは幾度となくあったが
地図があったので迷うことは無かったが、
「ふぅー、なんでちょうど分岐のところで地図が切れてんだい。まったく手抜きなもんだねぇ。」
「仕方ありませんね。別々に進みましょう。迷路というのは壁沿いに進めば確実にゴールに着きます。
そうすればいつかは合流できますよ。」
「そうだね、そうしよう。」
そうしてフェイトは右の、ネルは左の穴に飲まれていった。
「ココは…?」
ネルは広い空間に出た。今までのずぼらなでこぼこ道とは違い、丁寧に一面一面が真っ平らだった。
その空間には魔物の姿が無ければ先へ進む道も無かった。
「はずれか…。仕方ない、引き戻すとするか…。」
部屋の中央に来て何も無いのを確認するとネルは今来た道を戻ろうとした。
[キシャァァァァァー!!!]
「なっ、なんだい!?」
不意を突かれたネルを尻目に天井から魔物が降って来た。蜘蛛が巨大化したような異形。その口には
懺猛な牙が見え隠れする。
[シャァァァアー!!]
蜘蛛?は一歩一歩前進を始めた。しかしネルはやけに落ち着いている。
「ふぅっ、まさかこんな奴だったとはね…、これならフェイトを連れた来た意味がないね。」
ネルはゆっくりとダガーを構える。
「さっさと終わらせてもらうよ。連れが待ってるんでね…。」
飛び掛ってくる蜘蛛をひらりとかわしそのダガーで足を一本切り落とした。
[ギシャァァァー!!]
蜘蛛の足が切られた部分からは緑の血が絶え間なく噴出している。
怒り狂った蜘蛛はネルに向かって突撃してきた。
「これ以上愛剣を汚したくないね…。黒鷹旋!!」
ネルが投げつけた大刀が蜘蛛の足をもう四本なぎ払っていった。
足の半分を失った蜘蛛は叫びを上げながらその場に倒れた。
「終わりにするよ!風陣!!」
風をまとい今度はネルが蜘蛛に突撃していった。
あと一歩、踏み込めれば蜘蛛を切り刻めたであろう。しかし
「あっ…。」
ネルはバランスを崩しその場に倒れこんだ。
今になってネルの体に痺れがよみがえってきた。
「クソ…、こんなときに…。」
ふと、ネルは背後に殺気を感じた。
「しっ、しま…」
[シャッハァァァー!!]
「あぁぁっ!!」
蜘蛛が振り下ろした鉤爪がネルの腕と足を引き裂いた。ネルの右脹脛がばっくりとえぐられた。
流石にこれでは歩けなくなってしまった。ヒールを唱えようものにもそんな時間は与えてくれないだろう。
それより何より利き腕がやられ武器を持つことすら出来なくなった事が一番痛かった。
「くそっ、私としたことが…。ごめんよフェイト。結局足を引っ張ったのは自分だったみたいだ…。」
ネルは自分の人生の終わりを認め目を閉じ死を待った。
蜘蛛もとどめとばかりに心の臓めがけ爪を振り下ろした。
その刹那
「ブレード・リアクター!!!」
閃光のような叫びと共に激しい剣撃が蜘蛛を捕らえる。絶叫と共に蜘蛛は腹ばいになりその場に倒れた。
ネルが眼を開けたときには既に蜘蛛の姿は無く代わりに剣に付いた血を振るい落とすフェイトの姿があった。
「フェ、フェイト…、何であんたが…、ココにいるんだい…?」
突如現れたフェイトにネルは驚きと喜びが隠せなかった。
「自分が進んだ道が行き止まりだったもので引き返してきたんですが…急いで正解でしたね。」
「ああ、大正解だったよ。…すまないね…、また迷惑かけてしまったね…。」
ネルが俯いたまま謝る。
「そんな、あなたが無事ならそれで良いですよ。それより、ひどい怪我じゃないですか!急いで直さないと…。」
傷口を見たフェイトの顔は青くなりすぐさま鞄の中をあさり始めた。
「…大丈夫だよ…これぐらい、自分で…治せるよ。………ヒール!」
ネルの得意の施術で傷口は見る見るうちに閉じていった。
「ふぅ、これでもう大丈夫。心配かけたね。」
傷口をふさぎネルが立ち上がった。
「さて、もう行くとしようか。これ以上長居も無用だろう。」
「そうですね。行きましょう。」
フェイトとネルはその場をあとにした。しかし二人は気付いていなかった。
まだあの魔物にとどめをさせていなかったことを…。
二人は地下水脈の場所まで戻ってきた。案の定氷の橋は残っており川を跳んで渡ることはしなくても済む、
とフェイトは安堵のため息を漏らす。
「…どっちから行きます?」
「…あんたから行けば良いさ。」
「…すみませんね。」
こうしてフェイトから渡る事にした。
フェイトがあと一歩で対岸につく頃だった。
「ネルさん。着きました……っネルさん!危ない!!!」
振り向いたフェイトが見た物は先ほど倒したはずの蜘蛛がネルの背後に近づいているという状況だった。
「え…?」
ネルが振り向けど時既に遅し。背後では既に蜘蛛が鍵爪を振りかざしていた。フェイトが駆け出すも
間に合う状況ではなかった。ネルがダガーを構えようとするも間に合う状況ではなかった。
「くっ、っぁあ?」
これも不幸中の幸いか。武器を構えようとしたネルは氷に足を滑らせ間一髪蜘蛛の攻撃をかわした。
しかしそれも喜べる状況ではなかった。足を取られたネルはそのまま激流へと飲み込まれていった。
「ああああぁぁぁ!」
「ネルさーん!!」
遠ざかっていくネルの叫び声。
「くそ!うざいんだよおまえ!!ショットガン・ボルト!!」
この一撃が命中し断末魔の叫び声をあげながら倒れ行く蜘蛛を尻目にフェイトはすぐさま地下水脈へと飛び込んだ。
「んっ……ここは?」
ネルが目を覚ました。とりあえずあたりを見回してみた。どうやらどこかの洞窟のようだ。
「あっ、気が付きましたか。」
隣ではフェイトが焚き火を燃やしていた。まだ上手く状況が理解できないネルはしばらくの間呆けていた。
「大変だったんですよ、あれから。川から出るのもきつかったけど薪を集めるのがまた……」
フェイトの言葉でネルは全て思い出した。
「そうか、私はあの時足を滑らせて…。そういえば、あの蜘蛛はどうしたんだい?」
「ああ、あれでしたら僕が仕留めておきました。」
「…そうかい…。」
ネルはつくづく自分がフェイトに迷惑かけてるな、と思い、心を重くする。
「どうしたんですか?もっと火に近づかないと風邪引きますよ。それに服も乾いてないみたいだし。
自分の分は乾かしたんだけど、流石に女性のは…。」
フェイトの発言でやっと自分の服がびしょ濡れだと気付いたネルは焚き火に強く当たるようにした。
焚き火はパチパチと音を立てて燃えている。フェイトは火を消さないように番をしていた。
「…すまなかったね。私がドジん無ければ今頃はアリアスに着いていただろうに…。」
フェイトは顔をあげた。
「そういう事言うのは無しにしましょう?自分がネルさんの立場だとしても多分こうなっていたでしょう。
だからあなたが謝ることはありませんよ。」
ネルはなぜこの男はいつもこうなのだろう?と思う一方、このフェイトの優しさが胸に響いていた。
「そろそろ寝たほうが良いですよ。つかれてるでしょう?」
「フェイトは寝ないのかい?」
「火の番がありますから。」
「そうかい、じゃあ私も起きてるよ。」
「そうですか…。」
同じようなやり取りがいつまでも続く。
時は流れる。どれくらいの時間がたっただろう。濡れていた服もすっかり乾いていた。
フェイトは残り少ない薪で火を消さないようやりくりしていた。
「フェイト。」
「なんですか?」
「あっ、なんでもない…。」
「そうですか…。」
一体いくらこの会話を繰り返したのだろう。何か言おうとしてもフェイトの顔をみれば言うのをためらってしまう。
『何考えてるんだろう、クレアのことかな…?』
ネルの頭の中に昨日のやり取りが思い出される。クレアの話を持ち出したとたんに慌てたフェイト。
その姿をみれば誰もが何かあったのだろうと思うであろう。しかしあの時ネルの中ではそれを否定したい、
という感情でいっぱいだった。なぜかは自分でも理解できなかったがその答えがおぼろげながら見えてきた。
「フェイト。」
「なんですか?」
「ちょっと話し聞いてもらって言いかい?」
「いいですよ。」
ネルは勝負に出た。
「私、さっき死にそうになったとき、本気でダメだ、と思ったんだ。」
フェイトは黙ったまま聞いている。
「そして自分の死を自認して目をつぶったら、ちょうどあんたが現れた…。」
「…あの時は危なかったですね…。」
「うん、あの時は本当に嬉しかったよ。自分が助かったことじゃなくて…あんたが来てくれた事が…。」
「えっ?」
ネルは続ける。
「多分あの時、あの場所にクリフが駆けつけた、としてもあまり嬉しくなかったと思う。ファリンやタイネーブ、
クレアが来たとしても…。フェイトじゃなきゃ駄目だったのさ…。」
「ネルさん…。」
ネルがフェイトの側によってきた。
「フェイト…私を抱いておくれ…。」
「えっ!?」
ネルの突然の発言に驚きを隠せない。
「嫌なのかい…?」
「いや、その、嫌っていうわけじゃ…。」
「クレアのことは…抱いたんだろ?」
ネルが核心に迫った。
「えっ、な、何の話ですか?」
「隠さなくてもいいんだよ…。別に咎めてる訳じゃないから…。ただ…知りたいだけ…。最近のあの子、
何だか妙によそよそしいからさ…。あんたの話にも敏感に反応するし…。」
彼女には隠すだけ無駄だろう、と思ったフェイトはフェイトは全て話すことにした。
「…はい、あなたの言うとおりです…。彼女が…あまりにも寂しそうだから…。」
「そうだったのかい…。で結局フェイトはあの子が好きなのかい?」
「えっ?」
フェイトはしばらく考え込んだ。行為の最中は好きという気持ちを確かに感じているのだが、いざ
こうして訊ねられるとどうにも考えが揺らいでしまった。
「それは…。」
フェイトは答えるのをためらった。
「そうかい…。ならもう一度言うよ。…私を抱いておくれ。」
ネルがフェイトに体を摺り寄せる。
「抱いてくれって…どうしたんですかネルさん、何かおかしいですよ。それにさっきの話と何も関係が…」
「おかしくなんか無いさ…。ただ…そう見えるだけ。」
「どういうことですか?」
フェイトは首を傾げた。
「今まであんたが見てた私はシーハーツの戦士、クリムゾンブレイドのネル・ゼルファー…。
任務のために感情を押し殺す女さ…。でも今あんたの前にいるのはただの一人の女…。
感情を押し殺す必要も無いさ…。」
「それって…?」
「…私は…フェイトのことが好きなんだよ!!」
フェイトは開いた口が閉まらなくなった。
「実際のところクレアもあんたのことが好きなのさ…。あんたを見るたびにあの子の眼は女の眼になっていってた。
私も親友の恋路を邪魔したくないからさ、今まで押し殺してきたんだと思う。この気持ちを…。さっき気付いたんだ…。
それで…あんたがクレアの事好きだってはっきりと言ったら身を引くつもりだった…。でもあんたはそれを言わなかった、
だから私も自分の気持ちに正直になれる。」
「ネルさん…。」
「私、ネル・ゼルファーはフェイト・ラインゴッドの事が好きだ。この気持ちに偽りは無い。
だから、できる事なら今私を抱いてほしい。」
ネルはいつに無く真剣な表情だった。その瞳には一つの信念を宿していた。そして何より、乱れていた。
「ネルさん…。」
フェイトは正直迷った。世間体はあまり重要視されなかったが何よりクレアの事が気にかかった。
もし自分がネルを抱いた、という事が知れたらなんと言われるだろう。そんな事ばかり考えていた。
「……わかった、諦めるよ…。あんたの頭の中にはクレアがいるんだね…。今の事は全部忘れておくれ…。」
ネルは不意に後ろを向き言い放った。
「いや、そういう訳じゃ…。」
「いいのさ、わかってる…。この前抱いてくれたのはやっぱりお遊びだったんだね…。
押し付けがましい真似して悪かったね…。」
ネルの背中はやけに寂しそうで、フェイトはいてもたってもいられなくなり後ろ向きのままのネルに飛びつくように抱きついた。
「押し付けがましいだなんてって酷いですね。僕はただ綺麗なあなたに見惚れてただけですよ?」
「フェイト、どうしたんだい?…無理しなくてもいいんだよ…。」
ネルは急に飛び付かれたものだから体をびくりと反応させる。
「無理なんかしてないですよ。あなたと同じく自分の気持ちに正直になっただけですよ。」
「フェイト…いいのかい?」
フェイトは黙ってうなづいた。
「…ありがとう。」
ネルの頬を一筋の涙が流れ落ちた。
フェイトはその体勢を保ったままネルの胸を揉み始めた。服の上からでもわかる綺麗なラインを添うようにして
丁寧にもんでいく。
「んっ、あっ、フェイトォ…。」
フェイトの手が動くたびにネルは甘い声を漏らす。
「ネルさん、服脱いでもらってもいいですか?あっ、体勢はこのままで。」
ネルは軽く頷き自分の服を脱ぎ始めた。ネルは裸になって初めて自分が座っていた場所の冷たさに気がついた。
服が脱ぎ終わった産まれたままの彼女をフェイトは後ろからめいっぱい愛撫した。
まずはネルの柔らかな胸をめいっぱい揉むことにした。
下から上へ、上から下へ、ラインに沿って手を動かしていく。
「あっ、フェイトォ、気持ちいいよ…。」
指に力を入れるたびにネルの口から快楽が漏れる。胸を揉んでいるうちに手のひらに当たる突起物に気付いたフェイトは
それもいじってみる事にした。
「ひゃっ、あっ、ふっ、いい…もっと、もっとつねっておくれ…。」
案の定ネルは感じてくれている。
「ネルさん、気持ちいいんですか?」
「あっ、うん…最高に…気持ち…あっ、ファ…いい…。」
こんな質問するだけ野暮だったかな、と思いながらフェイトの行為はエスカレートしていく。
フェイトはネルの股を大きく開くとその付け根ににある秘所へと手を差し伸べた。
「んっ…。」
触れただけでネルは反応する。感度は十分のようだ。
フェイトは自分の手を彼女の足に絡めながらネルの股をまさぐり始めた。
「んっ、ひゃ、あっ、いい、そこぉ…。」
手始めに人差し指と中指の二本を入れてみたがなかなかの好評のようだ。
「ネルさん、感じてるんですね?もっと気持ちよくしてあげますよ。」
フェイトは三本目の指を秘所に差し込んだ。
「あぁっ、いい、もっと、もっとちょうだい!」
頼まれたら断れない、とフェイトは今までゆっくり動かしていた指の速度を上げることにした。
三本の指がネルの秘所を掻き回す。 ジュブジュブ、といやらしい水音も聞こえてくる。
「いいっ!あっ、いいよぉ!フェイトの…フェイトの指が激しく動いてるぅ!!」
「そんなに…気持ちいいですか…?」
「ふぁあ、いいよ!フェイトの指!凄くいいよぉ!!」
ネルの股間からは激しく愛液が流れてくる。その量は留まる事を知らなかった。
「イクっ、イクよ!もっと…激しく!あっ、イクぅぅ…!」
…どうやらイってしまったらしい。秘所からは止まることなく液が流れている。
「イっちゃったんですか?ふふ、僕が綺麗にしてあげますよ。」
フェイトはネルを寝かせ甘い香りがほとばしる秘部に舌を潜り込ませる。
「背中冷たいかもしれませんが我慢してくださいね。」
確かに冷たいといえば冷たい。暗い岩地に素肌を当てれば誰でも冷たさに反応してしまうだろう。
しかしその刺激も今のネルには快楽以外の何者でもなかった。
「あぁ、フェイトォ、凄くいいよぉ…。もっといじっておくれぇ…。」
ネルの秘部からは甘い香り、甘い蜜、そして脳を壊していく甘い音が出ていた。
フェイトの舌が粒に当たるたびにネルは体を捩じらせるように反応する。
「あっ、フェイト!そこ…、そこつねって!」
フェイトはネルの要望に応えるためいったん舌を動かすのを止め右手の親指と人差し指で粒をつねり上げる。
「ひぐっ、あぁぁっ、いい!いいよ!また…またイっちゃう!」
ネルが限界に達そうとした頃を見計らってフェイトは刺激するのを止めた。
「…どうしてやめるんだい…?」
「ネルさんばかりイクなんてずるいですよ。僕にも少しはイかせてくださいよ。」
そう言うとフェイトはネルを四つん這いにさせ太ももに見え隠れする秘所に自分の息子を差し込んだ。
「あぁぁ!!ッハァ…いい、いい、あっ!もっと、もっとフェイトを感じさせておくれ!!」
ネルは快楽に耐え切れず自ら腰を振り始めた。
「ふふ、こうすればもっと気持ちよくなりますよ。」
フェイトは自分の指に溢れ出てくる液をつけネルのアナルへと差し込んだ。
「ああっ!いい!おひり、おひりも感じるぅ!!」
ネルは前と後ろ両方から来る快楽に酔いしれていた。
「もう!っ、耐えられない!イク、イっちゃう!またイっちゃうぅ!!」
「ネルさん…イクんですか?なら僕も…中に出しますよ!!」
「出して!!私の中に!!フェイトのもの出してぇ!!」
「っあぁっ、出る!!」
「「ああああああああぁぁぁ…!」」
二人のタンパク質はとめどなく流れつづけた。
「フェイト、本当に良かったのかい?」
生まれたままの少女が訊ねてきた。
「いいんですよ、僕は自分に素直になっただけですから…。
それより、もう一回しましょうよ。夜が明けるまでもうしばらくあるでしょう?」
ネルが黙ったまま頷きフェイトの首に手を回し口づけする。
二人は尽きるまで愛し合った。
翌日
「お帰りなさい、心配したのよ。一日たっても帰ってこなかったから。」
アリアスの会議室でクレアが帰ってきた二人に魔物討伐の報告をさせる。
「それじゃあお疲れ様、フェイトさんはゆっくり休んでてください。
それよりネル!!」
クレアはネルをきっと見据えた。後ろではフェイトが部屋を去っていく音がする。
「フェイトさんの事…!」
フェイトが居なくなったので安心して話せる状況が出来た。
「フェイトがどうしたんだい?」
「とぼけないで!態度でわかるわ!」
ネルはフッっと鼻で笑ってみせる。
「その態度…やっぱり…。」
クレアの顔は見る見るうちに高潮していった。
「クレアだって抱かれたんだろう?お互い様じゃないか…。」
ネルがシレッとした口調で流した。
二人はしばらく考え込んだと思うと、
「フェイトさんは渡さないから!!」「フェイトの事は渡さないよ!!」
しばらく二人はきょとんとした。二人が同士に同じことを言ったものだから可笑しくなったのだろう。
会議室からは小一時間ばかり笑い声が響いた。
「へっくしょい!!…あれ、風邪かな…?」
フェイトの鼻からは鼻水が垂れている。
「うわっ、ばっちいもん見せんな!!ったく、風邪なら早く治しとけよ。万病の元って言うしな。」
クリフがティッシュを投げつけながら言った。
「う〜ん、川に落ちたからかな?とりあえず今日は寝るとするよ。」
こうしてフェイトは今日も寝るのであった。