プロローグ   
 
「こっちに逃げたぞ!!追えぇ!!」  
剣を持った男達が広い屋敷の庭を忙しなく駆け回る。  
警報音が鳴り響き、夜の闇を突き抜ける。  
「居たぞぉ!逃がすなぁ!!」  
一人の男が目標を発見する。  
物見やぐらから放たれる強い光が煉瓦造りの壁に目標のシルエットを映し出している。  
逃げる獲物に追う狩人。この物達の速さ比べは長く続いていたが、  
獲物が袋小路に追い込められ、お開きとなった。  
 
「絶体絶命って奴かい?」  
と、紅髪の女。  
「そうね…と言いたい所だけど、こんなの其の内に入らないわよ」  
銀髪の女性が諭す。  
「分かってるよ、そんな事…ひぃふぅみぃ……ざっと三十って所かな?  
 確かにこんなんじゃ足りないねぇ。行くよ!クレア!!」  
「ええ!すぐに終わらせてあげましょ、ネル」  
二人は武器を構え敵陣に突っ込んでいく。  
「ひるむな!!相手はたった二人だぁ!!」  
隊長と思われる男が怒声を響かせる。と、  
「たった二人?あんた…何か勘違いしてないかい?」  
「そうね…お馬鹿さん。私達の場合は一足す一が幾らにでもなるのよ」  
二人の獲物が男を捕らえた。  
男は体に刻まれた傷跡から血を吹き出し、その場に倒れた。  
 
「た、隊長ぉぉ!!??」  
指導者が居なくなった兵隊の結束力は弱い。  
バラバラになった兵が幾ら集まってきた所で二人の相手にはならない。  
「こんな奴らにてこずってると思われるのも勺だしね…クレアは手を出さないでおくれ」  
「わかったわ」  
クレアは武器を収め、高く飛び上がり、向かいの建物の天井へと飛んでいった。  
「お、女一人だ…。今なら殺れるぜぇ!!!」  
男どものボルテージが急上昇して行った。  
数の上では一対三十と圧倒的有利。だが、  
「下衆だね…あんたらとは一秒でも同じ空気を吸っていたくないよ。  
 せめて…風に刻まれる事だ!!」  
ネルの周りには風刀が発生し、男達に悲鳴を上げさせる間も与えず、切り刻んだ。  
「ふぅ…弱すぎる…こんなんで警備兵とは…笑わせてくれるね」  
ネルは上から眺めているクレアに合図を送り、この空間から飛び出した。  
 
「今回は任務失敗か…」  
4,5mある壁を乗り越えながらネルがぼやく。  
「う〜ん、逃げられているとは思わなかったわね」  
壁の上から地面に飛び降りながらクレアが言った。  
そもそも今回この二人が敵の屋敷へ侵入したのは、シーハーツに害を成す国の要人の暗殺という  
任務の下だった。  
しかし、ターゲットであった男はすでに逃走を図った後であり、屋敷には大量の罠が待つだけであった。  
「「でも…人を殺す仕事は割に合わないなぁ」」  
二人はお互いに聞こえないぐらい小さな声で呟きあった。  
 
帰り道、何も無い草原を二人は走っている。  
空に浮かぶ月は、二人の進む道を優しく照らしている。  
すると、彼方に道の真ん中で仁王立ちしている人の影が見えてきた。  
「! 誰か居るね…」  
「そのようね…。敵じゃなければ良いんだけど」  
二人はその人影の十メートル手前で止まった。  
「お前ら…クレア=ラーズバードに、ネル=ゼルファーだな?」  
フードを被った人影から、男の声がしてきた。  
「認識されてるようね」  
「…だったら何だってんだい?私達と殺りあおうって腹かい?」  
二人は腰に手を回し、臨戦体制を取った。  
「そんな気はないが…、君達の後ろを見てみな」  
そう言われ、クレアは後ろを向いた。すると、  
「やぁ、クレアさん。こんばんわ」  
「よぉ!こんな遅くに会うとは、奇遇だな」  
「な…フェイトさんにクリフさん…何でこんな所に…?」  
クレアは事態を上手く飲み込めなかった。  
こんな所にこの二人が居る訳無い、が、今目の前には確かに存在している。  
クレアは驚きを隠せなかった。  
そして、正面を見据えているネルの眼には、  
「ふん…どうした?この俺様と殺りあおうってか?  
良い度胸だ、紅髪のクリムゾンブレイド」  
「ア、アルベル!?なんで貴様がこんな所に居るんだい!?」  
ネルはダガーを構え、目の前に立ち尽くすアルベルを見据えている。  
「ネ…ネル、これは…どういう事…?」  
「さあね…私が聞きたいぐらいだよ…」  
二人は背中合わせになり、武器を構える。  
 
「そんな物騒な物はしまって下さいよ。僕達だって丸腰でしょ?」  
フェイトは手を上に上げ、安全なことをアピールする。  
「……なんであんたらがこんなとこに居るんだい?」  
ジリジリと迫ってくる三人に、ネルとクレアは気を集中させる。  
「別に良いじゃねぇかそんな事。それより、俺達だけに集中してて良いのか?」  
クリフの言葉にハッとさせられた時、既に時は遅かった。  
「もっと周りにも気を配っとくべきだったな、クリムゾンブレイドよ」  
男は二人の鼻に何かの薬品が染み込んでいる布を押し当て、眠らせた。  
横たわるネルとクレアを足で突付き、  
「眠ったか…。よし、運ぶぞ」  
フェイトはクレアを、クリフはネルをそれぞれ担ぎ上げ、男の後をついて行った。 

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