「アホですね〜。全くもって大バカなのですよ」  
エヴィアがを白目を剥いて横たわっているベッドの隣で、アクアが呟いた。  
「…やりすぎじゃないのかなぁ…?」  
後ろでフェイトが作り笑いしながら言った。  
「こんなクソヤローに情けは無用なのです」  
「……」  
 
時は少し遡る  
「風邪…かい?」  
「そうなのです」  
ここは王都アーリグリフにあるファクトリー。  
そこにあるクリエイター専用居住スペースである。  
部屋の窓枠の外側には雪が載っていた。  
屋根の上に積もった雪が一見脆い造りの家を軋ませる。  
暖炉の火が音を立てて燃えていた。  
その火が壁に映し出したのは一人の青年と一人の少女、そして息絶え絶えの一人の大人。  
 
事の始まりはウェルチの一言だった。  
『アーリグリフへ飛んで下さい』  
テレグラフの中のウェルチは何時もと変わらず営業スマイルだった。  
正直それを聞いた時、フェイトはハァ?と思った。  
特別断る理由も無かったが、理由も聞かずに遠出させられるのには抵抗があった。  
仲間は明らかにダルそうな顔をして、フェイトに『一人で行け』と視線信号を送っていた。  
「何故でしょうか?」  
フェイトの質問にテレグラフの中のウェルチは意味深な笑みを浮かべた。  
『まぁ…どうでも良いじゃないですかぁ!』  
 
「理由も聞かずに行けるほど僕も暇じゃありません」  
とは言うものの、既に日は落ちており、あとは夕食を食べて寝るだけだった。  
今の状況を一言で表せば、『面倒』でしかないのだ。  
『駄目…ですか?』  
「理由さえ教えてくれれば」  
『どうしても…ですか?』  
「ええ」  
『……今度サービスしますよ』  
(0,2秒経過)  
「わかりました」  
と一言だけ返事を返し、フェイトは一晩を過ごすはずだった宿屋を後にした。  
 
「男の性なのかなぁ…?」  
フェイトは人気の無い、見渡す限り闇の草原を、溜息をつきながら横断していた。  
その足元はおぼつかなく、走る気力など皆無だった。  
「流石に夕食抜きだったからなぁ…」  
今更になって、先の軽はずみな発言を後悔した。  
『今頃クリフは酒飲んで酔っ払ってネルにでも絡んでるんだろうなぁ…』等と  
考えながら一人寂しく歩き続けた。  
 
日付が変わった頃、フェイトはアーリグリフに着いた。  
 
正直な所、アリアスで一晩明かしたかったところだが、  
「クレア様なら居ませんが」  
「クレア様なら居ないですぅ〜」  
アリアスに到着し、屋敷に泊めてもらおうとドアを開けた瞬間に、  
タイネーブとファリンの噛合わないハーモニーが聞こえて来た。  
フェイトはしばらく頭をフル回転させた後、「偶々通りかかっただけですから」と  
注釈をいれて、しぶしぶアリアスを後にしていた。  
 
「そういえば…何処に行けば良いんだ?」  
アーリグリフに行け。  
それしか聞かされていなかったフェイトは、具体的な目的地を訪ねるため、テレグラフを開いた。  
画面の中でウェルチとギルドマスターが喧嘩していた。  
まぁ何時もの事だ、と割り切って、事の成り行きを見守る事にした。  
ウェルチの右腕が繰り出したパンチが、コークスクリュー気味にギルドマスターの顔面に  
ヒットした時、既にフェイトの肩には数センチの雪が積もっていた。  
 
『お待たせしましたぁ〜』  
先の争いの後、通信が一時強制終了された。次に画面が映った時にはいつもと何ら変わりない  
様子でウェルチが立っていた。右頬に血の痕が見えるのは気のせいだろう。  
「で、何処に行けば良いんですか?」  
フェイトは寒さしのぎのために、宿屋に避難して、暖炉の火に当たっていた。  
『そのままファクトリーに向かって下さい』  
そこで何をすれば良いのか?  
フェイトがそう聞こうとした時、ギルドマスターの怒声と共に再び画面がプツンと音を立てて消えた。 

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