茜色に染まる空・・・。  
鳥たちの羽ばたく音がしずかに響き渡る。  
「ふん、ガラでもねえ」  
自分の家、カルサア修練所の闘技場の柱に寄りかかりながら、  
空を仰いでいたアルベルが自分を笑うようにつぶやく。  
「ここにいたのかい?」  
すたっと彼の目の前に、ネルが現れた。  
「何のようだ」  
アルベルがめんどくさそうに尋ねる。  
「あんたが私の部下を救ったって聞いてね」  
ネルが憎いはずの相手に感謝しなければならなくなり、  
複雑な表情をしていた。  
「・・・誰から聞いた」  
「他のだれでもない、本人達からさ」  
「ちっ、あの阿呆どもが」  
アルベルが舌打ちをしたが、その表情は照れているようにもネルには移った。  
 
星の船騒動のあと、アーリグリフ・シーハーツ間で同盟が結ばれた。  
しかし、アーリグリフのヴォックス派とよばれる連中がいまだに各地で  
和平反対の抗議を武力で行っていた。  
そして、カルサア修練所でも一つのグループが抵抗していた。  
「それじゃあ、ネル様。私たちが先にカルサア修練所を撹乱してきますので」  
「わかった。二人とも、ヘマするんじゃないよ」  
「はぁい。ネル様に心配させませぇん」  
封魔団『闇』。シーハーツの中でもクリムゾンブレイドと呼ばれるネルが率いる  
精鋭部隊。敵の本拠地を突き止めたシーハーツは、彼女達にそこの壊滅を命じた。 
 
「よし、またあとでな」  
「はっ」  
「はぁい」  
ネルがもっとも信頼する部下、タイネーブとファリンが姿を消した。  
今回の殲滅作戦はこうだ。  
タイネーブとファリンのゴールデンコンビが先に敵を撹乱し、  
ネルがその隙に敵の頭を取る。そして、クレア率いる本体が残った敵を殲滅する。  
一見完璧に見えた作戦も、思わぬミスが生じた。  
「し、しまった!!」  
「タ、タイネーブぅ、囲まれたですぅ・・・」  
敵の守備兵を引き付けていた二人は、袋小路に逃げてしまい、  
あっという間にピンチに陥った。  
「このアマァ〜。よくも俺達をコケにしたなぁ〜?」  
「しかし、それもここまでよ!この借りは十分体で返してもらうぜぇ〜?」  
敵の兵士達が下卑た笑いを浮かべる。  
「ど、どうするファリン?」  
「な、なんで私に聞くんですかぁ?」  
「こういうのは頭のいいあなたの出番でしょ!」  
「あ、あぅ〜ごめんなさぁい。わからないですぅ〜」  
自分達がものすごくやばい状況に陥ったことが彼らの言葉からなんとなく分かり、  
あせる二人。  
「へへへ、俺はあのおっぱいでかいほうな」  
「じゃあ、俺はあっちの金髪なぁ〜」  
「おいおい!俺にもヤラせろよ?」  
男達は、まな板の上の魚のような少女達をどうやって料理するかを話しながら、  
ジリジリと近づいていく。  
「もうだめですぅ〜」  
「ああ、ネル様・・・」  
二人は覚悟を決めた。  
 
そのときである。  
「おい!貴様らそこでなにをしている」  
突如、男達の後方から別の男の声が聞こえた。  
「だれだ〜?これからイイところなのによ〜?」  
男達がいっせいに機嫌悪そうに振り返る。  
しかし、その姿を見て驚いてしまった。  
「ア、ア、ア、ア、ア、アルベル様!!」  
「ふん。ウルザ溶岩洞からひさしぶりに帰ってみれば、  
 この糞虫どもが。人の家で何をしてやがる」  
今度はアルベルが機嫌悪そうに言うと、剣を抜いた。  
「ひいぃぃいいい!そ、そうだ、アルベル様もどうです?」  
「ほう、何をだ?」  
「この女達をこれからみんなで犯そうと思っているんですが・・・。  
 あ、もちろんアルベル様が最初に味わっていいですから」  
男達の間から見慣れた女の姿が見える。たしか一度自分がボロクソに負かせた女達だ。  
「ふん、なんだ。女というのはあのときの糞虫か」  
「く、糞虫とはなんだ!」  
「そ、そうですぅ!私たちにはぁ、タイネーブとファリンという名前があるですぅ」  
「阿呆。そんなことにいちいち腹を立てるんじゃねえ。  
 ・・・で、コイツラをどうするだって?」  
「いや、だからその・・・みんなで廻しちまおうかと・・・」  
シャキン!という鋭い音とともに、アルベルの剣が閃光のように走る。  
さっきまで話していた男の首が無残にも転がった。  
「糞虫が。人の家で集団レイプだぁ?お目出度いやつだ」  
男達は、震えながらも剣を構える。  
「く、いくらアルベル様とはいえ、仲間の仇だ!」  
「おう!」  
いっせいにアルベルに男達が襲い掛かるが、  
アルベルが目にも見えない速度で、男達の中をすり抜ける。  
「所詮いくら束になって掛かってこようと、糞虫は糞虫なんだよ」  
剣を収めると、男達がいくつにも切り刻まれていった。 
 
「あ、ありがとう」  
「た、助かりましたぁ」  
意外な人物に危機を救われ、礼を言う二人。  
「ふん。俺はただ、自分の家で勝手に住み着いて暴れているやつがムカついただけさ」  
アルベルが悪態をつくと、タイネーブがムっとなる。  
「あ、あなたねぇ!なんなのよ、その態度は!!」  
「お、落ち着くですぅ!アルベルさんもぉ、素直になれないだけですよぉ〜」  
ファリンが今にも飛び掛っていきそうなタイネーブを抑える。  
「ファリンに免じて許すけど、あんたなんて、ネル様の敵じゃないんだから!」  
「あ〜もう、タイネーブやめるですぅ〜」  
ファリンがアルベルに頭を下げると、ぎゃーぎゃーわめくタイネーブを引きずっていった。  
「ふ、にぎやかなやつらだ」  
アルベルの頭の中に、短い間とはいえ、自分と組んだ連中が浮かんだ。  
(あんな腕の立つやつはなかなかいなかったな。また戦いたいものだ)  
アルベルはかすかに笑うと、その部屋を出て行った。  
そして、ネルがその後、ここの部隊の頭を倒し、ファリンとタイネーブと  
再開し、事情を聞いたのであった。  
 
「あの子達があんたに感謝してるって言ってたよ」  
「ふん。礼など欲しくてやったんじゃねぇ。  
 あいつらが気に食わなかっただけだ」  
ネルがため息をつく。  
「ま、そういうことにしといてやるよ。  
 ・・・ともかく、今日だけはあんたに素直に感謝するよ。じゃあな」  
ネルが立ち去ろうとすると、  
 
ひゅっ!!  
「う!!」  
ネルの首筋に針のような物が飛んできた。  
とたんネルの力が抜け、彼女はひざをつく。  
「く!これは・・・痺れ薬」  
アルベルが剣を抜く。  
「くくく、ここですよ」  
ネルの背後に男が現れ、ネルの腕を動けないように掴む。  
「貴様は、隠密のクライヴ!もと、ヴォックスのスパイが何故ここにいる!」  
アルベルが抜いた剣を構える。  
「なぜと申されましても、私がここにいた部隊の隊長なのですがね?」  
「何?」  
「く、じゃあ・・・玉座にいたのは・・・」  
アルベルとネルの額から汗が流れる。  
「ああ、私の部下のライエルですか。彼には悪いことをしました」  
言葉とは裏腹に男は笑っていた。  
 
隠密のクライヴ。ヴォックスの熱狂的な信者であり、諜報を主に生業とするが、  
暗殺術にかけては一級で、シーハーツの要人を何人か暗殺している。  
「まさか貴様が生きていたとはな・・・久々に楽しめそうだ」  
アルベルは久々に強者に会えて、喜んだが、  
「何を言っているんですか、あなたは?  
 これから始まるのは私のワンマンショーですよ?」  
男がアルベルを相手にしないような笑いを浮かべる。  
「ほう、たいした自信だな。貴様がこの俺に勝てるというのか?」  
「いやいや、私の腕ではあなた様は討ち取れないでしょうなぁ・・・」  
アルベルが眉間にしわを寄せる。  
「貴様・・・ふざけているのか?」  
「ふざけておりませんよ。でも、あなたはこの状況で動けますか?」  
ネルの首に短刀を突きつけた。  
「ちっ!」  
アルベルが舌打ちをする。  
(なせだ!なぜ俺は動けん!あんな女のために何故俺が動かない必要がなる!?)  
自分の体が言うことを聞かず、内心あせり始めたアルベル。  
「ほほほほほ。いいでしょう。そのまま、武器をしまってください」  
(やめろ!武器をしまうな!こんな糞虫なんて斬ればいいだろうが!)  
アルベルがやはり自分の意思とは裏腹に武器をしまう。  
「よしよし、ではこれから私がこの女を抱くまで、そのままでいてくださいね?」  
クライヴはにやっとわらうと、ネルの腕を縛り、  
そのまま後ろから彼女の胸に手を伸ばした。  
 
「うっ・・・」  
突如胸を揉まれ、思わず漏れそうになる声をネルはこらえる。  
「ほほほほほ。結構大きいですねぇ。  
 そんな体していたら男達がだまっていないでしょ?」  
「アルベル!私のことはいい。この男を斬るんだ!」  
しかし、アルベルはその場に動かず、唇をかみ締めている。  
(糞!あんな糞虫、今斬りかかれば確実に殺せるというのに)  
「無駄です。アルベル様もあなたが私に犯されるのが見たいみたいですよ」  
クライヴが、ネルの腰当てを外し、ネルの黒装束を上からゆっくりと刻んでいく。  
そして、腕が伸びきるところまで続けると、切れ目から手を侵入させ、  
直にその感触を確かめた。  
「あぁう!」  
「ほほほほほほ。いい声を出しますね・・・もっと出させてあげましょうか?」  
クライヴによるネルの陵辱が進んでいくたびに、  
アルベルは自分の奥底から熱いものがこみ上げてくるのを感じる。  
(なんだ、なんだこの気持ちは!!)  
ネルの嫌がる表情を見て、心の奥底が熱くなってくるのを感じた。  
「ふふふ。さてと、下のお口がどうなっているか、私が診断してあげましょう」  
クライヴがある程度ネルの胸を楽しむと、ネルの股間に手をすべらす。  
「そこは・・・!」  
ネルがクライヴに頼むような表情をする。  
「駄目だ。お前は私の肉奴隷と化すのです。拒否は許されません」  
「くぅ!!」  
覚悟を決めたネルが悔しさで涙を流した。  
そのとき、アルベルの中のある気持ちが彼を動かした。  
 
「さてと、ここはどれくらい濡れ・・・ぐぉ!」  
ネルの股間に意識を集中させていたクライヴの頭になにかがぶつかる。  
彼がぶつかったものを見ると、それはアルベルの剣が入った鞘であった。  
「アルベル様・・・下手な真似をするとこの女は殺す、といいましたよね?」  
さっきまでの顔と違い、目を殺人鬼のものに変え、  
クライヴが怒りの表情を浮かべる。  
しかし、それに対するアルベルの表情は相変わらず憎たらしいものであった。  
「そんな無抵抗な女、犯してもつまらんだろ?  
 どうだ、お前がこの俺様を殺せるかどうか試さんか?」  
「何を言っています?あなたには私は敵わない、そう言ったはずです。  
 悪いですが、私は勝てる戦いしか望まないのでね」  
クライブの眉間にしわがよるが、  
アルベルが鼻で笑う。  
「俺は何もしない。何かしようにも、剣はてめえに投げちまったからな」  
「ほう、では私に抵抗せずに殺されると?」  
「阿呆。貴様では俺様を殺せるわけがない。疲れたところを俺が殺るという  
 だけのことさ」  
クライヴは『阿呆』と言われ、カチンときた。  
「大した自信ですね。・・・わかりました。  
 その勝負、受けましょう」  
クライヴが間合いを詰め、アルベルの腹に膝蹴りをかます。  
「ぐはっ!」  
腹に強烈な痛みを感じ、アルベルがうずくまって胃の中のものを逆流させる。  
「ふん、偉そうに言っておきながら一発でこれですか?」  
続けざまに、今度はアルベルの脳天に廻し蹴りを放つ。  
「ぐぅ・・・」  
脳天が揺らぎ、思わず意識を失いそうになるアルベル。  
「やめろ!私のことはどうなってもいい!」  
ネルが叫ぶ。今すぐあのクライヴを殺してやりたいが、痺れ薬で動けない。  
 
「くくく、『歪みのアルベル』も女性の前では一人の男ですか・・・」  
アルベルの頭を踏みつけ、地面にすりつける。  
「俺は・・・別にあの女を助けたいんじゃ・・・ねえ・・・。  
 あの女には・・・借りがあるからな・・・俺様が最初に・・・犯すのさ。  
 ・・・さらに俺様は・・・貴様のひょろひょろした足で出される蹴りなぞ・・・  
 全然効いてねえ・・・ぜ・・」  
アルベルの口は相変わらず悪かったが、  
ネルにはそれが彼の精一杯の強がりにしか聞こえなかった。  
それを聞いたクライヴが、力いっぱいアルベルの頭を再び踏みつけた。  
アルベルの額がわれ、血が流れ出る。  
「貴様・・・いいかげんにしろ。もう我慢できねえ・・・。  
 大体俺はお前のそういう人を馬鹿にした態度が前から気に食わなかったんだ。  
 そんなに殺して欲しいなら望みどおり殺してやるよ」  
クライブの口調が乱暴になり、短刀を構える。  
アルベルは死を覚悟した。  
 
(ふん、このアルベル様とあろうものが、よもやこんな形で終わるとはな)  
アルベルが苦笑してその瞬間をまったが、  
一向にその短刀が振り下ろされる気配がなく、それどころか頭を踏みつける  
力もなくなったような気がした。  
アルベルが頭をあげようとすると、その男が崩れ落ちた。  
「これは・・・」  
まだ揺さぶられているような感じがする頭を押さえて立ち上がり、  
クライヴのほうを見ると、彼の頭にナイフが刺さっていた。  
「クレア!」  
ネルがそれを投げた人物の名前を叫ぶ。  
「間一髪ね」  
クレアは闘技場の入り口付近に立っており、クライヴが動かなくなったことが分かると、  
安堵の息を漏らす。  
「ネル、大丈夫?」  
クレアはポーチからバジルを取り出し、ネルに与える。  
ネルのからだからたちまち痺れが取れる。  
「ああ、私よりもアルベルが・・・」  
アルベルは額から大量の血を流しており、ふらふらとしていた。  
「ア、アルベルさん!」  
クレアが駆け寄ろうとすると、ネルが静止する。  
「すまない。今回ばかりはやつに命を救われた。  
 ここはあたしにやらせてくれ」  
「・・・わかったわ。敵も殲滅したし、一足先にアリアスに戻るわ」  
クレアが頷き、姿を消した。  
 
ネルがアルベルに向かって歩き出そうとすると、アルベルの体が傾いた。  
「まずい!」  
ネルが駆け寄り、地面スレスレで彼の体を抱きとめる。  
「大丈夫か!」  
ネルが呼びかける。  
「き・・・ま・・・じ・・・だった・・・」  
アルベルは何かしゃべろうとするが、うまく言葉にならなかった。  
「しゃべるんじゃないよ!今、治してやるから」  
ネルが印を結ぶ。手からまぶしい光が出される。  
「ヒーリング!」  
光がアルベルの体を優しく包み込んだ。  
彼の傷がふさがり、出血が止まる。  
しかし、アルベルはすでに大量の流血をしているので、まだ油断はできない。  
「しっかりしな。不本意だけど、あんたはあたしの恩人だ。  
 アリアスの村まで運んでやるからな」  
ネルが背中にアルベルを担ぐ。さすがにアルベルの体は重かったが、  
ネルはそれに耐えながら、グラナ丘陸を走った。  
(何も考えられねえ・・・眠い・・・阿呆みたいに疲れた・・・)  
ネルの背中におぶられながら、アルベルの意識が遠のいていった。 
 
(ここはどこだ?)  
アルベルが再び目覚めると、自分が腰巻一丁で、  
柔らかいベッドに寝かされていたことに気づいた。  
ガチャ。  
ドアが開き、銀髪のシーハーツの制服を着た女が入ってくる。  
「よかった。目が覚めたのですね」  
女がアルベルの様子を知ると、笑顔を見せた。  
(たしか、クレアとかいう名前だったな)  
アルベルがネルがそういう風に彼女を呼んでいたのを思い出した。  
あのとき、頭がふらついててよくわからなかったが、こうしてみると、  
かなりの美人であった。  
「女、ここはどこだ?」  
「シーハーツ領、アリアスの領主館です。アルベルさん」  
「・・・なぜ俺の名を?」  
「知っているも何も、あなたほどの人物を知らないと思いますか?  
 『アーリグリフの英雄アルベル』さん」  
クレアから出た自分の通称は『歪みの〜』でもなく、『元漆黒の〜』でもない  
ものであった。しかし、『アーリグリフの英雄』とは大それたものだ。  
「阿呆。俺様は英雄なんかじゃねえ。  
 現にお前らの仲間も大勢殺したし、捕虜にした女を犯したりもした」  
「それはあなたの部下が勝手にやったことでしょう?  
 部下の報告では、あなたは無駄な殺戮をせず、捕虜はむしろ解放していたという  
 報告が来てますよ」  
「ふん。おめでたいやつだ」  
アルベルの態度は相変わらずだが、クレアはなんだか彼がかわいくなりクスクス笑った。  
 
「そうだわ。ネルにこのことを知らせないと」  
クレアが踵を返す。  
「待て。あの女は呼ばなくていい。それに俺はもうでれ・・・う!!」  
なぜか、ネルに会いたくないという気持ちが働き、アルベルはここから去ろうとするが、  
体に激痛が走った。  
「あ、アルベルさん!・・・まだ動ける状態ではありません!  
 本当なら内臓が破裂していてもおかしくなかったんですよ?」  
クレアがあわてて彼に駆け寄り、ベッドに寝かせる。  
クライヴの蹴りがここまで効くとは・・・  
アルベルはつくづくあのときの行動を後悔した。  
「ファリン、タイネーブ。そこにいるんでしょ?」  
クレアが視線をドアに移すと、ドアが静かに開き、二人が申し訳なさそうに現れる。  
「あはは〜。ばれてました?」  
タイネーブがテレながら顔を掻く。  
「もぉう、ファリンはやめようと言ったのにぃ〜」  
ファリンは対照的にがっくりと肩を落としていた。  
「二人とも、覗きとは趣味が悪いわね。ネルに報告したらどうなるでしょうね?」  
「ああ〜!クレア様、それだけは!!」  
「そ、そ、そ、そうですぅ〜!私たちぃ、ネル様におしおきされますぅ!!」  
クレアの言葉を聞き、二人が慌てる。  
「冗談よ、冗談。二人ともアルベルさんが心配だったんでしょ?」  
クレアがまたクスクスと笑った。  
「いや、別に心配してたわけじゃ・・・ただ命の恩人だし・・・2度も・・・その」  
タイネーブは、ぶつぶつとなにか言っている。  
 
「もぅ、タイネーブ!素直じゃないですよぉ!昨日もファリンに内緒で、  
 アルベルさんの様子を見に来てたじゃないですかぁ?」  
「ば、馬鹿ファリン!余計なこと言わないでよ!  
 あなただって、一昨日こいつの下着代えてたじゃないか!」  
ファリンの言葉にタイネーブが赤くなる。  
「そうそう、それは立派な・・・って、タイネーブ!何を言わせるですぅ!」  
自分がみてしまったものを思い出し、ファリンも顔が赤くなった。  
「くくく、ははははははは!」  
二人のやり取りを見ていたアルベルが笑った。  
「ほ、ほらタイネーブのせいで笑われたですぅ」  
相方に肘でつつくファリン。  
「違うわ、あなたのせいよ」  
それをお返しするタイネーブ。  
「まったく、貴様らは正真正銘の阿呆だな。くくくく・・・」  
義手で顔を隠しながら、アルベルがまだ小さく笑っていた。  
クレアも笑っていたが、それが収まると彼女達に言った。  
「ネルを呼んできてもらえるかしら?アルベルさんが目を覚ましたって」  
「はっ!」  
「はぁい」  
二人はまだ顔を赤くしながらも、敬礼すると、部屋を出て行った。  
 
「・・・何故、あの女に会わせたがる」  
めんそくさそうに、アルベルがクレアに尋ねる。  
「ネルが一番あなたを心配して、ずっと看病していたんですよ。  
 3日も寝ないでね」  
「3日?」  
そういえば、さっきの漫才コンビも昨日とか一昨日とか話していたな、  
とアルベルは思い出した。  
「ええ。あなたは今日まで3日間、目を覚まさなかったのよ。  
 その間、私たちも手伝いはしたけど、ずっと彼女があなたに付き添って、  
 看病を続けていたんですよ」  
「・・・」  
アルベルはそれを聞くと黙ってしまった。  
(あの阿呆。俺を憎んでいたはずなのにな)  
 
「クレア、来たよ」  
扉が開き、アルベルも見慣れた人物、ネルが入ってきた。  
「来たわね、ネル」  
クレアが笑顔で出迎える。  
「本当だ。目を覚ましているね。あのまま目覚めなくてもよかったのに」  
ネルはアルベルの様子が分かると、本当にアルベルを看病したのか  
わからないような態度をとった。  
「ふん。悪かったな」  
アルベルもそんなネルに冷たい視線を送る。  
クレアは気まずい雰囲気の中、困惑していたが、手に持っていたタオルを見て閃いた。  
 
「ネル」  
ネルの手をとり、タオルを渡す。  
「クレア、なんだいこれは?」  
「私、仕事思い出したから、これでアルベルさんの体を拭いてあげて」  
それを聞いたネルが顔を赤くさせてどぎまぎしている。  
「な、なんで私が!!・・・あ、ファリンとタイネーブに任せなよ」  
「残念。二人も私の手伝いをさせるから。あ、他の人もだめよ。  
 みんな町の復旧作業で忙しいから」  
クレアがネルに押し付けるようにいうと、ドアに向かって歩く。  
「喧嘩しないでくださいね」  
二人に向かってウィンクをすると、クレアが部屋を出て行った。  
「・・・」  
「・・・」  
取り残された二人に沈黙が流れる。  
「しょ、しょうがないねぇ。体拭いてあげるよ」  
ネルが照れくさそうに視線を逸らしながら言った。  
「・・・勝手にしろ」  
アルベルは無関心そうにいったが、なんとなくその表情はネルと同じく、  
照れくさそうだった。  
 
アルベルの体をゆっくりと起こし、背中を拭くネル。  
体を拭く音だけが部屋の中でしていた。  
「・・・おい」  
アルベルが沈黙をやぶった。  
「なんだい?」  
「お前、3日も俺の面倒を見たそうだな。・・・物好きなヤツだ」  
アルベルが苦笑してそう言った。  
相変わらず口は悪いが、ネルにはそれが心地よく聞こえた。  
「それはお互い様だろ?あんたもなぜあのときあんな真似をしたんだい?」  
口では、クライヴが弱いからだのなんだの言っていたが、  
明らかに自分の身代わりになったとしか思えない彼の行動。  
「・・・」  
アルベルが何も答えない。  
ネルがアルベルの顔を見る。  
クライヴにわられた額には、おそらく消えないであろう傷跡が残されていた。  
「あんた、私の身代わりになってくれたんだろ?・・・すまないね。  
 でなければこの傷がつくこともなかったろうに・・・」  
ネルが今までとは違い、優しい口調でその傷跡を拭く。もちろんそれで傷跡が  
消えるわけではないが、ただ、こうしたかったのである。  
アルベルがその手をとると、ネルをベッドに押し倒した。  
アルベルの体に痛みが走ったが、アルベルはそれをこらえた。  
 
「ちょ、何をする!!」  
ネルが慌てる。  
「ふん。俺様がお前をかばっただと?めでたいやつだ。  
 言ったろ?お前を最初に犯すのは俺様だと」  
しかし、ネルは抵抗しなかった。  
「・・・いいよ。好きにしな」  
「何?」  
「あの時、あんたがいなければどの道アイツに犯されていたさ。  
 どっちにしても犯されるのなら、あんたに抱かれるさ」  
ネルは覚悟のようなセリフを言ったが、表情は真っ赤だった。  
「・・・どうなってもしらんぞ」  
アルベルの中に、この女がどうしても欲しいという感情がわきあがり、  
体に走る痛みを忘れ、ネルの服を義手の爪で裂いていった。 
 
「ほう、綺麗な色をしている」  
真っ裸にしたネルの胸のふくらみの頂上をみて、アルベルがため息を漏らす。  
「まさかあんたに見られるとは思いもしなかったね」  
ネルが最初カルサア修練所でアルベルと遭遇したときのことを思い出し、苦笑する。  
「阿呆。ならば抵抗すればいいだけだろうが。今の俺様は手負いだ。  
 たとえ貴様であろうと、討ち取れるのは簡単なはずだろう?」  
アルベルがその先端に口をつけ、舌で軽く噛む。  
「あくぅ・・・!」  
痛いのか気持ちいいのかわからない声を、ネルがあげる。  
「残念だけど、弱った相手をいたぶる趣味は持ち合わせてないのさ」  
それを言ったネルの目が泳いだ。  
「・・・お前は阿呆だな」  
生身の腕で、ネルの顔と髪を撫でるアルベル。  
「ガラにもないことをするんだねえ」  
ネルが彼の行動に驚くと、  
「阿呆。これから俺様に犯され、泣き叫ぶお前の面がよく見たかっただけさ」  
とアルベルは返す。だが、撫でる彼の手つきが、それにしては気持ちよかった。  
「悪いけど、わたしは一筋縄ではいかないよ」  
「ふん。今のうちにせいぜいほざけ」  
生身の指をネルの体に沿うように走らせる。  
首筋・・・ほそいウエスト・・・太もも・・・。  
ネルは彼の指からぞくぞくっと感じたが、それは寒気ではなく、別の何かであった。  
そして指が炎のように赤い茂みにたどり着く。  
 
「貴様、濡れているではないか。・・・淫乱だな」  
アルベルが彼女の茂みに湿り気を感じ、意地悪く笑った。  
「馬鹿をいうんじゃないよ!それは、さっきシランドまでひとっ走りしたから、  
 足がむれただけさ」  
ネルがはずかしそうに視線を逸らす。  
「ほう、ではこれは汗だと言うのか」  
アルベルがその茂みからあふれる水分をすくい、口に運ぶ。  
「貴様の汗は甘いのだな。人間の汗が甘いなど、俺は聞いたことがないぞ」  
「それはアーリグリフの話だろう?シーハーツの施術使いは体に紋を刻むため、  
 汗が甘くなるのさ」  
ネルがいかにもありそうな話をした。  
「ほう。ならばあのさっきのクレアとかいう女やあの騒がしい二人も、  
 太ももからさぞ甘い汗がでるんだろうな」  
アルベルの言葉に、ネルがキッと彼を睨む。  
「ほかの女には手を出すな!シーハーツの女を犯したいなら私にしな!」  
彼女達を抱くなという警告というよりも、自分以外は抱くなという嫉妬感。  
ネルの言葉はそう聞こえ、ネル自信もそれに気づいたのか、  
ややしまったという顔をしていた。  
アルベルは苦笑し、茂みの中に指を割り込ませる。  
「ああう・・・」  
思わず体がのけぞりそうになるネル。  
「阿呆。俺はシーハーツの糞虫なぞ、お前以外に興味ない。  
 弱い者を犯しても、胸糞が悪いだけだ」  
そう言うと、アルベルは指の関節を動かし、ネルの中をかき混ぜはじめた。  
卑猥な水の音と、ネルの甘い悲鳴だ室内に響き渡る。  
「くくく、やはり感じているではないか。そんなに喘ぐほど気持ちいいのか?」  
アルベルは2本目の指を挿入する。  
「ち、違う。こ、これは、こういうときに自分を守る施術・・・あぅ!」  
「ふん。随分と俺様をその気にさせる施術だな」  
ネルの目は既に潤み、甘い声とともに切なそうな息を吐いている。  
(頃合だな)  
 
ネルの体を抱き上げ、自分と向き合うような格好にする。  
二人の顔が近づき、お互いに逆の方に顔を背けるが、  
ネル、アルベルともに鼓動が早くなるのを感じた。  
(う、嘘だろ・・・まさかあんなやつに・・・)  
(なんだ・・・この胸糞悪い感情は・・・)  
自分の心にわきあがる思いを否定できないでいる二人。  
しかし、それは否定することは不可能であった。  
なぜなら、それがなければ、  
アルベルは重傷で痛む体に無理してまで抱きたいとは思わなかっただろうし、  
ネルも彼から逃れるチャンスはいくらでもあった。  
「ち!入れるぞ」  
顔を赤くしながら、アルベルが彼女の体を持ち上げ、自分のいきりたったものに、  
彼女の濡れている場所を近づける。  
ネルも抵抗らしい抵抗しないまま、ついに二人が一つになった。  
「つぅううううううう!!」  
激しい激痛にネルが唇を噛む。  
二人を結ぶ部分からネルの髪と同じ色の液体が流れてきた。  
「なんだ、貴様。処女なのか」  
「う、うるさい・・・文句でもあるのかい?」  
ネルが涙目になりながら答える。  
「阿呆。初物をいただけるとはな・・・俺も運がいい」  
アルベルが激しく腰を動かす。  
「あ・・くぅ・・・やるなら・・・ゆっくり」  
アルベルのものが奥にくるたびに痛みが走るネル。  
「阿呆。俺はとっととイキたいだけさ。そうすれば早く終わるだろう?」  
アルベルは腰を激しく動かしながら、体に走る苦痛で脂汗が流れる。  
「しかたないね・・・あたしも・・・早く終わらせたいから・・・ね・・・」  
こちらも純潔を失い、かなり痛いのだが、ネルも腰を上下に動かした。  
 
あのカルサア修練所での出来事・・・バール山脈での戦い・・・  
星の船騒動のときの協力・・・。  
二人はそれぞれの信念のためにお互いを憎み、平和の世の中になった今、  
こうして体を重ねているという不思議な運命を、  
どう受け止めたらいいのかわからなかった。  
「く、そろそろイクぞ。中に出してやるからな」  
アルベルが昇ってくるものを堪えている。  
「く・・・中に出したければ出せばいいさ」  
「ふん。孕んでも知らんぞ」  
アルベルがネルの腰を掴む手に力を加え、根元まで差し込む。  
熱いものがアルベルのものからあふれ、ネルの中に注がれた。  
 
行為が終わったあと、アルベルは思い出したように苦痛に見舞われる。  
「馬鹿だねえ・・・無理をするからさ」  
ネルはそう言ってそっぽを向いたが、自分にも責任があると思い、  
ちらちらとたまに視線を彼に向けている。  
「く、くそ・・・これでは動きたくても動けん・・・」  
「まあ、ゆっくり養生するんだね」  
ネルが部屋を去ろうとした。  
「ま、待て・・・耳を貸せ。大事な話がある」  
「・・・手短に頼むよ」  
ネルが彼に顔を近づけると、唇を奪われた。  
「うむ・・・ぷはっ、な、何をする!!」  
耳まで真っ赤にしたネル。  
「知るか。俺も聞きたいくらいだ、阿呆」  
アルベルの答えはわけがわからなかったが、彼の顔もなんとなく赤かった。  
「ふん、人を犯しておきながら、こういうことするとはね」  
顔を赤くさせたまま、怒っているのか、照れているのかわからない表情で  
出て行こうとするネル。  
「おい、お前」  
「まだ何か言うことがあるのかい?」  
「また抱いてやるよ」  
「・・・次はもっと優しくしてくれるなら考えてやってもいい」  
部屋をでたネルは、唇に指を当て、アルベルの感触を思い出し、  
切ない表情を浮かべていた。  
 
最初は敵、次は仲間、最後は愛する人への気持ちの変化・・・。  
お互いの気持ちは通じ合っているのに、ついつい意地を張ってしまう二人・・・。  
まるで子供のような恋愛でスタートした二人の関係は始まったばかりなのである。  
 
〜終わり〜  
「本当、子供みたいですぅ・・・二人とも」  
「馬鹿ファリン、一言余計だ!」 

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