「起きて。 目を覚まして」  
身体が勢いよく揺さぶられる。 気持ちよく眠っているところを誰かに起こされた。  
「あれ、誉…せん…ぱい……?」  
目を開けるとそこには誉先輩がいた。   
「どうしたの!? 熱? 怪我でもした? それとも貧血?」  
目が覚めたばかりで状況を把握できないが、先輩はなんだかとても慌てているようだった。  
「なんで誉先輩が……?」  
周りを見回してみると、私が寝ていた場所は弓道場だった。 私と誉先輩は弓道部の部員だ。  
誉先輩は弓道部部長で、私の恋人。 つい最近告白されて付き合うことになったばかり。  
 
誉先輩は心配そうに手をおでこに当ててて熱をはかったり、私の身体中を何か異常がないかと確かめるように見回す。  
「まさか……誰かになにかされたりした!?」  
「?…なにかって? ごめんなさい、私、うっかり寝ちゃって」  
だんだん思い出してきた。 なんで私がここにいるのか。  
「……は?」  
先輩は私の言葉の意味を図りかねて首をかしげる。  
「今夜、流星群を観測したんです。 ピークの日は皆で観測したのですけど、私いまいちタイミングを外しちゃってて、  
ちゃんと流星が見られなかったから、今日もう一回リベンジしようと思ってがんばって明け方まで起きて観測してたんです。   
で、今日は昨日よりは数少なかったですけど、バッチリ見られたんですよ!!流星が大気圏に入って燃えるところまで!!   
火の粉まで見えて。 本当にキレイだった〜!!」  
「それで、どうしてこんなところで寝ているの?」  
「あんまりキレイで興奮しちゃって。 なんだか目が冴えちゃって眠れなくなっちゃって。   
夜明けの金星も見た後、そのまま弓道場で朝練でもしようかと思って」  
「で?」  
そういいながら誉先輩が両手を差し出して、私を起き上がらせてくれる。  
「でも急に眠気に襲われて……。皆が来る前にちょーっとだけ寝ちゃおうかな? なんて。 部員の誰かが来たら起こしてくれるだろうし」  
「もう。 『寝ちゃおうかな?』じゃないでしょう」  
先輩が眉を顰めて苦笑いをする。  
「大丈夫ですよ〜。 どんなに眠くても部活も授業も居眠りなんてしませんから。 今日もがんばりますから」  
私がヘラっと笑って答えた途端、誉先輩の顔が曇る。  
 
「あのさ!!」  
 
突然声を荒げた誉先輩の声にビクッと身体が竦む。 頭の中を支配していた眠気がいっぺんに吹き飛んだ。  
 
「そんなこと言ってるんじゃないからね!僕は!」  
 
もしかして誉先輩、怒ってる? どうして?  
普段はニコニコと微笑んで、周りをあったかく見守ってくれているやさしい部長。 そんな、滅多なことでは怒らない人だから、  
今、目の前でいきなり怒り出した誉先輩の事を信じられない思いで見つめる。  
何で怒ってるのか血が巡ってない頭で必死で考えて、あることに思い至る。  
 
「あ、そう…ですよね。 風邪でもひいたりして、皆にうつしたら大変ですよね。 すみません……」  
やっと答えを導き出したと思ったのに、でも違ったみたいだ。 誉先輩の顔はますます強張っていく。  
いつもの穏やかな誉先輩とは思えないほど眉間にシワを寄せて、苦しそうに自分の胸の辺りを握り締め、  
ぎゅっと握られたこぶしが震えている。 まるで何かを堪える様に。  
 
「そうじゃない! 僕が心配してるのは……っ!」  
「きゃっ……!?」  
床に座ったままの体勢で、いきなり抱きしめられた。 整髪料の匂い? 誉先輩の爽やかな香りがする。   
誉先輩の身長は180cm超えてて、私よりもずっと大きい。 こうして身体をすっぽりと包まれて。  
別に力ずくで締め付けられているわけじゃない。 やさしく抱きしめられているだけなのに、なぜか胸が苦しくなる。  
 
「君が寝ている間に、僕じゃない、”誰か”が先に来てたとしたら……そいつにもこうして大人しく抱きしめられてるつもりなの?」  
 
先輩の声はもう、先ほどまでと違って大きな声ではなかった。  
でも怒りが触れ合う肌から伝わってくる。 胸がヒリヒリする。 先輩は本当に怒ってるんだ。  
 
「…そんな…ちが…………」  
 
バカなことをした、と今更ながらに気が付く。 確かにこんな夜更けに誰もいない部室で一人練習するなんてどうかしている。   
弓道は危険なスポーツだ。 ふとした油断から致命的な傷を負うこともある。  
 
「ごめんなさい……誉先輩……一人で練習して事故があっても誰も来てくれないのに。 ……もうしませんから」  
だから嫌わないで……と、半泣きでおろおろしていると、誉先輩はハァー。と、深いため息をつく。   
そしてやっといつものように微笑んでくれた。  
 
「まったく。 いつもよりも早く目が覚めて、寮の窓から外を見たら弓道場に昨日消したはずの電気がついていたから……  
いやな予感がして慌てて来てみたけど。 本当に、気が付いたのが僕で……よかった」  
「ごめんなさい」  
もう一度ちゃんと謝ると、きゅっとまた抱きしめられた。  
 
「もういいよ。 僕もよーくわかったから」  
「何がですか?」  
「僕が何を心配しているのか、君はこのままだと永遠にかわかってくれそうにないってこと」  
先ほどまでの重苦しい空気は一掃され、先輩はいつものニコニコ優しい先輩に、戻ったような…気がした。 けど……?  
 
私を抱きしめたまま、誉先輩が囁くような声で話す。  
「僕ね、周りからいつも”おっとりしてる”って言われるって話したよね」  
「はい」  
以前、部活で皆とした雑談の中で聞かされた。  
急に話がとんで私が会話の意味を理解できないでいるのに、先輩はそのまま話を続けた。  
「”おっとり”って言うと聞こえはいいけど、実際は”のんびりした”とか、悪く言うと”のろま”って意味じゃない?」  
「そんな、先輩は”落ち着いてる”雰囲気で、”のろま”なんかじゃ……」  
私が慌てていうと、先輩は少し笑った。 でもいつもの笑顔じゃなくて、なにか苦いものを含んだ笑顔だった。  
 
「まあ実際、放牧された牛みたいに普段はのんびりしてるんだけどね。 でも、今、悟ったよ。 君の事だけは”おっとり”はしていられないって」  
「はい?」  
 
「君がこうして僕の恋人になったというのに、虎視眈々と狙ってる部員が少なくとも二人は確実にいるしね。 ううん、弓道部だけじゃない。  
生徒会にも、君のクラスメイトにも、中には先生まで……あっちもこっちもまったく気が休まらないよ。 僕の胃薬の量はどんどん増えていく」  
誉先輩が何かを呟いたけど、声が小さくてよく聞き取れなかった。  
「なんて言ったんですか?誉先輩」  
 
「ふふ。君は別に知らなくてもいいことだよ。 ……ねえ、前に説明した牡牛座の話、覚えてる?」  
「はい」  
また急に話が変わった。 どうしちゃったんだろ誉先輩。 展開に付いていけない。  
 
「ゼウスが美しい娘エウロパに恋をして、牡牛に化けてのんびりとしたフリして近づいて、背に乗せた途端猛スピードで連れ去ったって話」  
「ゼウスはエウロパをさらって海を渡って遥かかなたのクレタ島まで連れて行き、そこで結婚したんですよね」  
そうだね、と誉先輩が微笑む。そして。  
「僕も君を猛スピードでさらって行くことにしたからね」  
そう言うが早いか、両腕に閉じ込めるように抱きしめていた私を誉先輩は、トンと肩をついて床に押し倒して―――。  
 
キス、された。  
 
インターハイが終わったあと、誉先輩に告白されて。 それから、二人は何度もキスした。  
でも今のは、今までとは違うキス。  
 
いつものように淡く唇を重ねるだけのキスとは違う。  
強引に舌が、深く入り込んでくる。 私は、それをためらいながらも受け入れる。  
「ん……う……んっ!」  
すぐには離れていかない誉先輩の唇がずっと、ずっと私を攻め立てる。 息をするのも許さないとでもいうように口腔を蹂躙されて。  
いつものただほんわかと幸せな気分になるキスとまったく違う。   
つい先日もした、部活の帰りにさっと掠めるようなキス。 皆にばれないかとヒヤヒヤ、でもうれしくてドキドキした。  
やめて欲しいわけじゃない。 ……だけど、どうしてこうなったのかまったく解からなくて。怖くて。  
一人焦ってパニックになってしまう。  
 
「せ、せんぱ……い……ま、待って……」  
「だめ、待てない。 今すぐに、僕のものになって?ね?」  
「私は、もう、誉先輩のもの、だよ?」  
「そうじゃなくて……このまま、ここで……、君の”初めて”を僕にください」  
いくら鈍い私でも何を求められているのか解かる。 そんな直接的なお願いに、カーっと顔が赤くなる。  
 
「ごめんね。 もっともらしいこと言って怒ってたのに。 でも本当は僕が一番、君にこういうことをしたいって考えてた」  
「え……」  
「君が床に倒れている姿を見て、驚いて、心配して、焦ったのは本当。 だけど、はじめは思わず見とれたてた」  
「誉…せん…ぱい……?」  
「夜空に横たわる星座の姫みたいに、袴姿で眠る君のまわりを長い髪が彩っていて……。美しすぎてゼウスに見られたらそのまま  
天界に連れていかれてしまいそうだったよ。 ……よかった。僕が先に見つけられて」  
真剣に語る先輩の瞳がきらきらして、星みたいだと思った。 キレイなのは先輩だよ。 こんなステキな人の恋人が私なんかで  
いいのかっていつも思ってる。  
「もう、先輩。 何を言ってるんですか。 恥ずかしいです」  
「恥ずかしくないよ。 本当のことだから。 今だって君はきれいだ。 ……大好きだよ。 ……愛してる」  
「………………私もです」  
またキスをする。  
 
今度は強引に奪われるのではなくて、お互いに求め合ってするキス。  
私がおずおずと舌を差し出すと、先輩に強く絡めとられる。 もう心臓がドキドキしすぎていっぱいいっぱいで何も考えられなくなっていく。  
 
先輩はやせて見えるけど、弓道をやっているせいでちゃんと鍛えられた身体をしていた。 厚い胸板で圧し掛かられて、でも、私が  
重くないよう、自分の腕で軽く支えてくれている。  
 
胸当てを外し、袴の紐を緩めて、道衣の帯を解く。  
あっというまにテキパキと脱がされていくのが恥ずかしい。 なんだか誉先輩、手馴れてる気がする。  
はらりと道衣の袷を開かれて胸が露になる感触。 はっとして両手で隠そうとすると、  
「隠しちゃだめだよ。 きれいな君を全部、僕に見せて?」  
そういいながら優しく両手首を掴まれて抵抗できないようにされてしまう。 身体を隠せなくなっていたたまれなくて、顔を背ける。  
誉先輩の視線を感じて恥ずかしいけど目をぎゅっと瞑って我慢する。  
「あっ……」  
先輩の両手が私の腕を放して胸に優しく触れてくる。 弾力ややわらかさを確かめるように優しく。   
いつも弓を引く、長い繊細な指が、まだ柔らかい私の胸の頂をきゅっと摘んだり、くりくりと転がすようにすると、身体が跳ね、  
下腹部がきゅんと疼く。  
こんな部分がどうしてこんなに感じるのだろう。 何もかも初めてのことで解からないことばかりだ。  
「やっ……せ、せんぱい……」  
急に胸の先に熱を感じて、びっくりして目を開くと、誉先輩が私の胸に顔を埋めているのが見えた。  
舌先でチロチロと弾かれたかと思うと、口の中に含んできゅっと強く吸われる。 先ほどまでは柔らかかった頂がどんどんしこって  
硬くなっていくのが自分でも解かる。 ショーツが溢れ出した液でじんわりと濡れる。 身体中にじんと痺れが走って、もうトロけそうだった。  
「あっ……ああぁっ……」  
「気持ちいい? もっと声聞かせて? どこがいいか僕に教えて?」  
「はんっ……あぅ……そん、な…の……わかんないっ……」  
ぬるりとした感触がそこを擦る度に、びくびくと身体を振るわせる。  
先輩の手が身体を這って下の方に移動する。  
まだ脱がされていないショーツに手が掛かると、これから起こる事を想像して、身体が緊張してしまい、つい、両足をぎゅっと閉じてしまう。  
すると下着はそのままで手がすっと離れていってしまった。  
 
「ごめん、今日はここまでにしよう……。 やっぱりちゃんと君が卒業するまで待ったほうが……」  
起き上がろうとした誉先輩の制服を思わず掴んだ。  
「先輩。 女の子押し倒して、ここまでしておいて、今更”また今度”なんて、酷いですよ」  
「えっ」  
先輩は私がこんなことを言うとはまったく思っていなかったようで凄く驚いた顔をしている。  
 
「誉先輩……。 私はこの先、誉先輩だけだから……。 だから早くても遅くても…一緒だよ。 こんなこと先輩以外とは  
絶対にしないから。 この先ずっとずっと先輩以外とはしないから。 だから今しても、他の人からすればちょっと早いかも  
しれないけど、私が幸せなことには変わりないよ」  
「……っ!」  
誉先輩の目が見開かれる。  
 
「それにここは初めて私が誉先輩と逢った場所だから。 もっとステキな場所になってうれしい。 ……明日から練習のときに  
顔がニヤニヤしちゃって困るかもしれないけど……」  
「しっ」  
唇を人差し指で塞がれた。  
「お願いだから黙って。 それ以上言われたら、もう僕のほうがどうにかなっちゃうよ」  
そう言うと、先輩は起き上がって制服のベストを引き上げて頭から脱ぎ捨てた。 そのままネクタイを緩めてシャツのボタンを外し始める。  
バサッとシャツを脱ぎ捨てて、乱れた髪を頭をふって直す仕草にドキッとする。 逞しい上半身が露になって誉先輩って本当に着やせする  
人だな、って思った。  
 
「はは……まったく、君には参るな。 …そうだね。 …………ごめん。僕はまた怖気づいてたみたいだ。   
本番に弱いのは相変わらずみたいだね」  
そっと触れるだけのキスをくれる。  
「これからも、僕がだめなときは君が叱って……」  
ゆっくりと両手で私の下着を下ろすと、両脚を押し開いていく。 こんな格好をしなきゃいけないなんて。 皆なんで平気なんだろ。  
「痛かったら、言って。 ……でもやめられないと思うけど」  
こくりと頷くと、熱いものが押し付けられる感触がした。 押し当てられたものは私の部分に何度か擦り付けられて……。濡れたような音が  
聞こえてくる。 私もいつのまにかそんなに濡れてた。   
ぐっと押し当てられて、そのまま潜り込んでくる。 凄い痛みが走って、息をするのがやっと。 でも痛いって言ったら、先輩が止めちゃいそうで  
必死で我慢した。 先輩の為なら我慢できる……。 と、なにかが破れるような感触とともに先輩が私にキスをした。  
 
「君の”初めて”、貰ったよ」  
「え……」  
思わず目を瞑ってたから解からなかったけど、誉先輩の額に汗がきらきらしてる。   
先輩は少しでも私が痛くないようにゆっくりゆっくり進めてくれていたんだ。 それって男性からするととても大変なことなんだろうと思う。  
ヒマワリみたいに、にっこり微笑まれて、それをみたら胸が熱くなって、涙が溢れて止まらなくなった。  
「えっ!? どうして……あ、痛いの? ごめんっ!!」  
「違うよ……。うれしいから……」  
私がそういうと、とろけそうな笑顔で先輩も返す。  
「僕の方こそ、ありがとう……。本当に凄く嬉しい」  
 
私の様子を見ながら、先輩がゆっくりと穿つ。 結ばれている部分は今もとんでもなく痛いけど、それとは違うなにかが……。  
もっと奥のほうからよくわからない感覚が、始めは小さく、そしてだんだん大きくなっていく。  
「誉……せ、せんぱ……い……っ!」  
「ん……っ……今は、”先輩”は取って……ぅ……」  
「ほ……まれ……?」  
「はぁ……もっと……」  
「ほまれ……好き……ほま…れ……だいす、き……」  
「―――っ!! ごめ……もう我慢できな……っ!!」  
両脚を抱え込まれていきなりがむしゃらに突かれる。  
「ひゃ……ああっ……んぅっ……」  
 
誉先輩は普段は自分が我慢してでも周りが平和ならそれでいいと考える人。  
でも、こんな情熱的な一面もあったんだ。  
むきだしの欲望。  
いつも控えめな貴方が私を初めて抱いてくれた。  
うれしくて、うれしくて、死にそう。  
 
熱い。  
 
身体が沸騰する。  
真夏の日差しを浴びたアスファルトみたいに、陽炎が立ち昇ってる。  
気持ちよくてぐずぐずに溶けてしまいそう。  
 
「あっ、あっ、……ああぁぁああっ!」  
「愛してるよっ!……くっ……!」  
最奥を突かれた瞬間、中でなにかが爆ぜる感覚があった。 身体がいきなり高みに放り出されて、ゆっくりと落ちていく―――。  
誉先輩がごろんと私の横に寝転がった。  
「まったく、こんな朝早くから、何してるんだろうね僕たち」  
二人で見詰め合って笑った。 手をつないだまま。  
 
   ☆★☆  
 
この弓道場で初めて誉先輩と目があったときのこと、 私今でも覚えてる。  
私が一年の春だった。 ずっと憧れてた。  
あれから一年半。 誉先輩は私の恋人になった。 満天の星空の下で。  
 
 
弓道場に朝日が差し込み始める。  
青空に隠されて見えないけど、今も空では星が輝いている。  
私達の頭上で変わらずに光り輝いている。  
 
 
糸冬  
 

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