大学の図書館でレポートの資料を探していたアニーは、資料室の奥の座席に
黒峰の背中を発見する。
今までの憂鬱だった気持ちが、ぱっと花が咲いたかの様に朗らかになった。
この広いカレッジで彼に偶然会える機会は少なく、いつもアニーが追い掛け回しては
煙のように消えてしまう。
だから、ゆっくりゆっくりと近づいて囁きかけようと耳元まで口を寄せたときに初めて
彼が肘を突いたまま眠っているのだと気付いた。
こんなチャンスは滅多に無い。
隣の席に座ったアニーは、じっくりと黒峰を観賞することにした。
降ろした方が格好が良いと思える髪、神経質を表した眉間の皺、人を見透かす目は
閉じられていて少し残念。
そして綺麗だけれど、骨ばった掌は左手は頬に右手は机の上にあり、アニーは自分の
右手を添えようとするが、あと三センチのところで手が震えて動かない。
演技でエスコートされたときは、容易くこの手を取れたのに……
やはり止めようと手を引こうとしたとき、急に温もりに包まれた。
「何をしている」
しっかりと目を開いた黒峰が、アニーの手をギュッと握りこんでいた。
「起きていたの!?…意地悪ね」