「ミス・シモンズ……君が欲しいのは、もしかしてコレかな?」
静かな声で呟く。
レイオットはネリンの目の前でゆったりとソファーに腰かけ、これ見よがしにソレに手を這わせた。
「……っ」
一瞬、彼女は息を詰め体を緊張させる。レイオットが指を這わせているモノに、目を奪われているのだ。
「どうしたんだ? 監督官」
青年がふわりと笑って見せた。
こういう時だけ、彼は魅力的な笑顔を浮かべ、年若い魔法監督官を誘惑するのだ。
「触りたいんだろう? 素直になれよ」
「そ、そんな……」
ネリンは頬を染めて俯く。
自分は、そんな事をする為にここに来たのではない。仕事に来たのだ。
頭の中で、何度も自分に言い聞かせる。
迷っている彼女の様子を、ひどく楽しげに見つめるレイオット。
彼は、脚の間に有るモノに繊細に指を滑らせ、輪郭に沿って緩やかな愛撫を繰り返していた。
「いいのか? 見てるだけで。本当は、アンタがこうしたいんだろう?」
「わ、私は……。仕事に来たんです。そんな、そんな事……」
けれどネリンの眼は、レイオットの手元に釘付けになっていた。メガネの奥の藍碧の瞳は、隠しきれない欲望で潤んでいる。
「そうか? じゃあ残念だけど、監督官はそこで最後まで見てるんだな」
ネリンを誘うのを止め、レイオットは手元のそれを弄び始めた。掌全体で撫で摩り、時には指先でくすぐる。
「こうすると気持ち良いんだよなー」
誰にとも無く呟き、長い指先が、円を描くように滑らかにソレをなぞった。
15分ほどそうしてネリンを放置し、彼はソファーにだらしなく転がって一人、遊び続けていた。
「…………っ」
ぽつりと声が聞こえた。
顔を上げると、ネリンが真っ赤な顔でレイオットを、彼の手元のソレを見つめている。
監督官は、思いつめた表情を浮かべ再び呟いた。
「お、お願い……。ス、スタインバーグさん」
何を言いたいのか解らない、とばかりにレイオットは首を傾げ、わざとらしく惚ける。
「あ……。あの、私も、その、触りたい、です」
「ふうん? お願いする時は、相応しい言葉があるだろう?」
レイオットがからかい半分でそう言うと、ネリンは目に見えて狼狽える。恨めしげに青年を睨みつけた。
「きちんとお願いできなきゃ、触らせる事は出来無いな」
「…………」
プライドが許さないのか、彼女は黙り込んだ。目の前の青年に、「おねだり」 する事に屈辱を感じるのだろう。
「そのままでは、監督官が可哀想です。レイオット」
二人の間に沈黙が降りた時、脇から声がかかった。キッチンワゴンにティーセットを乗せて、カペルが戻ってきたのだ。
「可哀想ですか」
レイオットは苦笑を浮かべると、腿の間にはまっている黒猫をひょいと掴んで、向かいのソファーで固まっている監督官に差し出した。
「ほいよ」
「ああん、シャロンちゃ〜〜〜〜んっ!」
食いつきそうな勢いで子猫に手が伸びる。くんにゃりした子猫を大事そうに抱えて、ネリンは壊れたように遊び始めた。
今日はもう、彼女は使い物にならない事決定。
書類が遅れるかもしれないが、自分のせいじゃ無いもんね。
レイオットはネジの飛んでいる魔法監督官を見つめ、悟られ無い程度に溜息をつく。
「もうちょっと遊びたかったなぁ」
ぼそりと零れた呟きに、カペルは冷たい視線をレイオットに向けた。