アドニアスに位置する帝国軍宿舎では、士官には個室が与えられる。それはアドニアスを本拠地とする  
部隊に限らない。現在駐屯する第六海戦隊においては隊長のアズリアと副官ギャレオに加えてビジュ、  
アティの両名がそれに当たる。  
ところで。個室とは、説明するまでもなく一人で使うことを前提として作られた部屋である。基本的に誰か  
が使用している際には他人は使わないものである。  
そこを踏まえて、だ。  
外に飯食いに行った間に勝手にひとの部屋あがりこみ、あまつさえ居眠りするとは何様のつもりか。  
ビジュは無言のまま机へと歩み寄る。とりあえず、うつらうつらと舟を漕ぐ闖入者の腰掛ける椅子の背へと  
手を掛け、思い切り引いた。  
「―――ひゃあっ?!」  
まどろみを破られ素っ頓狂な悲鳴が上がる。背もたれに頭を乗っける体勢でビジュと目が合った。  
「……ああびっくりした。ビジュさん、お帰りなさい」  
「おかえり、じゃねえだろ。何してやがる」  
アティは真顔で、  
「隊長から匿っていただけませんか」  
よっぽど椅子から手を離してやろうかと思った。  
「今度は何しやがった」  
「弟と親友と可愛い甥もしくは姪を愛でつつ暮らすというささやかな望みを叶えるべく、少々の後押しを  
 しただけです」  
この場にアズリアがいれば「そんな夢なぞ穴掘って埋めてこい!」とでも叫びそうな台詞を、失敬なと  
ばかりにしゃらっと言いながら眉を上げてみせる仕草は『可愛らしい』と評されてしかるべきものなのだろうが、本性知ってる身としては素直に頷けないものがある。  
「という訳で、割り当て部屋にいるとすぐに見つかって粛清されること請け合いなのです」  
なるほど。ビジュの部屋に退避してきた理由は解った。  
「まあ俺が匿う理由はないな」  
 
「同僚を見捨てるのは倫理的にどうかと」  
上官をいじるのはいいのか、という疑問は明後日にすっとばしての発言はそれこそどうか思う。  
「置いていただけるだけで良いんですよ、何なら見つかりそうになったら即追い出しても恨みませんから」  
顎をくいと上向けおねだりときた。  
騙されるものか。挑発を含んだ青い瞳が可愛らしかろうと、背を反り気味にしているせいで只でさえ  
大きな胸が普段より自己主張をしていようと、……  
……なにゆえこの女はワイシャツの襟緩めているのか。ビジュの位置からだと豊かな谷間がしっかり  
目に入る。それで自制が利かなくなるほど餓鬼ではないし、目のやり場に困るような間柄でもないが、  
気になるものは気になる。  
細い、といっても戦闘訓練を重ねている為ある程度の固さを持つ指が襟元をかき合わせた。  
「えっち」  
「見せたテメエが言うか」  
「まあそれはそうですけど」  
寝苦しかったので無意識に外していたらしい、と笑う。  
その頤に指を掛け、声帯に沿って這わせ襟を合わせるアティの指を剥がす。  
拒否する素振りはない。  
アティも関係のある男の部屋に一人訪ねてきて何事もなく帰れると思うほど浅はかではないということだ。  
ビジュにしても、期待を恥じらいで押し隠した女を目の前にして、ほったらかす聖人君子にはなれない。  
薄い生地の中へと潜ろうとする手を止めて、  
「ちゃんと自分で脱ぎますから―――あと、」  
小さく、ベッドで、と続けた。  
 
 
何故かアティが脱いだ白衣から応急キットやら何やらを抜くと、ベッドの上に敷いた。その上にぽすんと  
一糸纏わぬ姿で座る。  
「シーツ汚すといけませんから」  
確かに勝手知らぬ場所のこと、シーツ汚したからといって替えてくれとは頼みにくい。更に理由が理由だ。  
納得したところでビジュは細い腕をとり引き寄せた。アティの首筋から耳朶にかけて舌を這わす。  
押し殺した吐息。  
腿の内側を撫ぜるとつま先がふるふると震えた。  
圧し掛かり膝を割る。と。下腹部で勃つ性器をアティの右手が遠慮がちに握る。ぎこちなく擦る指の腹が  
先走りに濡れてゆく。与えられる刺激は浅い。だが。  
触れるものの硬度が増したのにアティが頬をうっすら赤く染めて。  
「……もう、大丈夫ですよね」  
秘所はとうに潤っている。  
先端をあてがい、ゆっくり侵入させた。  
ぐちり、と、張った部分を呑みこむために痛みすら伴う拡張を強いられるそこは、しかしゆるく淫靡な痺れに覆われる。続く部位は滲む愛液の助けを受けて難なく挿入を果たした。  
なかを楽しむように動けば、白い身体がその度に揺れて。  
支えを求めたのか二本の腕でしがみつかれる。  
柔らかい太腿が行き場を求めて絡んでくる。別角度からの圧迫が加わりぞくぞくと昂ぶってゆく。  
繋がりより体液が圧し出され白衣を止め処なく汚す。  
背中にまわる両の腕に力が入り、汗に濡れる肌が軋んだ。  
「ごめっ…わた、し、もう…っ」  
アティとの行為は幾度もある。だが普段より反応が早い気がした。  
そういえば最後に抱いたのはいつだったか。任務中は「ぷらいばしい? なにそれくえるの?」状態、  
終わったら終わったでアティは病院送りになってしまい、コトに及ぶ機会なぞ全くなかったのだ。  
溜まってたのか、と中々に下品なことを考え、腰を進め密着させる。  
 
アティの身体が仰け反り攣る。絶頂にはもの足りない。無視するには強すぎる。  
歯を噛み締め息すら止めて、声を喉で堰き止める。  
その顔に、呼吸が融けるほどに近寄って。  
「……っ」  
しまった。やられた。  
悦楽を堪え紅に染まる肌。内側からせり上がる衝動を持て余しひたすら耐える紗のかかり始めた瞳。  
きれぎれの吐息は熱い。どちらも、だ。  
それでやっと、自分も限界ぎりぎりだったのに気がついた。自覚した途端打ち込んだ部位に熱が溜まる。  
揶揄を吐き出すはずだった口からは微かな呻きが洩れただけ。  
何時もとは違う、アティの表情。他の誰も見る事のない痴態。  
深く、最奥までを貫く。快楽を得るために、与えるために、  
己のモノだという支配感を満たすために。  
「―――っあ!」  
鼻にかかる甘い悲鳴。柔襞が音を立てそうな勢いで締めつける。  
逆らうように極限まで膨張する器官を力任せに引き抜いた。  
びくんっ、と波打つアティの無駄のない腹に、髪と同色の茂みに白濁がとろり滴る。  
しばしの間。  
しなやかな手のひらが荒く息つく背を撫ぜ、ゆっくり落ちた。  
 
 
秋の陽が最後の日差しを部屋へと滑り込ませる。もう一時間もすれば完全に夜になるだろう。  
ビジュは机に向かい、並べたナイフの一本を取り、空いた手で研ぎ石を引き寄せた。  
柄と真直ぐな刃だけで構成されたシンプルな武器は、斬ることより突き立てることに特化している。  
薄く彫られた溝は毒を纏わせる為のもの。剣や銃と比べれば殺傷能力で劣るゆえに、ダメージ自体よりも  
付加効果を重視した結果である。  
開け放した窓からは先程まで聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえていたのだが、今は静かなものだ。  
 
陽光に刃をすかし刃こぼれの有無を確かめ目釘を締める。  
次に移ろうとして、少々乱暴なノックが響いた。  
嫌々ながら中びらきの戸を開けると、予想通り不機嫌極まりない表情でアズリアが仁王立ちしていた。  
「何の御用ですかい」  
「アティを見かけなかったか?」  
一拍間を置き。返すのは、さあ、というやる気のない返事だけ。  
「くっ……どこに逃げた?! 奴を見かけたら覚悟するように言っておけ!」  
肩をいからせ立ち去る後ろ姿を面倒そうに見送り、  
「放っておいていいのか、あれ」  
入り口からは死角にあたる位置で、ハンガーに掛けた白衣を躍起になって吊り下げようとしているアティ  
へと訊ねる。  
アティは石鹸のほのかに香る洗濯したての白衣と格闘しつつ、  
「今出て行けば二階級特進しかねないので」  
そうのたまいやがる。そういえば紫電絶華の回数が二発に増えたようだ。  
   (注:紫電絶華とは通常攻撃より威力1.5倍の、とっても痛い必中技です)  
ビジュは諦めたのか、もうこれ以上関わりたくないといった風情で再びナイフを手に取った。  
追い出さないのは、まあ僅かばかりながらの気遣いか。  
 
 
その後アティはアズリアの機嫌が多少ましになった頃を見計らい謝りに行き、最終的には小一時間  
ばかりの正座と説教で許してもらった。  
「ところで、だ。アティ、お前も人の事とやかく言う前に自分のことを考えろ」  
「―――まあ、お構いなく」  
思わず苦笑を洩らすのに、アズリアは眉をしかめた。  
おそらく部隊内で全く気づいてないのは、男女関係についても潔癖気味の隊長殿ぐらいであろう、という  
予想は正しい。  
この鈍さだから放っておけないんですよねえ、なんて余計なことを考えて休日は終わる。  
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル