♪愛のない毎日は 自由な毎日  
   誰も僕を責めたり できはしないさ…  
 
 今日は朝から気持ちのよい天気で、それにつられてかちるみは大方の家事を昼少し過ぎに  
終わらせてしまった。いつもなら皿を割ったり掃除機が逆流したりで家事もままならない状況  
だというのに、今日はとんとん拍子に事が進んでしまったのだ。  
 たまたまラジオを聴いていたのだが、そのときに冒頭に書いた部分のフレーズが妙に頭に  
残っていた。  
 「基本的に家族はないんだ」  
 ちまき先生にそう言われて以来、自分の過去と今の立場をふと思ったりすることがあったから、  
なおさらなのかもしれない。  
   
 残すは大樹の部屋の掃除である。今日はちるみ以外は学校だの打ち合わせだので皆外出していた  
上に、帰ってくるのは夜ぐらいになるとのことで、とくに気兼ねすることなく事が進む。それでも  
立場上なのか彼女の癖なのか一応ノックの上「失礼します」と無人の部屋に声をかけ、中に入った。  
 いつも掃除しているのでさほど汚れてはいない。しかしそこは高校生男子の部屋。どことなく  
散らかった印象を受ける。  
 いつものことだからと特に気にも留めず、てきぱきとした仕草で掃除を進めていたのだが、  
ふと目をやったベッドの上に、脱ぎ捨ててあった大樹のシャツがあった。  
 「大樹さまったら、もう…」そう呟いてシャツを持ち上げたときに、なにか底知れぬ感情が彼女を  
包み込んだのだ。  
 何か懐かしいような、温かいような……。  
 「大樹さま…」知らず知らずのうちに彼女は大樹のシャツをぎゅっと抱きしめて、そのまま彼の  
ベッドに横たわってしまった。ベッドやシャツに残っていた彼のぬくもりと、外から注ぎ込む陽気に、  
ちるみは我を失いかけていた。息が速くなり、火照った身体はさらなるものを求めだすようになった。  
 (今なら誰もいない…)  
 理性が最後に放った言葉を受け、無意識的に両手がそれぞれ上半身と下半身の、刺激を求める  
部分に届いた。  
 動き出した手はもう止まらない。  
 「大樹さま…んっ…ああっ…」  
 各方で起きた刺激の波はじわじわと押し寄せ、身体の中で増幅し、そして包み込む。まるで彼が  
本当に包み込んでくれるような気になってさらに激しく指を動かした。この部屋の外で起きている  
ことにも気づかずに……。  
 
 テスト期間中ということで昼前に学校は終わり、そのまま友人らとあれこれしゃべった後に家に  
帰った大樹は、逆に自分の部屋で起きていることなど夢にも思わなかっただろう。  
 「ただいまあ」と、いつものように玄関で声をかけてみるものの返事がなかったのが若干気がかり  
だったが、まあこんなこともあるかとそれほど気にも留めず、ガバッと自室のドアを開けたところで  
彼は凍り付いた。  
 「ちるみ…!?」  
 凍り付いたのはもちろん大樹だけではない。大胆にも両足を広げ、あられもない姿となって自慰に  
ふけっていたさま子を見られてしまったのだから無理もないだろう。まるで蚤が飛び上がるかのように  
身を縮こませるのが精一杯だった。  
 「な、何して…」  
 「た、大樹さま!」  
 いくら家族同然にしてもらっているとはいえ、メイドとしての仕事を忘れた上に主人のベッドで  
このようなことをしてしまったのだ。メイドとして、女としてこれ以上ないであろう恥辱である。  
 「もっと、一緒になりたい…」そんな願望がここまでの彼女の行動を起こしたのだが、一方で  
この状況では下手をしたらもう大樹らの家にいることさえ出来ないかもしれない。  
 「大樹さま、私…ただずっと…一緒に…」  
 紅潮した顔、体中からにじみ出る脂汗、そしてあふれる涙とともにこう呟いた。  
 そのときだった、ふと彼女は自分が包み込まれるような感覚を覚えた。  
 「ちるみ…」  
 大樹はちるみの横に座り、身体を抱き寄せていたのだ。  
 たとえ事の成り行きがどうであれ、大樹は大樹でちるみの事を気に入っていたわけだからこういう  
行動に出たのだ。彼女を庇いたいような、あるいはひょっとしたらという下心もあったかもしれない。  
 しかしこうしてみたものの、これから先どうするか全く考えもしていない。というよりも女性との  
交際経験のほとんど無い彼には思いつきもしない。が、ここはやはり「健全な」高校生男子。みるみる  
うちに彼の一部分に血液が集中して固く、大きくなっていったのだ。  
 そして改めて彼女の顔を見つめた。  
 何かを「欲しがる」ような顔つき  
 (ここで行かねばいつ行くんだ!)  
 そう決心して大樹は、おそるおそるも自らの唇をちるみの潤った唇に重ねてみたのだ。やわらかな  
感触が唇から伝わる。  
 とっさの口づけに少し戸惑いつつもしっかりと受け入れたちるみ。今度は自分の番だと言わんばかりに  
舌を彼の口の中に進めていった。  
 お互いの舌が絡み合う濃厚な音が静かな部屋に広がる。やがて二人はそのままなだれ込んだ。  
そのときベッドの隅にうずくまっていたくしゃくしゃのシャツが大樹の目に飛び込んだ。そう、  
さっきまでちるみが大樹の代わりに抱きしめていたシャツである。  
 「おい、ちるみ…これは?」  
 「ああっ大樹さま…こ、これは…その…欲しかったんです」  
 「欲しかった?」  
 「そう…です。その…なんていうか……」  
 大樹の顔を見つめ、一つ息を吐き―心を落ち着かせて―、そして続けた。  
 「私、今まで一人の時が多かったんです。ちゆりやちまき先生達といる時間もあったんですけど、  
それ以外は一人だったんです」  
 「一人?」  
 「そうです。だからよく寂しい思いをしていたんです。そんなときに大樹さま達のところで働かせて  
もらってすごく嬉しかったんです。でも…」  
 「でも…」  
 「嬉しく思うと同時に、もっと一緒にいたいという気持ちが強くなったんです。一人だという寂しさは  
もう無いんですけど、もっと違う気持ちというか…」  
 
 「……」  
 「大樹さまともっと一緒にいたかった。もっと…大樹さまが…欲しかったんです…」  
 そう言って、彼女はいっそう彼を強く抱きしめた。  
 嬉しい、と思うと同時に彼女にここまで言わせてしまい、あげくこんな展開にまで持ち込ませて  
しまったことに対する自責の念が大樹の心をおそった。  
 「で、でも…」  
 そう躊躇する大樹を尻目に、彼女はさらに続けた。  
 「こんな姿を見られてしまったのだから…最後までさせてください」  
 「最後まで?」  
 「大樹さまと、最後まで…こんなメイドとでは、イヤですか?」  
 いやなはずがない。が、こんな展開に頭がついて行かず、ドクン、と心臓が大きく鼓動を打つ。  
 「……わ、分かった」上つった声でそう答えるのがやっとだった。  
 そう言われるやいなや、彼女は慣れた手つきで大樹のズボンのホックを外し、そのままパンツと  
一緒にずり下げたのだ。  
 「ちょっ、何を…」と言ってはみたものの、正直な身体はいきり立った大きな一物をあらわにした。  
それを彼女は先端から丁寧に舐めだした。  
 「うはっ…」いつもこっそり、手でする刺激とはまるで違う。  
 「っあっ、で、出るっ」  
 構わずに彼女はさらに激しく大樹を刺激した。一瞬の痙攣を起こし、大量の精子をちるみの顔に打ち付けた。  
 「あっ…ご、ゴメン…いきなりで」  
 「いいんですよ大樹さま。じゃあ今度は大樹さまの番ですよ」  
 「俺の番?」  
 「今度は大樹さまが私を……」  
 ここは本能の赴くままにした方がいいかもしれない。大樹はちるみの股間に手をやった。  
 「あっ、そんなっ、いきなり…」  
 もうそこはさっきからの流れですっかり濡れていて、大量の粘液が大樹の指にもねっとりと  
からみついた。とりあえず適当に指を伝わせると、今までにない手の感覚に、大樹自身も我を  
忘れてしまった。もう我慢できそうにない。  
 「な、なあ、このまま入れちゃっていいか?」  
 「も、もうですか?」  
 まどろっこしい展開はいらない。さっき出したばっかりなのにもう充電完了という高校生男子の  
なせる技。一気にいきたいところ。体中が疼く。  
 しかしそれは彼女も同様で、  
 「で、では」  
 そう言うと、自然に彼を受け入れる格好になった。その上に大樹が乗っかり、彼女の入り口を  
自らの下半身で不器用に探す。  
 「こ、ここ…」ちるみは手を差し出して、準備万端の彼のペニスを自分の膣に当てた。  
 「じゃあ、いくよ」大樹は一気に身体を沈め込んだ。  
 「っああああっ」  
 「だ、大丈夫?」  
 一気に奥まで入った事による激痛で顔を引きつって涙が出てくるものの、次第に彼との一体感に包まれた。  
 一方の大樹の方も、何となくでしか知らない故、ビデオとかであったように腰を振ってみた。  
 「んあんあんっ…大樹さまっ…きもちいいです」  
 「あうっああっ、ちるみ…俺も…気持ちいいよ」  
 次第に感覚をつかんで、自分も気持ちよくなってきてさらに腰を動かした。  
 「ああああああっああっあああ」  
 「そ、そろそろ出るっ…」  
 「そ、そのまま…あっ、だ、出してぇ…」  
 「で、出るよ…ウグッ…ウッ…」今度はちるみの体内に一気に放たれた。  
 「ちるみ…」  
 「大樹さま…」  
 二人は熱を冷ますように、そのままの格好でへたり込んだ。日はほぼ真横に、柔らかく差し込んでいた。  
 
 
 「ん…んん?あれ?」  
 気づいたときにはズボンもはいていて、一人ベッドで横になっていた。さっきまでのことは  
夢だったかしらんと思うほど片付いている。  
 いやでも夢ではないよなあ……そう思うとさっきまでのことを思い出したのか、耳の先まで赤くなった。  
 とりあえず気を紛らわそうと、ステレオのスイッチを入れた。ラジオの設定のままで、歌が流れていた。  
   
  ♪…愛を止めないで そこから逃げないで  
   素直に涙も流せばいいから…  
   
 再び顔が熱くなってきた。すぐさまスイッチを切った。  
   
 あたりはすっかり暗くなり、そろそろ夕食の時間。何となく他の人と顔を合わせづらいものの、  
とりあえずダイニングに降りた。  
 がっしゃーん、キャーッ  
 「ちるみちゃん大丈夫?」  
 「ケガはないかね?」  
 そこにはいつも通りの展開が繰り広げられていた。  
 「しかしよくもまあ毎日毎日、それだけ皿を割ることが出来るなあ」少しあきれてそう言った。  
 「だけど今日は皿だけじゃなく…」そう言いかけたとき、ちるみは少し照れたような顔でこっちを  
向いてほほえんだ。  
 (俺の心までも壊しておいて…)  
 そう言おうと思ったけれど止めた方が良さそうだ。素直に言葉は出そうになかった。(終)  
 
 

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