「今日の夕食は自信作ですよ」
エツ子が楽しそうに、てきぱきとテーブルに丼を並べた。
百合奈も夏姫も、丼の中身に、複雑な顔をする。
「お嬢様たちの好きなもの、嫌いなものをまんべんなく使った
栄養満点の特製丼です。名づけて『スペシャル姉妹丼』。どう
かあつあつのうちに召し上がってください」
「いただきます」
まっさきに芹香が箸をとった。ほくほくと蒸気があがる具と
飯を上品に頬張る。
「うう〜。百合奈、好きなものだけでよかったのにぃ」
「嫌いなものも食べないと大きくなれないわよ」
「そういう夏姫様も、食べておられませんが」
「食欲があまりないのよ」
「いけません。夏バテ予防のためにも、まずは食べなくては」
穏やかなエツ子の微笑みに潜む迫力に負けて、姉妹も遂に箸
をとる。
少しずつ口に入れ、悪くない味と思いつつも、なかなか勢い
がつかず、夕食の時間はいつもよりも長くなった。
(終)