「百合奈ちゃん、どうかした?」
急に黙ってしまったわたしに、お兄ちゃんが心配そうな顔をして、聞いてきた。
わたしは、これから言おうとしている中身を頭のなかで繰りかえしている。
別荘にお兄ちゃんを招待して、夜を迎えた。お兄ちゃんの部屋に来て、楽しく
おしゃべりしていた。
わたしが黙ったのは、心を決めたから。お兄ちゃんを招待した本当の目的のた
めに、動く。
顔をあげて、じいっとお兄ちゃんを見つめて。
「お兄ちゃん。百合奈、お兄ちゃんのことが大好き」
「うん。僕も百合奈ちゃんのこと、大好きさ」
ほっとして、ほほえんでくれるお兄ちゃん。
わたしはお兄ちゃんが好き。お兄ちゃんもわたしを好きって言ってくれる。
そう。百合奈とお兄ちゃんは恋人同士。でも、まだ、恋人同士でも……。
「お兄ちゃん、キスして」
わたしの言葉を読んでいたように、お兄ちゃんはわたしを抱きしめて唇を重ね
てきた。優しいキス。ぽうっととろけてしまうキス。
なんども唇が絡まって、なにも考えられなくなる。
……だめ。これで終わっちゃだめなの。
固い胸板を押して、わたしから、お兄ちゃんの顔を離した。
熱くなった顔を意識して、ゆっくりと、息とともに言葉を放つ。
「……お兄ちゃん、百合奈を抱いて」
「抱いてるよ」
胴にまわっている腕の力が、ちょっと強くなった。
「違うの。百合奈と、百合奈と……セックスして」
「ええっ!?」
言ってしまった。言うことができた。
抱きあって、キスするのも素敵。でももう、それだけじゃ我慢できない。百合
奈をお兄ちゃんのものにしてほしい。セックスしてほしい。
そう願ったから、邪魔の入らない、この別荘にお兄ちゃんを招待した。
言えたことに満足して、とたんに恥ずかしくてたまらなくなる。お兄ちゃんの
顔がまともに見られない。
くるっと、背中を向けてしまった。
息遣いだけが聞こえる時間が流れて――
「あっ」
――後ろからお兄ちゃんが抱きしめてくれる。
「嬉しい。百合奈ちゃんからそう言ってもらって」
「お、お兄ちゃん」
優しい声。大好きなお兄ちゃんの声。
温かい腕。お兄ちゃんに抱かれて、とても幸せ。
「でも、さすがにまだ早いと思うんだ。僕、百合奈ちゃんが高校生になったとき、
しようと思ってる」
「え……」
耳から入ってきた言葉が、わたしを凍りつかせた。
静かに続く声が鼓膜を揺らす。
「急がず、じっくりと、百合奈ちゃんと恋人として、誰からも認められるように
なって、そのときにセックスしよう」
「そ、それは……お兄ちゃん、百合奈のこと嫌いなの?」
「そんなわけない」
くるっと、正面を向かされた。お兄ちゃんの目が少し怒っているような、それ
くらい真剣に、百合奈を見ている。
「大好きだよ。でも、今、欲望に流されるのは……つらいんだ」
わからなかった。男の人って、襲うくらいに、セックスしたいって思っていた。
お兄ちゃんと見合っているうちに、なにかをこらえていながら優しく見つめて
くる瞳で、わかってくる。
お兄ちゃんはわたしを大切にしてくれる。襲うなんてこと、しない。勢いに流
されるのを耐えて、納得できるときになって、セックスを……。
「うん。わかった。百合奈も待つ。お兄ちゃんとセックスできるのを。もう少し
大きくなれば、高校生になれば……」
口に出し、自分を納得させようとする。でも、こんなに近くにいて、決心して
ふたりきりになって、このままなんて……。
揺れる気持ちが伝わったのか、お兄ちゃんはちょっと変わった口調で。
「百合奈ちゃん、本当に今、セックスしたいって思ってる」
「思ってるよ! だ、だから」
「それなら、頼みたいことがあるんだ」
お兄ちゃんはそう言って、ズボンを脱ぎはじめた。いきなりで、「きゃっ」と
いう声が出てしまった。
パンツも下ろして、ぶんとなにかが跳ねあがって、出てきた。
天井に向かって垂直に伸びている、肉の棒。
「これが男のモノ。ペニスだよ」
あ、ああぁ……いきなり、見せられるなんて。
こ、これが男の人のモノ。ペニス。
お兄ちゃんの言葉が頭をぐるぐるまわる。じいっと、股のあいだに生えている
恐しい生き物みたいに見えちゃう肉の塊を見つめる。
「百合奈ちゃんに触ってほしい。握ってほしいんだ」
言葉に押されて、しゃがみこむ。
間近で見ると、圧倒されてしまう。
手を伸ばして、そっと握った。
熱い。こんなに熱い。
熱くて、すごくおっきくて、ドクッドクッってしてて……ああ、男の人のモノ
って、すごい。
「セックスって、これが百合奈ちゃんのなかに入っちゃうんだよ」
「こわい……」
自然に口が動いた。言ってしまって、はっとなる。
穏やかな声が降りかってきた。
「そうだろ。無理ないよ。だから、もっと自信を持ってから、高校生になって
からでいいと思うんだ」
「う、うん……」
実物に触れて、くじけてしまって、小さくうなずく。
でも、でも終わりにしたくない。お兄ちゃんとわたしは恋人同士。恋人なら、
できることがある。
ゆっくりと、握った手を動かす。
「ゆ、百合奈ちゃん?」
「百合奈、知ってるよ。こうやったら、男の人、気持ちよくなるって」
女は手を使って、男の人を気持ちよくしてあげることができる。友達に見せて
もらった雑誌に、そう書いてあった。
お兄ちゃんはびっくりして、やめさせようとしたけれど、でもわたしが強く握
ったら、「ううっ」って呻き声をあげて、
「わ、わかった。どうやればいいか教えるから、その通りにして」
握りかた、動かしかたを指示してきた。
言われる通りに指を巻きつけて、前後に動かして、わたしは目を丸くした。こ
する必要はほとんどなくて、皮膚が伸び縮みする。こんなにスムーズに動くなん
てと見入っていたら、「ペニスには皮があって、こんなふうになるんだよ」と解
説してくれる。
皮がかぶったままという「包茎」というものも教えてもらった。お兄ちゃんは
皮が剥けているとも。違いがよくわからなかったけど、お兄ちゃんは誇らしげに
しているので、わたしも頬をゆるませて、手を動かしつづける。お兄ちゃんの気
持ちよさそうな顔を見ているうちに、ペニスがとっても愛おしくなる。恐ろしく
なんて全然ない。
だんだん慣れて、テンポよくしごいていると、ツンと鼻の奥が刺激された。い
つの間にかペニスの頭が透明な液で濡れていた。
「お兄ちゃん。先っぽが、濡れてる」
「うん。それはカウパーって言うんだ。気持ちいいと、出てきちゃう」
「気持ちいいと、出るの? 射精なの?」
「射精するっていう予告みたいなもの」
切れ込みに指を当てて、すくってみた。ねちゃねちゃした、不思議な、液。
お兄ちゃんに言われて、粘つく液を棒全体に伸ばして、塗りたくる。カウパー
でぬるぬるになったモノをあらためてしごく。
「うあっ、ああっ」
しゅっしゅとスムーズに動いて、お兄ちゃんが声を荒げる。こんなに声を出し
て、喜んでいる。
このまましごいていれば、射精する。指をきつめに巻きつけて、ぐいっぐいっ
と、強めにしごいてみる。
「う、そ、それ……そのまま、で、うあっ、で、出そうだ。百合奈ちゃんに握ら
れて、すごく感じてる。あ、あ、あ……」
お兄ちゃんの声が震えている。初めて聞く声。わたしの手で、気持ちよくなっ
ている声。
どうなるのか。どういうふうに出るのか。調子に乗って素早くしごいて、興味
津々に顔を寄せていったとき、
びゅくっ!
「きゃん」
勢いよく飛び出てきたものが顔に当たった。びっくりして、なおも手を動かし
つづけていると、どろどろした液がどんどん出てきて、顔だけじゃなくて百合奈
のパジャマにまで振りかかってくる。
手のなかのモノが大きく震えて、次第にゆるやかに、ほとんど脈動しなくなっ
た。先のくびれから、白い精液は出てこない。
「ご、ごめん。汚しちゃって」
あわてているお兄ちゃんへ、にっこりと。
「ううん。いいの。だって、百合奈がしたんだよ。えへへ、お兄ちゃんの精液を
もらえて、嬉しい」
精液をいっぱいかけられて、お兄ちゃんのものになった気がする。セックスよ
りも嬉しいことをしてもらえて、わたしはとっても幸せだった。
(終)