別荘に夜が訪れ、リリリというかすかな音が窓から忍びこんでくる。麻比奈
夏姫はタンクトップ一枚に短パンというラフな格好でベッドへ寝転がり、聞く
ともなしに虫の声を耳に入れていた。
強い日差しが降り注ぐ午後にここへ到着し、麻雀を楽しんでからひと泳ぎし
た。エツ子の手料理を食べすぎるくらいに食べ、風呂にのんびりと浸かって疲
れを癒した。
いつもなら心地よい眠気がとろとろと生まれてくるのに、目が冴えている。
天井を睨みながら、夏姫が見ているものは別にあった。
(……百合奈の“お兄ちゃん”、か)
妹の百合奈が招待した客。自分たちよりもあとになって別荘へやってきた男
の姿が頭をよぎる。
ルックスはまあまあ。身長はそれほど高くないが、百合奈の横に並べば充分
にある。スポーツの経験はないと言っていたが、男らしい筋肉がついていた。
見た目は合格点をつけられる。
口数は多くないが、明るさを感じる。語る話も、頭の回転の良さを示してい
る。麻雀の腕もなかなかで、相手をしてもらったら白熱した勝負についつい熱
くなってしまい「身ぐるみ剥いで追いだしてやる」とまで叫んでしまった。あ
れは恥ずかしかった。
ぽっと顔が赤くなる。ぎゅっと頬を手のひらで押し、脈拍を正常値に戻す。
百合奈にしては上出来の彼……果たして、「彼」なのか?
まだ妹は中学生。恋に恋するようなところがある。招待した男のことも、恋
人と見ているようで、言葉通り「兄」のように見ていたときもあった。
感心したのは彼が、そんな百合奈の思いを真っ向から受けとめていることだ。
百合奈のことを真剣に思っているのが、端から見ていて伝わってきた。まだ中
学生でも女として認め、恋人として扱っている。“男”であることを隠そうと
しないが、あからさまには出さない節操を持っていた。
「兄」になることがあっても、彼氏……百合奈に彼氏ができた。
(百合奈より、私のほうが絶対に上なのに)
ちっという舌打ちの音は自分の耳に入っていない。
別荘にやってきた男を意識し、妹をライバル視している。一目惚れしたわけ
でもなく、体裁を取りつくろって勝手に張り合っているだけだ。
夏姫だって、彼氏がいれば別荘に誘っただろう。しかしながら気の合うクラ
スメイトはいるが、そこどまり。夏姫は今まで一度も男と付き合ったことがな
い。
(胸だって、お尻だって、上よ)
百合奈の子供っぽい姿が浮かぶ。風呂あがりに鏡に映した裸身を重ねる。誰
が見たって、自分が上。上のはずだ。
陸上で鍛え、無駄な贅肉はない。それでいて付くべきところには女の肉が付
いている。バストサイズもヒップサイズも妹を越えている。均整の取れたプロ
ポーションに自信を持っている。
それでも夏姫はわかっている。妹のほうが圧倒的に「可愛い」と。可憐な、
ぶりっこ一歩手前のコケティッシュな笑顔が男を魅了することも。
体格は中学生らしく華奢。それなのにバストもヒップも充分にふくらんでい
る。実際、ブラジャーのカップは姉と変わらないのだ。トップは夏姫のほうが
大きいが、カップというのはトップとアンダーの差で決まる。だからこそ、姉
妹でほとんどサイズの差がない。見かけのボリュームも、下手すれば妹に負け
てしまう。
(だから、もう彼氏できちゃったのかな)
いかに肉体で勝負したところで、彼氏がいれば百合奈の勝ち。彼が「兄」な
らば負けを認めずに済むが、今日観察しただけでもそれはないとわかる。
ため息を漏らし、頬に重ねていた手を滑らせた。首をかすめ、タンクトップ
を大きく押しあげているふたつの丘に触れた。
「んっ、あっ、ああぁ……」
別荘のベッドの上に、甘ったるい声を響かせる。
夏姫が自慰を知ったのは、かなり前。今ではすっかりと慣れ、肉体の感度は
良好。性感の発達も妹に負けるはずないと思っている。
胸のふくらみにそっと触れているうちに、自分の甘い声を聞いているうちに、
思い当たった。
(まさか、今、百合奈は……)
ほてってきた気分が、すうっと覚めた。
妹が“お兄ちゃん”をわざわざ別荘に招待したのは、ここならばセックスが
できると判断したからではないだろうか。都会の喧騒から離れて、静かな別荘
というロマンチックなシチュエーションで結ばれる。いかにも百合奈の考えそ
うなことだ。
(今、“お兄ちゃん”に抱かれてるの? エッチなこと、されてるの?)
妹たちがセックスしているイメージを脳裏に浮かべる。でも、バージンであ
る夏姫には、裸の男女がなにかしら絡みあっているぼやけた像しか作れなかっ
た。
はっきりわからないのがもどかしい。もどかしさが熱となり、自慰で開発さ
れた体がどんどん熱くなってくる。
「わ、私だって、抱かれたい。セックス、セックスしたい」
言葉に出すことで、欲望の炎が体内に燃えさかっていることがはっきりする。
体の疼きを癒したくてたまらない。慰めずにはいられない。
タンクトップの胸に手をしっかりと重ねた。ちょっと身を揺らすだけでゆさ
ゆさと揺れるバストを握り、揉みたてていく。
「んっ、あっ、ああっ、気持ち、いいっ。胸、ああ、こんなに感じる」
陸上部で走っているとき、スポーツブラで押さえつけているがやっぱり揺れ
るものは揺れてしまい、男たちの目を集めてしまう。嫌悪を抱くときもあるが、
誇らしく思うときもある。イヤらしい目線も、賛美の目線も、男に注目されて
いるのが嬉しい……。
そしてオナニーに耽る今は、この胸を誰かに揉んでほしい気持ちが狂おしい
ほどに高まっている。
夏姫の胸の発育がいいのはオナニーのたまものでもあった。ふくらみを丹念
に揉みしだき、励起した乳頭をまさぐることで女性ホルモンの分泌が活発にな
り、その結果、バストがますます豊かにふくらんできていた。
「ほら、ほら、好きなんでしょう。揉みたいんでしょう」
知り合いの男の顔を思い浮かべる。学院でちらちらと視線を向けてくる男子
へ、誘惑するようにささやく。揉んでいた手を下乳に合わせ、ぐっと突き出し
てみせる。
もし本当に男が見ていたら、引き寄せられるはず。でもここは、別荘の部屋。
いるのは夏姫ただひとり。
胸に男が寄ってこないとなれば、もっと男を引きつける場所を探る。夏姫の
右手が短パンの上から秘部に重なった。
すでに熱く息づいているのが、布を挟んでも感じられる。淫らな液でうるみ、
いつ吐き出そうかというほどに昂っている女の性器。
短パンをずらし、ショーツの上から陰唇をまさぐる。クレヴァスが割れ、熱
い蜜液が染みこんでくる。
ショーツもずらそうとして、もどかしくなり、短パンごと思い切りよくすぱ
っと脱ぎ捨てた。
まとうのはタンクトップだけ。下は生まれたままの姿になって夏姫は孤独な
愛撫にのめりこむ。
秘唇をさすり、とんとん叩き、引っかくようにこする。穴の奥が熱く滾るの
にうっとりと目を細め、股間にひろがる愉悦に我を忘れかける。
いつしか夏姫の脳裏には、今日初めて会った百合奈の彼氏の像が鮮明に浮か
んでいた。同じ別荘にいる男に、淫らにさかった自分を見せたい。欲望に燃え
る女を前にして、どうなるか知りたい。オスになった男に、抱かれたい。
今、この部屋に呼びつけたらどうだろう。あられもないオナニー姿を見れば、
理性を失って飛びかかってくる。一匹の野獣となって、恋人の姉を本能のまま
に犯しぬく。
「ああっ、ああっ」
想像上のオスに恐れおののきながら、危うい悦びに震えあがる。
びっしょりと濡れた陰唇のあいだに指を差し入れ、ヌチュヌチュと淫らな音
を奏でる。浅く挿入し、ビブラートさせればそのままイッてしまいそうな快美
感に見舞われる。
(もっと深く……もっと太いオチン×ンが入って、ああ、バージン破られちゃ
う。ああ、私のバージン、私のバージンが)
誰が破るのか。誰に捧げるのか。まったく見当がつかない。憎からず思って
いるクラスメイトに告白され、付き合うようになるかもしれない。ひょっとし
たら、百合奈の“お兄ちゃん”を奪って恋人同士になるかもしれない。
どんな想像も取りとめなく、現実味がない。だからこそ自由に“男”を作り
だし、バージンを奪われるイメージを燃えあがらせる。
指が愛液をかき出し、量感あふれる太ももを伝ってシーツを濡らしている。
流れる恥液が淫臭となって空気に混じり、夏姫の官能をさらにヒートアップさ
せる。
「あふ、ふは、はっ、はあっ……。もっと、もっとよ。もっと感じたい、感じ
たいの」
欲望を口走り、指の動きを早める。
夏姫は行くべき高みへ向かっていた。膣口を探りながら、もう片方の手を割
れ目の上部へ添え、ぷっくりと膨張している肉芽を揺らす。
「んあああっ!」
快楽の肉豆は夏姫の望む以上の快楽を爆発させ、一瞬背中が浮きあがった。
しかしまだ、イッていない。
今の小爆発で、最後へ飛び立つための一撃をどうすればいいかわかった。あ
とはその一歩前まで、気持ちよく進んでいくだけだ。
「ア、ア、ア、アアッ。い、い、いい。イク、イクの、イキたい、ああッ、私、
このまま、あっ、ああぁ」
愛液で濡らした指先でクリトリスをそっとこねまわすように刺激し、膣には
浅く指を出入りさせる。心地よいパルスが走るたびに全身が愉悦に溶けていく。
手を動かすだけでなく下腹も揺らし、リズムを合わせて快楽をふくらませて
いく。時折り胸も揉みしだき、全身の性感を確かめながら、夏姫は絶頂への傾
斜をぐんぐんと上っていく。
視界が真っ白に輝く。なにもイメージできず、ただただ快美に全身が揺さぶ
られ、ぐぐっと持ち上げられる感覚に包まれた。
「イクッ!」
最後の声は掠れて、おとなしく響いた。
だがその直後に訪れた快楽は絶大で、夏姫の性感を焼きつくし、呑みこんだ。
半裸の身を折り曲げ、悶えくねった。ぶるるっと大きく震え、口を半開きに
したまま硬直し、なんども嵐に揉まれたあとでばったりとあお向けた。
(…………こ、こんなに、ここで……。あ、ああ、感じる、なんて)
頭で考えられたのはそこまでだった。睡魔の訪れに気づくことなく意識がブ
ラックアウトし、股間からはしたなく愛液を漏らしたまま夏姫は深い眠りに引
きずりこまれた。
(終)