「や、やめ…」  
 揺れる電車の中、ひな子が叫びを上げようとすると背後から  
男の手が口を塞ぐ。  
「ム…グゥ」  
 塞がれたのは口だけではない。腕、脚もガッチリとした幾人  
もの男たちの手でホールドされてしまった。  
「昨日みたいに暴れられちゃ困るからな」  
 聞き覚えのある声。昨日、ひな子のお尻を撫でさすった男の  
声だった。その時は大きな声で叫び、その場から逃げだそうと  
する男の上着を掴んで破いたのだ。  
「高かったんだぜ、あの背広」  
「俺たち痴漢の仕事服だもんな」  
 通勤、通学の時間帯に私服は目立つ。会社努めではなくとも  
獲物を狙う時間帯を考えれば背広が迷彩としてベストなのだ。  
「お返しにタップリ遊んでやるからな…」  
 革鞄から小さなハサミを取り出す。漫画のようなネコの形を  
模した児童用の可愛らしいものだが、身動きのとれないひな子  
にとっては凶器にも等しかった。  
 …ジョキッ…。  
 スカートの小さな切れ端がひな子の目の前にヒラヒラと見せ  
つけられる。  
「ン…ンンッッッ!」  
「涼しい涼しい、クールビズな制服にしてやるからな」  
 ハラッ…。  
 けして安くない布地が汚れた床へ消えていった…。  
 

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