「ほらほら見てよ、こんなのありえないよねー」  
「晶ちゃん、これはアニメですから」  
 麻雀同好会の部室が、いつにも増して騒がしい。といっても牌のちゃらちゃ  
らする音はなく、モニターに見入る三人が黄色い声をあげているだけだ。俺は  
その後ろから彼女たちの背中と映像を目にしている。  
 液晶画面に流れているのは、晶が録画している深夜アニメ。日本の麻雀人口  
が爆発的に増え、女子高生による全国大会が開催されているという設定の、い  
わゆる萌えアニメだ。わざわざレコーダーからデータを引っ張り出して持って  
きたのだからさぞかしファンかと思いきや、晶は画面をときに指差し、愚痴っ  
ている。綾がなだめ、みづきはアニメの中身に気を取られている。  
「だいたい、女子高生が麻雀して、脱がないのが変」  
 きっぱり言い切った晶に、綾もみづきも無言。  
「脱ぐのが普通、ってのもおかしいだろ」  
 俺が割りこみ、ふたりの胸の内を代弁する。  
 ここ、月浪学園で麻雀同好会を作ろうとした晶は、みづきと綾に声をかけ、  
さらなる仲間を集めるのに脱衣を餌にして麻雀勝負を仕掛けた。俺がその餌に  
釣りあげられる形でメンバーに加わり、同好会が成立するに至った。もちろん、  
脱がせるだけの腕を見せた。  
 三人三様の魅惑的なヌードを楽しんだ俺が言っても説得力に欠けるかもしれ  
ないが、脱衣なんて時と場所を選んでのことで「普通」のはずがない。それよ  
りも“必殺技”とかそっちへつっこめよと言い足そうとしたら、  
「あら? 普通よ、ねえ」  
 晶がくるっと、画面から俺へ向き直り、微笑混じりに言ってくる。ふたつの  
瞳が色っぽくうるんでいて、見慣れているはずなのに、コケティッシュな相貌  
に胸がどきどき高鳴ってしまう。  
 綾もみづきもこっちを向いた。やっぱり瞳がうるんでいる。悩ましげな色香  
を醸し出している。健全なアニメを見ていたはずなのに、どうしてこんな顔を  
してる?  
「今日だって、これから私たちに勝って、脱がせるつもりなんでしょ」  
「えっと……」  
 どうやら俺は勘違いしていたらしい。晶だけでなく綾もみづきもアニメの健  
全さを“おかしい”と思っていたようだ。いや、健全な女の子を見せられたこ  
とで、自分たちがどのような女であるかを見せたくなった、というところだろ  
う。三人とも男の前で服を脱ぎ、下着も脱ぎ、大事なところまで露わにしたこ  
とがあるのだから。  
「そううまく勝てるとは限らない。みんな、なかなか強いし」  
 怪しい雰囲気に呑まれそうになって、ささやかな抵抗を試みるが、  
「ずいぶん弱気だね〜、キミらしくない」  
 みづきがくすくす笑う。タレ目に甘えの光がある。  
「貴方のほうが、強いですよ」  
 綾は素直に言ってくる。素直なのは欲にも。表情は穏やかながら、しっとり  
とした色気をまとっている。  
「見てるよりも、打つほうがいいね」  
 晶が声をはずませると、みづきも綾もこくりとうなずく。  
 俺もうなずく以外の選択肢がない。  
 はじめれば、俺も本気になる。この部室では“普通”の麻雀を繰りひろげて、  
三人ともに裸に剥く。  
 勧誘のときならば、剥いたところでおしまい。だが部活では、その先がある。  
触れて、いじって、つながって、性の快感を大いに貪りあう。あられもない声  
をみづきも綾も晶も響かせる。肌が粘液にまみれる。  
 誰の興味も引かなくなった映像を切って、雀卓に四人がつく。  
「さあ、私たちの麻雀をしましょう」  
 晶の高らかな宣言とともに、今日の勝負が開始された。  
 
(終)  
 

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