「どのくらいで戻るの?」  
 だいちが出かける時、あおいはいつも決まってこう尋ねる。  
 その理由を教えたこともないし、だいちが聞いてきたこともない。  
 
 おそらく、だいちはあおいが彼の帰りを心待ちにしているものと思っているのだろう。  
 そして、それも完全に間違いというわけではない。  
 事実、最初のうちは本当にそうだったのだから。  
 
「今日は、ちょっと遅くなると思う」  
 今でもそうだと思っているのか、だいちは少し申し訳なさそうにそう言った。  
 
 そう思ってくれているなら、その方がいい。  
 そう考えて、あおいは寂しげな表情を作って、いつものように声をかけた。  
「気をつけてね」  
 決して笑みなど漏れぬように、細心の注意を払いながら。  
 
 だいちが出かけてから、約一時間。  
 その間に、あおいはだいちに頼まれたような仕事を大急ぎで片づける。  
 早く始めたいのはやまやまだが、だいちはなかなか気紛れで、  
 時々、というよりしょっちゅう一時間程度で戻ってくることがあるからだ。  
 
 例えば、「近くで薪を拾ってたら、荷物がいっぱいになっちゃったから」とか。  
 あるいは、「珍しい魚が釣れたから、新鮮なうちに食べようと思って」とか。  
 
 そんな理由でしょっちゅう戻ってくるので、出かけてから一時間くらいは、絶対に気が抜けない。  
 
 そして、「夕方までには帰る」と言われた場合は、最初からあきらめた方がいい。  
 彼の言う「夕方まで」は掛け値なしに「夕方まで」の全ての時間を含むため、  
 いつ帰ってくるか、全く見当がつかないのだ。  
 
 従って、あおいがだいちの目を全く気にせずにいられるのは、彼が「遅く帰ってくる」とか  
「何日か出かけてくる」といった日の、出発して一時間くらい後から、夕方過ぎまでに限られる。  
 
 もちろん、その時間にあおいがすることは一つだった。  
 
 あおいは不満だった。  
 
 だいちとあおいは一つ違いだが、二人とも中学生である。  
 中学生といえば、性的な事柄への興味がもっとも強くなる時期といっても過言ではない。  
 そんな年頃のあおいが、だいちという異性と一つ屋根の下で暮らしていて、「そういうこと」をしたくならないはずがなかった。  
 
 だが、あおいはそれまでずっと我慢してきた。  
 
 女の子の方からそんなことを言い出すことへの気恥ずかしさ。  
 そして、実際にそれを求めて拒絶された場合の、それ以降の気まずさ。  
 
 そんな理由から、あおいは二週間以上もの間、ずっと我慢を続けてきたのだ。  
 
 とはいえ、性欲そのものを、二週間以上もの長きにわたって抑えられるはずもなく。  
 今では、だいちが家を空けている際の自慰は、あおいにとって「いつものこと」になっていた。  
 
「まだ……帰ってこないよね」  
 念には念を入れて、もう一度だいちが戻ってこないことを確認する――といっても、あおいに見える範囲はそう広くはないので、ほとんど気休めのための儀式に過ぎない。  
 無事にその儀式を済ませると、あおいは自分のベッドの下に隠してあった「あるもの」を取り出した。  
 
 最初にあおいが自分を慰めた時、彼女が使っていたのは自分の指だけだった。  
 けれども、何度か繰り返すうちに、それだけでは物足りなく感じるようになって、いろいろな「道具」を試すようになっていた。  
 
 あおいが真っ先に思いついたのはキノコだったが、この島にあるキノコはどれもこれも傘が広がっていて使いにくい。  
 木の枝や木の皮、木の棒などをそのまま使うのは論外だし、ベッドの柱も表面はあまり加工されていないため向かない。  
 野菜なら大きさ的にニンジンがいいかとも思ったが、やはり入れるのは少し怖いし、来るべき日のために、一応処女は守っておきたい。  
 
 いろいろと試した結果、あおいが最後に辿り着いたのは、竹とロープだった。  
 
 籠の材料としてだいちが集めてきた竹の棒を一本失敬して、節の部分を痛くないように少し削ってなめらかにし、その片方の端にロープを巻きつけたもの。  
 
 これが、あおいが今愛用している「道具」であった。  
 
「んっ……」  
 下着を脱ぎ、脚を開いて、「道具」のロープの巻いてある方を  
 ゆっくりと自らの秘所に押し当て、軽く動かす。  
 ざらざらしたロープで大切な場所を傷つけてしまわぬよう、  
 こちらの側を使う時には、あおいは細心の注意を払っていた。  
 と言っても、それも最初の間のみで、快感のボルテージが上がっていくにつれ、  
 すぐにそんな些細なことは彼女の意識から消え去ってしまう。  
 もっとも、そのころにはすでに十分な量の潤滑液が行き渡っており、  
 実際危惧する必要など余りなくなっているのだが。  
 
 しばらくその行為を続けた後、あおいは一度手を止め、  
 おもむろに「道具」の先端を自分の目の前まで持ち上げた。  
「すごい……こんなに濡れてる」  
 自らの液体で妖しく輝くそれを実際に目の当たりにすることで、  
 自分が何をしているのかを再確認する。  
 それも、扉一つない洞窟の中で。  
 
 もし、今この瞬間に、だいちが帰ってきたとしたら――?  
 
 もちろん、その可能性は限りなく低いし、低くなるように気をつけてもいる。  
 しかし、その可能性はゼロではない。  
 
 万一、冒険を早めに切り上げただいちが、あおいのこんな姿を見たら――どうするだろう?  
 
 

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