木々のざわめきにまぎれてその音は届いた。  
息を殺して長い長い時間がたった。  
火の番を離れ、森の奥へと足を踏み入れたのはいつのことだっただろう。  
「 …  …… ……」  
はじめは空耳だと思った。  
馬鹿な妄想だとも自分を小突いてみた。  
現実にその光景を見るまでは。  
「う…ああ……んっ」  
 
そこにあの子がいた。  
 
「…シャアラ……だ、めっ…あっ」  
「メノリ…もっと、いっ…あん!」  
「嫌…やめて、ハワー…ド」  
 
ルナが、縦に揺れていた。  
 
「う…ああ、だめ、だめだよぉ、止まんないよぉ」  
一際大きなその木に寄り添い、ルナは自分の身体を上下していた。  
自分で、秘所に手を当て、音を立てていた。  
地面には脱ぎ捨てた上着と、脚を覆っていたものが生々しく落ちている。  
「だめぇ、だめ、だめぇ、だめだめぇ!……」  
時折はさむ、覚えのある名。  
こんな状況で聞きたくはなかった名前。  
今のルナの、相手。  
「い、っ、あっ…はっ、あああ…おねが…っ」  
彼女に限りなく近い場所で、俺は胸を手で抑え佇んでいた。  
目を、耳を、五感の全てで彼女を感じていた。  
「いっ、あ、あ、あ、んっ!、あっ、」  
それまで知らないふりをしてきた感情が、急速に膨らんでいくのが判る。  
「だめ、いっちゃ…うっ!来て、…いっ…しょに」  
震えだした身体が、止まらなかった。  
両手で肩を抱いたその時、  
「カ…オル……!」  
 
どくん。  
 
「う…ああああああああああっ!」  
ルナはぺたりとその場に沈んだ。  
その彼女を追うように俺も崩れ落ちていく。無様に音を立てた俺をルナは見た。  
 
「…………………」  
座ったまま、しばらく無言で視線を交わした。  
ルナは服の中に手を入れたまま。俺は崩れ落ちた体制のまま。何一つ身動きせず。  
なんとも間抜けな時間が過ぎた。  
ふと我に気づき、さっと正座しなおす彼女。俺もつられて正座する。  
これ以上ない気まずい雰囲気が流れる。  
「…え…と……見てた…んだよね」  
ルナがかろうじて言葉を出した。  
俺は顔が赤くなるのを必死でこらえ、一度、頷く。  
「今の……聞いた?」  
「何が」  
「…………最後のあれ」  
「……………………………………」  
今度は、隠せなかった。  
真っ赤になって立ち上がる俺。それを見るや否や、服の袖を、ルナが強引に引っ張った。  
「な、何をする!」  
思わず大声を出した俺にルナもキレる。  
「こんなとこ見といて、そのまま逃げるなんてずるい!」  
「こんなとこでする奴がいるか!」  
「じゃーどこでしろっていうのよ!」  
「バカ離せ、危な……うわっ」  
振りほどこうとする俺はバランスを崩し、転んだ。  
ちょうど、俺がルナを樹に押しつける形で、止まった。  
 
自分の胸で、火照った顔で上目遣いに視線をよこすルナがいた。  
興奮しているのが、服の上からでもよく判った。想像していたぬくもりよりずっと熱かった。  
「……カ、カオル……その、えーと」  
彼女からは、たぶん俺の無様に赤らめた顔がよく見えるのだろう。  
そう思った瞬間、ルナが背伸びをした。  
「……」  
「……んっ」  
はっきりと判った。俺の中でなにかがはじけた。  
衣服の上から強引にふくらみを押し当てる。ルナが一瞬、硬直した。  
それが解けるか解けないかのうちに腰をからみつかせ、刺激する。  
「あっ、ちょっ……カオル、服……」  
胸の高鳴りでもう何も聞こえない。  
むりやり服をまくしあげ、その下の白い下着を露にする。顔をうずめた。  
ふわふわとした感覚を夢中でむさぼる。  
「んっ、…ああ…そ、そんな急いでいじらないでよぉ…」  
俺は唇を吸い付けたまま、ルナの下半身に手を伸ばした。  
温かみと湿りけが混じった布地をなぞる。何度も執拗に。  
「いっ…たい…いた」  
腰が窮屈だった。俺はもどかしくも穿いてるものを脱ぎ捨て、自分のものを押し付ける。  
「!やっ、待って!? ちょっと、カオル…?」  
 
「我慢できない」  
荒い呼吸がルナの嬌声をさえぎる。俺は抵抗しようとする彼女の腕を抑え組み敷こうとした。  
我慢できるはずもない。爆発しそうな欲求を溜め込んでいたのは彼女だけではないから。  
「カオル……待って」  
明らかにルナは困惑していた。その小さな抵抗を感じていっそう俺の動きが激しくなる。  
俺は、ただ快楽を求める獣に成り果てていた。  
そんな俺に、彼女は一瞬、諦めたかのように目をつぶり、続いて、  
「待ってって、言ってるで……しょっ!」  
俺の怒張したものを膝で蹴った。  
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」  
 
「ったく、これだから男の子って!  
 カオル! あたしは逃げたりしないからがっつかないで。  
 相手のこと考えて、自分だけ気持ちよくなろうと思わないの!  
 あたしだって、初めてだからよく判んないのに……単独行動は禁物よ、言われたでしょ?」  
地獄に叩き落された俺に、ルナの追い撃ちが降りそそぐ。  
そして、うずくまる俺に四つん這いですがりついたと思うと、痛みを受けてなお硬度を失わないものに、  
「ずっとこんなにしてるから悪いんだよ」  
ルナの唇が触れた。  
「う……ぐあっ!」  
口の中に沈んでいくものを見て、背中に電撃が走る。  
そこに指が添えられ、舌が動き始め、知らない感覚で頭が埋め尽くされる。  
懸命に動くルナと彼女の髪をめちゃくちゃにかきまわすことしかできない俺。  
ルナは潤んだ瞳でそれを弄ぶ。新しいおもちゃを見つけたときのようにいじりまわす。  
ほとんど間をおかず俺は欲望を吐き出した。  
 
白い飛沫がはじけ、ルナの顔を、胸を、服を汚していく。  
「す……っごいんだぁ、あははっ、まだ震えてるね」  
いたずらをした子供のような屈託のない笑顔。  
それを呆然と眺める俺を尻目に、彼女は立ち上がりはだけた着衣を全て外した。  
少し恥ずかしそうに、それでも手は後ろ手に回して。  
今まで妄想でしか見ることのできないルナの裸が目の前にある。  
「…次は、一緒にいこ。ね?」  
なんとなく、抱きしめたくなる表情だった。  
 
「んっ…ぎっ、い、痛……」  
どれくらいまさぐりあって、どれくらい互いを濡らしたのかは判らない。  
俺もルナも火のように猛った身体を今まさに重ねようとしていた。  
「へっ、平気だから…そんなに痛くないかもだから…いいよ、動いて」  
目をつぶったままのルナを見て、俺は腰をわずかに反らせる。  
「大丈夫か?」  
「…みたい」  
茜色に染まった頬に顔を埋め、俺は動いた。  
「ひっ! いっ、あっ、カオル、カオル…!」  
胸と胸がこすれ、頬と頬がすりあい、俺はルナを、ルナは俺を一番近くで感じた。  
「いいっ、いいよぉ、気持ちいい…あああぁっ!」  
唇と唇。重ね合わせる。何度も何度も。  
狂ったように腰を動かし続ける。  
「だめ、だめっ、きちゃう、きちゃうよぉ……! だめぇぇぇえっ……!」  
「うぅぅっ! ル…ナ……っ!」  
「ふああぁぁぁあああぁああっっ!!」  
 
一際大きいその木に、俺たちは並んで座っていた。  
なにもせず、少しだけ冷えた手を繋いで、ただ座っていた。  
「……へへー」  
「何を笑っている?」  
俺はルナの方を向いて言った。  
「あのね、本当は、結構覚悟してたんだ。  
 ほら、こーゆーのってよく期待外れだって聞くじゃない?  
 夢見ると裏切られるとか、独りのときのほうがずーっといい、とかさ。けど」  
「…………」  
黙ってしまった俺に、ルナがにっ、と笑いかける。  
 
「普段じゃ絶対見れない、あせったり、うろたえたりしてる誰かさんの顔が見れて、面白かった」  
 
 

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