『ねぇメノリ、もっと貴女のこと、知りたいの』  
 
 艶やかな唇がゆっくりと近づいてくる。  
 しっとりと汗ばんだ肌と肌が触れ合い、メノリは魅入られたようにうっとりとルナを受け入れて…えっ?  
 
(ちょ、ちょっと待て!)  
 
 メノリは自分の夢に突っ込みつつ、ハッと飛び起きた。まだ胸がドキドキしている。  
 
「また、この夢か」  
 
 乱れた髪を掻きあげながら、ため息をつく。隣を見れば、当のルナが此方の気も知らず、規則正しい寝息を立てている。  
 月明かりに、唇だけが鮮やかに紅い。先ほどの夢を思い出すと、また鼓動が早まるのを感じた。  
 
 皆の寝息を窺い、一人外へ出る。火照った体に夜風が心地よい。  
 “大いなる木”の幹に身を預けると、汗ばんだブラウスが背中に貼りつく。  
 
(ルナ…どうしたらいいんだろう)  
 
 メノリは考える。初めての心を許せる友達。でも、自分の気持ちがそれだけでないことに気づいている。  
 何をしていても、視線がルナを追ってしまう。  
 明るい笑顔、形の良い耳元に光るピアス、近頃急に目立つようになってきた胸、タイトスカートから伸びるスラリとした太腿…  
 
(ああっ、もっとルナに触れたい…触れて欲しい)  
 
 たまらなくなって、右手がスカートの中へ潜り込んだ。下着が湿っている。  
 
 あの夢を見たあとは、いつもこうだ。躰の芯が疼いて、自分を慰めなければ収まりがつかなくなってしまう。  
 見つからないうちに、早くイッてしまおう。  
 そんな打算が働くまでに、このところ同じ行為を繰り返している。  
 もどかしげに下着を膝までずり下ろすと、細い指が慣れた動きで秘裂を掻き分けて奥へ進む。  
 クチュっ。もう濡れた音が耳に届いて、躰がカッと熱くなる。  
 月光の下、メノリは淫らに腰をくねらせ、激しく指を遣った。  
 
「うっ…くぅ…」  
 
 徐々に噛み締めていた唇が開き、抑えきれない微かな吐息が漏れる。  
 悩ましげに眉根を寄せて快感を貪る姿は、いつもの生真面目さからは想像できないほど奔放だ。  
 
(ルナっ…ルナっ…)  
 
 先ほどの夢の続きを想いつつ、自らの指技で弱点を効果的に攻めていく。  
 ピチャっ、ピチャっ…湿った水音が、指の動きに合わせてどんどん激しくなる。  
 早くも、痺れるような絶頂感が背筋を駆け上ってきた。  
 
「んっ…ん…ああっ」  
 
 一際甲高い声を上げて達しようとしたその時、ガサッと足音が聞こえた。  
 文字通り飛び上がるほど驚愕したメノリは、慌てて下着を引き上げると、かすれた声で誰何した。  
 
「だ、誰だっ」  
「ご、ごめんなさい。私、喉が渇いて起きたの…そしたら、声が聞こえて」  
 
 おずおずと現れたのは、泣きそうな顔のシャアラであった。  
 
 見られた? 頭の中が真っ白になりながらも、メノリは声を絞り出す。  
 
「こ、これはだな…」  
「ううん、私誰にも言わないわ」  
「いや…」  
「メノリが病気だなんて」  
「…え?」  
「みんなに心配かけないように我慢するなんて、偉いわ」  
 
 よく分からないが、シャアラは勘違いしているようだ。おそらく痛む下腹部を擦っているようにでも見えたのだろう。  
 カマトトぶっているのでは、とも思ったが、感激のあまり涙目になっている所を見ると、どうやら本気らしい。  
 メノリはホッと胸を撫で下ろした。が、悪気は無いにしろ、シャアラはいずれ誰かに喋るだろう。  
 
(今のうちに、共犯にするしかなさそうだな)  
 
 何より、昇り詰める寸前でお預けを食った躰が、火照ったまま鎮まらない。  
 
「シャアラ、頼みがある」  
「なあに?」  
「こっちへ来て…擦ってくれないか」  
「ええ、いいわ」  
 
 何の疑問も持たず歩み寄るシャアラを、メノリは抱きかかえるようにして、その手をスカートの中へ誘ってゆく。  
 シャアラの温かい手が下着のゴムを潜り、薄い恥毛を撫でるようにして秘所へと向かう。  
 
「メノリ…毛、はえてるんだね」  
「シャアラはまだ、だったな」  
 
 さすがに気恥ずかしい二人。視線を外しながら囁きあう。  
 
 中指が、柔らかい肉襞を押し分けて底辺にたどり着いた。  
 
「あっ、なんか…ヌチョヌチョしてる」  
「ああ…そういう病気なんだ」  
 
 ビクッと引っ込めようとした手を、上から押さえつけて動かしてやる。  
 
「んっ」  
 
 指先が敏感な肉芽に触れ、思わず腰が引けた。シャアラも不安げに動きを止める。  
 
「い、いいんだ…ゆっくりと、優しく…あっ」  
「こ、こう?」  
 
 メノリのリードに従って、緩やかな往復が始まる。  
 しばらくするとコツを掴んだようで、メノリの手が離れても止まることなく動き続けた。  
 
「そう、いいぞ…ああっ…止めないで…んっ」  
「大丈夫? なんだか苦しそうだよ」  
「いっ…いいんだ…はぁっ」  
 
 少し背の低いシャアラの肩に顔をうずめて、途切れ途切れに熱い息を吐く。  
 何も知らないシャアラにもその快楽が伝わったのか、顔を真っ赤にして懸命に指を蠢かす。  
 
 ぎこちない動きだが、メノリにとっても初めての他人の愛撫である。  
 予想外の刺激に早くも絶頂の気配を感じたメノリは、シャアラの柔らかい体を抱きしめて切羽詰った声を上げた。  
 
「ああっ…シャアラっ……も、もう…っ!」  
 
 一瞬、太腿がギュッとシャアラの手を締め付け、それからぐったりと弛緩した躰がしなだれかかる。  
 
「…ふうっ…ああ…」  
 
 時折、絶頂の余韻を味わうように躰を震わせながら、シャアラの耳元で絶え入るような吐息を漏らす。  
 そんなメノリを黙って抱きかかえていたシャアラが、泣きそうな声で呟いた。  
 
「どうしよう…私も、伝染っちゃったみたい」  
 

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