この星に残るということに依存はなかった。  
 もともと集団の中で生きるのは苦手なので、むしろこのような閉塞的な生活の方が落ち着くということもある。  
 まあ、散歩ぐらいしかすることがないというのは、前までの生活と比べれば物足りないが、皆が安全に生きて  
いけるのなら何も問題はない。  
 空を見上げれば青空、森の中の空気は肌寒いが、歩いていれば些細なことだ。  
「あー、カオル」  
 やや反響する声に振り向けば、予想通りにルナが小走りで向かってきている。  
「・・・・どうした」  
 何かあったのかと周囲を警戒するが、張り詰めたものなど何も感じない。  
「え? やだ、別に何もないよ? ちょっと話でもしようと思っただけ」  
 俺の眼差しに真剣なものでも見たのか、ルナはおかしそうに笑っている。  
 そうか、そうだ。もうこの星で襲い来るものなどいないのだ。危険な動物はサヴァイヴに管理されて、この周囲には  
生息していない。更に万全のため、ドローンが見回りをしている。  
「・・・・そうか」  
 この星は、もう安全なのだ。  
「それで、カオルは何してたの?」  
「俺は・・・・散歩だ」  
 それしかやることがないというのは、告白するのにやや抵抗があったが、嘘をついても仕方がない。  
「そっか、ふふ、こんないいお天気だもんね」  
 無邪気な笑みを見せるルナに、少し・・・・・・。  
「・・・・一緒にどうだ?」  
 僅かな期待を裏切るように、ルナは困った顔をしてみせる。  
 
「そうしたいんだけど、ちょっとサヴァイヴに呼ばれてるの。ごめんね、また今度、誘って」  
「・・ああ」  
 そう言って、ルナは手を振りながら、森の奥に消えていった。  
「・・・・・・・・・・」  
 ルナ・・・・不思議だ、彼女は不思議だ。俺の心だけではない、全ての人の心を解すような・・・・誰の隣人でも  
あるような・・・・側に感じる。  
(・・・・ふ、何を考えているんだ)  
 苦笑して森を進んでいると、彼方から水の音が聞こえてきた。近くにある川の、水の流れに高低差があるところで、  
盛大に飛沫が上がっているのだろう。  
 目的もないのでそこを目指してみると、不意に人の声が聞こえてきた。  
「・・・・・・?」  
 こんなところに、誰かいるのか。  
 ハワードがアダムを連れて探検でもしているのだろうか。それとも、他にも誰か俺のように暇を持て余しているのか。  
 興味を惹かれて草むらをかき分ければ、微かな滝になっている、岩が部分的に露出しているところに、人が座るのに  
適している平たい岩があった。  
 そこに・・・・・・。  
「・・はぁ、あっ、あっ、あっ・・」  
 シャアラが服を脱いだ姿で、仰向けになっている。両足は蛙のように広げて、その足の間にベルが体を入れて、  
規則的な速度で腰を前後に動かしている。  
「・・・・・・・・・・」  
 そうか、二人は親しいというのは知っていたが、まさか既にこういう関係だったとは・・・・。  
 水の弾ける音が二人の起こす音を、ベルの息遣いを殺している。だがシャアラの声だけは、やや声の大きさが  
勝っているせいか、少しばかり耳に届いてくる。  
「・・あっ、はぁ、ベル、はあ、あっ・・!」  
 シャアラの声が一段と高くなった時、ベルが腰を引いて、シャアラの腹や胸に多量の精液を吐き出した。  
 うっすらと赤く染まっているシャアラの体に付着した精液の醸す厭らしさは、しかしシャアラの、ベルに  
向けた笑顔で消え失せた。  
(・・・・無粋だな)  
 
 ここで気付かれては、二人の方が気まずい思いをするだろう。そう思い、葉を鳴らすことなくその場を  
立ち去る。  
 しかし・・・・そうか、ああいう生き方もあるのか。  
 そうだ、この星に残るということは、この星で生きて死ぬ、ということだ。ならば、ベルやシャアラのように  
関係性を深めるのは、いいことなのかもしれない。  
 少なくとも、一人で生活しようとしている俺に比べれば。  
 サヴァイヴの提供してくれている生活施設に戻り、自分の部屋に戻ろうとしたところで、再びルナと出会った。  
「あ、カオル、散歩は終わったの?」  
「ああ・・・・」  
 と返事をしたはいいが、俺の目はルナの服に向けられている。  
「・・・・どうしたんだ」  
 ルナの服、特に背中の辺りに土が付着していて、鮮やかな髪も埃を含んでいた。  
「あ、これ? あはは、ちょっと転んじゃって」  
「・・・・そうか」  
 明るい笑顔を見せるが、ルナはいつも自分で問題を解決しようとする。それを見抜こうと目の奥を覗いたが、  
本当に大したことではないらしい。  
「あ、そうだ。今からお茶を飲むんだけど、一緒にどう?」  
「・・・・・・ああ」  
「良かった、じゃあ、行きましょ」  
 ルナに連れられて、部屋に招かれる。  
 皆の部屋はほぼ統一されていて大差はないということだが、ルナの部屋もサヴァイヴの言った通り、俺の  
部屋と内装に違いは見られなかった。  
 扉を閉めたルナは、ロックをして俺をベッドに座らせる。椅子は空いているが・・・・。  
 そんなことを考えていると、ルナは部屋の真ん中でおもむろに上着を脱ぐ。  
「・・な、何をしている?」  
 だが、ルナは俺の言葉が聞こえないように、続いてスカートを脱ぎ、ついには下着も脱いで、生まれたままの  
姿を晒した。  
 
「ちょっと、ね」  
 悪戯に微笑んだルナが歩み寄り、俺のすぐ横に膝を置いて、片足立ちの格好をする。目の側にはルナの胸があり、  
俺は直視することができない。  
「カオル、手、貸して」  
 ルナは俺の言葉も聞かずに俺の手を取り、その手を、自分の股間に持っていった。  
 指先が、ルナのものに触れる。そこは生温かい液で溢れていて、あっという間に俺の指を濡らした。  
「もうこんなになっちゃってて・・ほんとは自分でしようと思ってたんだけど、ねえ、カオル・・・・しよっか」  
 ルナのか細い息が耳に触れる。それは心臓の鼓動を高鳴らせるのに十分で、どんどん頭に血が上るのが分かる。  
「・・・・いや、俺は・・・・」  
 しかし、こういう経験のない俺が弱気な発言を漏らすと、ルナは微笑みを濃くする。  
「カオル、初めて?」  
「・・・・・・ああ」  
「ふふ。なら、いきなりは無理かな。まずは慣れないとね」  
 そう言うと、ルナは俺のズボンをまさぐり、チャックを開けて、既に膨張していたものを取り出す。そして自分で  
自分の股間に触れ、手を濡らしてから、その手で俺のものを包み込んだ。  
 電流の走るような感触が腰の下を駆け抜け、自然と口から呻き声が漏れる。  
「我慢、しなくていいよ。今回は慣らすだけだから、ね」  
 ルナはそう言い、今まで床を踏みしめていた足を上げると、俺を跨ぐような格好をした。俺の両肩に手を置いて、  
膝は両足の脇に置く。そうすると、胸が目の前にきて、視線を逸らすことができなくなってしまう。  
「・・入れるよ」  
 ルナはゆっくりを腰を落とした。指で俺のものを支えているため、ルナのそこに、俺のものはすんなりと  
入り込んでしまう。途端に心地良い窮屈さが襲い、背筋が震えた。  
 気付けば、ルナの顔が目の前にある。  
「ふふ、全部、入ったよ」  
「・・・・そ、そうか」  
 
 間近で満面の笑みを見せられ、目のやり場に困っていると、ルナがまた声を出して笑う。  
「どう? まだ、大丈夫?」  
「・・・・・・いや」  
 正直に言って、もう限界が近い。今まで感じたこともない感触は確実に俺を射精に導いている。ルナが体を微かに  
動かしただけで果ててしまいそうだった。  
「ふふ、そう」  
「・・・・・・すまない」  
「いいわよ、気にしないで。あ、でも今回だけだからね? 次は、そんなことじゃ駄目よ」  
 ルナがまたも、目の前で明るい笑顔を見せる。俺は苦笑して頷いた。  
「じゃあ、いいよ。はい」  
 ルナが言った途端、今までは包んでいるだけだったルナの中が収縮して、俺のものに刺激を与える。  
 今、そんなことをされれば、どうなるかは自明だった。  
「・・ルナ・・」  
 小さく名を呼ぶと、目の前のルナの顔が近付き、唇を寄せた。ルナは中を収縮させながら、俺の口の中に舌を入れ、  
戸惑う俺の舌を絡めて、歯の裏や粘膜を舐めた。  
 その中で、俺のものは震え、先から精液を吐き出す。緩やかに絶頂に押し上げられた俺のものは、心臓の鼓動と  
合わせるように震えていて、一鼓動のたびに精液を溢れさせた。それでも、ルナは唇を離さず、舌の絡め合いや唾液の  
交換を続けていた。  
 一時後、漸く射精を終えると、ルナがゆっくりと唇を離した。唾液の糸ができたが、ルナは気にせず、腰を浮かす。  
 射精後のため敏感になっているそこは、ルナが離れるという、それだけでも快感を覚えさせた。  
 ルナはベッドを降りると、ティッシュを取り、それを自分の股の間に挟んでから、俺のものまで拭ってくれた。  
「気持ちよかった?」  
 ルナの問いに、俺は頷くしかない。  
 
「良かった。あ、私はシャワーを浴びてサヴァイヴに会うから、これで」  
「・・ああ」  
 俺はまだ浮遊感のある腰に力を入れて立ち上がり、バスルームに消えたルナを振り返ってから部屋を出た。  
「・・カ、カオル・・」  
 唐突に名を呼ばれて振り向けば、そこには驚いた顔のメノリが立っている。  
「・・お、お前、ここで何を? こ、ここはルナの部屋だぞ・・」  
「・・・・茶に呼ばれた」  
 訝しいぐらいにうろたえているメノリを前に、妙に落ち着いてしまった俺は、咄嗟に言った。  
「・・・・そ、そうか、茶か・・なるほど、承知した・・」  
 ちらりとルナの部屋に目をやって、すぐにメノリに視線を戻す。  
「・・・・用事か?」  
 メノリは大袈裟に咳き込んだ。  
「・・ち、違う! 馬鹿を言うな! いくらなんでも、早すぎるだろう! わ、私は、ただ・・・・!」  
 と、言葉を詰まらせて、メノリは厳しい目で俺を睨む。  
「・・・・し、失礼する!」  
 そうして去っていったメノリの背中を見送りながら、俺は小首を傾げた。  
(・・・・・・妙な奴だ)  
 
      終わり。  
 
 

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