サヴァイヴに残るという私たちの決意を促したのは、多くの想い出と、サヴァイヴの強い願いがあったからだ。  
 人間の持つ可能性、そして私の中にある、可能性以上の可能性を示すナノマシンの調査がしたい。  
 もちろん、ハワードは大反対したけど、サヴァイヴは話し合いでそれを解決した。サヴァイヴにとって人間という  
生物は、もはや駆逐する必要性のあるものではなく、尊敬に値するものとなっていた。  
 それを聞いたハワードは、渋々と私に判断を委ねた。  
 他の皆も、色々と話し合った結果、私に最終結論を求めた。  
 私は・・・・・・この人数だ、意見が一つにまとまることなんてない。一つの選択が為された時は、必ず誰かの  
意見が潰されていて、その誰かは不服を感じながらも納得しようと努める。なら。  
 なら、例え意見を潰されたのだとしても、決して不服を感じず、幸せになれるような結論を下せばいい。  
「・・・・・・ルナ」  
 私に寄り添うアダムの声が、結局、私の結論を決めてしまった。  
 私たちの星に帰れば、必ず異性人として扱われ、普通の生活を送れなくなる可能性を持っているアダム。  
 もしもそんなことになった場合、この星で長い時間を一緒に過ごした私たちは、きっと悲しくなる。絶望する。  
 それを回避して、尚且つ皆の幸せを望むのなら、もうこれしかない。  
「・・・・この星に、残りましょう」  
 
 
 全ては、間違ってなんかいなかったはずだ。  
 この星に残る結論は、皆を驚かせたけど、私が説明をすると皆だって納得してくれた。  
 アダムは自分のせいだと思って悲しんだけど、シャアラやベルが慰めてくれた。そう、決してアダムのせい  
じゃない。これは、私たち皆が幸せに生きていくための配慮なのだ。  
 生活の全ては、サヴァイヴが配慮してくれる。食べ物にも困らない。寝るところだってある。お風呂やトイレも  
あって、自由な時間がある。生きていくのに苦労することもない。  
 それは厳しい生活をしてきた私たちにしてみれば、夢のような生活だったはずだ。  
 私は定期的にサヴァイヴの調査を受ける。それは苦痛なことじゃない。私も私のことを詳しく知りたいから、  
むしろ好都合だった。皆も時々、調査を受ける。調査といっても心理分析や体内のスキャニングといった、人間の  
考えたや思想といったことばかりで、誰も文句を言ったりしなかった。  
 そのはずなのに。  
 
 一日の大半をサヴァイヴとともに過ごす私が、施設内を歩き回れば、皆の幸せを見ることができる。  
「・・ぁ、はぁっ、あ、あっ・・」  
 甲高い声に導かれるように、開け放しの扉から中を覗く。  
 そこにはシャアラとカヲルがいる。  
 綺麗なシーツのベッドの上で、シャアラは四つんばいになっている。服は着ていない。カヲルはシャアラのお尻を  
両手で掴んで、淡々と腰を動かしている。シャアラの肌とカヲルの肌が触れ合うたび、ぱんぱんと弾ける音がして、  
それに合わせるようにシャアラが甲高い声を上げる。  
 カヲルは僅かに息を切らしていて、ぜえぜえと擦れた音が微かに聞こえる。  
 二人とも体中に汗をかいていて、カヲルの顔の汗が顎から落ちては、シャアラの背中に落ちていく。  
 もう何度目なのか、部屋は換気しているにも拘わらず、饐えた臭いがする。シーツは色の変化がありありと  
窺えるほど濡れていて、今もシャアラの、カヲルの男根が出し入れされている薄い桃色の割れ目から蜜がこぼれている。  
「・・・・シャアラ・・・・!」  
 カヲルが両手に力を入れると、シャアラのお尻の肉がいやらしく形を歪める。抜いた男根から白く濁ったものが勢いよく  
放出されて、シャアラの背中に降りかかった。  
「・・・・・・カヲル」  
 まだ息を切らしているシャアラが振り返り、涎の垂れた顔を見せる。その顔のまま、膝立ちのカヲルに寄っていき、  
震えている男根を優しく握る。シャアラは愛しいものでも見るような目つきで男根を扱き、先から溢れている液を舐め取る。  
 カヲルの体が小さく震えている。  
「・・・・気持ちいい? カヲル」  
「・・・・・・ああ」  
 その時、男根を頬張るシャアラの目が、私とぶつかる。  
 でもシャアラは何事もないように、指で男根を扱きながら、頭を動かしている。  
「・・・・・・・・・・・・」  
 私は何も言わず、その場をあとにした。  
 
 閉じられている扉の向こうは、シンゴの部屋になっている。ノックをすると返事があって、開けるとシンゴが机に向かって  
いる姿を確認できた。  
「どうしたの? 珍しいね」  
 シンゴは机の上の、小さくて複雑な部品を弄りながら聞いてきた。  
「・・・・うん。皆の様子を見ておきたくなって」  
「ふーん」  
 シンゴは、私の言葉なんて興味もなさそうに見える。  
「・・シンゴ、今は何をしてるの?」  
「ちょっとね、ハワードに頼まれて、即効性のショック銃をね」  
「・・ショック銃って・・・・そんな危険なもの・・・・」  
「大丈夫だよ、ちゃんと威力は計算してる。意識は失うけど、すぐに目覚めるし後遺症もない」  
「・・・・ハワードは、どうしてそんなものを?」  
「さあね。まあ、予想はつくけど」  
 軽く答えるシンゴは、設計に夢中で私のことなど見てもくれない。  
「・・・・シンゴ、今、幸せ?」  
「ああ、幸せだよ。ここには学ぶべき技術が山ほどある。僕は死ぬまでに絶対、サヴァイヴのブラックボックス部分を  
解明してみせるよ」  
「・・・・・・そう」  
 私は静かに頷いて、部屋を出た。  
 シンゴは最後まで、私のことを見てはくれなかった。  
 
 物静かな通路に、不意に凛と張った声が響いた。  
「はは、どうした、ベル? 情けないぞ」  
 今の声は、メノリだ。  
 バスルームからの声に導かれてそこを覗けば、予想通りにメノリが立っていた。メノリはいつもの制服姿で、  
ベルの横に立っている。  
「・・ぅ・・ぁ・・・・」  
 ベルが低い呻き声を発した。いや、ベルにはそれ以外の声が出せないようになっている。ベルは裸で、壁に  
固定されていた。その口には小さなボールが入れられていて、喋ることができないようになっている。体は、  
サヴァイヴの技術を使っているのか、青白く輝く光が手足や胴体にまとわりついていて、全く動くことが  
できないらしい。  
 メノリは、片手にベルの男根を握り、優しく握ったり離したりを繰り返している。  
「・・くそ、メノリ! 僕にこんなことして、ただで済むと思うなよ!」  
 急にハワードの声が聞こえて床を見れば、床にはハワードが転がされている。  
 ベルと同じく裸で、手は後ろに回されて手錠をはめられている。足にも同じものがはめられているせいで、  
ハワードも身動きが取れないようだ。  
 喚くハワードにメノリの薄笑いが向けられる。  
「黙っていろ、ハワード。お前の相手はベルの後だ」  
 そう言って、ベルの大きくなっている男根を握り、皮を前後に動かす。そうするとベルが低い呻き声を  
上げて、唇の端から唾液をこぼした。  
「・・・・くそ! くそ!」  
 ハワードがじたばたともがくけど、無意味な抵抗でしかない。  
「くく、男というのは妙な生き物だな」  
 メノリが唇を窄めて唾を落とす。その唾はベルの男根に落ちて、メノリ自身の手にもかかった。  
 ベルの肩に手を乗せているメノリが、薄い笑いを見せる。その笑みを象徴するように手の動きが早くなって、  
くちゅくちゅと唾液の鳴る音がする。ベルの口から呻き声が漏れて、それを楽しむようにますますメノリの  
手は早くなって、やがてベルの男根の先から精液が溢れ出た。  
「・・情けないな。こんなことでは、ルナを満足させることなど出来んぞ」  
 メノリはそう呟き、精液の付着する手を払う。精液の全てがメノリの手から離れることはなかったが、  
ほとんどが床に飛び散った。  
「・・・・さて、次はハワードだな」  
「・・・・・・くそっ!」  
 メノリの細められた目に映されて、ハワードが再びもがく。だけど抵抗は無意味で、歩み寄るメノリの  
足を止めることすら出来ない。  
「・・そう喚くな」  
 メノリが裸のハワードの腹の上に跨り、唾を飲んだ。  
 ほんのりと赤くなっているメノリの頬は、本来なら凄く魅力的なものであるはずなのに、ハワードは  
怯えて上半身を左右に振っている。  
「やめろっ! くそ、僕にこんなことして、後でどうなっても知らないからな!」  
 メノリはスカートの中に手を入れて、少しだけ腰を浮かせる。  
「・・・・お前のそういう顔もいいが、私が見たいのはそれじゃない」  
 ゆっくりと、静かにメノリが腰を落とすと、ハワードが仰け反って歯を食い縛った。  
「・・ふぅ・・はは、震えてるぞ、大丈夫か・・?」  
「・・・・くそっ、畜生・・!」  
 ハワードは上に乗るメノリを睨みつけるが、メノリはその視線を楽しむように唇を歪めている。  
「気持ちいいのか、ハワード?」  
 メノリの言葉に、ハワードが険を見せる。  
「・・うるさいっ! 誰が、お前なんかで・・・・!」  
「・・・・そうか?」  
 悦楽の色を表情に見せて、メノリが腰を上下させる。するとハワードは仰け反って、食い縛った歯の奥から  
吐息を漏らす。メノリは薄く笑ったまま、腰を振っている。  
「・・ずい、ぶんと気持ちよさそうだぞ、あ、ハワード、どうだ、気持ちいいかっ?」  
 ハワードが仰け反った格好で、目を閉じた状態で、言葉を漏らす。  
「・・・・畜生っ、くそっ、畜生・・!」  
 目の端に涙を溜めて、言葉の端に思わず漏れる溜息を挟んで、ハワードは必死に耐えている。  
 その姿を見下ろすメノリの顔に、見たこともないような、まるで悦楽の果てを実感しているような  
笑みが浮かんで、腰の動きが早くなる。水がぶつかり合うような音がバスルームに響いて、その中に  
ハワードの言葉と荒い吐息、それにメノリの艶やかな色っぽい声が響く。  
「・・・・・・くそぉっ!」  
 いつまで続くのかと思われたその行為は、ハワードの一声で終わりを告げた。  
 腰を止めたメノリは、ハワードのぐしゃぐしゃになった顔を見下ろして、歪んだ笑顔を見せる。  
「・・はは、分かるか、ハワード? お前の浅ましいものが震えて、私の中に出してるぞ。全く、  
中で出すとは、いい度胸だな。まあ、サヴァイヴの力を借りれば、避妊など簡単なことだろうから、  
安心しろ。それとも・・なんなら、お前の子供を産んでやろうか? きっと立派な子ができるぞ」  
 まるでハワードをいたぶるような言葉が、静かになったバスルームに響いている。  
 ハワードは顔を横向けて涙を流していて、それなのに、メノリの言葉は止まらない。  
 私は気付かれないよう、その場を立ち去った。  
 
 サヴァイヴのもとに戻った私は、薄暗い部屋で立ち尽くす。  
「・・ねえ、サヴァイヴ。皆は幸せなの?」  
 私が問いかけると、虚空から声が響く。  
『その質問に対する明確な答えは持てないが、ここで住むことになった当初とは、皆の精神状態は違っている』  
「・・・・それは、不幸になってるってこと?」  
『それも今の私は判別できない。しかし生物的に悪い方向に向かっているとは言えない』  
「・・・・・・そう」  
 でも、私の目に、皆は・・・・・・。  
「・・アダムやチャコ、タコはどうしてるの?」  
 サヴァイヴが答えるかわりに、空中にモニターを表示する。  
 そこに映るのは、森の中でパグーと戯れるアダムに、部屋の中で休眠モードに入っているチャコ、  
それにコンピューターに向かっているタコの姿だった。  
『彼らもまた、幸福なのか不幸なのか、私には分からない』  
「・・・・そう」  
 私はいつも使っている簡易ベッドに横たわり、目を閉じる。  
「・・始めましょう」  
『分かった』  
 そして今日も、私の調査が行われる。  
 私は・・・・私は、皆に幸せになってほしかった。争いのないここでなら、皆が幸せの道を歩むことが出来ると、  
そう信じていた。サヴァイヴに、より明確に人間のことを分かってもらおうと、私は積極的に調査に付き合っている。  
 でも・・・・・・でも、本当にそれで良かったの?  
 今の皆は・・・・・・・・。  
『どうした? 精神が乱れているぞ。これでは正確な数値を得ることができない』  
「・・・・・・ごめんなさい。もう、大丈夫よ」  
 いつになったら・・・・いつになったら、皆が幸せになれるんだろう。  
 私は暗闇の中でひたすら考えて、明日こそは、といういつもの結論に達した。  
 
 

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