どうということではない、はずだ。  
 誰一人欠けることなく、コロニーに帰れたというだけで僥倖なんだ。  
 だから普通の生活の中でサヴァイヴにいた頃の親密さが遠ざかったところで、何も問題などない──はずなんだ。  
 
「? メノリ、どうしたの。難しい顔して」  
 教室で不意にルナに声をかけられ、私は僅かながら慌てて邪念を振り払う。  
「・・いや、なんでもない。少し、考え事をしていた」  
「考え事?」  
 ルナは首を傾げて、私のことをじっと瞳に映す。  
(・・・・う・・)  
 駄目だ、特別な問題というわけでもないのに、それでもルナには興味を惹く事柄らしい。  
 お節介とまで言わないが、ルナのこういう、純粋に人のことを心配する心は、抱えている問題が低俗であればあるほどに気まずさを感じてしまう。  
「・・・・別に大したことではないぞ、本当に」  
「・・・・・・そう? 何か心配なら、いつでも言ってね」  
「あ、ああ」  
 私が頷くと、ルナは心持ち後ろ髪引かれるような顔をしてはいたが、自分の席に戻っていった。  
(・・・・参ったな・・・・)  
 私は心の中で苦笑して、尚且つ嬉しさを感じた。  
 全く、私は矛盾している。  
 
 端的に言えば、私は寂しさを感じている。  
 サヴァイヴにいた頃、あれだけ密接に感じられた仲間たちが、コロニーに戻ることで距離を置く存在となった。それは意識的なことではなく、この星にはこの星の関係というか、サヴァイヴにいた頃のよ  
うに限られた人数しかいないわけではないので、話す機会が減ったところで仕様がないのだ。  
 そう自分には言い聞かせているのだが、それでも何故か、うら寂しい、物足りない気分になってしまう。しかも自分の強情な性格が邪魔をして、積極的に話しかけるということが出来ない。それがまた  
もどかしく、寂しさといった些細な感情を増幅させている。  
 全く、悪循環な上に解決策がない。永遠に自乗を続けているような気分だ。  
 一体、どうすれば解放されるのか、今の私には見当もつかない。  
 
 
「よ、メノリ」  
 朝、学校へと至る道の途中、多くの生徒と混在して歩いていると唐突に肩を叩かれた。  
 振り向けば、どこか悪戯さを感じさせる笑みを見せるハワードがいた。  
「・・ハワードか。今日は早いな」  
 私が教室に入る時間はほとんど誰もいないというのに、その時間帯に通学する私と出会うというのは、なかなか奇異なことに思えた。  
「あー、なんか目が覚めちまってな。メノリは、いつもこの時間なのか?」  
「ああ、そうだ」  
 私が当然とばかりに答えると、ハワードは「うへー」と奇妙な声を上げて、苦々しいものでも口に含んだかのような顔をした。  
「・・そうだ、一つ聞きたいことがあるんだが・・・・」  
「ん? なんだよ」  
 ハワードの屈託のない表情を見ていると、何故か私の抱える些細で低俗な問題を話してみようという気になり、私は言った。  
「お前は、今のコロニーでの暮らしをどう思う?」  
「はぁ? なんだよ、急に」  
 私の問いはよほど奇妙だったらしく、ハワードは表情を歪めてしまった。  
「いや・・・・サヴァイヴにいた頃と比べてどうだ、という意味だ」  
 言い直すと、ハワードは顔を上向けて、空を見ながら言う。  
「そりゃ、自然を感じなくはなったけど・・・・それでも、僕にとっては、コロニーでの暮らしは夢みたいだな。こんな生活を前は普通に送っていたなんて、信じられないよ」  
「・・・・・・そうか」  
「なんだよ、もしかしてメノリ、サヴァイヴに残りたかったのか?」  
 ハワードが疑わしそうに言うが、私は首を振る。  
「いや、違う。私もコロニーに戻ることが望みだったが・・・・・・」  
 そのはずだったが、足りないのだ。  
 
「・・・・どうも、他のメンバーと話す機会が減ったせいか、妙な違和感があってな」  
 その違和感とは寂しさに他ならなかったが、そこまで言うのは照れが邪魔をした。  
 ハワードは頭の後ろで両手を重ね、理解はできないが話は分かった、とでも言うように鼻を鳴らした。  
「ま、僕もカオルやシャアラとは話す機会が減ったかもな。今まで考えたこともなかったけど」  
「そ、そうか・・・・」  
 やはり、普通は考えないものなのだろうか。  
 眉間に力を入れて、また一人、深く考える。  
 ──私だけなのか、寂しいと感じているのは・・・・・・。  
「・・・・・・なあ」  
 不意に、やけに低い声でハワードが呼びかけてきた。  
「なんだ?」  
 眉間の力を抜いて隣を見れば、ハワードは呑気な感じで歩きながらも、力の入った視線を前方に向けている。  
「・・・・? ・・・・おい、ハワード、どうした?」  
 何も言ってこないハワードに痺れを切らすと、漸くハワードが二の句を告げる。  
「・・・・放課後、少し、話があるんだ」  
「・・・・・・話?」  
 それならば、今ここですればいいではないか、と言おうとしたが、ハワードの方が先に口を開いた。  
「・・・・ああ、まあ、相談っていうか・・・・あんまり人に聞かれたくない話なんだ」  
「・・そ、そうか」  
「・・・・・・ああ」  
 ハワードは真剣な眼差しで、先を見つめている。  
 なるほど、私だけではない、コロニーに戻ったことで悩んでいるのはハワードも一緒だったということか。  
 私は一人で納得しながら、ハワードがそのようなことを私に相談しようとしていることに対して、蓄積している寂しさの一抹が失せる気がした。  
 
「・・・・す、好きだ・・・・・・!」  
 茜差す時間帯、深閑とした教室内に響いた声は、それは無論のことハワードのもので、その声は真っ直ぐ私に届いた。  
「はぁ!? ななな、何を言っている、いきなり!」  
 流石に狼狽を隠し切れず慌てる私の前には、ハワードが真剣な面持ちで佇んでいる。  
 その瞳は揺らぐことなく私を見ていて、私のように無様に慌てる様子はない。いつものハワードとは全く違う、覚悟した強みが窺えた。  
「・・・・な、な・・ほ、本気、なのか・・?」  
 よもや嘘とは思えなかったが、それでも自分を落ち着かせる時間を得るため聞くと、ハワードは躊躇いなく、ぐっと引き締まった顔で頷いた。  
「・・そそそ、そうか・・・・」  
 まずい、全く想定外の展開に、心臓の鼓動が早鐘など嘲笑するほど速く鳴っている。  
 それはイコールとして血液の循環も早くなっているということで、そのせいなのか頭に血が上り、顔に赤みが差していくのが分かる。  
「・・・・メノリ、返事を聞かせてくれ」  
「な!?」  
 ハワードの言葉に、再び素っ頓狂な声が漏れた。  
 私は咳払いを大仰に行って気分を紛れさせ、それからさり気なく深呼吸を繰り返し、額の汗を手の甲で拭ってから、静かに告げる。  
「た、たわけ者、こ、こ、このようなこと、即座に答えられるはずもないだろう。し、しばし待てっ」  
 すっかり落ち着いたつもりになっていたが、声は露骨に震え、尚且つどもっていた。  
「・・しばしって、どれぐらいだよ・・・・?」  
 ハワードは今まで見たことのないような顔で、ひたと私を見つめ、更に聞いてきた。  
 私は息を呑み、背中の冷や汗を気持ち悪く思いながら、しばしという言葉の持つ時間の長短に思考を巡らせる。  
「み、三日だ・・」  
 それは苦し紛れの、しばしを考えた末に出た咄嗟の言葉だったが、ハワードは大真面目な顔で頷く。  
「・・三日だな?」  
「そ、そうだ」  
「・・・・分かった」  
 世にも神妙な顔でハワードはもう一度だけ頷き、教室を出て行った。  
 残された私は静寂に包まれ、その静寂の中、熱に浮かされて大袈裟なまでに大きく溜息を吐いた。  
 
 ──三日。  
 そう言ってしまったものは仕方がない。  
 今まで、私はああいう経験がなかった。そのため柄にもなく狼狽してしまったが、それでも明確に期間を設けられたのは適切だった。  
 付き合いの浅い誰かならともかく、サヴァイヴで長い時間を過ごしたハワードならば、三日もあれば答えは出せるはずだ。  
 何も問題はない、じっくりと考えれば、それでいい。  
 そうすれば自ずと答えも見つかるはずだ。  
 恐らく──。  
 
「・・・・・・ね、ねぇ、メノリ、大丈夫?」  
 横から声が聞こえて、はっと振り向けば、そこにはシャアラが立っていた。  
「・・どうした、シャアラ?」  
「・・・・・・ど、どうしたって・・・・」  
 シャアラはそう言って胸の前で両手をもじもじさせていると、ルナまでが現れ、私の顔を覗き込んだ。  
「メノリ、風邪でも引いてるの? 朝から顔が真っ赤よ」  
「・・・・そ、そうか? 大丈夫だ、心配はない」  
「・・・・・・そう?」  
 二人ともが私の言葉を信用していないようだったが、授業が始まれば机に戻るしかなく、それでも二人はちらちら私の方を窺っていた。  
(・・・・く、なんだというんだ・・・・)  
 何も問題はないはずだ。  
 ただ、朝からずっとハワードのことを考えているだけで、否、考えているといってもそれは答えを出すためであり、それ以外の邪な考えは一切、まるで持ち合わせていないというのに、それなのに私の顔は自分でも分かるほど紅潮して、額や背中には汗が浮き、今やシャツは肌に張り付くほどで、鼻を寄せれば汗の臭いが感じられた。  
 鼓動も血迷ったかのように速く、そのせいで歩く速度  
 
(・・・・分からん・・・・・・)  
 なんだというのだ、一体。  
 ふと、原因と思しきハワードに目をやれば、ハワードは無表情に前を向いていて、授業に耳を傾けているように見える。  
 だが、その程度の認識を行っただけで、私の全身は熱を持って体を襲った。  
 頬は紅潮し、耳まで赤く染まり、肌さえも朱の浮き上がっているのが分かった。息が詰まるような苦しさを感じて咳をすれば、ハワードがこちらを向いて、目が合い、その瞬間に心臓が跳ねるような感覚に襲われた。  
(だ、駄目だ、授業にならん・・・・!)  
 私は顔を俯けて自分の手元を見ながら、朦朧とする頭でその時間を過ごした。  
 
「メ、メノリ、大丈夫か?」  
 休憩時間、ハワードが話しかけてきて、私の症状は悪化の一途を辿った。  
「む、無論だ」  
 そうは答えても、声の震えや赤面状態、汗の浮き具合から自分で考えても大丈夫とは思えない。  
 全ては、そう、ハワードが元凶だ。  
「・・風邪、か?」  
 だというのに、ハワードはとぼけたことを真面目な顔で言い、いつもはおちゃらけているくせに、やけに真剣な面持ちで私を見つめている。  
 駄目だ、ハワードの目を見るという、ただそれだけのことすら、今の私には害悪でしかないらしい。  
 速まっていく心臓の鼓動を感じて、堪らず立ち上がる。  
「ど、どうしたんだよ?」  
「・・・・手洗いだ」  
 そう言うと、ハワードは曖昧に頷いて、自分の席に戻っていった。  
 私は廊下に出て、少しでも風のあるところを探してさ迷い、危うく次の授業に遅刻しそうになった。  
 
 ──もしや、これは・・・・・・。  
 
 そうだ、思い返してみれば、そういうことではないのか?  
 サヴァイヴでの生活で、私が最も口を利いたのは誰だった? 最も私の心を乱したのは誰だった?  
 そうだ、思いつくことは際限なくある、私は、ハワードを──。  
 
「な、なんだよ、まだ三日じゃないぞ・・?」  
 自分の心音のせいで静寂を感じられない教室の中、私はハワードと相対する。  
「・・・・答え、出たのか・・?」  
「・・・・・・ああ」  
 そうだ、私の中で既に答えは出ている。あとはそれを伝えるだけだ。  
「・・・・で、どうなんだ・・?」  
 ハワードが固唾を呑んで私を見つめている。  
 私は愛想のない顔だと自嘲したくなるような表情で、じっとハワードを見つめ、昨晩から用意して何度もイメージトレーニングを繰り返した言葉を放つ。  
「・・・・・・問題ない」  
 ハワードは、私の言葉に怪訝そうな顔をした。  
「・・も、問題ないって・・・・どういう意味だよ?」  
「・・ど、どういう意味もない、こ、言葉の通りだ」  
 目元の熱さを感じながら、かろうじて声を出す。  
 今、この場で伝えなければ、熱病にも似た私の症状は改善されないに違いない。  
「・・・・つ、つ、つ・・付き、合うか・・?」  
 色々と調べた結果の、なんとか私にも言えそうな軽い感じの言葉を選んだのだが、それでもどもってしまうくらい緊張した。  
 しかし、ここまで言えばハワードにも伝わったらしい。  
「・・・・・・い、いいのか?」  
 それがハワードの返答だった。  
「・・・・・・・・・・」  
 私が何も言わずに頷くと、ハワードは歩み寄ってきて、私の前で立ち止まると私の肩に手を置く。  
「お、おいっ、何をするつもりだ?」  
「何って、つ、付き合うんなら、当たり前だろっ?」  
「・・・・そ、そうなのか・・?」  
 
 もはや何をするかは自明だったが、それを行うことが当たり前だということは知らなかった。  
 ハワードの目に見つめられて体を硬直させた私は、唾を飲み込み、ぐっと唇を引き締める。するとハワードが顔を近付けて、私が息を止めると同時、あと一歩で触れ合うというところで、ハワードは顔を止めた。  
「・・・・・・ど、どうした?」  
 肩を強張らせる私を、ハワードが困惑顔で見ている。  
「・・・・目、閉じてくれよ・・・・・・」  
「・・・・そ、そうか・・すまない」  
 言われるままに目を閉じると、唇にハワードの息がかかり、その直後、少し硬さのある柔らかいものが触れた。  
 初めての感触は長く続かず、目を開けるとハワードの照れたような顔があった。私はその顔におかしさを覚えて笑おうとして、だが再びハワードの唇によって唇を塞がれ、何も言うことができない。  
 間近にハワードの長い睫毛があって、それをぼんやりと眺めていると、唇に何かが触れた。驚いたのも束の間、それは私の唇に押し入ってきて、油断していた私の舌を舐め取る。  
「・・・・っ! ま、ままま、待てっ!」  
 咄嗟に背中を反らして、両手でハワードを押し留める。  
「ききき、聞くが、ど、どこまでするつもりだっ?」  
「どこって・・・・そ、そりゃ、付き合うんだから、最後までっ・・・・」  
 ハワードの意気込んだ言葉に、私の頭の中が沸騰したかと疑うほど熱くなった。  
「・・そ、そ、そ、それが普通、なのか・・・・?」  
「・・・・あ、ああ・・たぶん・・」  
 そう言って、ハワードが顔を寄せてくる。  
 私は混乱した頭のまま受け入れて、また息を止めて唇を重ねる。今度は緩やかに入ってきたハワードの舌が、私の口の中を舌先で擦っていく。私はじっと息を潜めて、長い口付けが終わるのを待った。  
 
「・・・・・・・・はぁ」  
 ハワードの唇が離れた時、私はもう酸素の限界を迎えており、まず大きく息を吸った。  
 しかし呼吸を整えても高鳴っている鼓動は収まりを知らず、相も変わらず耳元で響いているかのような音を鳴らしている。  
「・・・・だ、大丈夫か?」  
 問いかけながら、ハワードは私の赤く染まっている耳を撫でている。  
「・・・・・・あ、ああ、問題ない」  
 ただ撫でられているだけで熱い寒気のような矛盾を感じたが、それを押し殺して頷く。  
 ハワードはまた顔を寄せて、しかし今度は口付けではなく、私の下唇を舐めながら、服の上から私の胸の辺りに触れた。  
「・・・・・・・・!」  
 驚きが心音を高鳴らせるが、私は立ち尽くしたままで動かない。否、動けないといった方が正しい。  
 頬を撫でられ、唇を舐められ、胸を触られ、私の理性は風前の灯で、動こうにも動けない状態だった。  
 ハワードは私のそのような状態に気付いていないのか、行為を続けている。  
 少しずつ、少しずつ、くすぐったさだけではない、何か別の感覚が、ハワードに触れられているところから広がっていくのが分かった。  
 そのせいで私の呼吸は荒さを増していき、足の感覚が希薄になり、立っていることが苦痛に思えてくる。  
「・・・・・・メノリ・・・・」  
 ハワードが囁いて、私のシャツをたくし上げた。  
 外気に触れたお腹が微かに震え、脇腹を寒気が走る。だが、ハワードの唇が触れるだけで、そこは熱を持って痺れた。  
「・・・・ぁ・・ぁ、ぁ・・」  
 口から、はしたない声が溢れる。  
 ハワードが下着を取り、露になった胸に唇を寄せると、まるで塊が吐き出されるように声が漏れた。  
 足の感覚がますます希薄になっていき、自然と太腿が震え出すと、ハワードは足を曲げて頭を下げた。ハワードの目の前に、私のスカートがある。  
「・・・・ま、待て、待て・・!」  
 慌てて、私は自分のスカートを押さえて後ずさりする。  
「な、なんだよ?」  
 ハワードは屈んだ状態で、怪訝そうな顔を向けている。  
「・・いや、その・・・・そ、そ、その、口を、つけるのかっ・・・・?」  
 私が恥を忍んで決死の声を出すと、ハワードは私のスカートを見つめ、それから私に視線を戻して、曖昧な表情で頷いた。  
「・・・・まあ、そう、だな・・・・・・」  
 
「そ、それは駄目だっ、拒否する!」  
「な、なんだよっ、急に?」  
 ハワードが立ち上がって、私と視線を合わせる。  
 私は・・・・・・否、ここは言わなければ、伝わらないだろう。私は意を決して、ハワードを見つめ返す。  
「・・そ、その、なんだ・・・・や、やはり、汚いだろう・・」  
「・・・・そんなこと──」  
「い、いや、お前がどう思おうが関係ないっ、私は・・・・わ、私は、その・・そ、そ、そんなところに口をつけたお前と・・・・・・く、口付け、をするのに、抵抗があるのだ・・・・!」  
 恥ずかしさで消え失せそうだった。顔を真っ赤に染め、自分は何を言っているんだと自己嫌悪を覚え、いっそ消えてしまいたいと思った。  
 それでも、そこまでした価値はあったのか、ハワードは小さく笑いをこぼした。  
「・・分かったよ」  
 そう言って、ハワードの唇が、私の唇に重ねられる。  
 ハワードの舌が入ってきて私の舌に絡まると、まるで自分の舌が溶けていくような感触を覚えた。  
 真っ白のタイツで覆われている内股に、ハワードの手が触れる。撫でるような、さするような触れ方に、吐息がこぼれる。  
「・・・・ふ、ぅ・・ぁ・・・・・・」  
 唇を重ねているのに、呼吸を止めることができず、鼻から息が漏れていく。  
 足が震え、今にも膝が折れてしまいそうだったが、それでも倒れるわけにはいかず、ハワードの肩に手を置いて堪えた。  
 ハワードは私の首に唇を寄せて、スカートの中に手を滑らせていく。  
 痺れと熱が、ハワードに触れられたところを侵していく。  
「・・ぅ、ぅ・・・・ふ、ぅ・・」  
 スカートの中の下着に、ハワードの手が触れた。  
 
 どうやら微かに潤っていたらしいそこは、ハワードの手が触れると殊更に湿り気を感じさせて、頬が真っ赤に染まっていく。  
 ハワードは指で、私のそこを擦っている。その速さが増すと、ますます体から力が抜けて、自然と前屈みの姿勢になった。  
「・・・・ぅ、ぅ、くっ・・ぁ・・!」  
 足の力が抜けて、ハワードに覆い被さるような格好で、声を漏らす。  
 頭の奥の、普段は全く感じられない箇所に痺れが蓄積していき、果てが見え始める。そこに達することに不安を覚えて必死でハワードの背中を掴むが、ハワードは更に指の動きを速くして、尚且つ私の腋の下から頭を出し、剥き出しになっている背中に舌を這わせた。  
「・・ぁ、ぁ、あ、く、うぅ、うっ・・・・!」  
 そして全身の力が抜けていく感覚とともに、頭の奥、痺れの蓄積されていた箇所から熱が溢れ、思考がぼやけていくのを感じた。  
「・・・・メノリ・・」  
 ハワードが足を伸ばして、倒れそうになっている私を支えてくれる。  
「・・・・ああっと、そろそろ・・」  
「・・・・? ・・・・・・!」  
 ハワードの言葉の意味が把握できず、怪訝な表情になったが、それもハワードのズボンに目をやれば解決した。  
「・・わわわ、分かった、し、しばし待てっ・・」  
 私は震える足に力を入れ、ハワードの支えを離れ、中途半端に捲られていた上着を脱ぐ。それを丁寧にたたみ、机に置いて、次いでシャツやタイツ、スカート、下着も脱いで上着に重ね、一糸まとわぬ姿となる。  
 ハワードは、そんな私の体を上から下まで見て、喉を鳴らした。  
「・・・・・・よ、よし、いいぞ」  
「・・・・ああ」  
 ハワードがズボンと下着を下ろして、上向いているそれを晒す。  
 私はその形に目を丸くした。  
(・・・・あ、あれが、入るのか・・?)  
 驚く私に、ハワードが歩み寄ってくる。  
 その時、ふと、私は周囲を見回し、それからハワードと視線を交わす。  
 
「・・・・お、おい、ハワード・・・・・・」  
「・・・・・・どうした?」  
 私の肩に手を置いたハワードが、不思議そうに眉を顰める。  
 私は瞳を横に逸らしながら、呟く。  
「・・・・・・こ、ここで、するのか・・・・?」  
 それを聞くと、ハワードは教室を見渡して、困った顔を見せる。  
「・・ここ、しかないだろ・・・・」  
「そ、そうだが・・・・ゆ、床や机は、汚れているだろう・・・・」  
 仮にも私は裸だというのに、そんな状態でどこかに寝そべるのには、心持ち抵抗があった。  
「・・・・なら、僕が下になるよ」  
「・・はぁ!?」  
 思わず上がった声も聞かず、ハワードはその場に仰向けになる。  
「・・・・お、おい・・・・・・!」  
 うろたえる私の目に、垂直に近い角度を保っているそれが映る。  
 その形状の歪さが露骨に性的な行為の要求を感じさせて、私は口の中に溜まった唾を飲んだ。  
「・・・・・・・・・・」  
 恥ずかしそうに視線を逸らしているハワードの腰の上に跨る。私の、まだ閉じられている割れ目のすぐ下に、ハワードの膨張したそれがある。  
 息を呑んで腰を下ろせば、割れ目に先端が触れ、同時にそれは震えて大きく仰け反った。  
「・・っ、お、おい・・・・!」  
 割れ目を擦られた際に背筋を駆け上った熱に震えながらも、眼下のハワードに厳しい目を向ける。  
「わ、分かったよっ」  
 
 ハワードは頭を持ち上げて自分の下半身を覗き、それが動くことのないよう、手を添えた。  
 私は呼吸を整え、改めて、ゆっくりと腰を下ろす。  
「・・・・ぅ、ぁ・・」  
 割れ目に先端が触れ、しかし今度は仰け反ることなく、ゆっくりと割れ目を押し入ってくる。  
 激しい痛みに襲われるものと恐れていたが、先程のハワードの指によって全身の力が抜けているせいか、意外にすんなりと全てが入り、お尻がハワードの腰に触れた。  
「・・ふ、ぅ・・」  
 当然かもしれないが、体の中に何かが埋まっている感じがする。  
 その何かは熱を持っていて、私の体の内部に熱を拡散させるような、不可思議な存在感があった。  
「・・・・な、なあ、動いてくれよ・・・・・・」  
 ハワードが切なそうな声を上げて、私は微笑を浮かべる。  
 どうやら、ただ入れているだけでは、もどかしさがあるらしい。  
 私はハワードの胸に両手を置き、緩やかに腰を前後に動かす。そうするとハワードが呻き声を上げた。  
「・・い、いいのか、ハワード?」  
 腰を動かすと、私の中でも感じたことのない衝動のようなものが広がり、それがまた頭の奥のどこかに蓄積されていく。  
「・・あ、ああ・・・・」  
「・・・・そうか・・」  
 不思議な感覚だった。  
 まるで繋がっていることが幸福に至るような、おかしな直感めいたものがあった。  
 それでも、まだ違和感のある状態では腰を動かし続けることに無理があるらしく、呼吸を整えるつもりで腰を止めると途端に汗が浮き上がって、割れ目の辺りに鈍い痛みを感じた。  
「・・・・だ、大丈夫か・・?」  
 ハワードは心配そうな顔をしている。  
 私は軽く頷き、額の汗を、手の甲で拭う。しかし、頬を流れた汗が顎から落ちて、ハワードの服の上や顔に落ちた。  
「す、すまないっ」  
 
 慌てて手で拭うと、ハワードはその手を取り、自分の口に持っていく。  
「・・・・いや、いい」  
 そう言って、ハワードは私の汗に濡れた指を口に含み、舌を這わせた。  
 体の産毛が逆立つような感覚が走り、頭の奥に直接、痺れが発生したような、強い倒錯感を覚えた。  
 私は体を曲げてハワードに顔を寄せて、唇を重ねる。私が舌を突き出すと、ハワードはひどく柔らかく、その舌を迎えてくれた。  
 唇を離すと、お互いの唾液が混ざり合ったものが、糸のように唇を繋ぐ。  
「・・ハワード、お前が動いてくれ・・・・」  
「・・・・・・・・・・」  
 私のやや切羽詰った声に、ハワードは当惑したような顔をしている。  
「・・大丈夫だ、いいから・・」  
 私が微笑むと、ハワードは頷き、私の腰に手をやり、足の力を使って腰を動かし始めた。  
「・・あ、ふ、ぅ、ぅ、ぁっ・・!」  
 ハワードの腰が動くたび、私の体は小さく押し上げられ、その際にハワードのものが少し抜けて、腰が落ちると再びハワードのものが奥まで入り込み、痛みやむず痒さ、痺れが連続で押し寄せて、声が抑えられなくなっていく。  
 
「くっ、う、あ、あ、はぁ、あ、あ、あ・・!」  
 程なく、ハワードの顔が歪み、それが何に繋がるか察知した私は腰を落とし、ハワードに縋りついた。  
「メ、メノリ、離れろ・・・・!」  
 その声と同時、私の中の、それの触れる先端から勢いよく精液が溢れ出し、私を満たした。  
 生温かい、激しい勢いを感じさせる精液の放出が終わると、ハワードは荒い息を吐く。  
「・・メノリ、お前・・・・」  
 私は熱の溢れる頭の中を感じながら、微笑みを浮かべた。  
「・・・・安心しろ、今日は安全日だ・・」  
 それを聞くと、ハワードはぐったりと倒れ込み、大きく息を吐いた。  
 
 ──全く。  
 漸く失せた寂しさを嬉しく思ったのも束の間、私の中に生まれた新しい感情は寂しさなど比にならないほど扱いが小難しく、ほとほと嫌気の差すこともあるかもしれないが、まあ私一人ではない、二人で解決していく手段を模索することで、これから先、恐らく長い間、消えることのないこの感情と付き合っていこう。  
 私は笑みを浮かべ、同じく微笑むハワードと見詰め合いながら、そう思った。  
 
   終わり。  
 

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