『お前の体を調べさせてもらう』  
 そう言うと、サヴァイヴは己の中から冷たさを感じさせる触手のようなものを出し、宙吊りになっているルナへと向かわせた。  
 近寄ってくる数本の得体の知れない物質に、ルナが怯えた表情を見せる。  
「やめろ!」  
 叫んだベルがサヴァイヴに向かって駆け出すが、これ見よがしに素早く動いたドローンを前に、選択肢は停止しかなかった。  
 隙を窺っていたカオルが舌を打ち、握り締めていた手の力を緩めた。  
「お、おい! やめろよ! ルナに何かしてみろ、僕たちが許さないぞ!」  
 ハワードが声を荒げるが、サヴァイヴに聞く意思などないのか、触手はルナの頬に触れる。  
 果たして触手の感触を知る由はないが、ルナの嫌悪の表情を見る限り、姿の通り気持ちの悪いものであることが知れた。  
「やめて!」  
 嫌がるルナを助けようとシャアラが叫ぶが、ハワードの声と同じく、虚しい抵抗、否、抵抗にすらなっていない。  
 一本の長い触手がルナの顔を一周し、オレンジ色の髪を乱雑に掻き乱しながら、頬をなぞっている。  
 おぞましい、背筋の寒くなる光景に、アダムが悲哀を誘う表情を見せた。  
「おい! やめろよ! 聞いてるのかっ!?」  
 気の短いハワードが堪らず足を踏み出すと、その足元をドローンのレーザーが射抜く。ハワードは「うわっ」と情けない声を上げて尻餅をついた。  
 そこに隙が生まれるかとカオルが瞳を輝かせたが、ドローンは何体も存在し、その全てが誰かしらを捉えているために、結局、カオルは動けず、もどかしそうに歯噛みした。  
「・・・・・・う」  
 
 触手がルナの腹の下、シャツの裾から入り込み、胴を一周して胸へと這い上がっていくのが、シャツの盛り上がりからありありと窺えた。  
「ルナ!」  
 呻くルナに我慢の限度を来たしたのか、ベルが叫び、駆け出すが、その足をすかさずレーザーが掠め、ベルは転倒した。  
「ベル!」  
 シャアラが声を上げてベルに駆け寄る。ベルの顔には汗が浮いており、それが足の負傷を察知させた。  
「だ、大丈夫か、ベル!」  
 四つんばいでベルのもとへ向かったハワードが、ベルの足を見て顔を顰める。  
 ベルの足、太腿の辺りをレーザーが掠ったらしく、そこから赤黒い血が流れ出ていた。  
「サヴァイヴ、皆を傷つけないで!」  
 足にまで触手が巻きついた状態で、ルナが声を荒げる。  
『それはお前次第だ』  
 サヴァイヴの返答は素っ気無く、そしてルナを従えるには十分なほどの効力を持っていた。  
 唇を噛み締めたルナは、俯いて皆を見下ろし、それからサヴァイヴに決意の漲った目を向ける。  
「・・私はどうなっても構わない。だから、皆は傷つけないで」  
「ルナ!」  
 カオルとベルの叫びが調和して、悲痛さを煽る。  
 しかしルナは表情を緩めることなく、じっとサヴァイヴを睨み、答えを待っている。  
『いいだろう。他の者も抵抗しないというのなら、傷つけるつもりはない』  
 それがサヴァイヴの返答だった。  
 
「ふ、ふざけるな!」  
 即座にハワードの声が響くが、その声に状況の変換を促す力はない。  
 サヴァイヴから伸びる触手はルナの顔と体、足に巻きつき、醜悪さを露呈するように蠢いている。  
「・・・・ぅ、ぃや・・・・・・」  
 服の盛り上がりから、触手がルナの胸を刺激するように動いているのが明確に分かった。  
 それを見て、そしてルナの声を聞いたシャアラは、ベルの側で跪き、俯いて、耳を閉ざした。  
 ハワードはアダムを抱き締め、アダムの視界からルナの光景を遮断した。  
「やめろ!」  
 カオルが何度目かの声を上げるが、それは自分でも既に無駄と承知している要求なのか、歯を食い縛り、耐える姿勢を見せている。  
 事実、サヴァイヴは何も答えず、調査を続けた。  
 ルナの爪先から螺旋を描いて這い上がっている触手の先が、スカートの中に消える。その刹那、ルナの表情が反射的な反応を見せ、何が起こっているのかを感じさせた。  
 顔や胸に巻きついている触手も、停滞を厭うように動き続け、ルナの体を調査することに余念がない。  
 ベルが足の傷のためではない、大事なものを傷つけられていく痛みに顔を顰めて目を逸らした。  
「・・ぁ、ぅ・・・・いや・・・・ぁ!」  
 沈黙が支配する空間を、ルナの痛々しい声が満たしていく。  
 
 耳を塞ぐ要求に駆られるのはシャアラだけではないらしく、アダムを抱き締めて両手の使えないハワードが苦しそうに顔を歪めている。  
 触手は変わらず蠢いて、ルナを蹂躙していたが、スカートの中に消えていた一本が唐突に下がって姿を見せた。だが、そこにあるのは救いなどではない。  
 その触手にはルナの下着が絡まっていて、触手がルナの足を離れると床に下着が落ちた。  
 カオルが唇を噛み切らんばかりにしているが、動くことはできない。  
 ルナが目を閉じ、歯を食い縛って耐えている限り、他の誰にも動く権利はなかった。  
『表面上におかしなところはない。では、何がお前を、そのようにしているのだ?』  
 サヴァイヴの声と連動しているかのように、触手が動く。  
 ルナの顔に巻きついていた一本が、若干の迷いもなくルナの唇に触れ、強引に口を押し開き、入り込んでいく。  
「う、ぐっ・・・・!」  
 太過ぎるわけではない、かといって細過ぎるわけでもない、口の中に入れるには覚悟を要する太さの触手が、ルナの口の中に入り、口の中で蠢いている。触手の動きはルナの膨れる頬で把握できた。  
 カオルもベルも、見ていられないとばかりに視線を逸らす。それは仕方のないことだろう。  
 何しろ、触手の動きには確かに、性的なものを感じさせるものがあった。  
 サヴァイヴにしてみれば調査なのかもしれない行為は、カオルとベルの目には、明らかに強姦めいたものを感じさせている。  
 もしかすると二人は、そのように見てしまう己自身を軽蔑するがために、視線を逸らしているのかもしれなかった。  
「・・っ!? ぅぅ! ぁ!」  
 口を塞がれているために言葉にならないルナの声が、言葉以上のものを顕す。  
 サヴァイヴの触手、下着を剥ぎ取った一本が再びスカートの中に消えたことが、ルナの思考を乱しているらしい。  
 もはや誰もが目を伏せるその中、触手が動き、蠢き、そしてルナの悲痛な声が響いた。  
 
「ぅぁあ! ぁぁ・・!」  
 その声はシャアラとハワードの顔を顰めさせ、カオルとベルの唇を血が出るのではというほど噛み締めさせ、アダムに痛々しい表情をさせた。  
 ルナのスカートの中に消えた触手が下がって先端を窺わせた時、綺麗に磨かれいてる床にそれは落ちた。  
 赤い水滴、それが意味するところは明確で、しかし幸いなことにシャアラとハワードは視線のやり場から気付かず、ただ痛みを見せる顔をしていた。  
 だが、カオルとベルの目には小さな音とともにその水滴が視界に入り、遂に二人の唇からは床に垂れたものと同じ、血が滲んだ。  
 触手は、それでも動くことをやめず、ルナの口の中を蠢き、胸をまさぐるようにのたうち、足の間、誰にも侵されたことのなかったであろう領域を蹂躙した。  
 ルナの、それは押し殺した叫び声のような、考えられぬ殺意すらあるような、そのような声が、うめきが、フロアに広がっていく。  
「・・・・・・・・・・・・」  
 その時、だった。  
 まるで運命の邂逅のごとく、私とルナの目が合った。  
「・・・・ぅ! ・・ぁぁ!」  
 ルナは見られることが激痛であるように、首を振ろうとし、瞳に怯えや哀しみを醸した。  
 しかし──それでも、私の視線はルナから離れない。  
 触手に犯され、苦痛を謳歌しているルナの姿を焼き付けるように、私の視線はルナと交わったところで怯むこともなく、ただルナを映し続ける。  
 
 ルナが慟哭し、もがくが、固定されている手足と触手の動きに停滞はなく、抵抗は一切の無駄でしかない。  
 私の前で、あのルナが──笑みを絶やさず、誰にも親切で、諦めることを知らなかったルナが、それら全てを打ち砕かれていく。  
「・・・・ぁ、ぅあ! うう! っぁぁ!」  
 叫び声が木霊し、誰もが耳を塞いで表情を歪める中、私の視線を一身に受けるルナから、雫が落ちる。  
 しかし雫は、先程のように真っ赤な鮮血ではなく、少し透明の入った、朱の薄みのあるものだった。  
 それが何を意味するのかは、理解できた。  
 ルナの目が再び私と交錯する。  
 熱に浮かされたような、体内から溢れ出ようとする熱をかろうじて唇を歪めることで抑える私と視線を合わせたルナの瞳が、衝撃を受けたように揺れて、色彩を失わせた。  
 
 そして──そして、一体、どれだけの時間が流れているのかもはや判然としなくなった頃、その行為は未だに続けられていた。  
「は、うぁ、ぁぁ、はぁ、あ、あ、あ!」  
 触手が蠢くたびに荒く声を上げるルナの姿を見ようとする者はおらず、誰もが耳を塞ぎ、永遠に続く瞬間から逃避している。  
 その中で私だけが、ただ私だけがルナを見つめている。  
 ルナもまた、私だけを見つめて、体をよじらせている。  
 頻繁に落ちてくる雫に朱色は失せて、透明な、粘りを感じさせるものとなって、それが時折り、私の顔にかかった。  
 私は狂ったように暴れる熱を体の中に抑え込むため、唇の端を吊り上げて歪んだ笑みを浮かべ、スカートの裾を両手の血管が浮き出るほど強く握り締め、ただ静かに、いつまでもその光景に魅せられていた。  
 
 目的を事実から目を逸らす手段として用いる。  
 あたかもそれが効果的であるように、皆はそれぞれコロニーへ帰ることを目指している。  
 だが、私は・・・・・・。  
 
 サヴァイヴのいるフロアへと入れば、聞こえてくるのはルナの息遣いや声、体から発せられる音ばかりで、汗の臭いが鼻をついた。  
「は、あ、ぁ、メノ、リ、ぁあ・・!」  
 いつもと変わらぬ格好のルナのスカートには触手が潜り込んでいて、それが刺激しているのか、スカートが微妙な起伏を作るたびにルナの表情が甘く緩んだ。  
 そこに前までの凛とした意思はない、あるのは堕落しきった心根だけだ。  
「まだ続けていたのか」  
『当然だ。全てを把握するまで終わりはない』  
「・・・・そうか」  
 それはルナの行く先を示している言葉だったが、もはやルナの思考力は著しく欠陥が生じているのか、立った姿のまま涎を垂らして笑みを浮かべている。  
 スカートの中の触手もそうだが、体に巻きつくもの、顔に巻きつくものも微妙な刺激を与えているらしく、触手が僅かな動きを見せると、それだけでルナの口から声が溢れた。  
 ルナの嬌声を聞きながら歩み寄ると、おもむろにルナは体を前に倒して私に抱き付いてきた。  
「はぁ、は、メノリ、メノリぃ、あ、あっ、あ・・!」  
 耳元でかかる息は熱く、声は鼓膜を震わし、触れる頬は温かさを感じさせた。  
「・・・・・・ルナ」  
 これが、ルナの姿か。  
 少し前までのルナの笑顔を思い描いていると、ルナの私を抱き締めている腕の力が強くなる。  
「あ、あ、あ、メノリ、はぁっ、ああ・・!」  
 体を震わせたルナの唇から激しい溜息が溢れて、私の耳をなぶる。  
 気持ち悪い心地よさが私を支配する。ルナの汗で濡れている背中を見ていると、笑みが抑えられない。  
 これは、一体──。  
 
 そう思いながら、私はルナの髪を撫でた。  
「イッたのか?」  
 耳元で囁けば、ルナが阿呆のように首を縦に振る。  
「・・うん、うん、イッたぁ・・!」  
「・・何度目だ?」  
 底知れぬくらい情熱が私の中で膨らんでいく。  
「もう、三回目・・・・おか、しくなるぅ・・」  
「・・・・そうか」  
 一体、何が私をここまで昂ぶらせているんだ?  
 それが分からぬまま、触手の動きを止めないサヴァイヴに目をやり、自然と笑みを見せる。  
「ルナの力は感情に支配されることが多い。更に続けておかしくなれば、力の発端が見れるかもしれないぞ?」  
 そう言うと、首に回されているルナの腕に力が入るのを感じた。  
『そうか』  
「うあ、あ、だめ、待って、うぁ・・!」  
 動きに激しさを増した触手に合わせてルナの声が高くなる。  
 今や触手は三本とも下半身を責め立てていた。一本は恐らくスカートの奥の割れ目を出入りし、後の二本は足に巻きついて内股や太腿、足首などをなぞっている。  
 その動きにどれだけの快楽の可能性があるのか定かではないが、それでもルナの崩れた表情と声を見聞きしていると、自然と体の奥が熱くなった。  
 一体、何が私を・・・・・・。  
 
 
 果たして何回、ルナが高みを味わったのか、すっかり虚脱してしまい、私に縋り付くような格好となったルナが、首筋に荒い息を吐きながら囁く。  
「・・メノリ、メノリも一緒に・・・・すご、く・・気持ち、いいよ・・・・」  
 私は苦笑してサヴァイヴを見やる。  
「私など調べる必要はないだろう」  
『うむ、お前は普通の人間と何ら変わるところはない。よって調査の必要はない』  
「だ、そうだ」  
 肩をすくめると、ルナが一時だけ離れ、腰に腕を回し、顔を私のスカートに押し付けた。  
「・・でも、メノリ、ここ、やらしいにおいがする・・」  
 そう言って、ルナは私のスカートに鼻を押し付け、鼻をひくつかせている。  
 私はルナの姿を見下ろして、衝動としか呼べない何かに突き動かされ、ルナの髪を乱暴に掴む。  
「・・そうだ、ルナ、お前の浅ましい姿を見ているだけで、私は・・・・」  
 体温の上昇だけではない、胸ははちきれそうなほど高鳴り、下腹に熱を覚え、誰にも見せたことのないそこは生温く濡れていく。  
 一体、これはどのような感情なんだ?  
 思考にあぐねる私のことなど置いて、サヴァイヴは触手を蠢かせている。ルナのスカートが不規則な起伏を見せると、スカートと下着を通してルナの吐息を感じた。  
「う、ぁあ、はあ、あ、メノリ、ぁぁ、はぁ・・!」  
 ルナの鼻が押し付けられ、熱い息が下着を超えて濡れるそこに触れるのが分かる。  
 
 私の鼓動が際限を知らず高まり、眼下のルナの歪んだ表情が、私の中の得体の知れない感情を高めていく。  
「・・・・・・ルナ」  
 私はルナの髪を引っ張って強引に顔を上向けさせ、涙と唾液に濡れているその顔を見つめる。  
 それだけで脳をつんざくような痺れが走り、意識せずとも笑みが浮かぶ。  
「・・サヴァイヴ、もっと激しくしてやれ。そうすれば、ルナも力を使わざるを得なくなる」  
『そうか』  
 私の言葉を受けたサヴァイヴが、触手の動きを激しくする。  
 スカートは不自然なほど盛り上がり、太腿は柔らかさを証明するように形を歪めた。  
「うあ! あ、あっ、うぁ、だめ、だ、めぇ、これ、以上は・・!」  
 ルナの口から唾液がこぼれ、目からは涙が落ちていく。  
 触手の執拗な動きに耐えられなくなったのか、嬌声を引っ切り無しに上げ、感覚でも弛緩したのか、鼻水まで垂らしている。  
「ああ、ああ! だ、やっ、イ・・・・!」  
 やがてルナの体が痙攣でもするように大きく震え、だらしなく開いた唇から唾液を落とし、緩んだ笑みで私を見上げた。  
 ルナのそんな顔を見て、私は──。  
 
 私は、腰に回されているルナの腕の力を感じながら、下着からこぼれていく生温い液を感じて、暗く静かに笑っていた。  
 
 
 ルナのことなど忘れたように、皆はコロニーへ戻る手段を模索している。  
 まとめる者がいない話は決裂を繰り返し、停滞を余儀なくされている。  
 苛立ちが募り、荒い言葉が飛び交う中、私は・・・・・・私は一体、何に引きつけられるのかも分からぬまま、サヴァイヴとルナのいるフロアへ向かった。  
 
「はぁ、あ、はぁっ、うぁ・・!」  
 もはや服を脱がされ、完全な裸体となったルナが、二本の触手に両足首を掴まれて逆さに持ち上げられている。  
 髪が床へと垂れて額を露にし、血が上っているのか苦しそうな顔をして、ルナは乱れた声を上げている。その原因は一本の触手で、その触手はルナの割れ目に入り込み、およそ優しくない動きでルナ  
を苛んでいた。  
「ぁ、ぁあ、ふ、うあ、あ・・!」  
 触手が抜けそうになるとルナの割れ目から透明な液がはねて、それは胸や腹、尻へと垂れている。そのせいでルナの体は奇妙な光の反射を見せていた。  
 私がルナの側まで寄ると、サヴァイヴがルナの高度を落とし、私とルナの目線の高さを合わせる。  
 どうやらサヴァイヴは私のことを協力者だとでも思っているらしい。  
「何か分かったのか?」  
 ルナの瞳に映る自分を見ながら、サヴァイヴに問いかける。  
『いや、まだ反応は見られない』  
「・・そうか」  
 儀礼的なやり取りを終えて、私はルナの頬に手を添える。  
「ルナ、ここでの暮らしはどうだ?」  
 
 食事も風呂も排泄も全てサヴァイヴに管理され、それ以外の時間は全て調査に身を捧げる、堕落しきった暮らし。  
「・・はぁ、うん、いぃ、いい・・」  
 そう答えるルナは逆さの状態だというのに薄く笑い、その笑みには本心からの喜びがあるように見えた。  
 ルナの体からは、汗や唾液、割れ目から溢れている臭いが混ざった饐えた臭いを発している。肌には朱が浮き出ていて、触手が抜けた今でさえ割れ目は開いたままで、ひくつく奥を覗かせている。  
 これが・・・・これが、ルナの今の姿・・・・・・。  
「・・・・くっ、はは・・・・・・」  
 何故かは分からない、だが、ルナの姿を目の当たりにするだけで私の体は熱くなり、胸の奥からは愉快としか形容できないものが溢れてくる。  
「・・・・メノリ・・・・・・?」  
 仮面のような笑みをしているルナが私の名を呼び、私の顔に手を伸ばそうとする。  
「・・・・・・触るな」  
 声とは裏腹に力強くその手を払うと、ルナは間の抜けた表情を見せた。  
 そうだ、もはやルナは私に気安く手を伸ばすことなど出来ない、そういう存在なんだ。  
 既にルナは、仲間ではない、誰からも忘れられ、私だけしか相手にしていない、サヴァイヴの調査対象に過ぎない。  
「・・・・ルナを下ろしてくれ」  
 暗い情念が溢れて、私の口から言葉が漏れる。  
 サヴァイヴは触手を動かしてルナを仰向けに寝かせた。ルナの表情は空虚なもので、そこに感情があるようには見えない。  
「・・ルナがどうなろうと構わない、触手を動かし続けろ。限界まで達すれば、自分の身を守るために力を使うだろう」  
 そう言うとルナの顔が微かに震えたが、それは怯えや嫌悪ではなく、その行為の果てにある快楽の可能性を期待しているように見えた。  
『分かった』  
 
 サヴァイヴが声を発すると、二本の触手がルナの足を強引に開かせ、そして待ち侘びているかのように奥を蠢かせている割れ目に、一本が易々と侵入した。  
「はぁっ、ぅ、あ、あ・・!」  
 両手を握り締めて声を上げるルナの顔を見ながら、私は唇を歪める。  
 そう、これこそが私の求めるものだ。私の暗い情念の正体が何なのかは判然としないが、私は眼下のルナの姿を求めている。  
 急速に高鳴っていく心音を耳元で聞きながら、ふと思い立ち、靴を脱ぐ。更にタイツを下ろし、下着も脱いで、ルナの目の前に自分の割れ目が映るように屈み込んだ。  
「あ、ふあっ? はぁ、メ、ノリ、あはっ、ぁあ・・!」  
 まるで排泄でもしているかのような格好が、私を高めていく。  
 既に潤い、下着を濡らしていた割れ目にルナの熱い息がかかり、思わず吐息が漏れた。  
 そして──生温かい、おぞましい温もりあるものが私の割れ目をなぞり、反射的に背中を反らした。  
「メノ、リの、おいしい、あは、ぁ、うあ、あ・・!」  
 ルナの舌が、私の割れ目をなぞっている。  
 触手に突かれるたびに足の指を力強く折り曲げ、腹を震わせ、爪が食い込むほど両手を握り締めるルナが、大声で喘ぎながら私の割れ目を舐め回している。  
「・・・・っ! ・・ぅ、ぁ・・・・!」  
 脳を溶かすほどの熱が私の頭の中に生まれる。  
 ルナの舌が割れ目に触れるたび、得体の知れない、全身の細胞が引き締まるような感覚が走った。  
 気持ち悪い、だが心地いい、背徳の極みを体感しているような、おぞましい快楽。  
「あ、ぅ、やぁ、メノリ、やっ、もぅ・・!」  
 
 目の前のルナの腹が、内部で何か動いているのかと疑うほど震え、割れ目から透明な液が飛んだ。それが開いた内股と触手にかかるが、触手は動きを止めない。  
「ぁあ、はあ、うっ、あ、あ・・!」  
 ルナの声が高くなり、その声が割れ目に響き、自分の割れ目から温かい雫がこぼれていくのを感じた。  
 それは自分の分泌したものとルナの唾液が混じり合ったもので、私の感じている快楽の証明だった。  
「うぁ、うあ、ぃや・・!」  
 動き続ける触手に、ルナの悲鳴が上がる。その声が私の割れ目に響いて、私の頭の中が熱くなる。  
 自分でもよく分からない衝動に駆られて腰を下げれば、割れ目にルナの鼻が触れ、再びおぞましい舌が這いずり回った。  
「・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・!」  
 何か、頭の奥の方で弾ける予感がある。  
 そんな予期に体を震わせていると、ルナの舌が割れ目を押し広げるようにして僅かに中に入り込み、途端、確かに何かが弾けた。  
「・・く、うぁ・・・・!」  
 
 歯を食い縛っても声が漏れるほどの何か、頭の中が真っ白に染まって爆発的にその白が広まっていくようなものが、恐ろしいまでの解放感とともに全身を覆っていく。  
 私は思わず手をついて四つんばいになり、そして喉の奥から溢れる息を吐き出すため、大きく深呼吸を繰り返した。  
 そうしている間も触手はルナを犯し続け、相変わらずルナの口からは嬌声が溢れている。  
「・・・・・・くくっ、はは・・・・」  
 目の前で出し入れされている触手、その触手に飛び散る透明な液体、薄いピンク色を覗かせる割れ目、それらを見ていると何故か唐突に笑いが込み上げ、口からこぼれた。  
 一体──これは、この気持ちは、何なんだ?  
 好きとか嫌いといった単純なものではない、愛情や憎しみといった複雑なものでもない、どこまでも純粋性を見せ続けるこの感情は、一体・・・・・・。  
「・・・・くっ、はは、はははは・・・・・・」  
 考えたところで答えは出ない──私は激しい喘ぎ声を上げ続けるルナの、触手に犯されている割れ目を見つめながら、背筋を駆け上ってきた寒気に任せて尿を漏らした。  
 一体、この気持ちの果てに何が・・・・・・それは今の私には分からぬことで、今はただ、この絶望に近い悦楽を味わっていたいと、そう願った。  
 
 ──サヴァイヴのいるフロアで生活するようになった私の毎日は、怠惰で、堕落していて、退廃している──  
 
 もはや床や壁に染み付いて離れない臭いが、今の生活を顕著に表している。  
 フロア内に響くのは、荒い息遣い、甲高い声、体から漏れる液の跳ねる音ばかりで、人間としての営みを感じることは出来ない。  
 ルナは床に仰向けにされ、触手で両足を持ち上げられ股を開かれ、割れ目を触手に突かれている。未だ触れたことのない触手の感触は想像も出来ないが、ルナの割れ目は柔らかく開いて触手を受  
け入れている。そして触手が出入りするたびに水の弾ける音をさせ、ルナは表情を歪めて大きく声を上げている。  
 私はルナの、汗が浮いて起伏している腹に跨り、タイツやスカートがルナの汗で濡れていくのを感じながら、涙や鼻水、涎を垂らしているルナの顔を見下している。  
「あっ、はぁ、あは、メノリ、ぃあ、ああ!」  
 ルナは弛緩した表情で私を見つめて、まるで私に届けるかのように喘ぎ声を上げる。  
 その声は私の鼓膜を震わせ、えもいわれぬ倒錯的な気分にさせた。  
「・・・・・・ルナ」  
 私は両手をルナの頭の横に置き、背中を曲げて、ルナの目を真下に覗き込む。その体勢で舌を竦めるようにして、口の中に唾液を溜め、口を窄める。  
 声を溢れさせるルナの口の中に、私の唾液が落ちる。  
「うあ、あ、ぁ、はあ、はぁっ・・んっ、ぐ、ぁ・・!」  
 
 泡立ち、塊となった唾液はルナの口の中を満たし、舌を汚し、溢れたものが唇を濡らす。  
 その姿を見ているだけで、それだけで私の頬は火照り、胸の内奥からは抑えられない、むず痒さに似た熱が生まれる。  
 私が強引にルナの口に唇を押し付けると、咄嗟のことにルナの舌が怯んだのを感じた。その舌を逃さず自分の舌で絡めとり、唾液を送り、抵抗しようとするルナの両手を押さえつける。  
「・・・・んぐ、ぅ、ぐ、ぅぅ・・!」  
 ルナの喉が鳴り、鼻息が荒くなる。  
 私は鼻水や唾液で汚れているルナの唇を舐め、喉の奥まで舌を届かせるように押し込み、自分の唾液を送り込ませる。ルナは体こそ拒絶しようとしたが、意思は既に逆らう様子などなく、苦しそうにも  
がく最中も、ずっと潤んだ瞳で私を見据えていた。  
 唇を離せば混じりあった液が糸のように伸び、その糸をルナの熱い吐息が揺らす。  
「・・・・くく、はは・・・・・・」  
 胸を大きく上下させて息を吐くルナの姿は、用意に蹂躙された姿を感じさせる。そしてそれこそが、私の何か得体の知れない感情を高めていた。  
 私は込み上げる笑いを必死に抑えながら、上着を脱ぐ。シャツも下着も外して、上半身の肌を晒すと、ルナが微笑みを浮かべて手を伸ばしてきた。  
「・・ぅ、あ、あ・・メノリ・・・・!」  
 ルナの汗にまみれた手が腹に触れると、じんわりと熱が広まるような感覚に包まれた。  
 その熱を感じながら、ルナの僅かな膨らみに手を置く。その膨らみの肌を寄せ集めるように揉みながら、硬くなっている突起を人差し指で擦ると、ルナの体が小さく跳ねた。サヴァイヴの触手に犯されているというのに、尚且つ感じるものがあるのか、声に震えが増す。  
 私は体温の上昇に首の周りが汗ばむのを感じた。  
「・・はぁ、はぁ、う、ぁぁぁ・・・・!」  
 不意に、ルナの手が強く私の腰を掴み、私を持ち上げるかのように体を反らせた。更に体を小さく何度も震わせ、喉を鳴らして息を吐く。  
 それが何を意味するか悟った私が人差し指でルナの胸の突起を擦ると、ルナは身もだえして喘いだ。  
「ぃ、うぁ、あぁ、はっ・・・・!」  
 大きく口を開けて声を上げる姿に見とれていると、私の息が荒くなり、スカートの中の下着に熱いものを感じて少し体をよじらせた。するとルナの手が素早く私のスカートの中に潜り込み、指の腹を私  
の股と自分の腹の間に滑り込ませた。  
 ルナの指先が、私の濡れている割れ目に、下着ごしに触れる。  
「・・・・ぁ・・」  
 それだけで、私の口からは小さな吐息が漏れた。  
「・・ぅあ、ああ、ぃ、うあ・・・・!」  
 ルナは肌を薄く朱に染め、体を左右に振って快楽の波に打ちひしがれながらも、私の下着に触れている指を動かす。  
「・・ぅ、ルナ・・・・」  
 
 確かな存在感のある指が、下着ごと割れ目の中に入り込む。それは僅かな深さだったが、頭の中をぼやけさせるには十分だった。  
 これ以上の快楽を恐れるように体を振り、口からは涎を垂れ流しにして、止め処なく嬌声を上げながら、ルナの指が動く。私の割れ目が擦られ、下着が濡れそぼっていくのを感じる。  
 恐らくルナの感じている快楽と比べれば微少でしかないだろうが、それでも私の頭の中はぼやけ、口からは喉を撫でるような自分でも聞いたことのない声が漏れていく。  
「・・ぅ、ぅぁ・・う、ルナ・・はっ・・」  
 快楽が体を満たしていく。  
 私は僅かに腰を上げ、ルナが手を動かしやすいようにする。それを察知したルナの手は自然と早まり、私を更に高めた。  
 簡単に快楽に屈した私はもはや手を動かすことも出来ず、ただルナの指に浸る。口からこぼれた唾液がルナの胸に落ちれば、ルナはそれを指に絡め、私の割れ目を擦った。  
「くぁ、あ、はんっ、あ、うっ・・・・!」  
 顔が真っ赤に染まり、意識もしないのに腹が震えるのを感じた。  
 声はルナの上げるものと合わさるように甲高く、媚びにも似た甘えを含んだものになっていき、その声だけが頭の中を埋める感覚に包まれていく。  
 いつかの、頭の中が真っ白に拡散する瞬間が近付いていることに気付き、背中を曲げてルナに縋りつく。  
 ルナは悲鳴のような喘ぎ声を上げながらも私の割れ目を擦り、そして不意に、爆発的な白の拡散が私を襲う。  
「うぁ、イ・・ぅ・・!」  
 肺の中の酸素が全て吐き出されて、虚脱感が雪崩のごとく押し寄せ、私はそれら全てに負け、ぐったりとルナの上に倒れ込む。肌と肌が触れ合うとルナの熱さを感じた。  
 
 だが私の下でルナは変わらずサヴァイヴに責め立てられ、体を大きく震わせながら、喘ぎ声を発している。  
「イ、はぅ、やぁ、も、ぅ・・!」  
 その声が甲高く耳元で響き、ルナの体が私を押し上げるほど震えるが、それでもサヴァイヴの触手が動く音は止まらず、また私の足にかかるルナの液も止まらない。  
「はあ、や、ぅぁ、ああ、うあっ!」  
「・・・・・・ルナ」  
 目の前にはルナの、ほとんど半狂乱になって喘ぎ声を発す姿がある。  
 私の下でもがき、涙や鼻水、涎で唇を濡らし、掠れた声を出し続けるルナの顔を見て、私は・・・・私は、漸く理解する。  
「・・そうだ、ルナ、私はお前を・・・・」  
 
 ──私は、お前を独占したいんだ。  
 誰にも渡さず、私だけのものにして、永遠に──。  
 
「・・・・・・だから、ルナ」  
 私はルナの頭を掴んで無理やりに口付けをして、痙攣している舌に自分の舌を絡める。  
 
 ──だからルナ、これから私は、ここにある楽園を守るために生きる。  
 そのために他の誰を敵にしたところで、この楽園を、お前を渡しはしない、絶対に──。  
 
 私はルナの震える体と火照った肌を感じながら、そう決意した。  
 
 
      終わり。  
 

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