真夜中のみんなの家、全員が寝ている中で、一人だけ起きている者がいた。
ハンモックがユラユラと揺れ、きしむような音が男子部屋に響く。
『気になるなぁ……。 なんでメノリはタイツを履いたり脱いだりしてるんだ?』
ハワードはしょうもない事で悩んでいた。
『寒いんなら寒いでずっと履いていればいいんだしなぁ… なのに見ると度々脱いでるし…… あー!もう何で履いてんだよメノリ!』
「・・・・?」
『やばぃ…っ 静かにしないとな……皆が起きちゃうぞ。 よし、明日調べよう。」
男子部屋には、ハワードを含む4人が寝ていた。
いくら考えてもラチが明かないと思ったハワードは、何も考えないまま明日調べるとだけ決めて、深い眠りについた。
―朝―
「さぁみんな、今日も一日、頑張ろう!」
ルナの声で、またいつもの朝が始まった。
『むー〜……。』
「……? なんだハワード、言いたい事があるならハッキリ言え。」
『(・・・ハッ) い、いやぁ…な、何でも無いんだ。ア…ハハハハッ』
小難しい顔でハワードがまじまじと見られていた為に、メノリが不信に思った。
「なら良いのだが… 可笑しなやつだな……?」
『(メノリのやつ、今日はタイツを履いてないみたいだ。 どうなってるのか知らないが、僕がその秘密を絶対暴いてやるぞ)』
「それじゃ、私とシャアラは干物作り、ハワードとメノリは食料探しをお願いねっ」
『食料かぁ…この寒い中行きたくないけどな…仕方ないかぁ……(でも二人きりならきっと聞ける機会があるはずだ)』
まるで朝礼のような毎朝のルナの指示を受け、それぞれが仕事を開始する。
ハワードとメノリは食料を探しに、森の中を歩いていた。
『うう…さぶぅ〜〜…。』
「…私にばかり探させるな。お前も上を見て、果物がなってないか確認しろ。」
『うぅ…はいはい…。…あー、ところでメノリ、何でタイツ履いてるんだ?』
「…っ!!? …な、何を馬鹿なことを言っている…… そ、それに…そんな事を聞くな!行くぞ!」
『(怖ぇ〜〜…) わ、分かった…っ行くから!もっとゆっくり行こうぜメノリぃー』
唐突にタイツのことを切り出したハワードだったが、メノリに一喝されてしまった。
―30分後
「果物……無いな。さすがにこれだけ寒いのでは、もう実をつけないのかもしれない」
『そうだなぁ。寒いしもう帰ろうぜぇ、タイツ姫』
「タイツ… は…!!?」
『あっいや、何でもない。帰ろう帰ろう!』
「……。」
その日はハワードがことごとく「タイツ」を連発し、これでもかと言う程メノリを不信にさせた。
ハワードのすべての行動が全部裏目に出たと見えるようだったが―
―次の日―
今日のハワードはメノリと別行動で、全員が仕事に頑張っている中、一人仕事をサボろうと男子部屋にやってきた。
『あ〜あ。畑なんてやってられるかよ。 ふぁぁ……しばらく寝てようぅ…ぅ』
とその時、女子部屋の方から何やら物音が聞こえた。
『ん…? (今はみんな仕事をしてるはずだぞ…?)』
ハワードは不思議に思い、女子部屋の方を覗いてみた。
「はぁ…はぁ……(くちゅ) ん…ッ! ハァ…はぁ…あいつが変な事を言うから…(クチュクチュ)」
『(メノリ……?何やってるんだ…??)』
ベッドの上に行儀良く座り、一人で情事をしているメノリだったが、ハワードの方からは丁度背中しか見えず、何をしているかは分からなかった。
ただビクビクッと時折肩が震えているのを見て、具合でも悪いのかとハワードは思った。
『おいメノリー、大丈夫かー?』
「…ッ!!? は…ハワード…!? なっ……ああ、大丈夫だ。気にするな……」
メノリは指を小刻みにクチュクチュと動かしている最中だった為、突然の声にひどく驚いた。
『そうかぁ? ならいいんだけどさ。 ああそうだ、またタイツのことでお前に聞きたい事があるんだ』
「な……なんだ…?」
見られているという恥ずかしさに顔を真っ赤にしたまま、しかし小刻みに動かしている指を止められないメノリに、ハワードが歩み寄ってくる。
『お……、お前――
「ほ…ほら、タイツだ。持っていけ。」
何か言おうとしたハワードにすかさずタイツを渡すように左手を突き出し、会話を遮った。
動かしていた指は既に止めており、スカートで押さえていた。
『あ、ああ…。サンキュ…??』
突然タイツを手渡されたハワードは、何が何やら分からない。
メノリもとっさな出来事だった為、自分が何をしたか理解できずにいた。ただその場を凌ぐ為の行動だった。
「ここは女子部屋だ…っ 男は入ってはいけないはずだ。出ていけ、ハワード」
『ちぇっ。わかった分かったよ。 …せっかく色々聞きたかっ〜…ブツブツ』
再び男子部屋に戻ってきたハワードは、何気なくメノリから受け取った「タイツ」を眺めていた。
『別にどこにでもある普通のタイツだよなぁ…… って…ああぁっ!!? これか…?ハハッ。これが原因だったんだな…!?アハハハッ!』
そこにはタイツの股間に当たる部分が、ぐっしょりと濡れているのが見えた。
その一面だけ濡れていた為に、くっきりと目立っていた。
『なんだ…っ メノリはただおねしょでもしてたから、気持ち悪くて履けなかったってわけか。 はぁ〜……。なんか疲れたら眠くなってきた……』
「……まったく……。」
ここ数日メノリのタイツの秘密を追っていて疲れたハワードは、ハンモックにだらしなくぶら下がったまま、眠りに落ちてしまった。
タイツのシミは単なるおねしょだったのか、ハワードは特別不思議に思わず納得してしまったが、現実に引き戻され、慌ててタイツを取り返しに来たメノリだけが、その真相を知っていた。
完。